4話 まなざし
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殺生丸は、側にあった岩に背を凭せ掛け、向こうに見つけた小川に、水を飲みに行っている紗夜とりんが戻ってくるのを待っていた。
ゴツゴツした、大きな岩が転がっている荒れた道を通る者は、殺生丸達以外誰もいない。
それ故静かなその場所で、じっと佇んでいれば、殺生丸は自然と目を伏せて考えていた。
殺生丸が、それまで置いてきていた紗夜達を連れて歩き出したのは、つい昨日の事である。
それまでにも様々な臭いの変化は嗅ぎ取っていたものの、どれも奈落に繋がるような決定的なものはなかった。
だが、昨日――……
犬夜叉の気に入らない臭いの先で、時折漂ってきていた鳥妖怪の臭い。
殺生丸の鋭敏な嗅覚を以ってしても、微弱だったその臭いが、昨日何かの枷が外れたように、ここまで伝わって来た。
そして、近付く程に強くなる
――鳥の臭いに混じった、奈落の邪気――……
奈落と犬夜叉、そして鳥妖怪にどのような繋がりがあるのかは、殺生丸の知る所ではない。
だが、奈落の臭いがするのは確かである。
しかも、白霊山で奈落が真っ先に殺していた女――…五十年前、犬夜叉を封印した巫女・桔梗の匂いも、別の場所から微かに嗅ぎ取れた。
奈落が瘴気の中に落とし、死んだかと思っていたが、どうやら桔梗は生きていたらしい。
だが、抜かりのない奈落の事だ、そんな事にはもうとっくに気付いているだろう。
ならば、奈落の方に動きが出てもおかしくはない。
この邪気の元は、間違いなく奈落に繋がっているのだ。
ようやく見つけた奈落の手掛かりに、流石の殺生丸も、僅かに気が逸る。
そこまで考えて、紗夜達はまだだろうかと思い、殺生丸は視線を上げた。
すると丁度その時、岩の向こうから、二人が慌てた様子で駆けて来る。
「殺生丸さまー!邪見さまー!」
「お待たせしました…!」
りんがぶんぶん手を振りながら言い、紗夜は申し訳なさそうに頭を下げる。
すると、人頭杖を振り回りながら、邪見が怒った様子で声を張り上げた。
「遅い!お前ら、いつまで殺生丸さまをお待たせする気じゃ!もっと早く戻って来んか!!」
「だって…りん、喉渇いてたんだもん!しょうがないもん!」
「しょうがないもん、じゃないわ!だいたいお前はいつもいつも――」
「……」
りんと邪見が言い合っているのを、紗夜は困った様子で見下している。
殺生丸は、自ずとそんな紗夜を見つめていた。
すると、紗夜の方もふと顔を上げて、殺生丸を見る。
漆黒のその瞳が殺生丸を捉えると、紗夜は困った顔のまま、口元に弧を描き、殺生丸に微笑んだ。
「……」
美しいその微笑みに、殺生丸は思わず視線を留めてしまう。
温かくて、柔らかくて、いつか瞬いた間に消えてしまいそうな、儚さがあった。
殺生丸はゆっくりと踵を返し、歩き始める。
すると、依然騒いでいる邪見とりんがついてきて、二人を宥める紗夜も後ろに続く。
殺生丸は歩みながら、空を見上げた。
奈落を倒したその先を、見つめていた。
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