35話 夕暮れとサイダー
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―――金曜日、放課後。
音羽はディーノに呼び出され、屋上に来ていた。
勿論、雲雀も一緒に。
音羽は、へらりと笑うディーノを、怪訝に睨みつけている雲雀をちらと盗み見て、心臓を跳ねさせた。
もう明日が約束の日なのだと思うと、どうしてもそわそわしてしまう。
――五日前――…
『いいよ』
何処かに行かないか、と誘った音羽に、雲雀はさらりと答えた。
呆気なく貰えた了承の返事に驚いたが、それよりもすごく嬉しくて。
『ほ、本当ですか…!!ありがとうございます!!』
音羽は電話であるというのに、思わずぺこりと頭を下げていた。
雲雀は電話の向こうでふっと小さな息に似た微笑を漏らし、尋ねてくる。
『で、どこに行きたいの』
『…!えっと……』
問われて、音羽は口籠る。
全く考えていなかったわけではないが、雲雀に嫌だと言われないか、少し不安だったのだ。
――動物園。
本人は遠回しにしか認めていないが、雲雀は意外にも可愛い動物が好きである。
だから、動物園なら雲雀も楽しめるのではないかと思ったのだ。
だが、動物園は普通二人だけの貸し切りという訳ではない。
勿論他のお客さんだっているだろうから、当然群れている人々もいる訳で…。
雲雀が何と言うか…、そこだけ不安に思いながらも、音羽は何とか口を開く。
『…あの…動物園…は、どうでしょうか……』
『……動物園……?』
やや間があって、雲雀が繰り返した。
肯定とも否定とも取れない声音に、うるさい心音の激しさが増す。
どうだろう…と半ば祈るような気持ちで雲雀の返事を待っていると、雲雀はようやく答えてくれた。
『いいよ、それで。じゃあ、駅に13時集合ね』
『!!はいっ!!』
音羽は嬉しさと幸福感が頂点に達するのを感じながら、満面の笑みで大きく頷いたのだった…―――――…
―――という訳で…。
明日めでたく雲雀と動物園に行ける事になったのだが……。
約束の土曜日が近付くにつれて、何だか緊張してしまい、音羽は雲雀を見るだけでドキドキしてしまう有様だ。
そんなのいつもの事だろうと言われればそうなのだが、今回は初めてのデートという一大イベントなのである。
そわそわするなというのが無理な話なのだ。
そんな事を考えてぼうっとしていた音羽を、不意に雲雀が振り返った。
「!」
雲雀の切れ長の瞳と目が合って、音羽はぴくりと肩を跳ねさせる。
自然とかあっと頬に熱が集まって、音羽は慌てて視線を逸らした。
「ん…どうした?音羽。具合でも悪いのか?」
そう言いながら、ディーノに顔を覗き込まれ、音羽は彼を振り返り、ぶんぶんと首を横に振る。
「い、いえ、大丈夫です…!」
音羽が答えると、ディーノは安堵したように微笑した。
「そうか、なら良かった。…じゃあ、本題に入るぜ。今日は、リングの炎について話に来たんだ」
「……リングの炎?」
「ああ、最近一部のマフィアの間で噂になってるんだ。これからの戦いでは、リングの炎が重要になってくるってな」
ディーノの言葉の意味はよく分からなかったが、音羽は制服の中からチェーンにぶら下がったリングを出す。
雲雀も手の平に乗せたリングを、静かに見つめていた。
「リングの炎……お前達も見ただろう?ザンザスを閉じ込めた零地点突破の氷を、このリングの炎が溶かした所を」
音羽がこくりと頷くと、ディーノは言葉を続ける。
「あの炎は、これからのマフィアの戦いを左右するものになるはずだ」
「………」
音羽はきらりと光るボンゴレリングを見つめた。
あの時は異常事態であり、リングの継承もあったから、炎が灯ったのだと思っていた。
でも、あの炎が今後、マフィアの戦いを左右するものになるというのなら、自分の意志で炎を灯す事が出来なければいけないのではないだろうか。
難しい顔をする音羽と、無表情の雲雀を見比べて、ディーノは苦笑した。
「…そうだな……――恭弥」
ディーノが雲雀を呼び、雲雀はそちらを振り返る。ディーノは彼を見据えて言った。
「覚えとけ、恭弥。リングの炎を大きくするのに必要なのは、ムカツキ、だ。お前なら、直ぐ出来るようになると思うぜ」
「……」
雲雀はディーノの言葉を聞いていたが、直ぐにふいと横を向いてしまう。
いつもの事にディーノはやれやれと溜息を付き、今度は音羽を振り返る。
「音羽」
「はい」
聊か真剣なディーノの声に呼ばれ、音羽も少し硬い返事を返す。
するとディーノは、音羽を真っ直ぐ見下ろして言った。
「…リングに炎を灯すには、覚悟がいる。強い覚悟がなければ、リングに炎は灯せない」
「…覚悟…?」
「ああ、覚悟だ。…でも、音羽ならきっと大丈夫だと、俺は信じている」
ディーノはそう言って、眉尻を下げて微笑む。
「大事なものを守りたいという覚悟…、音羽は、人一倍強いからな。大空戦でも、見せて貰ったぜ」
「…ディーノさん…」
「オレの教え子たちは優秀だな!」
にかっと笑うディーノに、音羽も安心して微笑んだのだった。
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