夜明けの先へ
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「紗夜ちゃん、早く早くー!」
「ま、待って……!りんちゃん…!」
「おい、りん!紗夜!わしを置いて行くでなーい!」
――小鳥囀る森の中。
昼餉の食材を求め、二人の人間の少女と、小妖怪が駆けまわっていた。
りんははしゃいだ様子でパタパタと駆けて行き、紗夜は急いでそれを追いかける。
邪見は、ぴょんぴょん跳ねるように走りながら、りんと紗夜を追いかけていた。
食材探しのはずが、半分鬼ごっこのようになってしまって、三人は賑やかに森の中を駆け抜ける。
木の根を飛び越え、草むらを潜り、紗夜はついにりんに追いついた。
「りんちゃん、捕まえた!」
「わぁっ!あははっ、捕まっちゃったー!」
紗夜がりんの両肩を捕まえると、りんは楽しそうに笑いながらこちらを振り返る。
息を付きながら二人で笑っていると、今しがた潜り抜けて来た草むらの方から、邪見が飛び出してきた。
「ぬおっ!!こんな所で止まるでな――」
「!邪見様……!」
そこそこの勢いをつけて走って来た邪見は、文句を言い切る前に紗夜の足に直撃する。
「うっ……」
邪見は後ろにひっくり返って、痛そうに腰を摩り、何ともなかった紗夜は慌てて邪見に駆け寄った。
「邪見様、大丈夫?立てますか?」
邪見を覗き込みながら手を差し出すと、邪見は小さな手を伸ばして紗夜の手を取り、立ち上がる。
「うん……何とか…――って、こんな所にぼーっと立っとったら危ないだろうが!!」
「あはは…ごめんなさい」
ぴょんと飛び上がって怒り出す邪見に、紗夜は苦笑して謝った。
するとりんが紗夜の後ろからひょこっと顔を出して、邪見に言う。
「ねえねえ邪見さま、そろそろご飯探そうよー!」
「お前が急に走り出したんじゃろうが!全く…」
「ふふっ……」
ぶつくさ言いながらも、邪見はりんと一緒に食材を探し始め、紗夜はいつも通りの二人のやり取りに微笑んだ。
てくてくと森の奥に歩いて行く、二人の小さな後ろ姿を見つめて、思わず目を細める。
―――…まさか、こんなに平穏な日々を過ごせるなんて…。なんだかまだ、信じられない…。
紗夜がそう思った時、ざあっと風が吹いて、紗夜の髪を弄んだ。
――…朝霞との戦いに決着をつけ、故郷の村を出たのは、丁度半月程前だろうか。
全てが終わって、紗夜の心を長い間縛り付けていたものは、ようやくその縺れを解いた。
けれど、それはただまっさらになっただけ。
紗夜を縛っていたものが、完全になくなってしまうわけではない。
けれどそれはもう、紗夜にとって、重くて苦しいだけのものではなくなっていた。
紗夜のせいで死んでしまった、たくさんの命、咎。
その事実が消えるわけではない。
紗夜は死ぬまで、それを抱えて生きて行く。
けれど、今まで一人で背負っていたそれを、今は半分共に持ってくれる人がいる。
だから紗夜は生きていける。
前を向いて、明るい方へ歩いて行ける。
何よりも大切で、ずっと守りたいもの。
「………」
紗夜は微笑みながら、己の胸に手を当てた。
とくん、とくんと、規則的な自分の心音を感じる。
生きる事が、愛おしい。
そう思えるようになったのは、間違いなく彼のお陰だ。
今しがた離れたばかりなのに、もう彼に会いたくなってしまって、つくづく彼に心を奪われていると感じる。
でも、それさえも幸せなのだ。
そんな事を考えていると、森の向こうから紗夜を呼ぶ声がした。
「紗夜ちゃーーん!こっちにキノコあったよー!」
「早く来ぬと、お前の分がなくなるぞー!」
顔を上げると、りんと邪見が手を振って、紗夜を見ている。
「はーい!」
紗夜は返事をして手を振り返すと、二人の元に駆け出した。
今、この時。
皆が揃って、笑顔でいられる場所。
紗夜が、守りたいもの。
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