10話 迫る魔の手
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りんと邪見の眠っている場所に戻った紗夜は、直ぐに火を起こせるように、彼等から少し離れた所で枯れ枝を集めていた。
殺生丸と話し始めた時はまだ薄暗かったのに、今はもう日はすっかり昇り、陽光が温かい。
直に、りん達も目を覚ますだろう。
屈んで、足元に落ちている枝を拾い集めながら、紗夜はずっと、殺生丸がくれた言葉を思い出していた。
『…お前は、お前のままでいい…』
――それは、紗夜が求めた末に、彼がくれた言葉ではない。
彼自身が、紗夜にくれた言葉だ。
だからそれが、どれほど嬉しかったか――…
例え紗夜自身、自分の事をそう思う事が出来なかったとしても――
殺生丸は、そのままの紗夜を愛してくれる。
彼のその言葉一つで、胸が少し軽くなった。
やっぱり、自分に出来る事を探そうと、前を向く事が出来る。希望が湧く。
――…殺生丸様……。
紗夜は胸の内で彼の名を呼びながら、目を細めた。
彼を愛おしく想う気持ちが、心の底から溢れてくる。
自分も、彼の希望になりたい。
もし彼が迷った時は、そこから抜け出せるような、光になりたい。
そうして支え合って、殺生丸とこの先を生きて行く事が出来たら――……
きっと紗夜は、他に欲しいものも、願う事も、なくなってしまうだろう。
――…見つけよう…。
私が、殺生丸様に出来ること…。
紗夜が改めてそう固く決意したとき、
背後からザッ――…と足音がして、紗夜は屈んだまま、ゆるりとそちらを振り返った。
見れば、先程の場所から、こちらに歩んできたらしい殺生丸がいる。
だが、その顔はさっきと打って変わって、些か険しい。
何かあったのだろうかと思って紗夜が立ち上がると、殺生丸は真っ直ぐ邪見の側に歩いて行った。
「邪見、起きろ」
「…ぐごーー、ぐ……ん……?」
いびきを掻いていたものの、主人の声は聞こえたのか、邪見は寝ぼけた目を擦りながら、上体を起こす。
そして、そこに佇む機嫌の悪そうな顔の殺生丸の存在に気が付き、飛び起きた。
「せ、殺生丸さま…!?い、いかがなさったので!?」
邪見が慌ててそう問うと、殺生丸は邪見を見下して言う。
「……奈落が近くに来ている」
「!」
「な、奈落が…!?」
殺生丸の言葉に、紗夜も邪見も目を丸くした。
紗夜は枯れ枝の束を抱えながら、二人の傍に駆け寄る。
「しかし奈落がなぜ、こんな所に……」
邪見が訝し気にそう言うが、殺生丸はそれには答えず、踵を返しながら言った。
「紗夜、ここにいろ。邪見、側を離れるな」
「は、はい…」
「はっ!この邪見、命に代えても紗夜とりんめを守ります!殺生丸さま、どうぞお気を付けて――って、行ってしまわれたわい……」
邪見が熱く答えている間に、殺生丸はふわりと空に飛び上がり、行ってしまう。
「………」
紗夜はその姿を、不安げに見送った。
――…奈落が、近くにいる…。
紗夜は目を伏せ、あの時見た奈落を思い出す。
紗夜には霊力などないが、奈落の目にある禍々しさは、はっきりと感じ取ることが出来た。
邪悪で、底冷えするような瞳……――
あの男が近くにいるかと思うと――…やはり、不安を感じてしまう。
だが、殺生丸が向かってくれたのだ。
きっと、大丈夫。
紗夜はそう思い、今しがた殺生丸の飛び去った空を見上げた。
――…殺生丸様…、どうかご無事で……。
風が吹き、紗夜の黒髪を弄ぶ。
先程まで晴れ渡っていた空に、少しずつ灰色の雲が流れ込んでいた。
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