39話 その涙、一滴さえ
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「…ボンゴレ本部を…ミルフィオーレファミリーが…急襲…?」
今しがた、草壁から放たれた言葉を、音羽は譫言のように繰り返す。
「………」
雲雀は黙して、静かに眉を顰めた。
「はい…。詳しい状況は、現在確認中とのことですが……敵はボンゴレの関係者を見境なく狙っているようで…。財団の人間は皆無事ですが、今は迂闊に行動出来ないそうです…」
「そんな……」
苦虫を噛み潰したようにそう言った草壁の言葉に、音羽は掠れた声を漏らす。
頭が酷く混乱していた。
それは、ボンゴレが敵襲を受けたという事も勿論あるのだが……。
音羽が何より驚いたのは、ボンゴレに牙を剥いた、その相手である。
――ミルフィオーレファミリー。
それは、近ごろ着々と力を付けていると噂されていた、マフィアだったからだ。
音羽は、これまで彼等と遭遇したことはない。
ただ彼等は、ボンゴレと同レベルの組織力、戦闘力を持ったファミリーだと、以前聞いたことがある。
音羽はその辺りの情報を手に入れる機会がないため、詳しい事は知らないが…。
ミルフィオーレは、他のファミリーからリングや匣を略奪することによって、強くなっていったらしい。
つまり、力で相手を捻じ伏せられるような、強い人材が揃っているということだ。
そんなミルフィオーレファミリーが、なぜ突然、ボンゴレを襲ったのだろう。
しかも、ボンゴレに関わった人間を見境なく狙っているなど――…どう考えても、異常事態だ。
イタリアの本部――……
先日はツナと獄寺、山本がいたが―――…
彼等は、今もそこにいるのだろうか。
だとしたら、無事でいるだろうか。
「――!!」
そう思った瞬間、音羽はハッと息を呑んで、踵を返す。
雲雀は視線で、音羽を追った。
「!音羽さん…!」
慌てて室内に走り出した音羽に、草壁が声を掛けるが、音羽の耳には入っていない。
音羽は真っ直ぐベッドに向かい、その上に置いてあった携帯を鷲掴んだ。
ディスプレイを見て、音羽は目を大きく見開く。
「…っ…!獄寺、君……!!」
先程の着信の相手は―――獄寺だった。
さあっと、体から血の気が引く。
心臓がバクバクと音を立てて、背筋が冷たくなった。
それでも、急いで通話ボタンを押して掛け直したが―――…彼が電話に出る事は無い。
「…………」
電源が入っていません、と繰り返すアナウンスを切って、音羽は立ち竦む。
「……どうしよう……」
音羽は震える手で、携帯を握りしめた。
先程あった獄寺からの着信。
それはきっと、この事を伝えるために掛けてきたに違いない。
しかも音羽の電話が鳴る前、雲雀の携帯にも着信があった。
タイミングから考えれば、恐らくあの着信も、獄寺からのものだろう。
音羽より先に雲雀に電話を掛けたという事は、救援を頼む為のものだったのかもしれない。
だとしたら、彼等が窮地に立たされている可能性は、十二分にある。
「……っ…!」
音羽は眉を顰めて、唇を噛みしめた。
――…どうして私は、電話に出なかったの…!
絶対に出なければいけない電話だった…!皆、凄く大変な事になっているのに……!
助けを求める電話だったのかもしれないのに…!
そう思う音羽の頭に、彼の姿が過る。
――あの小さなヒットマン。
今はもうこの世にいない、リボーンの姿が。
ツナ達に限って、そんな事にはならないと思っている。
だが、あのリボーンでさえ――死んでしまった。
もし、これ以上大切な仲間が死んでしまう事になったら――――
「――音羽」
「!!」
最悪の事態を考えていた音羽を、後ろから呼んだ雲雀の声が、現実に引き戻す。
音羽はバッと後ろを振り返り、雲雀を見上げた。
「っ…恭弥さん…!どうしよう、さっきの電話、獄寺君からで…!でも、掛け直したんですけど、全然繋がらなくて…!」
「…落ち着いて、音羽」
「…!」
混乱して、珍しく早口に捲し立てる音羽を宥めるように、雲雀はその華奢な両肩に手を乗せる。
雲雀に触れられて、自分が浅い呼吸を繰り返している事に気が付いた音羽は、目を瞠って、口を噤んだ。
落ち着こうとして、息を吸い込む音羽を見て、雲雀はつっと目を細める。
「…僕の携帯に来ていた着信も、獄寺隼人からだった。大方、君が考えている通り、状況の連絡と救援要請だろうね」
「…!じゃあ、早くイタリアに戻らなきゃ…!」
「それは出来ないよ」
「!?どうしてですか…!?」
いつもと変わらぬ、冷静な態度でそう言う雲雀に、音羽は思わず声を上げる。
すると雲雀は、凪いだ瞳で音羽を見下し、静かに言った。
「ミルフィオーレが見境なくボンゴレの関係者を狙っているのなら、イタリアへの出入りには、既に彼等の監視が付いてるはずだ。それに向こうは、救援が来るだろうと見込んで動いているだろうからね。今入国するのは難しい。それに…」
雲雀はそこで言葉を区切ると、音羽の瞳を深く見つめて言葉を続ける。
「今は、君の匣兵器を完成させなければならない。この機会を逃すと、もう後がない」
「…!」
雲雀のその目も、その声も、余りに真剣なもので。
音羽は口を開く事も出来ず、ただ彼を見上げる。
幾ら雲雀の言う事であっても、今はツナ達の所に行かなければいけないはずで、雲雀にだってそう言わなければいけないのに。
どうしてだか、言う事が出来ない。
雲雀の瞳は、いつも以上に強かった。
そして、“もう後がない”と言った彼の声が、いつもより数段重く感じたのだ。
そう思うと、雲雀にも何か考えがあるような気がしてきて、音羽は何も言えなくなってしまう。
狼狽えながらも、自分の言葉を受け入れた様子の音羽を見て、雲雀は僅かに表情を緩めた。
「…そう簡単に死なないさ」
「……はい…」
普段であれば絶対に言わないであろう雲雀の台詞に、音羽は一瞬目を瞠ったが、直ぐに目を細めて頷きを返す。
音羽を安心させる為に、そう言ってくれたのだと分かった。
少し落ち着きを取り戻した音羽の頭を、雲雀はぽん、と撫でて踵を返す。
「…君は先に休んでて。向こうにいる財団の人間に、もう一度電話を掛けてくる」
「……分かりました。何か詳しい事が分かったら、教えてください」
雲雀は音羽の言葉に視線で応えると、草壁と共に部屋を出ていった。
残った音羽は、脱力してベッドの上に座り込む。
「………どうか皆、無事でいて…」
音羽は両手を握りしめ、彼等の無事を祈る事しか出来なかった。
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