32話 ずっと側に
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音羽はベルに手首を掴まれ、マーモンに後ろから監視されながら、グラウンドへ続く道を歩かされていた。
音羽は息を乱しながら、前を歩くベルを見上げる。
「…ベル…放して…」
「やーだね。放したらお前、あいつの所に行くんだろ?それに、お前もうフラフラじゃん?」
「っ……」
こちらを振り返って笑んだベルの言葉に、音羽は苦虫を噛み潰したような顔をする。
ベルの言葉は、どれも正しかった。
勿論音羽は、自由になれば雲雀の元に行く。
そして、既にデスヒーターの毒で苦しみ、体力の低下した状態であの力を使った音羽は、ベルの手を振りほどけない程度に弱っていた。
音羽は目を伏せて、あの時の事を思い出す。
――雲雀が本当に殺されてしまう。
そう思った時、体から力が溢れて来た。
音羽の体が放った光は、音羽を捉えていたマーモンの幻術を解き、無効化した。
それは以前、雲雀に憑依した骸を、その体から引き剥がした事を思い出させる。
だが、それがどういう事なのかは、音羽自身もよく分からない。
でも、それで体を動かせるようになって、咄嗟に手を出したらあの光の壁が現れたのだ。
そしてそれは、雲雀を殺そうとしたベルのナイフを弾いた。
雲雀を守る事が出来たのだ。
それに、いつも治癒の力を使う時に感じる温かさを一緒に感じた。
確かかどうか分からないが、ひょっとしたら雲雀達はある程度回復出来ているかもしれない。
「………」
音羽はこんな状況でありながら、僅かに口元に笑みを浮かべた。
守護者のリングは全て、ベルとマーモンに取られてしまった。
これでザンザスがツナに勝利し、大空のリングを手に入れれば――…音羽は本当にヴァリアーの一員として、ボンゴレファミリーに迎え入れられることになる。
危惧していた事態に、今最も近づいてしまっている。
でも――――……
雲雀があの時言ってくれた言葉を、音羽は忘れていない。
『君が僕の側以外にいる事はあり得ない。仮にもしそんな事があったとしても、取り戻すよ。…どんな手を使ってもね』
初めてヴァリアーに行くかもしれない、という話を聞いて不安になっていたとき、雲雀は音羽にそう言ってくれた。
ルールなんて関係ない、必ず取り戻す、と。
――音羽は、そう言ってくれた雲雀を、この手で守る事が出来たのだ。だから。
信じてます、雲雀さん……――
音羽は心の中で、祈るように呟いた。
「到着…――って、あり?」
「…?」
グラウンドが見えてきた、と思ったら、目の前のベルが怪訝そうな声を出して、音羽は首を傾げる。
「どうしたんだい、ベル」
後ろにいたマーモンもふわふわとベルの側にやって来て、その視線の先を辿った。
音羽も、ベルの背中から顔を覗かせ、その先を見る。
「――!!」
音羽はそこで見たものに、大きく目を見開いた。
グラウンドの中央に大きな氷の塊があって―――…なんとその中に、鬼の形相をしたザンザスの姿があったのだ。
一体どういう事なのだろう。
どうして、ザンザスが氷漬けに?
音羽は考えを巡らせるが、こうなった理由はまるで分からない。
ただ――…ザンザスが戦闘不能に陥っているということは、つまり――…
音羽は土煙の舞うグラウンドに、目を走らせる。
風が吹いて砂塵を散らし、煙が晴れた先に立つその人物を見つけ、音羽は目を輝かせる。
「!沢田――…んっ!」
死ぬ気の炎を灯し、凛々しい顔をしたツナの姿を見つけ、音羽が思わず声を上げようとしたとき。
マーモンの幻術で白い布きれのようなものが現れ、音羽が声を発さぬよう、猿轡を噛まされた。
「んんっ!?」
突然口に入って来た布の異物感に驚き、音羽がくぐもった声を上げている間に、両手も後ろに縛られる。
混乱しながらも手首を動かそうとすると、何か縄のような感触があった。
縄はマーモンのフードの中から伸びており、殆ど動かす事は出来ないし、逃げる事も出来そうにない。
マーモンは音羽の方を見下して、淡々と言う。
「もうさっきみたいに解ける力は残ってないだろう?君にはしばらく大人しくしてもらうよ。まだあいつらに姿を見せるわけにはいかないからね」
「しししっ、マーモン。あんま乱暴にすんなよ」
「………」
音羽は抵抗出来ない事を悟り、マーモンとベルを睨みつけた。
特にベルなど、自分から手を放してマーモンに縛らせたくせに、どの口が言っているんだ、と思う。
だが、姿を見せる訳にはいかないと言いつつも、音羽達は開けた所にいて、隠れるような場所はない。
そう思っていると、音羽達の周りにぼんやりとした霧がかかってきた。
どうやら、マーモンの幻術を使って、ここから堂々と見物するようだ。
音羽は周囲を見回して、それからツナの方に目をやる。
ツナは傷だらけのボロボロで、荒く息をしていた。
「――もう、これが溶けることはない」
ツナは呟くようにそう言いながら、首から下げていたリングの着いた鎖を引きちぎる。
目を凝らせばその手には、しっかりと大空のリングが握られていた。
それを見て、ベルは気の抜けた声を出す。
「あーあ、ボスは凍っちまうし、大空のリングはあのガキに取られてんじゃん。どうすんだよ、マーモン」
「…問題ないよ。ほとんどのリングはこっちにあるんだ。ボンゴレ十代目になるのは、ボスしかいないよ」
「…ししっ、同感。それにその口振りじゃ、何かあるんだ?」
「まあね。このリングの力が、ボスを助ける鍵になるのさ…。…そろそろ良いかもね」
「……?」
マーモンの言葉に、音羽は眉を寄せた。
リングの力…とは、一体なんなのだろう?
それに、そろそろ良いかも…というのは、どういうことなのか…。
音羽が頭の中で考えていると、前方にいたツナの体がふらりと揺らめいた。
「…ザンザス…―うぐっ…!」
「んん!」
ツナは肩を上下させながら、地面にがくりと膝を着く。
音羽は思わず声を上げようとしたが、猿轡のせいで声が出ない。
その瞬間、マーモンがピクリと動いた。
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