銀湾
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日向宗家の屋敷、大広間――…
「ヒナタ様、ハナビ様の健診結果に、異状はありませんでした。その他数名、気になる方がいらっしゃいましたが…単に瞳術の使い過ぎかと思いますので、特に問題はありません。
健診結果の報告書はこちらです。明日、調合した目薬を持ってきますので、対象の方にお渡しください」
ミオリは当主・日向ヒアシにそう言いながら、紐で綴じた紙の報告書を、彼に渡す。
ヒアシはそうか、と息を吐きながら、それを受け取った。
「いつもすまないな、ミオリ。これからも宜しく頼む」
「はい。三か月後にはまた参りますが、何かあればいつでもご連絡ください」
ミオリがそう言って微笑むと、ヒアシも柔らかな笑みを返してくれる。
「ありがとう。…もう遅い、家の者に送らせよう」
ヒアシがゆっくりと立ち上がりながらそう言い、ミオリも慌てて首を振りながら立ち上がった。
「いえ、大丈夫です!これから、ネジの所にも行くつもりなので…」
「そうか。ネジの健診も今日だったか」
ヒアシは少しだけ目を丸くして、ミオリを振り返る。
ミオリは苦笑を浮かべ、頷いた。
「はい。最近任務が忙しいみたいで…。今晩帰ってきたら、明日はまた出掛けるそうなので、今晩のうちに行く事になっています」
「ネジも、今や里の立派な実力者の一人だからな…。任される仕事も多いのだろう。ミオリ、ネジを頼んだぞ」
「はい!」
感慨深げな顔でヒアシに言われ、ミオリは嬉しくなって顔を綻ばせ、大きく頷きを返した。
―――――……
蝋燭の揺れる大広間を出て、廊下の角を幾つか曲がると、玄関に辿り着く。
上がり框に腰を下ろして、靴を履いていると、後ろに人の気配を感じた。
振り返ると、壁の向こうからこそっと顔を覗かせているヒナタと目が合う。
「あっ、ヒナタ!見送りに来てくれたの?」
ヒアシの手前、ヒナタの事を呼び捨てにする訳にはいかないので、彼の前では“ヒナタ様”と呼んでいるが、ヒナタもミオリの幼馴染の一人だ。
友人であり、妹のような存在なので、彼女に対しては、親しみを込めて呼び捨てさせて貰っている。
ヒナタもそれを望んでくれていて、ミオリを姉のように慕ってくれていた。
「あの…ありがとう、ミオリ姉さん。遅くまで家の者を診てくれて…」
ヒナタは静かな声で、けれど丁寧にそう言いながら、こちらに歩んで来る。
靴を履き終わったミオリは、立ち上がって彼女を振り返り、笑って首を振った。
「ううん、これも私の大事なお勤めだもの。日向家の皆が、元気で良かった」
ミオリがそう言うと、ヒナタは嬉しそうに笑って頷く。
「これから、ネジ兄さんの所に行くんだよね…?外は暗いから、気を付けて行って来てね」
「うん、ありがとう!ヒナタも、ゆっくり休んでね。それじゃあまたね、おやすみ」
「おやすみなさい」
バイバイ、とヒナタに手を振って、ミオリは宗家の屋敷を後にした。
日向一族――…
それは、木ノ葉の里でも、特に特異な血継限界・白眼を持つ一族の事である。
透視能力、動体視力などがずば抜けて高く、その視野はほぼ360度を見通す事ができ、遮蔽物や体内の経絡系をも見透かす事が出来る、特殊な瞳だ。
古くから続く血によって受け継がれていくその瞳は、木ノ葉の大きな力として、これまで大切に守られてきた。
日向一族が宗家と分家とで区別されているのも、“日向”を守るためのシステムであるし、ミオリらの影山家も、極端に言えば彼等を守り、助けるために存在する一族だ。
影山家は代々、木ノ葉の里で医療忍術を得意とする家系だった。
日向家とは遠縁にあたるらしく、古くから親交があり、やがて影山家は、日向家専属の医療忍者一族となっていったそうだ。
以来、影山の家に生まれた者は皆、幼い時から医療忍者になるための教育を受け、日向家の歴史についても学ぶことになっている。
ミオリ自身も、三歳頃にはチャクラの練り方や薬草の見分け方などを教わり始め、将来は日向家に仕える医療忍者になるよう、育てられてきた。
父が日向の各家に赴き、健診を行う様子も、この頃から既に見学するようになっていた。
影山家の者は皆、こうして日向家と深く関わっている。
その為、ミオリはネジやヒナタたちと自然に仲良くなったし、影山家は白眼に関する極秘の医療知識を唯一豊富に有すことになり、二つの家は切っても切れない仲となった。
ミオリが今日行っていた検査も、白眼をこれからの世に残していくため、瞳や身体に異常がないかを調べる、三か月に一度の大切な定期健診の一つだった。
ミオリが任されているのは、年の近い宗家の娘であるヒナタやハナビに、その周りの人々、それから、ネジを含む幾つかの分家の人々である。
流石にヒアシの健診を担当するのは、もっと経験豊富な影山の者だった。
が、十七のミオリが、幾ら年が近くて仲が良いとはいえ、宗家のヒナタやハナビを診るのは、やはりそれなりに信頼してもらえているからだと思う。
その信頼を裏切らぬためにも、もっと優秀な医療忍者になる、というのが、ミオリの目標である。
――…でも…良かった。今回も皆、何事もなくて…。
ミオリはそう思って、ふと安堵の笑みを浮かべた。
色々と考え事をしていたが、ミオリの足は行き慣れた道を勝手に進んでいく。
日向の敷地の通りは、夜になると常夜灯が灯されて、足元が見やすかった。
やがて――…
気が付いた時には、ミオリは、目的のネジの家に辿り着いていた。
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