二人の刃
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日午後三時、汽車は東京へ到着した。本来なら菊江が改札口前で隊士らを集めてこれまでの労を労い、解散の音頭を取るはずだったのだろうが、代わりに派遣された同じ隠の後藤という男が改札前で清治らを待っていた。
「あー、やっと来たわ。みんなお疲れさーん」
ぶっきらぼうな言い方に、清治はカチンときた。普段なら隠の黒装束で顔も頭巾で隠れていただろうが、今回は着物に袴姿という目立たない格好で立っている。ニコリとも笑わず、非常に愛想がない。
「こっちこっち、さっさとこっちに集まって」
「あの‼ あなたは何なんですか!」
清治には年上も格上もない。おかしいと思ったら、おかしいと言う人間だ。
「俺は隠の後藤だけど? 知っといて」
「そんなの見りゃ分かりますよ! 俺が言いたいのはですね、お疲れさん程度の簡単な言葉なんかで出迎えてほしくないって事ですよ! どんだけ大変だったと思ってんですか! 同じ隠が命を落としてんですよ!?」
「知ってるよ。でも別に珍しい事じゃないだろ。鬼殺隊なんて毎日どっかで誰かが死んでる」
「そんな事はあってはならない事なんですよ‼ 慣れちゃいけないんです! あなたは麻痺してるかもしれませんけどね、人が死ぬってとんでもない事なんですよ!」
清治は機嫌が悪い。
そう、さっきまでまた 獪岳と喧嘩をしていたからだ。
「……面倒臭い奴だな。もしかして遠征のせいで心が病んでるのかもしれないから、今日この足ですぐに蝶屋敷へ行った方がいいよ。精神安定剤でも鎮静剤でも、とびきり効く薬を処方してもらって」
「言われなくても行くつもりです‼」
後藤は厄介そうな清治の前からさっと移動し、点呼を始めた。
「そうカッカすんなよ、キヨ。悪かったって」
「アンタねぇ、俺が用足しに行ってる間、御骨をちゃんと持っててって言ったのに床に置いて寝てるし、俺が寝てる間に俺の柿の葉寿司食ったでしょ! 朝食おうって思って少し取っておいた鯖のヤツ‼ 予想外に旨かったからってひどすぎる!」
「俺の金で買ったんだからいちいち文句言うな」
「アンタの金で買ったって、後から俺が払うんですよ! 給金が入ったらね‼ 人が楽しみに取っておいた物を勝手に盗み食いするとは何て人だ!」
「勝手だと? じゃあ、くれって言ったらくれたのかよ」
「あげるわけないでしょ!」
「おおそうだ、お前の自慢のカス師範のやつでも食っちまえば良くね? どうせまだ土産の存在も知らねぇんだし、食ったってバレねぇだろ。最初からなかった事にすればいい」
一瞬そのような事も思い浮かんではいたが、正直に生きているつもり の清治はそんな汚い手は使えない。
「えーっと、とりあえず今日はゆっくり休んでくださーい。多分明日から任務が始まると思うから、各々の鴉の指示を待つように。あと、刀に不具合がある人はこの後申し出てくださーい。体に不具合がある人は蝶屋敷に行ってくださーい。質問はないよね? じゃあ解散、はいサヨナラ~!」
適当にも程がある。──が、連絡事項などはせいぜいこのくらいだろう。簡潔且つ解り易くて良い。疲れた隊士たちに「今から反省会をする」などと面倒な事を言い出さないので、後藤は優秀である。
「「「「「「皇 ‼」」」」」」
解散後に、柏班の面々が清治の元へやって来た。
「お前には苦労かけたな。すまねぇ、本当は一緒に戦わなきゃいけなかったのに、俺たちみんな揃ってやられちまって」
「いえ、俺は何も……。獪岳さんがいてくれたから、鬼を倒せたんです」
清治は振り返って獪岳の方を見た。せっかく立ててやったわけだが、聞こえているのか聞こえていないのか。その獪岳はみんなから背中を向けて、用もなさそうなのに壁に貼ってある汽車の路線図を睨んでいる。
「みなさん、これからもどこかで任務が一緒になったら、よろしくお願いします!」
「ああ、こっちこそよろしく」
「次に会うまでお互い生きていような」
「アハハ、もちろんですよ」
ふと視線が御骨に行く。清治はずっとそれを大事に抱えていた。
「この御骨、どうするんだ?」
「はい。菊江さんの実家に行ってみて、どなたかに会えたら経緯を話し、お墓に入れてもらおうと思っています。それまでは俺が……」
「そっか。……まぁ菊江さんも喜んでいると思うぜ。あの人、お前に惚れてたと思うし」
「はぁっ!?」
「そうやって大事に皇の腕に抱かれて、照れすぎて骨が溶けそうになってんじゃねぇか? いつも話すと真っ赤になってただろ」
「バカ、不謹慎だろ‼ 何言ってやがる!」
