43話 過去からの来訪者
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「……ん…?」
突如現れた雲雀の姿を見て、γは怪訝そうに眉根を寄せた。
彼は雲雀の顔を観察するようにじっと見て、それから口角を僅かに上へと持ち上げる。
「……思い出したぜ…。お前はボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥だ。そしてその後ろにいるのが――」
γはそう言いながら、ふとこちらに視線を向けた。
雲雀の数メートル後ろにいた音羽は、γとはっきり目が合って、無意識に身を固くする。
「百年ぶりに選ばれた、ボンゴレ天の守護者……片桐音羽」
「……」
そう音羽の名を口にしながら、γは値踏みするような瞳を躊躇なく音羽に向けた。
上から下まで舐めるように見られて、音羽は一瞬気圧されたが、直ぐに強い眼差しを以って彼を見返す。
すると、γの視界を遮るように、雲雀が一歩前に進み出た。
「…だったら?」
牽制するような雲雀の声に、γの意識が彼へと移る。
まるで音羽を庇うような動きを見せた雲雀に、γは浮かべていた笑みを深め、首を竦めた。
「いいや。お前達はいつも一緒にいると聞いていたが――…なるほど、実際に見てみると、お前が側に置いて連れ歩くのも分かる美人だと思ってな」
「…………」
そう軽口を叩くγを、雲雀は無言でじっと睨みつける。
ここからでは雲雀の表情がよく見えないが――、背中に纏っていた彼の殺気が増しているように思うのは、音羽の気のせいではないだろう。
だがγは、その殺気を特別気にする風でもなく、変わらない調子で言葉を続ける。
「雲雀恭弥――…お前には、うちの諜報部も手を焼いててね。ボンゴレの敵か味方か…、行動の真意が掴めないとさ。
だが、もっとも有力な噂によれば――この世の七不思議にご執心だとか…。――匣の事を、嗅ぎ回っているらしいな」
「どうかな」
問いにも似たγの言葉に、雲雀は間髪入れずそう答える。
「得体の知れないものに、命を預けたくないってのは同感だぜ。…で、こいつは本当には誰が、何の為にどうやって創ったか……真実は掴めたのか?」
「それにも答えるつもりはないな。僕は機嫌が悪いと言ったはずだ」
「……」
答えという答えを全く寄越さない雲雀に、γは表情を変えることなく口を噤み、やがて余裕ありげに微笑した。
「なるほど…やはり雲雀恭弥はボンゴレ側の人間だったという訳だな。いざファミリーが殺られるとなれば、黙って見てはいられない…――だろ?」
「……それは違うよ。僕が怒っているのは――」
雲雀は重みのある静かな声で言いながら、右手の中指に嵌めていたリングに、ボゥッ!と紫色の炎を灯す。
「――並盛の風紀が汚されている事だ」
明かな怒りと苛立ちを滲ませた雲雀は、左手に雲ハリネズミの匣を構えた。
雲雀から溢れる確かな殺気に、γも右手に嵌めていた雷のリングに炎を灯す。
「風紀……?まあいいさ、敵の守護者の撃墜記録を更新するのは嬉しい限りだ。オレも――男の子なんでね…!」
γがそう言って匣に炎を注いだのと、雲雀が己の匣に炎を注いだのは、殆ど同時だった。
二人が匣の開口部を互いに向けた刹那、ドシュッ――!!と空を裂く音が響き、匣兵器が相手へと襲い掛かる。
雲雀の雲ハリネズミとγの雷狐は、彼等の頭上で激突し、轟音を立てた。
紫と緑の炎の光が頭上から降り注ぐ中、γは上を見上げて目を細める。
「ハリネズミとは可愛いが……なんてパワーだ…。これだけの匣ムーブメントを、よくそんな三流リングで動かせる」
「僕は君達とは、生き物としての性能が違うのさ」
雲雀がそう言った瞬間、彼の指に嵌めていた雲のリングが、パリン、と音を立てて割れた。
「…!」
それを見たγは、ピクリと眉を寄せる。
彼の考えている事が、この時ばかりは音羽にも分かった。
γが困惑するのも、無理はない。
リングが砕け散る所など、そう見る物ではないからだ。
音羽や草壁からしてみればよく見慣れた光景であるが、雲雀が精製度の高くないリングを使用すると、いつもこうなる。
雲雀自身の波動が強すぎて、リングの方がその力に耐え切れないのだ。
風船に空気を入れ続けると割れてしまうように、強すぎる波動を受けたリングは砕け、使い物にならなくなる。
彼の波動を以ってして砕けずにいたのは、音羽の知る限り、ボンゴレリング唯一つだった。
だから、ボンゴレリングを砕いてしまってからというもの、雲雀に真に適応するリングはなく、彼はどうせ砕けてしまうのだからと、常に手に入りやすいC、Dランクのリングをストックして使用している。
普通、リングの精製度が下がると匣兵器の強さも落ちてしまうのだが、雲雀の場合はリングを粉砕する程のエネルギーを使用する事で、その脆弱さを補っていた。
リングを使い捨てにしていると言っても過言ではない雲雀の戦い方は、マフィアの世界でもかなり珍しいものだろう。
「…さあ、僕らも始めよう」
雲雀はそう言って爛々とした瞳を細めると、新たに装着したリングに炎を灯す。
雲雀がもう一つ取り出した匣に炎を注げば、雲属性の炎を纏った彼の獲物――トンファーが飛び出し、彼はそれを両の手で掴んだ。
戦いを前にして、昂ぶった微笑を浮かべる雲雀に、γが息を呑む。
アニマル匣同士が、頭上でぶつかっている最中――……
二人は同時にタッ、と地面を蹴り、駆け出した。
雲雀の振るうトンファーがヒュッ、とγの身を掠めたかと思うと、払うように振り回されたγのキューが雲雀を襲う。
二人の武器が空を切り、時に衝突しながら攻防を繰り返す様を見て、音羽はぎゅっと両手を握った。
――…恭弥さん…。
雲雀が負けるはずのない事は、彼の表情を見ていればよく分かる。
青灰色の瞳に焦燥の色は微塵もなくて、あるのはただ“戦う”ことに対する愉しみと、目の前の敵を捻じ伏せたいという、本能にも似た欲求だけ。
軽やかに獲物を振るう雲雀の姿は、どこか生き生きしているようにも見えた。
ああいう顔をしている時の雲雀は、まだ自分の本領を発揮し切っていない。
彼にとってはきっと、この戦いでさえ余興程度に過ぎないのだろうと、長年彼と一緒にいた音羽は思う。
それでも万が一、雲雀が怪我をする事があればと思うと――……この感情だけは、いつまで経っても慣れる事が出来ない。
音羽がそわそわしながら二人の戦闘を見ていた時、
「音羽さん、恭さんがγの気を引いている間に、我々はあちらへ…!」
「…!」
不意に隣にいた草壁に声を掛けられ、音羽は我に返る。
草壁の視線の先には、林の中に横たわっている獄寺と山本らしき二人の姿があった。
音羽は、ガキィン!と音を立てて激しく武器をぶつけ合う二人をもう一度見て、それから草壁に頷きを返す。
「…はい…!行きましょう…!」
音羽の返事に草壁も頷き、二人は戦闘中の雲雀とγを大きく避けるようにして、反対側の林に向けて走り出した。
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