5話 憧れた刀
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浪士の刀が、腰を抜かした鋳掛屋の主人の頭上でぎらりと煌めく。
千歳は二人の間に体を滑り込ませるように、腰を低くし、木刀を前に突き出した。
…否、突き出そうとした。
右腕を伸ばした瞬間にぐい、と左肩を掴まれ、勢いよく後方に体ごと引かれる。
よろめいて顔を向けたその刹那、千歳の左脇を凄まじい速さですり抜けたのは、鮮やかな浅葱色。
「っ……!」
千歳は目を見開いて、その背中を追った。
浅葱色のだんだら羽織
新選組
彼は駆け抜けながら抜刀し、浪士の刀が主人の目の前に振り下ろされる直前で、その刃を受け止めた。
―――キィィン!!
頭に響くような刃の音が、しんと静まり返った場に広がる。
「お、お前は……っ!」
刀の動きを制された浪士が、突如目の前に躍り出た人物を捉え、驚愕の声を上げた。
「新選組…っ…!!?」
浪士が顔を引きつらせ、動揺から身を引いた拍子に、彼は屈めていた体を真っ直ぐに起こす。
「…斎藤さん……!」
そこにいたのは、新選組の隊服を纏った斎藤に他ならない。
スッと剣を構えて、浪士の動きを見定めるように睨みつけている。
その瞳のあまりの鋭さに、千歳は驚いて息を呑んだ。
平生の彼通り、落ち着き払った佇まいではあるものの、浪士を見据える彼の瞳は初めて見るほど真剣だ。
「…斬られたくなければ刀を納めろ。さもなくば、どうなっても知らぬぞ」
「っ…新選組……!仲間を殺された恨み…!ここで晴らしてくれる!!」
斎藤の警告を気にも留めず、もう一人の浪士も勢いよく刀を抜く。
周囲の人々は悲鳴を上げて遠巻きに逃げ出し、それと入れ替わるように、他の新選組の隊士たちが男たちを取り囲んだ。
圧倒的劣勢の中で、男たちはそれまでになかった憎悪の眼差しで斎藤を見つめると、声を張り上げて彼に斬りかかる。
「うらああああっ!!!」
「たああああっ!!」
二人はほとんど同時に刀を振り上げ、斎藤に向かって斬り込んで行った。
「斎藤さん…!」
千歳は思わず声を上げたが、斎藤は表情一つ変えずに一人の刀を素早く受け止め、強い力で弾き返した。
そして間髪入れずにもう一人の浪士の、がら空きになった鳩尾に、強烈な峰を打ち込む。
「ぐえっ…!」
「っ、このぉぉ……っ!!!」
打たれた浪士は腹を抱えてうずくまり、体勢を立て直したもう一人の浪士が、歯噛みしながら再び斎藤に斬りかかった。
斎藤は目を細めると、男が刀を振り下ろす一瞬間に、視覚では捉えられない程の速さで身を屈め、斬撃を交わす。
そして浪士の胴を目掛けて刀を薙ぐと、斬り付ける寸前に刃を返して、浪士の腹を峰で殴った。
「うぐっ……くっ…そぉ……」
浪士は痛みと悔しさに顔を歪めながら、刀を取り落として膝から地面に崩れ落ちる。
斎藤は刀を鞘に納めると、辺りにいた隊士達に言った。
「屯所まで連れて行け。長州の過激派浪士の可能性もある」
「はっ!」
隊士達は直ぐに返事をすると、手慣れた様子で二人の浪士に縄をかけ、引っ張って行ってしまった。
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