君想うが故 後編
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――二時間前。
予定より一日早く仕事を終えた雲雀は、都内に向かう高速道路のパーキングエリアで、草壁が飲み物を買って来るのを待っていた。勿論、雲雀が買いに行かせたのである。
都内に入るまであと二時間程度だろうか。今日は道路が空いているので、もう少し早く帰れるかもしれない。
オレンジ色に染まりかけた空を、雲雀は開け放った窓から見上げた。
音羽はどうしているだろう、と自然に彼女の事を考えてしまう。
また、雲雀がいなくて寂しい想いをしているだろうか。
此処の所、音羽の様子が少し変わってきているのに、雲雀は気付いていた。
音羽を置いて出掛ける時、彼女はいつも笑顔で雲雀を送り出す。
だが最近はその笑顔に、以前よりも強い寂しさがあるのを、雲雀は知っていた。
雲雀自身が早く会いたいから、というのももちろんあるが――音羽のその変化に気付いているからこそ、雲雀もこうして早めに仕事を終えて帰るようにしている。
だが…音羽の心は、それでは満たされないらしい。
音羽が雲雀の側にいたいという想いは、雲雀にもよく分かる。
雲雀も、彼女と同じ気持ちだからだ。
だが、それ程に大切だからこそ、やはり音羽を危険な場所には連れて行きたくない。
雲雀がふっと息を吐き出したとき、ポケットに入れていた携帯が震え、電話が掛かって来た事を知らせる。
音羽の事を考えていたので、雲雀は咄嗟に彼女からの電話ではないかと思った。
仕事中の雲雀に、音羽が電話をかけてくる事は滅多にない。だがだからこそ、何かあったのではないかと思う。
素早く携帯を取り出し、画面を確認すると、相手は沢田綱吉だった。
雲雀は怪訝に眉を寄せ、通話ボタンを押す。
「何の用」
『あ、雲雀さん!すみません急に…。でもオレ、どうしても心配で、やっぱり雲雀さんにも言っておいた方が良いと思って…』
「意味が分からない」
相当慌てているのか、要領を得ないツナの言葉に、雲雀は苛立った。
雲雀が凄むと、ツナはまた慌てながらも話し始める。
『じ、実は、片桐が――――』
「――――!」
ツナの話を聞いて、雲雀は息を呑んで目を見開いた。
『…あの、雲雀さん?――』
耳元から放した携帯が、まだツナの声を発しているのも構わずに、雲雀は強引に電話を切る。
ツナからもたらされたその情報は、雲雀を珍しく動揺させた。
――音羽が、例のイタリアで勢力を付けている新興マフィアのボスの元に、密偵として潜入している……――
何故、音羽が雲雀に黙ってそんな事をしたのか――…その理由が、雲雀には直ぐに分かった。
本当に、音羽は昔から変わっていない。
雲雀の事になると、自分の身の安全なんてそっちの気になって、無茶なことばかりしてしまうのだ。
そうならない為にこれまで並盛に置いていたのに、これでは意味がない。
「――全く…本当に仕方がない」
雲雀は苛立ちながら携帯を助手席に放り投げ、ドライブにギアを入れて、アクセルを踏んだ。
早く行かなければと、雲雀の胸は焦燥感に駆られる。
大人になるにつれて、音羽もある程度の器用さを身に着けたと、雲雀も思う。
頭も悪くないので、内偵という仕事も出来ないわけではないだろう。
だが音羽は基本的に、いつも何処かそそっかしく、詰めが甘い。
上手く出来ていたとしても、必ず何か抜けてしまう、そんな女だ。
今回も、きっと何かのトラブルに巻き込まれるに決まっている。
それに、新興マフィアのボス――カモラの話は、雲雀も聞いていた。
女に目がなく、いつも違う女を側に侍らせている下衆。そんな男にとって、音羽など恰好の的だろう。
だからこそ、音羽が潜入する事になったのだろうが、雲雀がその場にいれば間違いなく許していない案件だ。
雲雀は逸る気持ちを抑えるように、ハンドルを握り締め、アクセルを強く踏んでスピードを上げる。
雲雀の余裕を、ここまでなくすことが出来るのは、世界でただ一人…――音羽だけだ。
彼女の姿が脳裏を過り、雲雀は車を飛ばして、パーティーの催されているホテルに向かった。
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