6話 欺瞞
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「くくく…我が瘴気で、皆が死んでも構わん…か。流石は混じりけのない妖怪だな、殺生丸。心の作りが違う」
「……」
奈落は感心したように、殺生丸にそう言った。
殺生丸は冷やかに目を細め、奈落の顔を注視する。
邪な赤い瞳に、特別気に掛かる色はない。
紗夜から、奈落の目を逸らさせることが出来たのかは定かではないが――……
少なくとも、殺生丸にとって紗夜がどういう女なのか、今の一連の流れでは、奈落は分からないはずだ。
殺生丸は、奈落に気取られる事を避けるため、これ以上眼下を確かめる事はしなかった。
だが、闘鬼神の剣圧でも防ぎきれなかった瘴気が、確実に紗夜達の元に少しずつ流れ込んでいる。
今はまだ耐えられたとして――……
骸の穴の中の空気が侵されてしまうのは、時間の問題だろう。
――…奈落に気取られぬよう、紗夜たちを救うには…。
殺生丸は、僅かに生まれる胸の内の焦燥を、表には一つも出さず、ただ闘鬼神をきつく握り締めた。
―――――――――……
紗夜は自分に身を寄せるりんの体を抱き締めながら、その顔を覗き込んだ。
「大丈夫?りんちゃん…」
衣で口を押さえている為くぐもった声になるが、りんには聞き取れたようで、顔を上げる。
「うん、少し苦しいけど、大丈夫…。紗夜ちゃんは…?」
りんの方からももごもごとした答えが返ってきて、紗夜は目を細めて頷いた。
「大丈夫、ありがとう…。…邪見様も阿吽も、何とか無事みたい…」
紗夜は比較的前の方にいる、邪見と阿吽の姿を見て、りんにそう伝える。
するとりんは、ほっとしたような表情を目元に浮かべた。
出入り口の方を見れば、邪見より更に前方――…最前線で、鉄砕牙を構える犬夜叉の姿がある。
――犬夜叉……――
紗夜は、赤い衣の少年の後ろ姿を見て、目を細めた。
今、この現状を打破できるのは、恐らく犬夜叉しかいない。
殺生丸は、瘴気が出ると分かっていて、その刀を振り切った。だが、殺生丸が紗夜達を見捨てることなどあり得ない。
ならば、彼が剣を取ったのは、きっとそれ程の理由があったのだ。
殺生丸が剣圧で瘴気を飛ばし、紗夜達の身を守ろうとしてくれたのが、その何よりの証拠である。
だからきっと、殺生丸には何か、動く事が出来ない事情があるのだ。
それならば――…この苦境を乗り越えるには、犬夜叉の力が必要不可欠である。
紗夜は願いを込めて、犬夜叉を見守る。
血だらけになった犬夜叉は、それでもすっくと立って、奈落の方を見据えていた。
「――小僧…、刀を強くすることより……仲間の命が大切か…」
「!」
前に出た犬夜叉の背に宝仙鬼が問いかけ、犬夜叉がこちらを振り返る。
怪訝な顔をする犬夜叉をそのままに、宝仙鬼は言葉を続けた。
「それは、貴様が半妖だからか…。半妖ごときがわしの妖力を得た所で、使いこなせるのか……」
まるで、試すような台詞を言う宝仙鬼に、犬夜叉の顔が険しく歪む。
「けっ、だったらいらねえよ!どんなご大層な妖力か知らねえけどな!おれは、今やらなきゃならねえ事をやるだけだ!!」
犬夜叉は宝仙鬼を睨みつけると、吐き捨てるように言って、再び前を向く。
そして、鉄砕牙を構え――…覚悟を決めたように、大きくそれを振り上げた。
「風の傷!!」
犬夜叉の声と共に鉄砕牙が振り下ろされると、ガガガッ!!と激しい音を立てながら、衝撃波が奈落の元に飛んでいく。
「ふん…風の傷で瘴気を払ったところで、一時しのぎに過ぎん…」
結界に包まれた奈落は、嗤笑して犬夜叉を見下した。
が―――……
「!!」
次の瞬間、奈落は目を見開いた。
犬夜叉の放った風の傷の中に、キラリと光る鋭利な宝石――…
それは、宝仙鬼の金剛石の槍だった。
金剛石は、入り口に充満しかけていた瘴気を打ち払い、奈落の元まで飛んでいく。
そして、奈落のあの強固な結界さえも、消し飛ばしたのだ。
「な、奈落の結界が消しとんだ!」
「!」
邪見の驚愕した声に、紗夜は思わず立ち上がる。
歩を進め、空を見上げれば、奈落の結界は確かに消え去っていた。
奈落の結界を破った、犬夜叉の鉄砕牙。
その様相は、先程紗夜が見た物とは違い――…
宝仙鬼の体と同じ、輝く石の刀身になっていた。
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