その瞳に映るのは
【名前変換】
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その日は、昼間からどんよりと重い雲が漂っていた。
紫野は曇り空を見上げて、少しだけ眉を寄せる。
「……雨、降らないといいんだけど…」
紫野は、朝からどこかに行ってしまった殺生丸の事を想いながら、そっと呟いた。
「紫野ちゃーん!雨が降る前に、薪拾ってくるね!」
「はーい、よろしくね!」
「うんっ!行こっ、邪見さま!」
「うむっ」
りんは紫野に手を振ると、珍しく乗り気な邪見と一緒に、森の奥へと入って行った。
薪の係はあの二人なので、紫野は一人で留守番である。
「…どんどん空が暗くなってく…。やっぱり、雨降りそうね…」
紫野はゆっくりと腰を上げると、近くに雨をしのげる場所はないか探すことにした。
阿吽が首をもたげてこちらを見たので、
「大丈夫、ちょっと行くだけだから」
そう言って、紫野はさらに木々の茂る森の中に進んで行った。
こんな天気のせいか、ザワザワと木の葉が風に揺られて、何となく不気味な音に感じる。
――何だか、嫌な感じ……。
少しだけ探して、早く帰ろう。
紫野はそう思いながら、早足で歩き、きょろきょろと辺りを見回す。
それから幾らか探してみたが、結局良さそうな場所は見つからなかった。
「…帰ろう…」
帰れる、という事に何処かほっとしながら、紫野が踵を返したその時。
ザアアッ!と強い風が吹いて、紫野の髪を巻き上げた。
紫野は髪の毛を押さえながら、思わず目を閉じる。
「――――!!」
風が止んで目を開けて、紫野は思わず息を呑んだ。
「ふっ…会うのは初めてだな…」
―――…誰かいる…
木の陰に隠れてよく見えないが、声からして男だろう。
紫野は驚きと、得体の知れない恐怖に身を固くした。
「…誰ですか、あなたは……」
何となく嫌な感じがして、問う口調がきつくなる。
すると男は、鼻で笑ってゆっくりとこちらに歩いてきた。
「――奈落、と言えば分かるだろう?殺生丸から聞いているはずだ」
「!!あなたが……!?」
奈落、と言う名前を聞いて、紫野は目を見開いた。
その名前は、殺生丸がずっと追っている人物の名前だったからだ。
影から出てきた男――奈落は、黒い長髪を風に靡かせながら、紅い瞳を紫野に向けてくる。
そして、一歩一歩、紫野の方へと歩みを進めてきた。
「っ………」
紫野は目だけは彼を睨み付けたまま、じりじりと後ずさる。
――どうしよう…。私には、戦う術がない…。
殺生丸様がいない今、どうすれば……―――
「っ!!」
考えているうちに、ドンッ、と背中が木にぶつかる。
目の前には奈落が迫っていた。
――…逃げられない……!
「っ…目的は何ですか?私をどうするつもりなんですか?」
内心、恐怖で体が竦み震えていたが、紫野はキッと奈落を見上げながらそう問う。
「…ほう……」
奈落は紫野の問いには答えず、目を細めると、紫野の顎をついと持ち上げた。
「!!」
「…なるほど…殺生丸がお前に陶酔するのも頷ける」
「――放してっ!」
紫野が奈落の手を振り払おうとすると、パシッと手首を掴まれた。
「…お前が消えたとなれば、殺生丸はどうすると思う?」
「――…!!それが目当てで…!!」
「くくく…わしは試しに来たのだ、紫野。お前と殺生丸の愛の力、というのをな…」
「…っ……それなら、こんな事をしても無駄よ。殺生丸様は、私なんかを助けに来ないわ」
嘲笑う奈落を見据え、紫野は冷静に言ったが、言っていて嘘だと思った。
殺生丸は必ず、紫野を助けに来てくれる。
でも、こう言えば奈落も気を変えてくれるかもしれない。
しかし、奈落は紫野の希望を打ち砕き、冷酷に笑った。
「ふっ、そんなはずはない。殺生丸とお前は恋仲らしいではないか。
――さぞ、殺生丸に愛されているのだろう?」
「――っ…!!」
耳元でそう囁かれて、紫野は思わず奈落の頬を叩こうと手を上げる。
しかし、またもや彼に手首を掴まれ、ついに両手の自由を奪われてしまった。
「気の強い女だ。まあいい。わしと共に来い、紫野……」
「―――!!……」
奈落に名前を呼ばれて額に手を翳されたと思ったら、紫野の意識はすうっと吸い込まれるように沈んでいった。
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