13話 過去を知る者
【名前変換】
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『紗夜様のお傍に、私はずっといます。例え、貴女が死を望んだとしても』
懐かしい声がした。
心を閉ざした紗夜の傍に、いつでも彼はいた。紗夜が頼めば、彼はどんなに無茶な願いでも聞いてくれた。
だが、それももう昔の事。もう彼に会う事はないだろう。
『約束します、紗夜様。私が必ず、貴女の―』
彼の声はそこで途絶えた。
彼の言葉の続きを思い出す前に、紗夜の意識はだんだんはっきりとしてきて、瞼の外が白く光を宿しているのを認識する。
「…………ん…」
ゆっくりと重たい瞼を持ち上げると、日の高く上った青空が視界に広がる。雲は一つもなく、空を流れるものは何もない。
ここは一体どこだろうか、そんなことを頭の隅で考えていると、突然紗夜の視界に見慣れない黒髪の少女の顔が現れた。
その少女は紗夜より少し年下のようで、綺麗な面立ちをしていたが、可愛らしい。
「よかった、目が覚めたんですね!」
少女は大きく目を見開いて紗夜の顔を覗き込むと、安心したように顔を綻ばせる。自分に向けられた微笑みをぼんやりと見つめながら、紗夜はゆっくりと上体を起こした。
「!」
体を起こして、紗夜は思わず驚きに目を見開く。少女の着ている衣が見たこともないようなものだったのだ。異国の衣なのだろうか、と紗夜は考えを巡らせたが、すぐに他のことに気をとられてしまう。
少女の背後にはまだ数人人がいて、法衣を着た男に、退治屋姿の少女、その肩には猫のような生き物が乗っていて、さらには小さな子供のような者もいる。
そして、紗夜の目を一際引いたのは、赤い衣を纏った少年だった。鮮烈な赤が目を引いたのではない。
紗夜は彼の長い銀髪に目を奪われたのだ。必然的に、それは殺生丸を思い出させる。
殺生丸の姿を思い出して、紗夜は俯いた。彼は…彼らは今どうしているだろう。きっと助かっているだろうが、確証などない。
もう一度、会えるかどうかも分からない。
「―大丈夫ですか?」
「…!あ…はい…」
暗い顔で俯いてしまった紗夜を見て、少女が心配そうに紗夜に尋ねる。紗夜ははっと我に返ると、返事をして顔を上げた。
すると、法衣姿の男がいつの間にか紗夜の目の前に座っている。彼は紗夜の瞳をじっと見つめると、感嘆の溜息をついた。
「なんとお美しい…。あなたは、この川上から流れてきたのです。これも、何かのご縁…つきましては、私の子を―」
法師が言いかけた時、彼の頭上に風を切る何かが舞う。そして、次の瞬間…
―ゴンッ!!
鈍い音がして紗夜が法師を見てみると、彼の頭の上には見事なまでのたんこぶが出来ていた。
「いっ…!」
痛そうに声をあげる法師の後ろには、退治屋姿の少女が大きな板のようなものを抱えて立っている。おそらく、彼女が法師を殴ったのだろう。
このやり取りは日常茶飯事なのか、誰も気に留める様子はない。紗夜は法師を少し気の毒にも思ったが、不思議な恰好の少女が話し始めたので、彼女へと目を移した。
「私はかごめって言います。それから、さっきの法師が弥勒さま。あの退治屋の女の子が珊瑚ちゃん。その肩に乗ってるのが雲母。それから、この子が七宝ちゃん」
不思議な格好の少女…かごめが、簡単にそこにいる者の紹介をする。やがて彼女は、赤い衣の少年に目をやった。
「それから、こっちが犬夜叉。犬夜叉があなたを助けて―」
少女の言葉を聞いて、紗夜は一瞬息を呑む。聞き覚えのある名前だった。
「……犬夜叉……?」
紗夜がその名前を繰り返すと、犬夜叉は眉を寄せて紗夜を見下ろす。
「なんでい、なんか文句あんのか?」
苛立ったような、不機嫌そうな声音で言いながら、犬夜叉が紗夜の目の前にしゃがみ込んだ。
『犬夜叉は殺生丸さまの左腕まで、何の躊躇もなく切り落としたのだ!』
前に邪見が言っていた言葉が、犬夜叉への最悪な印象と一緒に、紗夜の頭に鮮明に蘇ってくる。紗夜は冷静に考えることさえ忘れて、思わず口を開いていた。
「…あなたが、犬夜叉…?それじゃあ、あなたが殺生丸様の…」
「!!殺生丸だと!?」
「―っ!!」
犬夜叉が大声を上げてはっとした紗夜は、慌てて両手で口を押えた。犬夜叉たちがどういう人物なのか分からない以上、彼の名は出さない方が良かった。
殺生丸に迷惑をかけてしまうかもしれないし、犬夜叉と殺生丸の仲が悪いのならば、なおさらである。
「殺生丸って、あの殺生丸でしょう!?どういう事か、教えてくれませんか?」
かごめにそう言われて、紗夜は彼女を真っ直ぐに見つめた。かごめの人柄はどう見ても悪くない。犬夜叉はともかく、他の人物も悪い者ではないように思われた。
それに、彼らには助けてもらった恩義がある。
そう思った紗夜は自分の失態を悔いながら口を開いた。
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