14話 変わらないもの、変わってしまったもの
【名前変換】
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何日間もずっと離れていたわけではないのに、彼に再び会えたことで、紗夜の胸は何とも言えない、締め付けられるような気持ちでいっぱいになった。
彼に限って死ぬことはないと思っていたが、それでも怪我を負っていたら…。
彼にとっては面倒でしかない自分の所に、もう一度姿を見せてくれるのか、もう一度彼の傍に居られるのか…。
そんな不安を今、彼が払いのけてくれた。
「殺生丸様…っ!!」
紗夜は自分の想いに駆られるまま、焦がれたその存在の元に走り寄る。
彼の数歩手前で立ち止まると、ゆっくりと顔を上げてその整った、美しい顔を仰ぎ見た。
「…よかった、殺生丸様…っ…ご無事で…また……会う事が出来て…!」
喜びと安心のあまり、心知らず張りつめていた緊張の糸が切れた気がして、紗夜は少しだけ涙ぐむ。
殺生丸はそんな紗夜を見つめると、ふっと口元を緩めて目を細めた。
「この殺生丸が死んだとでも思ったか」
彼の言葉に、紗夜は力なく首を振る。視線を地面に落とすと、寂しげな声で呟くように言った。
「殺生丸様に、このまま置いて行かれて…もう会えなかったらと思ったら…不安で、悲しくて…っ…」
涙まじりの声で言った紗夜の言葉に、殺生丸は僅かに目を見開く。
殺生丸に紗夜を置いていくなどという選択肢はもとよりない。
だというのに、紗夜は杞憂に心を曇らせ、自分が来るのを心細く待っていたのだ。
彼女の想いを考えると、殺生丸は紗夜の震える小さな肩を抱いて、心から安心させてやりたい、そう思った。
だが…―
殺生丸はちらりと紗夜の背後へと目を移す。
その男は、まるで何も見ていないかのような空虚な瞳で紗夜の背を見つめていた。無表情なその顔に、暗い影が落とされる。
殺生丸が怪訝に眉をしかめると、紗夜が心を落ち着けたのだろう。少し息をついて目を擦ると、ようやく顔を上げた。
そして、紗夜が口を開きかけたとき、男が先ほどの表情とは想像もつかないほど、明るい声音で紗夜に問うた。
「紗夜様、その方を紹介して頂けますか?」
「あ…ええ」
紗夜は思い出したように返事をすると、男の方に向き直った。
「この方は殺生丸様…私が今一緒に旅をさせて頂いてるお方です」
そう言うと、紗夜は殺生丸の方を向き、今度は男の紹介を始めようとする。しかし、その前に男は自ら前に進み出ると、にこりと柔らかな笑みを浮かべた。
「私は要と言います。幼いころ、紗夜様のお屋敷で使用人をさせて頂いていました。殺生丸様…よろしくお願いします」
要と名乗ったその男は、隙のないその笑顔を崩すことはなかった。
―…この男…気にくわぬ。
能面のような表情をさらしておきながら、今は屈託のない笑顔を向ける。その心理が深い深い闇の底に隠されている心持ちがして、殺生丸はさらに訝しげな顔をすると、要を睨み付けた。
「…貴様…何をたくらんでいる…?」
「…え…?」
要は、何を言っているのか分からない、と言うような顔をして、丸い目で殺生丸を見る。紗夜も驚いたように殺生丸を見上げていた。
「…何のことを仰っているのか分かりませんが…私は、何もたくらんでなどいませんよ」
苦笑したようにそう言うと、要はそれ以上何も言わず、紗夜を見つめて微笑む。
「紗夜様、私はしばらくの間この村に留まって、村の人々に微力ながらお力添えをしようと思っています。もしよろしければ…紗夜様も共にどうですか?」
「!」
要の言葉に、紗夜は大きく目を見開く。答えはもちろん決まっているのであろうが、おずおずと殺生丸を仰ぎ見る。
その瞳が乞うように殺生丸を見つめ、殺生丸は少し考えた挙げ句、
「……二日後には発つ」
とだけ呟いた。
「ありがとうございます…!」
紗夜は承諾されたことが嬉しくて、ぱあっと笑みを浮かべると、殺生丸に頭を下げる。
「では紗夜様、早速行きましょう」
要もどこか浮ついた声音でそう言うと、紗夜にこちらにくるように促した。
「殺生丸様、行ってきますね。夜までには帰ります」
紗夜はそう言うと、要と並んで村の方へと歩いて行く。
「…………」
殺生丸はしばらく二人の後姿を見つめた後、ゆっくりと歩き始め森の中に紛れ込んだ。
・