41話 想いを詰めた箱
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さあっと穏やかに吹いた風が、彼の、日に透ける銀色の髪の毛を柔らかく撫ぜた。
ふと、漂ってきた花の香りに誘われるようにして、獄寺はゆっくりと瞼を持ち上げる。
「――――…」
視界に映ったのは、深緑の木々と澄み切った青空に、真上まで昇ったらしい太陽の光。
そして、何度願っても消えはしない、無慈悲な現実。
日が昇ってしばらくは一睡もせず起きていたのだが、周りに敵の気配もなく疲労も溜まっていたため、いつの間にか少し眠ってしまっていたらしい。
樹の幹に背を預け、座ったまま眠っていたので、少し体を動かすと節々がじわりと痛んだ。
思わず眉根を寄せ、獄寺は静かに息を吐き出す。
徐に腕時計を確認すると、針は4時頃を指していた。
これは、イタリアの現在時刻である。
飛行機で、針を日本の時刻に合わせておくのを忘れていたのだ。
だが、時差で考えれば、今が大体午前11時頃だと分かる。
獄寺は顔を上げて、周囲を見回した。
森の中は静かで、時折鳥の鳴き声や羽ばたく音が聞こえるが、人のいる気配は全くない。
――…山本の奴、遅えな…。
獄寺は、先にアジトに行ったきり、戻ってこない山本の顔を思い出す。
夜が明けたら来るだろうと思っていたが、彼の姿は一向に現れない。
山本に限って、敵に見つかり始末された…という事はないと思うが――…道中、もしくはアジトで、何かトラブルがあったのかもしれない。
が、“彼”を置いて行く事は出来ないので、獄寺はここで待機する他なかった。
――…もう一度、辺りの様子を見ておくか…。ひょっとしたら、山本もその辺まで来てるかもしれねえしな…。
獄寺はそう思い、側に置いてあったアタッシュケースを手に取って、ゆらりと立ち上がる。
「………」
木々の中へと足を踏み入れる前、獄寺はちらと、地に視線を投げた。
そこに置かれた黒塗りの棺桶を見つめ、獄寺は痛ましげに目を細める。
浮かんでくるのは、もう何度も思い返した、彼の最期。
そして、何も出来なかった自分の、情けなく、愚かな姿だ。
獄寺は眉を顰め、瞳を伏せた。
…最後に会ったのは、彼が殺される数日前だった。
もしあの時、彼女が側にいたならば――彼は死ななかっただろうか。
だとしたらあの時。
あの時こそ、彼女を引き留めて置けばよかった、と。
そんな、今更考えても仕方のないことばかり、頭には浮かんできてしまう。
そんな都合の良い夢を払うように、獄寺は緩く首を振った。
僅かに踵を返して一歩足を進め、獄寺は木漏れ日の落ちた草を踏みしめる。
まだ、ずっと、白百合の花の香りが、辺りに漂っていた。
彼の澱んだ心が流れ出すのは、この数十分後の事である。
が、今の彼は、まだその事を知る由もない。
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