「本当ですよ! なっ、何を言ってんですか! 菊江さんに失礼です!」
赤面した清治は、話題を変えようと獪岳を呼んだ。
「獪岳さん! 班長として最後にみんなに一言何かないですか!?」
「ねぇよ」
「何かあるでしょ! みんなを労ってください!」
「俺も疲れてんだよッ! 何で疲れてる俺がお前らを労わなきゃなんねぇんだ! お前らが俺を労え!」
無茶苦茶だ。獪岳がまたそっぽを向いたので、仕方なく柏班は解散となった。手を振り、みんなを見送った後、清治と獪岳だけが駅の構内に残る。
「俺たちも行きますか」
「……」
「一緒に行きますか? 蝶屋敷。師範もそこにいますし、どうですか、久しぶりに──」
「行かねぇよ。あんな奴とは二度と会いたくねぇ」
清治は自分の事のように傷つく。
「そうだ、じゃあ何か食っていきませんか? ちょっと離れてますけど、浅草に屋台のうどん屋があるんですよ。あー、でも昼間やってるかな? とにかく、そこの山かけうどんが最高に旨くて──」
「金もねぇのに人を誘うな。それにそんな骨持って飯食いに行こうなんて、お前は正気か?」
「別にいいじゃないですか。誰も骨が入ってるなんて思いませんよ。……何だよ、仏さんの横で平気で旨い旨いって飯食ってたくせに」
「うっせーな。俺は疲れてんだよ。どこにも行くつもりはねぇ。俺ァ帰る。いいか、絶対に金返せよ」
「あっ、獪岳さん!」
獪岳は行ってしまった。すぐに人に紛れて見えなくなる。
清治はまだ別れたくなかった。お金を借りた事でまた会う口実があるわけだが、もっともっと話をしたかった。
結局、羽織は受け取ってもらえなかった。今も清治の荷物に紛れている。どうしたらいいものか、これを受け取った時の桑島の嬉しそうな顔が忘れられない。獪岳が受け取らなかった事がずっと心に引っかかっていたのだろう。そしてこれは菊江との思い出もある羽織だ。
(善逸さん、これを着た俺を見た時、どう思ったんやろ。ホンマは獪岳さんのやって、すぐに気づいたやろうな。でもそれを言わんかった。何でやろ。あの人、口数も多くてやかましがられとるけど、結構謎の多い人やな。あんまり内面の事は人には言わんていうか……。あんなふりして、ホンマは秘密主義なんちゃうか? 何考えとるか、よう分からん人やわ)
とりあえず、日が暮れる前に蝶屋敷へ行く事にする。ひたすら歩いて向かうのだが、途中の川べりの桜並木はもうほとんどが葉桜になっていた。いつの間にか季節がどんどん進んでいる。清治は菊江に東京の桜を見せてやれなかった事を悔やんだ。
「あー、やっと来たわ。みんなお疲れさーん」
ぶっきらぼうな言い方に、清治はカチンときた。普段なら隠の黒装束で顔も頭巾で隠れていただろうが、今回は着物に袴姿という目立たない格好で立っている。ニコリとも笑わず、非常に愛想がない。
「こっちこっち、さっさとこっちに集まって」
「あの‼ あなたは何なんですか!」
清治には年上も格上もない。おかしいと思ったら、おかしいと言う人間だ。
「俺は隠の後藤だけど? 知っといて」
「そんなの見りゃ分かりますよ! 俺が言いたいのはですね、お疲れさん程度の簡単な言葉なんかで出迎えてほしくないって事ですよ! どんだけ大変だったと思ってんですか! 同じ隠が命を落としてんですよ!?」
「知ってるよ。でも別に珍しい事じゃないだろ。鬼殺隊なんて毎日どっかで誰かが死んでる」
「そんな事はあってはならない事なんですよ‼ 慣れちゃいけないんです! あなたは麻痺してるかもしれませんけどね、人が死ぬってとんでもない事なんですよ!」
清治は機嫌が悪い。
そう、さっきまで
「……面倒臭い奴だな。もしかして遠征のせいで心が病んでるのかもしれないから、今日この足ですぐに蝶屋敷へ行った方がいいよ。精神安定剤でも鎮静剤でも、とびきり効く薬を処方してもらって」
「言われなくても行くつもりです‼」
後藤は厄介そうな清治の前からさっと移動し、点呼を始めた。
「そうカッカすんなよ、キヨ。悪かったって」
「アンタねぇ、俺が用足しに行ってる間、御骨をちゃんと持っててって言ったのに床に置いて寝てるし、俺が寝てる間に俺の柿の葉寿司食ったでしょ! 朝食おうって思って少し取っておいた鯖のヤツ‼ 予想外に旨かったからってひどすぎる!」
「俺の金で買ったんだからいちいち文句言うな」
「アンタの金で買ったって、後から俺が払うんですよ! 給金が入ったらね‼ 人が楽しみに取っておいた物を勝手に盗み食いするとは何て人だ!」
「勝手だと? じゃあ、くれって言ったらくれたのかよ」
「あげるわけないでしょ!」
