3話 新選組屯所
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翌日――――……
店が休みで、千歳はいつもより少し遅くに起きた。
皆はまだ寝ているようだったので、静かに身支度をして勝手場に向かう。
今日は仕込みもないので、いつもより簡単に食事の用意をして、先に一人で朝餉を済ませた。
それが済んだら軽く片付けをして、今度は手土産の準備をする。
昨日、あれから仕事の合間に、羊羹を作っていた。
お店でも甘味として出す事があるので作り慣れており、お客さんからの評判も良いので、これを手土産にすることにしたのだ。
箱に入れて風呂敷に包み、用意をしていると、トントンと階段を降りて来る音がする。
この足音は伊織だな…と思って、人の気配に振り返ると、案の定まだ眠たげな彼が、勝手場の手前に来ていた。
ぼさぼさの黒髪を後ろで適当に一つで束ねて、目を擦っている。
「おはよう、伊織。休みなのに早いわね」
「ん……千歳こそ早いじゃん…。…それ…どっか行くのか?」
伊織は、千歳の用意している包みを見ながら、不思議そうに尋ねてくる。
「ああ…実は、昨日助けて下さった人が、新選組の人だって分かったから、お礼に行こうと思って……」
千歳が正直にそう言うと、伊織は眠気も吹っ飛んだように目を丸くして、慌てた調子で言った。
「なっ…新選組!?お前、そんなとこに行って大丈夫なのか…!?新選組なんて、良い噂一つも聞かないぞ。もし何かあったら……!」
伊織は眉間に皺を寄せて、一息に捲し立てる。
千歳はふるふると首を振って、伊織を見据えた。
「大丈夫よ。そんなに怖い人たちじゃないと思う。現に、困った人を助けてくれる人だし」
「でも……!」
「もう行くって決めたから。心配しないで、伊織。それじゃあ、行って来ます」
千歳は尚も引き留めようとする伊織に微笑むと、風呂敷を抱えて勝手場を出た。
「あ、おい…!」
後ろから伊織の声がしたが、千歳は聞こえないふりをして店を出る。
少し強引な気もしたが、伊織はいつも心配症なのだ。
「…さて…と……」
千歳は人の行き交う往来を見渡して、壬生の方へ向けて歩き出す。
そちらに行くのは初めてだったが、昨晩地図で確認したし、何とか辿りつけるだろう。
千歳は逸る気持ちを抑えながら、新選組の屯所を目指すのだった。
――――――――………
―――――……
――半刻以上歩いて、千歳はようやくそこに辿り着く。
大きな屋敷の門の柱に、「新選組屯所」の字を書いた表札が掲げられている。
「ここだ……」
何度か人に道を尋ねたが、目的の場所まで来る事が出来て、千歳はほっと安堵した。
思い切って門をくぐり、玄関口へ向かう。
開け放たれた木戸から中を覗くと、奥の間で拭き掃除をしている男がいた。
「あの…ごめんください」
「おや…」
千歳が緊張した面持ちで声を掛けると、気付いたその男がこちらを振り返り、歩いてくる。
「はいはい…見かけないお嬢さんだね。こんな所に、何か用かい?」
中年の男は柔和で穏やかな笑みを浮かべて、千歳に尋ねてくれる。
優しそうな男の姿に内心安堵しながら、千歳は口を開いた。
「突然お訪ねしてすみません…。私は、街の料理茶屋で働いている更科千歳と申します。先日、こちらの方に困っている所を助けて頂き、お礼をと思って来たのですが…。斎藤一さんは、いらっしゃいますか?」
千歳がそう言うと、男は少し驚いたように目を見開く。
「おや、そうだったのか…斎藤君が…。ご丁寧に、どうもありがとう。彼なら、確か今日は非番だから部屋にいるはずだが…。…呼んで来るから、良ければ中で待っていてくれるかい?」
「は、はい…!ありがとうございます」
千歳は礼を言いながら履物を脱ぎ、男に案内されて客間のような一室に通されたのだった。
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