42話 帰る場所
【名前変換】
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既に廃墟と化している、並盛町の工場跡地。
深い夜に包まれた町と同様に、その場所にも、等しく闇は落ちていた。
普段ならばこの場所には、灯り一つない暗さと、人けのない不気味さがあるばかりだが――…今夜だけは、その様相が少し違った。
「――ぎゃああっ!!!」
響いたのは男の断末魔と、血飛沫の散る音。
地面に広がっていく温い血が、男の持っていた免許証を赤黒く染めた。
「山中武」と書かれたその免許証は、今しがた息絶えたこの男の所持品である。
彼は不運にも、現在捜索中であったボンゴレ雨の守護者、「山本武」と一文字違いだった。
部下が名前を間違えたために、この男はここまで連れて来られ、我々に殺されたのだ。実に運のない男である。
ミルフィオーレファミリー、ブラックスペル第三部隊隊長・γ(ガンマ)は、地面に転がった「山中武」を一瞥して、それから問題の部下を静かに見据えた。
「…次から気を付けろ。余計な手間掛けさせんじゃねえ」
「も、申し訳ありません…!以後、気を付けます!!」
γが一睨みすると、部下は顔を引き攣らせて勢いよく頭を下げる。
γは小さく溜息を付くと、今度は隣にいた太猿に目を向けた。
「ご苦労だったな」
男を狩った獲物をまだ握っている太猿にそう言えば、彼は瞳を爛々とさせたまま口の端を持ち上げる。
「アニキ、労いは雨の守護者を殺った時に頼むぜ」
そう軽口を叩く太猿に、γは肩を竦めて頷いた。
「…ああ、そうだな。――…お前ら、引き続きボンゴレ雨の守護者を探せ!手掛かりを見つけ次第、すぐオレに報告しろ!」
「「はっ!!」」
短い了承の返事を残し、太猿、野猿を含む部下達が一斉に散って行く。
その姿を見届けて、γは廃工場の立ち並ぶ道を奥へと進んだ。
辺りには静けさが戻り、己の足音だけが微かに響いている。
γは夜の闇を歩きながら、自然と昼間の事――入江正一の事を思い返していた。
入江正一…――ホワイトスペル第二部隊隊長兼、日本におけるミルフィオーレの拠点・メローネ基地の最高責任者。
白蘭が最も信頼している男だと噂に聞いていたが、存外気の弱そうな、若い男だった。
昼間彼は、γの元を訪ねて来た折り「ボンゴレに関する事はいかなる小さな事でも、自分に伝達するように」と釘を刺してきたので、それとなくカマを掛けてみれば、どうやら白蘭の密命持ちらしい。
あの場では承諾したが―――…γの中に、彼への忠誠心は欠片もない。
だからこうして、単独でボンゴレの守護者探しが出来るのである。
「………」
…その時、ふと胸の中に浮かぶものがあり、γの足が止まった。
何気なく視線を上げれば、空に微かな星の光が見える。
夜が明ければ、あっという間に消えてしまうであろうその小さな光が、最後に見た“彼女”の笑顔を思わせる。
この世で、自分が唯一従いたいと想う人間。
その姿を、γは思い出さずにはいられなかった。
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