月の贈り物 後編
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「紫野、紫野!!」
「――――――――…ん…」
「!!ああ!!目が覚めたわ!!紫野…っ良かった!!!」
「…っ…母、様…?」
母の声に、紫野はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりした瞳に映るのは、泣きはらした母の顔と、心配そうな父の顔。
そして、見慣れた天井と、光の差し込む自分の部屋。
雨はいつの間にか止んだようだ。
「杉本先生を呼んでくる!!」
そう言って、父は部屋を飛び出した。
母はわああっと紫野の布団に泣き崩れ、良かった良かったと繰り返す。
そして次第に意識が覚醒してくると、紫野は、妙な違和感を覚えた。
―――私…昨日がヤマだって、杉本先生が言っているのを聞いて…それで…
殺生丸様に自分の気持ちを伝えようと、雨の中を――
「あっ!!」
昨夜の事を全て思い出し、紫野はバッと布団から上体を起こす。
その勢いに、さっきまで泣きじゃくっていた母が、顔を真っ青にした。
「な、何をしてるの!!急に動いたら駄目でしょう!また発作が起きたらどうするの!?」
「え…あ、ご、ごめんなさい…」
布団に押し戻されながら謝って、紫野は必死で昨夜の事を思い出していた。
――…私、確か昨日…死ななかった…?
殺生丸様が温かくて、私は冷たくて、もう終わりだと思って…真っ暗な中に行ったはず、なのに……。
どういうこと……?
考えれば考えるほど、さらに困惑する。
紫野がうーんと考え込んでいると、涙を拭っていた母が、籠った声で言った。
「あの雨の中、奇跡だって…杉本先生がおっしゃっていたわ。あなた…昨日の夜、庭にいたのよ?
母さんが部屋に来たら、あなたがいないんですもの。
皆で必死になってあちこち探したら、あなた、木の下で倒れてたわ」
母はそう言うと、急に不安そうな顔をして紫野の顔を覗き込んだ。
「まさかあなた…自分で外に出たんじゃないわよね?
寝ぼけて、いつもの癖で外に出たのよね?」
紫野は内心ぎくりとしたが、ゆっくりと頷きを返す。
「う、うん…寝ぼけてた…かな?」
そう言うと、母は心底安堵した様子で、ほっと溜息をついた。
「良かった…母さん、あなたが病気と闘うのが嫌になって、自分から……。…そうじゃなくて、安心したわ」
母の本当に穏やかな笑顔に、紫野の胸がちくりと痛む。
気まずくさに紫野が天井に目を移すと、襖が開いて、今朝返ったばかりであろう父と、そして杉本が入ってきた。
「昨日は大変だったね。具合はどうだい?」
「お騒がせしてすみません…。具合は、とてもいいです」
杉本にそう答えれば、彼は柔らかな笑みを浮かべて、早速診察の準備を始める。
そうして、いつもと同じように肺の辺りを調べていると、杉本は驚いたように目を見開いた。
「これは……!!」
「ど、どうしたんですか!?先生…」
突然声をあげた杉本に、母が血相を変えて尋ねる。
すると杉本は、信じられない、という顔で紫野たちを交互に見た。
「…とても信じられませんが、肺の病が完全に治っています。
健康な方の体と、何も変わらない……」
杉本の言葉には、父も母も、そして紫野も、目を丸くするばかりだった。
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