美しい君に
【名前変換】
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
非の打ちどころのない美しさ。
日の光に照らされても、月の光を浴びても、彼はいつだって美しい。
そう、いつだって。
剣を振るって戦うときも、不意に空を見上げているときも、自分を、その瞳に映してくれるときも…―
普段より優しげな眼差しを貰う度に感じる、拭えない焦りや不安。
女であるが故に、彼を想うが故に感じるこの感情は、当人にしかわかるまい…―
―――美しい君に
―――――…
雲一つない青い空の下、殺生丸一行は小高い丘になった草原を歩いていた。
天気は良く、真上にある太陽が心地よい暖かさを運んでくれる。
しかし、そんな陽気な天気とは裏腹に、紫野はりんの乗った阿吽の隣を、俯いて歩いていた。
紫野がこんなふうに気を落としているのには、ちゃんと理由がある。
「はあ…」
紫野が思わず溜息をついてしまうと、邪見と話していたりんが振り返った。
「紫野ちゃん、どうしたの?紫野ちゃんが溜息なんて、珍しいね」
「あ…ううん。何でもないよ」
りんにそう言われて、紫野は苦笑しながら答える。
「そう?何かあったら、りんに言ってね!りん、何でも相談に乗るよ!」
りんは紫野の答えに小首を傾げたが、やがて笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとう、りんちゃん」
りんの温かい笑顔に釣られて、紫野からも自然と笑みが零れる。
―…りんちゃん、優しいなぁ…。
紫野はそう思いながら、りんから目を移し、再び前を向いた。
その際、ちらりと彼の背中が視界に映る。
一行の先頭を、しゃんとした様子で歩く殺生丸の背中が…―
「……………」
――きれい…
風に靡く長い銀髪が細やかに輝いているのを見て、紫野は素直にそう思う。
躊躇いなく前を見据えた金色の瞳も、凛とした横顔も、いつまでも見ていたいと思うほどに全てが綺麗だ。
しかし、そこまで考えてから、紫野は思わず見惚れてしまっていた殺生丸から視線を外した。
はあぁっ…とまたしても溜息が出そうなのを堪えて、紫野は俯く。
――…殺生丸様は本当に綺麗。…でも…―
私は、殺生丸様ほど綺麗じゃない…
―奇跡的に、慕っていた殺生丸の想いを受ける身になれた紫野は、ここ最近この事ばかり悩んでいた。
女である自分よりも、男の殺生丸の方が美しいという事実は、女にしてみればこの上なく辛い。
殺生丸は妖怪であるためにこのような美しさを持っているのかもしれないが、紫野はただの人間の娘。
周りからは容姿について褒められることもあるが、自分ではあまり思わないことばかり言われるので、いまいち信じられない。
だから、並んで立っていても、殺生丸と自分とでは釣り合いが取れないのではないかと心配になるのだ。
…幸い、気にする人目もないし、殺生丸も外見を気にするような男ではない。
殺生丸がなぜ自分を選んでくれたのかは分からないが、彼が紫野の内面を見てくれているのは分かる。
気にする必要はないのかもしれないが、やはり、恋い慕う相手には少しでも綺麗だと思われたい。
―…殺生丸様より綺麗に、とは言わないけど…。
殺生丸様に綺麗だと思ってもらいたい…。
どうしたらいいのかな…?
紫野がぼんやりと考えながら歩いていたときだった。
「あっ!!町があるよ!」
りんの元気な声がして、紫野は思わず顔を上げる。
りんの指さす方を見ると、丘を降りて街道を行った先に民家が集まっているのが見えた。
結構な数の家があるので、大きな町なのだろう。
所々煙が上っているのも見えて、活気があるように見える。
町を眺めていると、不意にりんがこちらを振り返った。
「紫野ちゃん、あの町に行ってみない?りん、何か食べるもの買いたいなぁ」
「うーん……」
―…このまま考え続けていてもきっと、堂々巡りするだけよね…。
だったら、ちょっと気分転換でもして来ようかな…。
「…そうだね、行ってみようか!」
考えた末、紫野はりんの提案に賛成した。
すると、こういう時にお決まりのように邪見が口を開く。
「勝手な事を言うでないわ!!お前たちに合わせていたら、いつまで経っても殺生丸さまの旅が進まんわい!!」
「ねえ殺生丸さま!!」
「って、聞いとるのかーっ!!」
邪見の言葉を無視して、りんが殺生丸に声をかける。
殺生丸は歩みを止めて、ゆっくりとこちらを振り返った。
少し距離があるものの、殺生丸の顔を見て紫野の胸が跳ね上がる。
「殺生丸さま、あの町に行ってきてもいい?」
「……好きにしろ」
りんが尋ねると、殺生丸はあっさりと承諾した。
「全く…殺生丸さま、二人には甘いんだから…」
「…………」
邪見が不服そうに口を尖らせて、ぼそっと言うと、殺生丸がキッと邪見を睨み付ける。
邪見はビクッと身を強ばらせると、「も、申し訳ありません…」と言いながら、その場で小さくなってしまった。
殺生丸の了承をもらった紫野とりんは、顔を見合わせると、満面の笑みを浮かべる。
「殺生丸さま、ありがとう!!」
「ありがとうございます!」
二人は口々にお礼を言うと、嬉しそうに手を繋いで丘を駆け下りて行った。
「あーあ、行ってしもうたわい。待つの退屈…」
邪見は阿吽に寄りかかって座りながら、溜息をつく。
ふと顔を上げると、二人を見送るように見つめている殺生丸が立っていた。
相変わらずの無表情だが、その瞳はどこか穏やかである。
「いいなあ…。はあ…」
邪見は思わずそんなことを言いながら、二人の帰りを待ち始めるのだった。
・