8話 空に想う
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目を開けると――――
そこには、白い霧の世界が広がっていた。
少し先も、足元も、もやもやしていてよく見えない。
紗夜は、ゆっくりと顔を上げた。
――…また………あの夢……。
ぼうっとしたまま、紗夜はふらりと足を踏み出す。
これが、以前見たあの夢の中だということは、頭の端で分かっていた。
けれど、紗夜の心はやはり虚ろで、何も感じることは無い。
ただ、あの時と同じように、勝手に足が動いて行く。
まるで、行くべき場所を、知っているかのように――……
一歩、一歩と、紗夜は“近付いて”行く。
そして―――…
朧げな瞳を持ち上げて見れば、
あの、人影があった。
「………………」
紗夜はその姿を認めて、歩いて行く。
何を想う事もなく、歩いて行く。
その影だけを見つめて、歩いて行く。
どれくらい歩いたか、分からないうちに、
影でしかなかったそのひとがたが、薄っすらと形を持ち始めた。
霧に紛れたその姿を、紗夜はぼんやりした目で、けれどもじっと見つめる。
そして、また一歩、踏み出したとき。
今度は、はっきりした人の姿が、霧の中に佇んでいた。
―――白い霧に溶けてしまいそうな、純白の着物。
そして、腰の下まである長い白髪。
――……誰……なの……?
その姿に、見覚えはない。
けれど紗夜は、その後ろ姿から、目を逸らす事が出来なかった。
すっ、と背を伸ばして立つその姿を見つめ、紗夜はまた、一歩、足を踏み出す。
すると―――――……
紗夜から少し離れた先に、大きな湖が、忽然と現れた。
白い霧に囲まれた、深い碧色の湖。
そして、湖のほとりには―――
あの白い人の姿が、こちらに背を向け、立っていた。
――…あなたは……誰なの……?
紗夜は思わず、手を前へと伸ばす。
伸ばしたまま、ずっ、と足を前に出した瞬間―――
「――――……」
紗夜は、ザバッ――と音を立てて、冷たい水の中に落ちた。
ゆっくり、ゆっくり、体が傾き、沈んでいく。
伸ばした手は上に伸びて、微かに届く光の一束に触れる。
恐れも、苦しみも、何もない。
ただ、水の中をゆっくりと沈んでいく。
紗夜はそれに、身を委ねるだけ―――……
『――紗夜――……』
誰かが―――あの人が、紗夜の名前を呼んだ。
――…また、あの声だ……――
水の中に響いた澄んだその声に、紗夜は目を細める。
――…どうして、私を呼ぶの………。
あなたは………誰なの………。
紗夜の問いは、小さな泡(あぶく)になって、水に融ける。
『―――…て…――』
その声も、水の中に融けてしまった。
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