異邦人
名前変換
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「ちょいと旦那、隣失礼するよ」
「ああ…構わねえぜ」
ちらりと見ると派手な着物に隈取、旅芸人かと思えば自分と同じ木箱を背負っていた。
「あんた、同業者か」
「……さあね」
お互い深く関わらないほうがいいのだろう、となんとなく察し蟲煙草をふかした。
何時か経ち、それでもお互いにそこから動かず、しびれを切らしたギンコが尋ねた。
「アンタはいつまでここにいるんだ?」
「さあね」
「…」
初めて顔を見合わせた。すべてを見抜くかのような鋭い目にどきりとした。
「旦那は…」
「俺は…人を待ってんだ」
「ほう…実はね、俺も人を待っていてね。女なんだが」
「女ねぇ…」
お前も女を待ってんのかよ…となんとなく気まずい雰囲気を感じつつ幹に寄りかかった。
(早く来いよな…さくら…)
夕日が傾きかけた頃、奥の道から小さな影が見えてきた。
「ごめん、ごめんね、待ったよね」
息を切らし胸を抑えながら謝る女、さくらだ。
「遅えじゃねえか」と声をかけると当時に「久しぶりね、薬売りさん」と隣の怪しい男に声をかけた。
「!?おい、アンタの待ち人って…」
「そうなのよ、いっぺんに会えたら楽だと思ってね、あとねギンコ私の名前薬売りさんの前で言わないようにね」
久しぶりの彼女との逢瀬を楽しみにしてたギンコはがっくりと肩を落とした。
「…せっかくの逢瀬を邪魔してすまないね、旦那」
薬売りの口角が少し上がったのを見逃さなかった。
「…」
「まあまあ、無効に寂れた庵があったからそこに泊まろう」
「ふう…」
粗末なものだが、とさくらの作る雑炊に舌鼓をうち、久しぶりの彼女の手料理はいいもんだと煙草に火を付ける。
(こいつが居なけりゃね…)
"薬売り"が木箱を漁り、さくらに冊子を渡す。
「これが前に手紙に書いた話だ」
「ふうん、海坊主の話だったね」
さくらは余裕綽々と煙管をぷかぷかとふかし冊子を受け取る。
「この村にも海に若い娘をやっていたそうな」
「…ありがとう、写させてもらうよ」
蝋燭に火をともし文机に向かう。
手持ち沙汰になった"薬売り"と目があった。
木箱をもって囲炉裏を囲む。
「アンタ薬売りなんだってな」
「そういう人もいるね」
つかめない男だ。
「どんなモン売ってんだ?」
「薬を売ってるんですぜ」
そういとおもむろに薬箱をあさり始める。
札、天秤、極彩色の粒、怪しい瓶
さくらの持ち物と被るものもあり、"ソッチ"の専門なのだなと悟る。
「ほれ旦那、こんなのはどうですかい?」
"薬売り"はギンコの耳元でごにょごにょと囁く。
「!」
「これを使えばあの娘も喜んでくれますぜ。保証もある。隣町のある男が三日三晩元気でその奥方も家事をする暇がないくらいなんだとさ」
さあ旦那、一つどうだい?と赤い目元を歪める"薬売り"妖しすぎる。
「せっかくの逢瀬を邪魔しちまったからね、その詫びといっちゃああれだが、旦那に一つ」
妖しい茶色い小瓶をギンコに押し付け"薬売り"は身支度を始めた。
「あら、薬売りさんもう行っちゃうの?これどうするのよ」
書き写していた冊子を指差すも薬売りは首を横に振る。
「いやあお前さんがそれを持っていたらいい。また会うときにでも返してくれればいいさ」
「そう…そうしたら、気をつけて、また」
「また、旦那も元気で。ああ…それとお前さん、あの旦那に気をつけな」
「は?」
戸を開けると見事な満月が登っていた、夜風がそよそよと吹くなか薬売りの下駄の音が響く。
「相変わらずな男だったな」
囲炉裏にあたるギンコの隣に腰を下ろす。
「あんな怪しいのとも知り合いなんだな」
「まあね…私の専門はそっちだからねえ…」
「一つ聞いていいか?なぜ薬売りの前で名前を読んではいけなかったのか教えてくれ」
「ああ、名前を教えると名前で縛られるだろう、って薬売りが教えてくれなくてね。そういうことなら私も、ってね」
「…」
「だから薬売りさんとは、"薬売りさん""お前さん"ってしか呼び合わないのさ。逆に言えば、名前で縛られるのはギンコお前だけでいいの」
少し照れたように顔を染めて笑いかける。
「ああギンコさっき何をもらってたんだ?」
「ああ、これはな…」
空になった小瓶が火に揺らめいてキラキラと輝く。
なんのくす、りとさくらの口から言葉がこぼれる前に塞がれる。
「ん…ぎ、んこ…」
二人の間をつう、と糸がつなぐ。
「火、消さなきゃ、ええと」
「火を消しても月明かりがお前さんを照らすさ」
口づけ一つでとろけるさくらに我慢が効かずに首筋に噛み付いた。
「…本当に三日三晩、だな」
流石にやりすぎた、と枯れた声をうならす。
ぐしゃぐしゃになった着物に包まれたさくらを抱き寄せる。白い体に赤い花を散らし混ざりあった体液でベタベタしていて愛おしい。
髪を撫でるも深い眠りに入っているのか胸が上下するだけで目覚める気配は一向にない。
(こりゃ起きたら怒られるぞ…)
