5話 父の骨、宿敵の姿
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――あの世とこの世の境――…
妖怪の墓場に一足先に来ていた犬夜叉達は、犬夜叉の父の巨大な骸の中に巣食った、ある妖怪と出会う。
死して髑髏(しゃれこうべ)となったその妖怪は、以前犬夜叉をここに導いた“黒真珠”という宝玉を作り出した妖怪・宝仙鬼だった。
そして、犬夜叉達が探し求めていた四魂の欠片をここに持ってきたのもまた、この宝仙鬼だったのである。
宝仙鬼から欠片を取ろうとする犬夜叉達だったが、同じくこの境の世界にきた奈落の持つ黒い四魂の欠片の影響で、宝仙鬼は犬夜叉に抵抗し、戦うことになってしまった。
だが、この世で最も硬い宝玉という金剛石の体に守られた宝仙鬼から、四魂の欠片を取る事は難しく――……
犬夜叉が傷を負いながらも、何とか宝仙鬼の体を砕いた所で、頃合いを見計らったように、それまで姿を隠していた奈落が現れたのだった――…
―――――――……
「くくく…犬夜叉、もう貴様に打つ手はない」
奈落は、強固な結界の中で冷笑を浮かべながら、自身の右腕から伸びる触手を使い、宝仙鬼の金剛石の体を操る。
「くっ……」
尖った金剛石の切っ先が、犬夜叉の脇腹に刺さり、犬夜叉は宝仙鬼の髑髏に凭れかかったまま、悔し気に呻いた。
奈落は、血に塗れた犬夜叉の姿を見下しながら、ふっと不敵な笑みを浮かべる。
「貴様の鉄砕牙では……わしを斬る事は出来ん」
「――っ…けっ、何寝ぼけてやがる…!まだ…勝負はついてねえぞ!」
犬夜叉は奈落を睨み付けながら、よろよろと体を起こし、錆刀に戻ってしまった鉄砕牙を握りしめた。
すると、宝仙鬼の体を捕まえていた奈落の触手が分裂し、犬夜叉の背後の金剛石の中に、するすると入って行く。
黒く汚された宝仙鬼の四魂の欠片に、奈落の触手が触れようとしていた。
「四魂の欠片を取ろうとしてるわ!」
「!――飛来骨!」
かごめが骨の鳥の上に乗って叫び、珊瑚は雲母に乗ったまま飛来骨を投げる。
飛来骨は旋回しながら宙を飛び、欠片を狙う奈落の触手を、真っ二つに斬り裂いた。
「やった!」
「結界の外の体は斬れる…!」
かごめと、珊瑚の後ろに乗っていた弥勒が声を上げるが、切断された奈落の触手――
宝仙鬼の体に侵入しかけていた方の触手から、ブワッ!!と、毒々しい色の気体が溢れ出る。
「なっ…!瘴気…!」
犬夜叉は間近で噴き出た瘴気から庇うように、鼻を衣の袖で覆った。
が、その一瞬の隙をついて、奈落の別の触手が、犬夜叉に襲い掛かる。
「くっ!」
ドガッ!と触手に弾き飛ばされ、犬夜叉は何とか宝仙鬼の髑髏の角に掴まった。
奈落は犬夜叉を弾いた触手を、再び宝仙鬼の体の砕けた部分に伸ばしていく。
そして――…
キィン――と音を立てて、黒く染まった四魂の欠片が、宝仙鬼の体から、奈落の手へと渡ってしまった。
「くくく…ついに手に入れたぞ…。四魂の玉の、最後のひとかけら…。――もう、貴様らに用はない」
奈落は冷淡な声でそう言うと、宝仙鬼の体を捕らえていた触手を、ブン!!と振り払う。
「――うわっ!」
犬夜叉は宝仙鬼ごと投げ飛ばされ、父の巨大な骸の中に転がり込んだ。
「――奈落!逃がすか!」
弥勒は奈落を見上げながら声を上げ、右手の数珠を素早く解く。
奈落はそんな弥勒を見下して鼻で笑うと、その左手から蜂の巣のような丸い玉を取り出した。
すると、巣玉の中から、大量の蜂が止め処なく飛び出してくる。
「…!最猛勝…!」」
「法師さま、風穴は駄目だ!」
珊瑚がすかさず叫び、弥勒は歯噛みしながら開きかけていた右手を握った。
最猛勝を吸い込めば、弥勒の体にも瘴気の毒が回ってしまう。
風穴の一番の弱点と言っても過言ではない最猛勝を召喚し、奈落はほくそ笑んだ。
「くくく…、選ぶがいい。今、虫の毒を吸って死に急ぐか…。それとも、生きる事を望むか…――例え、この墓場をさ迷い続ける事になろうともな…」
「!?」
「どういう事だ!?」
奈落の言葉に、その場にいた全員が目を見開く。
弥勒が奈落に問うと、奈落は落ち着いた声音で答えた。
「わしと貴様らの通ってきた血の河の道は、既に閉じている。貴様らが人の世に戻る方法はないのだ」
「だから言ったんじゃ!帰れんかもしれんと!」
奈落の言葉を受けて、かごめの肩に乗っていた冥加が、涙目になりながら飛び跳ねる。
弥勒は焦燥に眉を寄せながら、それでも冷静に頭を巡らせ、奈落を見上げて叫んだ。
「…だが、道が閉じたのなら、奈落!貴様とて帰れぬはず!」
「ふっ…」
奈落はそれには答えず、ただ含みのある不敵な笑みを浮かべる。
父の骸の中で、犬夜叉はよろめきながら立ち上がり、奈落の表情をじっと見ていた。
――…気に食わねえな…。奈落の野郎の、あの余裕…。
犬夜叉は怪訝に眉を顰め、結界に包まれた奈落を見上げる。
「奈落、てめえ…。逃げられると思うなよ…」
横から聞こえて来た犬夜叉の声に、奈落はゆっくりとそちらを振り返った。
「分からんのか、犬夜叉。もう終わっている…」
奈落がその余裕を崩すことなく、指先に摘まんだ黒い四魂の欠片を、犬夜叉に示したその刹那――……
遠くの空で、星のようなものが、キラリと輝いた。
視界の端に映ったそれを、奈落はふいと振り返る。
すると、星のように遠かったその光は、瞬く間こちらに近付いて大きくなり――
「!!」
――ドォォン!!!!
光の玉が、奈落の結界にぶち当たり、激しい爆音を立てた。
衝撃で、奈落は結界ごと僅かに後方に飛ばされる。
強風が巻き起こり、辺りに立ち籠めていた白い霧が散って、奈落は光の飛んで来た方を見た。
そして――…そこにいた人物に、目を見開いたのだった。
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