12話 奪われた誇り
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闇の中を、ひた走った。
里を囲んでいた竹林の、道という道のない場所を、必死で走った。
林を抜けた所で、息を切らしながら立ち止まり、引かれるように後ろを振り返る。
『……はぁ…はぁっ…』
千歳が生まれて初めて里を出たそのとき、里には火の手が上がって、赤く燃えていた。
千歳の大切なもの、愛したものは、全てあの中で灰になった。
何もかもを、失った。
今まで、当然のようにそこにあったもの。
なくなるなんて考えもしなかった全ては、たったの一晩で灰になった。
『……っ……』
千歳は、震える唇を噛みしめる。
恐れなのか、悲しみなのか、ぐちゃぐちゃの心では分からない。
ただ、涙が溢れて仕方が無かった。
何も出来ない自分が歯痒くて、自分もあの中で灰になれば良かったのではないかと、そう思わずにはいられない。
けれど――――
想いを無駄にすることは出来ない。
千歳は、生きなければいけないのだ。
ただその気持ちだけが、千歳を前に進ませる。
千歳は拳を握りしめて、前へと向き直った。
力の入らない足を無理矢理動かし、獣道を走り出す。
闇の中を必死に走って、走って、走って、
眠る事もせずに走ると、
やがて、いつの間にか夜は明けた。
東の空が淡く光り、野山を照らし、何事も無かったかのように、朝が来たのだ。
千歳はふらふらと山を降り、開けた道に出て、ぼんやりと立ち尽くす。
美しい朝焼けの空を見上げ、激しく打つ心の臓の音を感じていた。
自分の浅く繰り返す息の音を、聞いていた。
――まだ、生きている自分。
まだ、生きねばならない自分。
けれど、身寄りもなく、知識もなく、世も知らぬ七つの子が、どうやって生きてゆけばいいのだろう。
これから先、どうすればいいのだろう。
押しつぶされそうな不安を感じながら、けれど疲れて涙も出ず、千歳はただ肩で息をしながら、立っていた。
―――それもまた、一つの定めだったのだろう。
千歳に、声を掛ける者がいた。
『――おい、嬢ちゃん。こんな刻限に、こんな所で何してる?』
『………』
千歳は、声のした方を振り返る。
そこには二人の男がいた。
笠を被り、余り綺麗とは言えない身なりをした男達だ。
だが、千歳はもう歩く事も出来ないほどに、疲れていた。
助けてもらえるのならば、誰だって構わない。
千歳は側にやって来た男達を見上げ、口を開きかけた。
すると、千歳を見た一人の男が、千歳の顔を見るなり血相を変えた。
『……!!おい、見ろ!なんてこったぁ、こいつぁ稀に見る極上だ…!!』
男が興奮した様子でそう言うと、もう一人の男も千歳の顔を見て息を呑み、千歳の足の爪先、指の先まで目を走らせ、何度も頷きを返す。
『ああ、ああ…!…おい娘、おめえいくつだ?』
男は目を爛々と光らせながら、千歳に問うた。
千歳はその意味も分からず、問われるままに答える。
『……七つ…』
すると男達は顔を見合わせ、にやりと笑った。
『七か……。これは良い値が付くぞ』
『ああ、これだけの娘はそうはいねえ。早ぇとこ、江戸に行った方が良いな』
『……?』
男達の言っている意味が分からず、千歳は首を傾げる。
すると男の一人が千歳を見て、気味の悪い笑みを浮かべた。
『悪く思うなよ、嬢ちゃん』
『!!』
男は逸るようにそう言うと、汚い手拭いを千歳の口に突っ込み、頭の後ろで縛る。
突然の出来事に、訳も分からなかった。
ただただ、怖かった。
これから何をされるのか、自分はどうなるのか―――……
助けて!!と叫びたくても、口も封じられ、声を出す事も出来ない。
そうして千歳の両腕は、容易く男達に掴まれてしまう。
腕も足も冷たい麻縄で縛られて、千歳は自由も失った。
もがいて、暴れて、抵抗する千歳を担ぎ、男達は人気のない山道に入って行く。
地獄から生き延びた千歳は、再び地獄に連れ戻された。
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