あなただけのもの
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―――――……
『私の傍を離れるな』
殺生丸様にそう言われた日の事を、私は永遠に忘れられない。
愛しいと想うのは、いつだってあなただけ。
あなたの心も、どうかそうであってくれたらいいのに…。
――――……
「待って、動かないでね…」
「…これくらい何でもねえよ」
「ダメよ!悪化したら大変だもの」
「……っ…好きにしろ…」
紫野はようやく大人しくなった犬夜叉に、思わず微笑みを漏らすと、持っていた水に浸した布を犬夜叉の腕の傷に当てた。
犬夜叉の腕の衣は、素肌が見えるほど大きく裂けていたので、衣を捲る必要はない。
「ごめんね、犬夜叉…。私がもたもたしちゃったから…」
「気にすんな。別に、大したことねえから」
紫野が項垂れてそう謝ると、犬夜叉は何でもないようにそう返してくれた。
…ついさっきの事…―
いつもの如く、紫野とりんと邪見は、どこかに出掛けてしまった殺生丸を待っていた。
今日は天気も良く、絶好の昼寝日和だったので、三人は柔らかな草の上でつい、うとうとと寝てしまったのだ。
しかし、全員寝ていたのがいけなかった。
人間の匂いを嗅ぎつけたのか、森から出てきた大きな狼みたいな妖怪が、いつの間にか三人の傍に迫ってきていたのだ。
その妖怪がすぐ近くに来るまで誰も気づかず、紫野はいち早く危険を感じたりんの悲鳴で目が覚めた。
慌てて邪見を叩き起こし、人頭杖で追い払ってもらおうとしたが、その妖怪には効果がなかったようで、撃退できなかった。
邪見が何も出来なければ、殺生丸不在の一向の戦力は皆無である。
『っ……』
―…どうしよう…このままじゃ殺される…!!
窮地に陥った紫野が、ぎゅっと瞳を閉じた瞬間―…
『紫野、走れっ!!』
『えっ…?』
聞き覚えのある声がして、紫野は思わず目を開ける。
声のした方を振り返ろうとしたとき、
『ガアアアアッ!!』
『きゃあああっ!!』
『!!』
妖怪の、耳をつんざくような咆哮が響き、りんが悲鳴を上げる。
妖怪は、太い腕と鋭い爪を、こちらに振り下ろす寸前だった。
紫野はりんの悲鳴にはっとし、聞き覚えのある声の事を忘れて、咄嗟にりんを庇うように抱きしめる。
『っ―……殺生丸様…――』
やがて襲うであろう痛みを覚悟して、目を瞑り、体に力を入れた。
頭の中に、彼の姿を思い浮かべながら…―
『……っ…』
しかし、いつまで経っても痛みはやってこない。
それどころか、妖怪の気配も消えてしまったかのように静かだった。
『……な、何…?』
恐る恐る目を開けると、紫野の視界を鮮やかな赤色が支配した。
『っ……怪我してねえか、紫野?』
『!!犬夜叉っ!!』
目を開けるとそこには、紫野たちを庇うようにして立つ犬夜叉がいた。
犬夜叉は、狼妖怪をもう既に倒していて、手をその血で赤く染めている。
狼妖怪は、首を一息で掻き切られていて、断末魔が聞こえなかった訳が分かった。
紫野はほっと安心して、りんを抱きしめていた手を解くと、ゆっくりと立ち上がった。
『ありがとう、犬夜叉…助けてくれて…』
『ああ、気にすんな。―っ!!』
紫野がお礼を言ったとき、突然犬夜叉が小さく呻きながら腕を押さえた。
『どうしたの、犬夜叉…?―!!』
犬夜叉が押さえた腕に目をやった紫野は思わず息を呑んだ。
妖怪の血だとばかり思っていたものが、そればかりではなかったのだ。
犬夜叉の腕は、妖怪の爪の形に沿って深い傷を負っていて、彼自身の血も溢れている。
『もしかして…私たちを庇ってくれたときに…』
『けっ、これくらい大したことねえよ……っ…!!』
犬夜叉はやっぱり苦しそうに顔を歪め、腕を押さえる。
『早く手当しなきゃ!犬夜叉、こっちに来て!』
紫野は旅の荷物の中から手当てに必要な布を用意する。
『だから、大丈夫だっつってんだろ…』
『ダメ!私が、ほっときたくないから…』
『っ…仕方ねえな…』
犬夜叉は、しぶしぶと言った様子で承諾してくれ、紫野は犬夜叉の手当てを始めたのだった。
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