弱味噌の師範
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庭木がそよぎ、砂埃が舞う──。一刀流の清治と二刀流の伊之助は、睨み合ったまま動かず、まるで三百年程前にあった佐々木小次郎と宮本武蔵の巌流島の戦いのような勝負の瞬間である。
炭治郎は不安顔で縁側に座ってそれを見守る。清治は仕上がったばかりの真新しい日輪刀を手にし、木刀を持つ二刀流の剣士と初めて対峙している。だが、どんな手練れの剣士にも必ず死角はあり、隙もある。
「ヘヘヘ……何ビビってんだよ。新入りだって言うから手加減してやるんだぜ? 俺様は木刀、お前は真剣だ。普通に考えりゃ、お前が勝ち。なのにそんなシケた面ツラしやがって、お前も師範と同じで弱味噌のようだな」
相手が猪頭ではどうも目線が読めず、表情も分からず、それ以外で判断するしかないようだ。
「……弱味噌? ハハハ、手前味噌で悪いんですけど、俺はこう見えて全ての型を使えるし、どんな状況にも合わせて技を出せる。ただ、二刀流とはどんな戦い方で来るのか、じっくり想定していただけですよ。経験がないんでね」
「言うじゃねぇか。この山の王を目の前にして、随分肝が据わった奴だぜ。……木っ端微塵斬りにしてやる」
清治の師範 は、弟子の腕を見るわけでもなく、さっきからずっと縁側に面した部屋の日の当たらない薄暗い場所で刀の手入れをしていた。
(善逸……)
炭治郎は目の前の二人から目を離せなかったが、背後から漂って来る「匂い」に振り返らずにはいられなかった。
善逸は一人の時間に没頭し、真剣な眼差しで刀に打ち粉を打っているだけのように見えるが、視線は外しているにも拘かかわらず、きっと耳はいつも通り機能して状況は分かっているのである。善逸から「音」を遮断する事はできない。炭治郎もまた「匂い」がそうであるように──。
「もう待てねぇ。……こっちから行くぜ?」
「応ッ‼」
清治と伊之助は力強く踏み切ると、その姿の残影を置いて消えた。
────獣の呼吸 弐ノ牙 切り裂き
────雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃
両者が激しくぶつかり合う音に炭治郎は動揺した。清治は峰打ちで応戦しているとはいえ、早々に止めに入らなければ、どちらかが怪我をしてしまうのではないかと思うのだ。
「隙だぁッ! 壱ノ牙 穿ち抜き」
伊之助は清治によって跳ね返された両手の木刀を瞬時に腰で揃え、衝撃でわずかに弾かれてまだ態勢を立て直せずにいる清治に向かってズンッと全力で突く。
「クッ!」
清治は突きを避けようと後方に跳んで着地、そのまま踏ん張るが思った以上に勢いよく下がってしまい、砂地に引っ掻いたように長い指の跡を残してようやく止まった。
「ヘヘヘ……反応はいいみてぇだな」
「あっぶねぇ。伊之助さん、確かにアンタは猪みたいに全力で向かって来るような戦い方をするみたいだけど、それ……ちゃんと前見えてんの?」
清治は伊之助の被り物を指して不敵に笑った。
「ちゃんと見えてんぜ。俺に死角なんてねぇ。俺がいつも裸でいるのはなぁ、肌感覚が優れてるからなんだぜ。敵がどこにいて何を考えているか、ビリビリと震えるように伝わって来るんだ」
「へぇ。そりゃあすごいや。俺も隊服の上を脱いで裸で戦おうかな?」
「いいぜいいぜ、やってみろよ。それよかお前が弟子入りした弱味噌だがよ、奴は壱ノ型しかできねぇって事は知ってんのか? 他は何もできねぇんだぜ?」
「……⁉」
「カッカッカ! 知らねぇのかよ。そんな奴から何を教えてもらうんだ? お前も壱ノ型はできんだろ? だったら何の意味があんだよ」
「意味……!?」
「伊之助っ! そんな言い方はやめるんだ!」
堪らず炭治郎は庭に下り、向かい合う二人の間に立った。
「何だよ炭治郎。俺は事実を教えてやったまでよ。あんな弱っちい奴より、俺の方が強ぇんだ。教えてほしいって言うんなら、あんな奴より俺の元へ来い。その方が手っ取り早く強くなれるぜ?」
善逸は刀の手入れを終えると、うつむいたまま部屋を出て行った。その様子を清治も伊之助も見ていた。前髪で隠れた目元では、善逸がどんな感情でいるのか分からない。──炭治郎以外は。
「善逸、待ってくれ!」
引き止めても待ってくれるわけもない。
「……って事だ。お前は今日から俺の子分、ビシバシ鍛えてやるッ」
「……」
清治は多少気まずそうな顔をしながらも、向上心が勝る。朝からろくに口も聞いてくれず、手合わせもしてくれない師範に多少の不満はあった。とにかくもっと強くなりたい。多く鬼を殺して、いつかは柱になりたい。それが叶えられるなら、どんな努力でもするし、師さえ強ければ誰であろうと構わない。
