8話 声が届く場所
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『音羽、真由子の彼氏取ったって、本当なの!?』
泣きじゃくる彼女の肩を、庇うように抱いて、友人は疑念の目を音羽に向けた。
『違う!!私、そんな事してない!!』
音羽は直ぐに否定したが、間髪入れずに彼女は口を開いた。
『でもっ、浩介が…音羽の事が好きになったから…別れてくれって…っ!!』
『私は何も言ってないよ…!』
真剣にそう言うが、彼女は音羽をきつく睨みつける。
『嘘…!じゃあどうして突然、浩介が別れようなんて、言い出すのっ…!?あんなに好きって、言ってくれてたのに…っ!』
わっと泣き出す彼女を慰めるように、友人はその背をさすった。
『でも…、私は本当に、何も……』
何もしていないし、何も言っていない。
ただ、廊下を歩いているときに、向かいを歩いていた彼が物を落としたから、それを拾って、お礼を言われただけだ。
それ以外、クラスも違う彼と、音羽に接点も関わりもあるはずがない。
彼がなぜ、あの一瞬だけでそんな血迷った事を言い出したのかは分からないが、音羽が何度話をしても、彼女は信じてくれなかった
『大丈夫?今日はもう帰ろう…?』
『うん………』
仲の良かった二人の背中が、音羽を置いて小さくなっていく。
音羽はぼんやりと、滲む視界でそれを見ていた。
――――――――…
「……やな夢…」
ぼうっと意識が戻ってきて、音羽は目を擦った。
去年の、前の学校で起きた事の、苦い思い出だった。
結局あれから二人とは疎遠になり、あのありもしない噂も流れてしまって、深い友達付き合いが出来なくなった。
始めは一人の時間も人の視線も、辛くて怖かった。学校に行きたくない毎日がしばらく続いた。
けれど、偶に話しかけてくれるような優しい子はいたし、噂以外には酷い事もされなかった。
人間には“慣れ”というものがあるらしく、時間が経つにつれて噂も薄れていき、その頃には音羽ももう、一人の状況に慣れてしまった。
その事があってから、音羽は人と積極的に関わるのが億劫になり、元々の人見知りをさらに悪化させた。
しかし最近は、ツナや京子たちがよく話しかけてくれるので、人見知りも少しはマシになった気がするし、やはり友達といるのも楽しいと思うのだ。
――もう二度と、あんな想いはしたくない…。
あんな、罪悪感と孤独と怯えに呑まれる日々は、もう。
特別仲の良い友達なんて求めないから、どうか穏やかに日々を過ごして居たかった。
音羽は体を起こすと、朝の準備を始めた。
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