1話 光に去る背
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森の中に流れる小川に沿って、一行は歩いていた。
生い茂った木々の隙間から太陽の光が差し、川の水面が輝いている。
その光を時折視界に入れながら、紗夜はりんと並んで阿吽に座り、殺生丸の後ろをついて行った。
平坦な道であれば自分の足で歩くのだが、川辺が近いせいで、ゴツゴツした少し大きめの石が、そこいらに転がっている。
おまけにしっとり湿った石も多く、すぐに足元が不安定になるので、紗夜もりんも阿吽に乗って移動しているのだ。
一方、先頭の殺生丸には足元の事情などほとんど関係ないようで、いつものように真っ直ぐ前を見据えて歩いていた。
邪見はというと……、時折体をぐらつかせながらも、阿吽の手綱を引いてくれている。
そして、ゆっくりと移動する阿吽の上で、りんがうーんと唸りながら足をぶらぶら揺すった。
「えーっと…あ、あ……赤!」
りんがぱっと顔を上げてそう言うと、今度は紗夜が俯いて考える。
「か………柿!」
比較的直ぐに答えを思いつき、紗夜は邪見を振り返った。だが――……
「………」
邪見はどこかぼーっとしながら歩いていて、紗夜の声など聞こえていないようである。
するとすかさず、このしりとりを始めようと言い出したりんが、前に向かって声を上げた。
「邪見さま!次は邪見さまだよ!」
「…なんじゃ?」
りんに呼ばれて、邪見は心ここに在らずといった様子で、こちらを振り返る。
目はぼんやりと虚ろで、その口からは今にも溜息が漏れ出てきそうだ。
いつものように子供の遊びだと呆れているのか、はたまた何か考え事でもしていたのか……。
紗夜が小首を傾げていると、りんが不満そうに口を曲げて言う。
「えーっ、邪見さま、聞いてなかったの?紗夜ちゃんが柿って言ったから、邪見さまは“き”だよ!」
「あー、はいはい……、き…き…」
邪見は面倒くさそうに返事をしながらも、一応考えてくれているようだ。
でも、今日は先程からずっとどこか上の空であるし、浮かない顔をしている気がする。
紗夜は何かあったのだろうか、と思いながら、二人としりとりを続けた。
――――――………
森は深く、どこまで歩いても果てがなさそうに思われた。
小川はまだまだ続き、似たような木々の景色が続いて行く。
けれど時間だけはしっかりと過ぎていた。
数刻前まで真上にあった太陽は、今は西の方に傾いて、鬱蒼とした森の中を赤く染めている。
遠くの方は、少しだけ見えにくくなってしまっていた。
紗夜が辺りを見ていると、ふと殺生丸が足を止める。
ついで邪見も立ち止まり、手綱を引かれた阿吽も立ち止まった。
すると殺生丸は、何かを見透かすようにつっ、と顔を上げ、空を見上げる。
何かを探るように、確かめるように、ただ空を仰ぐと、彼はゆっくりと後ろを振り返った。
「邪見」
「はっ!何でございましょう、殺生丸さま!」
殺生丸に呼ばれた邪見は、ぴくりと体を跳ねさせ、生気の宿った喜々とした声で返事をする。
「今夜はここにいろ」
「――へ……あ、あの――…殺生丸さま…!」
邪見が声を上げて殺生丸の名を呼んだときにはもう、彼は茜色の空へと舞い上がっていた。
――今夜はここにいろ――
それは、今夜はここから動くな、という意味であり、今夜彼は帰らない、という意味である。
紗夜は空を見上げ、風がざあっと葉を揺らす音を聞きながら、殺生丸が飛んでいく姿を見送った。
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