大切なもの
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弱い心が少しだけ強くなった気がして、
でも、同じくらい私は弱くなった。
昔とは違う弱さを手に入れた私は、それがどんなに温かなものだと知っていても、受け入れられなかった。
涙を流す自分が、許せなかった。
―…あれは、とても激しい雨が降る日のこと…―
「おいりん、いつまで花を摘んでおるのじゃ!さっさと歩かんかっ!」
「はーい!でもね邪見さま、ここすっごくきれいなお花がたくさんあるよ!ほら、これとか!」
りんはにこにこしながら、手に持っていた花束の中から一本の花を邪見に見せた。
鮮やかな桃色をした、小ぶりで可憐な花である。
邪見は目先に突き付けられたその花と、眩しいばかりの笑顔を見せるりんとを交互に見比べて、呆れたようにはあっと溜息をついた。
こういう溜息をついた後は、邪見は何も言わない。あっさりと諦めるのである。
紫野は邪見のその様子を横目で見つつ、りんの隣を歩いてた。
ゆっくりとした歩調で歩きながら、ふと俯いて地面を見つめる。
―…先日りんと訪れた町で出会った一人の親切な老人。
その老人が亡くなって、自分が訪れた町が壊されて…―
何人もの人が死んだ。
いくら自分のせいではないと言われても、それは一瞬の気休め。
事実を刹那忘れられるだけの安らぎなのだ。
自分の因縁に巻き込まれて、無関係の人間が死んだことに代わりはない。
「…………………」
紫野は重苦しい気持ちに押しつぶされる心地がした。
けれど溜息は付かなかった。
なぜなら、りんや邪見にこれ以上気を遣わせたくなかったのである。
先ほど邪見がりんを叱咤することを止めたのも、本当は紫野のためなのだ。
鬼に言われた言葉を聞いていた二人は、詳細な事情を知らないながらも、紫野の心の傷を感じ取っている。
だから、出来るだけいつもと同じように明るく、且つ浮かれるほど騒がしすぎず。
二人は、そんな空気を作ってくれようと努力をしてくれていた。
それを紫野もなんとなく察していたため、これ以上二人に迷惑をかけたくなかったのだ。
溜息を呑み込んで心の重みが晴れない紫野は、せめてもと思って、空を見上げる。
しかし、いつもは大抵青い空が、今日に限って重々しく曇っていた。
まるで、紫野の心のように。
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