33話 近くて、甘く
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――――大空戦、翌日――……
午前9時。
「音羽ー、どこか出掛けるの?休みの日なのに、朝からお弁当作って、なんて。制服も着てるし…」
洗面所の鏡を見ながら、制服のリボンを付けていた音羽に、母が後ろから声を掛けてきた。
音羽が振り返ると、母は不思議そうな顔をして、手に袋を握っている。
お弁当の入った袋。一人分のものにしては、少し大きめだ。
それもそのはず、音羽が母に頼んで、二人分のお弁当を作ってもらったのだから。
「うん、ちょっと学校に用があるの…。それより、お弁当ありがとう」
音羽は母に微笑んで、ずっしりとしたその袋を受け取った。
「昨日も相撲大会の最終戦で遅かったじゃない。休みの日くらい、ゆっくり寝てればいいのに」
母がやれやれと首を振って言い、音羽は苦笑を浮かべる。
「大丈夫、久々に8時まで寝られたし。今日は、晩御飯までには帰るね」
相撲大会というとんでもない理由を信じてくれているのは、流石に良心が痛んだが……。
これでもう、親に心配をかける事もないのだと思うとほっとした。
だが、そう思ったのも束の間。
母の呆れ顔が、ふと興味深げなものになり、まじまじと音羽の顔を見てくる。
「な、なに?」
あまりに凝視されるので、音羽は思わず身を引いた。すると母は、ずいっと真顔で音羽に迫りながら、尋ねてくる。
「…そう言えば音羽、二人分って、一体誰と食べるの?」
「えっ!?」
急に聞かれて、音羽の喉から裏返った声が出た。
普段細かいことは気にしない母だから、今回も何も言われないだろうと高を括っていたのだが…。
母は音羽の分かりやす過ぎる反応を見て目を瞬かせると、何かに気づいたようににやりと笑う。
「…ああ~、雲雀君ね~。言ってくれればいいのに~。雲雀君のお口に合うと良いんだけど…、音羽、ちゃんと感想聞いてきてね!」
「え、ちょ…!まだ何も言ってない…!」
そうだとも違うとも言わないうちに、バシン!と背中を叩かれて、音羽は困惑した声を上げる。
が、母はそんなのもお構いなしで、音羽の背中をそのまま玄関まで押して行った。
「はいはい、早く行きなさい!雲雀君を待たせるんじゃないわよ!気を付けてね!」
「えぇ……」
音羽は半ば強引に押し出されて、鞄とお弁当袋を持ち、玄関で靴を履く。
そうしながら、流石、母親の勘というものは凄い……としみじみ感じた。
音羽が休日に並中に行く理由は、母の推察通り。雲雀がそこにいるからだ。
雲雀は、昨夜の戦いで酷く壊れた並中を隈なく点検するらしく、今日は朝から夕方まで学校にいるらしい。
なので、音羽もその手伝いをする為に、こうしてお弁当持参で並中に向かっているわけである。
…本当は自分で手作りしたかったが、流石に疲れすぎていて、母に作ってもらったのだ。
――…でも感想って…。雲雀さん、何て言うかなあ…。
音羽はぼんやりと、雲雀が母の作ったお弁当を食べて、感想を述べる図を想像してみるが、全く浮かんでこない。
音羽にとって、雲雀と自分の母親の組み合わせは、まだまだ未知のものだ。
ヴァリアー戦後に家まで送ってもらった時、雲雀と母が会話していたのも、やはりまだ不思議な感じがする。
そんな事を考えながら、音羽が踵を入れるために体を傾けたとき。
首から、鈍色のチェーンがぷらりと出てきた。
ボンゴレリング――……
今朝、封筒の中に入れられた状態で、音羽の庭にあるポストに入っていたのだ。
白い石のはめ込まれたこの指輪を見ると、昨日までの恐ろしい激戦の日々は全て現実で、けれどもう全て終わった事なのだと実感する。
音羽はまたほっとして、それを制服の中に戻した。
後ろを振り返ると、母はもうリビングの方に行ってしまっていて、玄関には誰もいない。
「…行ってきます」
音羽は微笑みながら、小さく呟いてドアを開けると、外に出た。
清々しい朝の光が、眩しい位瞳に飛び込んでくる。
空気も少しだけ冷たくて、けれどそれが心地よかった。
音羽はいつもより足が軽いのを感じながら、雲雀の待つ並中に向かうのだった。
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