あの"薬売り"は本物だ、と煙草に火をつけた。
「ああ…構わねえぜ」
ちらりと見ると派手な着物に隈取、旅芸人かと思えば自分と同じ木箱を背負っていた。
「あんた、同業者か」
「……さあね」
お互い深く関わらないほうがいいのだろう、となんとなく察し蟲煙草をふかした。
何時か経ち、それでもお互いにそこから動かず、しびれを切らしたギンコが尋ねた。
「アンタはいつまでここにいるんだ?」
「さあね」
「…」
初めて顔を見合わせた。すべてを見抜くかのような鋭い目にどきりとした。
「旦那は…」
「俺は…人を待ってんだ」
「ほう…実はね、俺も人を待っていてね。女なんだが」
「女ねぇ…」
お前も女を待ってんのかよ…となんとなく気まずい雰囲気を感じつつ幹に寄りかかった。
(早く来いよな…さくら…)
夕日が傾きかけた頃、奥の道から小さな影が見えてきた。
「ごめん、ごめんね、待ったよね」
息を切らし胸を抑えながら謝る女、さくらだ。
「遅えじゃねえか」と声をかけると当時に「久しぶりね、薬売りさん」と隣の怪しい男に声をかけた。
「!?おい、アンタの待ち人って…」
「そうなのよ、いっぺんに会えたら楽だと思ってね、あとねギンコ私の名前薬売りさんの前で言わないようにね」
久しぶりの彼女との逢瀬を楽しみにしてたギンコはがっくりと肩を落とした。
「…せっかくの逢瀬を邪魔してすまないね、旦那」
薬売りの口角が少し上がったのを見逃さなかった。
「…」
「まあまあ、無効に寂れた庵があったからそこに泊まろう」
「ふう…」
粗末なものだが、とさくらの作る雑炊に舌鼓をうち、久しぶりの彼女の手料理はいいもんだと煙草に火を付ける。
(こいつが居なけりゃね…)
"薬売り"が木箱を漁り、さくらに冊子を渡す。
「これが前に手紙に書いた話だ」
「ふうん、海坊主の話だったね」
さくらは余裕綽々と煙管をぷかぷかとふかし冊子を受け取る。
「この村にも海に若い娘をやっていたそうな」
「…ありがとう、写させてもらうよ」
蝋燭に火をともし文机に向かう。
手持ち沙汰になった"薬売り"と目があった。
木箱をもって囲炉裏を囲む。
「アンタ薬売りなんだってな」
「そういう人もいるね」
つかめない男だ。
「どんなモン売ってんだ?」
「薬を売ってるんですぜ」
そういとおもむろに薬箱をあさり始める。
札、天秤、極彩色の粒、怪しい瓶
さくらの持ち物と被るものもあり、"ソッチ"の専門なのだなと悟る。
「ほれ旦那、こんなのはどうですかい?」
"薬売り"はギンコの耳元でごにょごにょと囁く。
「!」
「これを使えばあの娘も喜んでくれますぜ。保証もある。隣町のある男が三日三晩元気でその奥方も家事をする暇がないくらいなんだとさ」
さあ旦那、一つどうだい?と赤い目元を歪める"薬売り"妖しすぎる。
「せっかくの逢瀬を邪魔しちまったからね、その詫びといっちゃああれだが、旦那に一つ」
妖しい茶色い小瓶をギンコに押し付け"薬売り"は身支度を始めた。
「あら、薬売りさんもう行っちゃうの?これどうするのよ」
書き写していた冊子を指差すも薬売りは首を横に振る。
「いやあお前さんがそれを持っていたらいい。また会うときにでも返してくれればいいさ」
「そう…そうしたら、気をつけて、また」
「また、旦那も元気で。ああ…それとお前さん、あの旦那に気をつけな」
「は?」
戸を開けると見事な満月が登っていた、夜風がそよそよと吹くなか薬売りの下駄の音が響く。
「相変わらずな男だったな」
囲炉裏にあたるギンコの隣に腰を下ろす。
「あんな怪しいのとも知り合いなんだな」
「まあね…私の専門はそっちだからねえ…」
「一つ聞いていいか?なぜ薬売りの前で名前を読んではいけなかったのか教えてくれ」
「ああ、名前を教えると名前で縛られるだろう、って薬売りが教えてくれなくてね。そういうことなら私も、ってね」
「…」
「だから薬売りさんとは、"薬売りさん""お前さん"ってしか呼び合わないのさ。逆に言えば、名前で縛られるのはギンコお前だけでいいの」
少し照れたように顔を染めて笑いかける。
「ああギンコさっき何をもらってたんだ?」
「ああ、これはな…」
空になった小瓶が火に揺らめいてキラキラと輝く。
なんのくす、りとさくらの口から言葉がこぼれる前に塞がれる。
「ん…ぎ、んこ…」
二人の間をつう、と糸がつなぐ。
「火、消さなきゃ、ええと」
「火を消しても月明かりがお前さんを照らすさ」
口づけ一つでとろけるさくらに我慢が効かずに首筋に噛み付いた。
「…本当に三日三晩、だな」
流石にやりすぎた、と枯れた声をうならす。
ぐしゃぐしゃになった着物に包まれたさくらを抱き寄せる。白い体に赤い花を散らし混ざりあった体液でベタベタしていて愛おしい。
髪を撫でるも深い眠りに入っているのか胸が上下するだけで目覚める気配は一向にない。
(こりゃ起きたら怒られるぞ…)
あの"薬売り"は本物だ、と煙草に火をつけた。
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