「行くぜ! 上手く避けろよ!」
「そっちこそ!」
庭ではしばらくの間、打ち合う音が響いていた。
炭治郎は不安顔で縁側に座ってそれを見守る。清治は仕上がったばかりの真新しい日輪刀を手にし、木刀を持つ二刀流の剣士と初めて対峙している。だが、どんな手練れの剣士にも必ず死角はあり、隙もある。
「ヘヘヘ……何ビビってんだよ。新入りだって言うから手加減してやるんだぜ? 俺様は木刀、お前は真剣だ。普通に考えりゃ、お前が勝ち。なのにそんなシケた面ツラしやがって、お前も師範と同じで弱味噌のようだな」
相手が猪頭ではどうも目線が読めず、表情も分からず、それ以外で判断するしかないようだ。
「……弱味噌? ハハハ、手前味噌で悪いんですけど、俺はこう見えて全ての型を使えるし、どんな状況にも合わせて技を出せる。ただ、二刀流とはどんな戦い方で来るのか、じっくり想定していただけですよ。経験がないんでね」
「言うじゃねぇか。この山の王を目の前にして、随分肝が据わった奴だぜ。……木っ端微塵斬りにしてやる」
清治の
(善逸……)
炭治郎は目の前の二人から目を離せなかったが、背後から漂って来る「匂い」に振り返らずにはいられなかった。
善逸は一人の時間に没頭し、真剣な眼差しで刀に打ち粉を打っているだけのように見えるが、視線は外しているにも拘かかわらず、きっと耳はいつも通り機能して状況は分かっているのである。善逸から「音」を遮断する事はできない。炭治郎もまた「匂い」がそうであるように──。
「もう待てねぇ。……こっちから行くぜ?」
「応ッ‼」
清治と伊之助は力強く踏み切ると、その姿の残影を置いて消えた。
────獣の呼吸 弐ノ牙 切り裂き
────雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃
両者が激しくぶつかり合う音に炭治郎は動揺した。清治は峰打ちで応戦しているとはいえ、早々に止めに入らなければ、どちらかが怪我をしてしまうのではないかと思うのだ。
「隙だぁッ! 壱ノ牙 穿ち抜き」
伊之助は清治によって跳ね返された両手の木刀を瞬時に腰で揃え、衝撃でわずかに弾かれてまだ態勢を立て直せずにいる清治に向かってズンッと全力で突く。
「クッ!」
清治は突きを避けようと後方に跳んで着地、そのまま踏ん張るが思った以上に勢いよく下がってしまい、砂地に引っ掻いたように長い指の跡を残してようやく止まった。
「ヘヘヘ……反応はいいみてぇだな」
「あっぶねぇ。伊之助さん、確かにアンタは猪みたいに全力で向かって来るような戦い方をするみたいだけど、それ……ちゃんと前見えてんの?」
清治は伊之助の被り物を指して不敵に笑った。
「ちゃんと見えてんぜ。俺に死角なんてねぇ。俺がいつも裸でいるのはなぁ、肌感覚が優れてるからなんだぜ。敵がどこにいて何を考えているか、ビリビリと震えるように伝わって来るんだ」
「へぇ。そりゃあすごいや。俺も隊服の上を脱いで裸で戦おうかな?」
「いいぜいいぜ、やってみろよ。それよかお前が弟子入りした弱味噌だがよ、奴は壱ノ型しかできねぇって事は知ってんのか? 他は何もできねぇんだぜ?」
「……⁉」
「カッカッカ! 知らねぇのかよ。そんな奴から何を教えてもらうんだ? お前も壱ノ型はできんだろ? だったら何の意味があんだよ」
「意味……!?」
「伊之助っ! そんな言い方はやめるんだ!」
堪らず炭治郎は庭に下り、向かい合う二人の間に立った。
「何だよ炭治郎。俺は事実を教えてやったまでよ。あんな弱っちい奴より、俺の方が強ぇんだ。教えてほしいって言うんなら、あんな奴より俺の元へ来い。その方が手っ取り早く強くなれるぜ?」
善逸は刀の手入れを終えると、うつむいたまま部屋を出て行った。その様子を清治も伊之助も見ていた。前髪で隠れた目元では、善逸がどんな感情でいるのか分からない。──炭治郎以外は。
「善逸、待ってくれ!」
引き止めても待ってくれるわけもない。
「……って事だ。お前は今日から俺の子分、ビシバシ鍛えてやるッ」
「……」
清治は多少気まずそうな顔をしながらも、向上心が勝る。朝からろくに口も聞いてくれず、手合わせもしてくれない師範に多少の不満はあった。とにかくもっと強くなりたい。多く鬼を殺して、いつかは柱になりたい。それが叶えられるなら、どんな努力でもするし、師さえ強ければ誰であろうと構わない。
「行くぜ! 上手く避けろよ!」
「そっちこそ!」
庭ではしばらくの間、打ち合う音が響いていた。
