2話 雪の日の少年
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――――五年前………―――
それは、千歳がまだ十二歳の、冬のある日の事だった………―――
七歳で柳屋に引き取られて、早五年。
すっかり店での仕事にも慣れて来て、千歳は買い出しの仕事を一人で任されるようになっていた。
最初は店の掃除や、椀を洗う事から始まった料理茶屋での仕事だが、千歳が大きくなるにつれて給仕や調理の仕事も少しずつ手伝い始め、容量が分かって来た頃だった。
毎日、店に出す料理に必要な材料が何で、幾らぐらいか検討をつけ、商店が開くころに買いに行く。
無駄に食材を買ってしまえば、それは店にとって損失になってしまうので、買い出しの仕事は意外と重要だ。
買い出しが終わったら、いつものように開店準備と掃除、料理の下準備などをして、子供ながらに忙しなく働く。
だが、千歳はそれが苦痛ではなかった。
それは、甚一郎とマツに、心の底から感謝していたから。
そして、自分の為でもあったのだ。
千歳は人買いから、ある偶然で甚一郎たちに買われた子だ。
そのとき甚一郎たちは、別に子供を買うつもりなんて微塵もなかっただろう。
だが彼らは行く当てもない、子供の千歳を見て憐れに思い、側に置いて本当の子供同然に大切に育ててくれた。
それがどれ程ありがたい事か。
買われた先の環境が劣悪であれば、どれほど辛いことになるだろう。
まして女であれば、女であるというだけで望みもしない場所に売り飛ばされてしまう。
そんな中で、彼らの元に引き取られた千歳は、とても幸運だっただろう。
だからこそ、少しでも二人の役に立ちたかった。それで毎日一生懸命だった。
けれど……――――
どれほど今が恵まれていたとしても、千歳の過去が無かった事にはならない。
忘れ去ることなど、出来ない。
一人布団の中に入って、眠れない夜がある。
孤独で、誰にも言えない秘密を抱え、空が白んで、部屋に光が差すのをじっと待つ。
その時だけは、千歳はいつも独りっきりだ。
思い出して、震えて。
起きれば、がむしゃらになって働いた。
寂しさから
恐怖から
自分の底に眠る感情から、目を逸らすために。
この頃までの千歳は、表向きは明るく仕事に勤しみながらも、そんな想いを秘めて日々を過ごしていたのである。
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