36話 十年後の世界
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窓の外を見れば、街の温かい灯りが、少しずつ灯っている所だった。
日は沈み行き、藍の空が降りて来る。
ここは明るいので星の瞬きは見えないが、外に出ればきっと、輝いている星々を見る事が出来るだろう。
雲雀は締め切った窓に背を凭せ掛け、それから室内に視線を戻す。
――イタリア、ボンゴレ本部の応接室。
茶色い革張りの重厚なソファには、二人の男が向かい合って腰を掛け、話をしていた。
「――決行は、今まで話していた通りやはり明後日になりそうだよ。スケジュールの変更点はない。だから今後はそれぞれ、前回話合った通りに動いて欲しい」
「…分かった。本当にありがとう、正一君。それに雲雀さんも、宜しくお願いします」
「…………」
雲雀は言われて、二人の顔を見た。
ツナと、そして入江正一。
この計画の為、これまで何度も集まってきた。
群れるのは、何年経っても嫌悪感を抱く。
だが、今回ばかりは仕方がない理由がある。
雲雀は溜息を付いて、神妙な面持ちでこちらを見る二人から視線を外し、目を伏せた。
「僕は好きにさせてもらうよ」
いつも通りそう答えれば、いつも通りの反応が返って来る。
「…雲雀君……。頼むよ、君がいなければこの計画は不可能なんだから…」
「あはは……大丈夫だよ、正一君。雲雀さんは、ちゃんとやってくれるから…」
頭を抱える正一に、ツナが苦笑しながら答えた。
すると正一は顔を上げ、ツナと目が合うと穏やかに微笑む。
まるで、そうだった、と確かめ合うように。
くだらない、と雲雀は思う。
だが、二人の思うことに嘘偽りはない。
彼等は知っている。
―――雲雀が、必ずこの計画を実行するということを。
そうしなければならない理由が、雲雀にはあるという事を。
「……話はもう終わり?それなら僕はもう行くよ」
雲雀はこれ以上ここにいる必要はないと判断し、伏せていた瞳を持ち上げ、ドアの方に歩き出す。
すると慌てたように、後ろからツナの声が呼び止めた。
「あ、待ってください、雲雀さん!」
「何」
踵を返して、半分後ろを振り返ると、ツナが窺うようにこちらを見上げている。
「あの…明日は予定通り出るんですよね…?その前に、少しだけ片桐に会えませんか?」
「…どうして?」
ツナの口から出た音羽の名前に、雲雀は体をそちらに向け、その真意を探るようにツナを見据えた。
雲雀の鋭い眼光に、ツナは一瞬うっと息を呑んだが、そのまま言葉を続ける。
「…片桐に伝えたい事があるんです。見せたい物があるんですけど、今はそれを渡せないので…。全部終わったら渡せるように、約束をしておきたいんです」
「………」
雲雀はつっと瞳を細めた。
ツナの顔は真剣で、ほんの微かに影を含んでいる。その理由を察するのは、容易い。
“この男”に残された時間は、あと四日しかないのだから―――……
「…いいよ。どうせ音羽も、ここに来ると言うだろうからね」
「…!ありがとうございます!」
雲雀の承諾の返事を得て、ツナは表情を明るくした。
すると今度は、正一が雲雀に尋ねかける。
「あの…雲雀君…、音羽さ―――いや、片桐さんは今どこに…?」
正一は言い直し、罰が悪そうに眼鏡の縁を指先で持ち上げた。
雲雀はそれを見つめながら、静かに答える。
「…哲と外に出ているはずさ」
「そうか、よかった…。誰かと一緒にいるならいいんだ…」
正一はそう言うと、安堵したように微笑んだ。
だがその安堵の理由は、彼女が守護者の一人だからというものだけではない。
昔の自分であれば、そんな事を知れば何者であろうと直ぐに叩きのめして、力で分からせただろう。
だが今は、そんな事をする必要もない。
雲雀は正一を見据え、ゆっくりと口の端を持ち上げた。
「あれは僕のだからね。目を放しはしないさ」
「!」
「じゃあね」
雲雀は驚いた入江の顔を見てから、今度こそ踵を返してドアへと向かい、部屋を出るのだった。
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