38話 一流の研究者
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イタリアを発ち、ドイツに着いた翌日――…
音羽は、草壁の運転してくれる車に乗り、ドイツの街中を走っていた。
窓の外を見ればそこは大都会で、大きなビルやマンションが所狭しと建っている。
どこの国でも、都会は似たような風景だなあと思いながら、音羽は日本の東京を思い出した。
もう随分帰っていない祖国。
偶に電話はするものの、父や母、京子やハル達とも暫く会っていない。
――…皆元気にしてるかなあ…。
音羽はぼんやりと流れていく景色を見つめ、彼等の事を思う。
――でも、彼等に会う日は、そう遠くないかもしれない。
何故なら――音羽の匣が、手に入るかもしれないからだ。
音羽の匣が手に入れば、雲雀の匣研究もひと段落付く。
そうすれば、一度日本に帰ろうと、雲雀も言う気がした。
音羽は、後部座席で隣に座っている雲雀を、ちらと見る。
雲雀は長い足を組み、静かに瞼を閉じていた。
まるで眠っているようにも見えるのに、隙を全く感じさせない。
何か、考え事でもしているのだろうか。
音羽が思わず彼を見つめていると、不意に雲雀が目を開けた。
「何?」
「!」
流し目でこちらを見ながら、低い声で呟くように彼に問われて、音羽はハッと我に返る。
「な、何でもないです…」
「…そう」
音羽が小さく首を振って答えると、雲雀はまた目を閉じてしまった。
「………」
本当に、彼の感覚の鋭さには未だに驚かされる。
音羽は雲雀の横顔を見つめてから、再び窓の外へと視線を投げた。
このドイツに、本当に“彼”がいるんだろうか――…
そんな事を考えながら、音羽は昨日の飛行機の中で、雲雀が話してくれた事を思い出していた―――……
―――――――――……
『――ある研究者と、ようやくコンタクトを取る事が出来たんだ』
飛行機に乗って――勿論草壁が操縦している――ベルトを締めた所で、隣に座っている雲雀が、ようやくそう切り出した。
『彼は気まぐれで、どこにいるのか……。いつも滞在地が変わってね。連絡先を調べるのさえ苦労したけど、ようやく話しが纏まったよ』
『…彼って?…恭弥さんは、その人に会った事があるんですか?』
どこかうんざりした様子の雲雀を見上げながら、音羽はそう問いかける。
すると雲雀は、音羽を見て緩く首を横に振った。
『いや、会った事はないよ。今までずっと、メールでやり取りしていた。…でも、君の話をしたら食いついてね。金に目のない男のようだけど、一応科学者だし…何より、腕は信用できるはずさ』
『……?』
――科学者としての腕は、信用出来る――。
雲雀が他人の事をそんなふうに評価する事は珍しく、音羽はただただ首を傾げる。
そして、そんな人物が頭に全く浮かんで来なくて、音羽は同時に眉根を寄せた。
真剣に考え込んでいる音羽のその顔を見て、雲雀はふと笑みを浮かべる。
丸二日答えを焦らして、音羽が悶々としている姿を見るのは楽しかった。
だが、答えを言っても、彼女はきっと面白い反応を寄越すだろう。
そう思って、雲雀はようやく、ゆっくりとその答えを口にした。
『…ケーニッヒさ。匣を開発した研究者の一人のね』
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