拍手夢録
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洞窟の外では、雨がひっきりなしに降っていた。闇夜の中に、透明の雨粒がぱらぱらと舞っているのが見える。
もう夜も更けてきて、私とりんちゃんと邪見様は、焚火の側で横になっていた。
「今日は一日雨だったね」
「そうだね……」
もう眠たげなりんちゃんにそう答えて、私は小さく溜息をついた。
――今日は、殺生丸様とお出かけする予定だったんだけどなぁ……。
前々から約束していて、二人でどこかに行く約束をしていたのだが、雨が降ってしまった為に、中止になってしまったのだ。
邪見やりんがいる手前、恋仲である殺生丸と触れ合える時間は限られている。だからこそ、今日のお出かけを心待ちに、本当に楽しみにしていたのに…。
私は視線を下にずらして、洞窟の入り口付近に座っている殺生丸様を見つめた。
彼は、いつものように静かに目を閉じていて、その感情を知ることは出来ない。
――…仕方ないか…。また、機会はあるよね…。ずっと、一緒に居られるから――…
私はふう、と笑みを浮かべて、温かい炎を感じながら目を閉じた。
「おやすみ、りんちゃん、邪見様」
「おやすみなさい…」
夢見心地なりんの返事と、邪見の寝息が聞こえてきて、私は微笑みながら目を閉じた。
―――――……
微睡みの中、不意に寒気を感じて、私はのろのろと瞳を開ける。見れば、火が消えてしまっていた。道理で寒いはずだ。
音を立てないように起き上がり、旅の荷物の中から羽織を取り出すと、縮こまって眠るりんちゃんにそっとかけた。
幸せそうな寝顔が可愛くて、思わず笑みが零れる。そうして、元居たところに戻ろうとしたとき。
「……起きたのか」
「!はい、目が覚めちゃって…」
殺生丸様に静かに声をかけられて、私の胸が高鳴る。殺生丸様は、しばし私を見つめると、す、と立ち上がって洞窟を出た。
雨はいつの間にか止んでいて、今は夜の静寂が訪れている。彼の瞳が着いて来い、と促していたので、私はその後を追った。
洞窟の外、広がる草原の中を、彼は迷いなく進んでいく。その後ろ姿さえも美しくて、思わず見惚れてしまった。
彼はやがて立ち止まると、視線を上に向けた。つられて私も、上を見上げる。そして、大きく目を見開いた。
「わああ…!」
感嘆の声を漏らした先には、満天の星。雲一つない黒い空の中には、数え切れないほどの星々が美しく輝いている。
「見たがっていただろう」
「!覚えててくれたんですね…」
以前、殺生丸様と二人で星が見たい、そう私が言った些細な事を、彼は覚えてくれていた。彼が覚えていてくれた事も、二人でこうしていられる事も、とても嬉しくて、自然と顔が綻ぶ。
「ありがとうございます…殺生丸様」
私が微笑んで彼を見上げれば、殺生丸様は優しい瞳で見返して、その腕を伸ばした。
瞬間、ぐい、と肩を抱き寄せられ、後ろから殺生丸様に抱きしめられる。
「!せ、殺生丸様…!」
突然の事に胸が跳ね上がり、私は思わず声をあげた。
「…嫌か?」
呟くような彼の声に、私はぶんぶんと目いっぱい首を振る。
「そんなわけないです!…嬉しい…」
照れくさくて、幸せで、俯きながらそう言えば、殺生丸様がふ、と上で微笑むのが分かった。
「私も、お前とこうしていたい」
「っ…!殺生丸様…っ、くすぐったいです…!」
耳元で低く、心地よく囁かれ、そのまま耳に口付けられる。ちゅ、と響いた音もくすぐったくて、恥ずかしくて、私は身を捩った。
そして後ろを振り向いた拍子に、殺生丸様の金色の瞳に捉えられる。殺生丸様は、静かに私を見つめていた。
美しくて、熱の籠った彼の瞳に、目が離せないまま息を呑むと、くいと顎を押さえられる。
ぴくりと、身を固くすると同時に、彼の唇が柔らかに降りてきた。
「っ……ん…」
まだ慣れない口付けに、頬も体も熱くなる。心地よさに戸惑って、殺生丸様の袖を掴むと、優しく頭を抱かれて、さらに深く口付けられた。
「んんっ、…も…っは…ぁ…っ」
息が苦しくなって彼の胸を押せば、その唇は名残惜しそうに離れる。真っ赤に染まっているであろう私の頬を撫でながら、殺生丸様は余裕そうな笑みを浮かべて私を見降ろした。
「もう降参か?」
「っ…だ、って……」
意地悪な言い方とは裏腹に、彼は愛おしげに、優しく私を見ている。自分だけいっぱいいっぱいなのが恥ずかしくて俯いてしまうと、今度は前から抱きしめられた。
ずっと欲しかった温もりを、すぐそばに感じる。
「…好きです、殺生丸様…」
ぎゅっと彼の着物を握ってそう告げれば、殺生丸様は僅かに微笑んでそして、私の額に口付けを落とした。
2017.10.31