「おおそうだ、お前の自慢のカス師範のやつでも食っちまえば良くね? どうせまだ土産の存在も知らねぇんだし、食ったってバレねぇだろ。最初からなかった事にすればいい」
一瞬そのような事も思い浮かんではいたが、正直に生きている
「えーっと、とりあえず今日はゆっくり休んでくださーい。多分明日から任務が始まると思うから、各々の鴉の指示を待つように。あと、刀に不具合がある人はこの後申し出てくださーい。体に不具合がある人は蝶屋敷に行ってくださーい。質問はないよね? じゃあ解散、はいサヨナラ~!」
適当にも程がある。──が、連絡事項などはせいぜいこのくらいだろう。簡潔且つ解り易くて良い。疲れた隊士たちに「今から反省会をする」などと面倒な事を言い出さないので、後藤は優秀である。
「「「「「「
解散後に、柏班の面々が清治の元へやって来た。
「お前には苦労かけたな。すまねぇ、本当は一緒に戦わなきゃいけなかったのに、俺たちみんな揃ってやられちまって」
「いえ、俺は何も……。獪岳さんがいてくれたから、鬼を倒せたんです」
清治は振り返って獪岳の方を見た。せっかく立ててやったわけだが、聞こえているのか聞こえていないのか。その獪岳はみんなから背中を向けて、用もなさそうなのに壁に貼ってある汽車の路線図を睨んでいる。
「みなさん、これからもどこかで任務が一緒になったら、よろしくお願いします!」
「ああ、こっちこそよろしく」
「次に会うまでお互い生きていような」
「アハハ、もちろんですよ」
ふと視線が御骨に行く。清治はずっとそれを大事に抱えていた。
「この御骨、どうするんだ?」
「はい。菊江さんの実家に行ってみて、どなたかに会えたら経緯を話し、お墓に入れてもらおうと思っています。それまでは俺が……」
「そっか。……まぁ菊江さんも喜んでいると思うぜ。あの人、お前に惚れてたと思うし」
「はぁっ!?」
「そうやって大事に皇の腕に抱かれて、照れすぎて骨が溶けそうになってんじゃねぇか? いつも話すと真っ赤になってただろ」
「バカ、不謹慎だろ‼ 何言ってやがる!」
「本当ですよ! なっ、何を言ってんですか! 菊江さんに失礼です!」
赤面した清治は、話題を変えようと獪岳を呼んだ。
「獪岳さん! 班長として最後にみんなに一言何かないですか!?」
「ねぇよ」
「何かあるでしょ! みんなを労ってください!」
「俺も疲れてんだよッ! 何で疲れてる俺がお前らを労わなきゃなんねぇんだ! お前らが俺を労え!」
無茶苦茶だ。獪岳がまたそっぽを向いたので、仕方なく柏班は解散となった。手を振り、みんなを見送った後、清治と獪岳だけが駅の構内に残る。
「俺たちも行きますか」
「……」
「一緒に行きますか? 蝶屋敷。師範もそこにいますし、どうですか、久しぶりに──」
「行かねぇよ。あんな奴とは二度と会いたくねぇ」
清治は自分の事のように傷つく。
「そうだ、じゃあ何か食っていきませんか? ちょっと離れてますけど、浅草に屋台のうどん屋があるんですよ。あー、でも昼間やってるかな? とにかく、そこの山かけうどんが最高に旨くて──」
「金もねぇのに人を誘うな。それにそんな骨持って飯食いに行こうなんて、お前は正気か?」
「別にいいじゃないですか。誰も骨が入ってるなんて思いませんよ。……何だよ、仏さんの横で平気で旨い旨いって飯食ってたくせに」
「うっせーな。俺は疲れてんだよ。どこにも行くつもりはねぇ。俺ァ帰る。いいか、絶対に金返せよ」
「あっ、獪岳さん!」
獪岳は行ってしまった。すぐに人に紛れて見えなくなる。
清治はまだ別れたくなかった。お金を借りた事でまた会う口実があるわけだが、もっともっと話をしたかった。
結局、羽織は受け取ってもらえなかった。今も清治の荷物に紛れている。どうしたらいいものか、これを受け取った時の桑島の嬉しそうな顔が忘れられない。獪岳が受け取らなかった事がずっと心に引っかかっていたのだろう。そしてこれは菊江との思い出もある羽織だ。
(善逸さん、これを着た俺を見た時、どう思ったんやろ。ホンマは獪岳さんのやって、すぐに気づいたやろうな。でもそれを言わんかった。何でやろ。あの人、口数も多くてやかましがられとるけど、結構謎の多い人やな。あんまり内面の事は人には言わんていうか……。あんなふりして、ホンマは秘密主義なんちゃうか? 何考えとるか、よう分からん人やわ)
とりあえず、日が暮れる前に蝶屋敷へ行く事にする。ひたすら歩いて向かうのだが、途中の川べりの桜並木はもうほとんどが葉桜になっていた。いつの間にか季節がどんどん進んでいる。清治は菊江に東京の桜を見せてやれなかった事を悔やんだ。
