31話 守る為の力
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獄寺と山本は、体育館の正面入り口に辿り着いた。
「急がねえと、毒の致死時間の三十分が経っちまう!」
獄寺は焦った声でそう言いながら、体育館の扉に手を掛ける。
山本も傷が開いてボロボロだったが、獄寺の方も先程からぜえぜえと喘鳴を繰り返し、血の気のない顔をしていた。
残り時間は十分もない。
クローム、そして音羽を救わなければ……!
二人はその一心で体育館の扉を開け、そして中に広がる光景に目を見開いた。
「!!ポールが……!!」
「どうなってやがる!!」
二人の目に映ったのは、既に薙ぎ倒されたポール。
クロームの姿も、マーモンの姿もなければ、霧と天のリングもない。
「っ…リングとドクロは、どこ行きやがった!?」
「――こっちこっちー」
「!!」
思わず声を上げた獄寺の右側から、気の抜けた声がする。
獄寺と山本は、その声のした方を振り返り、驚きに息を呑んだ。
「「!!!」」
そこには両腕を真上で縛られ、体を吊るされたクロームの姿があったのだ。
クロームの腕を縛った縄は、体育館の二階の鉄柵に括り付けられ、足もつかないきつい体勢に、クロームは顔を顰めている。
頬を上気させ、息を上げている所を見ると、まだ解毒はされていない様子だ。
クロームの側には、彼女にナイフを突きつけるベルと、そしてマーモンの姿がある。
「お前達の持つリングを渡してもらおうか」
「さもなくば、この女は皮をはがされ惨い死に方をするよ」
「なっ…!」
ベルとマーモンの面白がる口調に、獄寺は眉間に皺を寄せた。
「ふざけんじゃねえ!!そんな安っぽい手に、引っ掛かると思ってんのか!?」
「オレらを誰だと思ってんの?暗殺部隊のヴァリアーだぜ。殺しにおいては――嘘はナッシング」
ベルは言いながら、クロームの頬に向けていたナイフを、その肌に宛がう。
「あ……」
「っ、やめろ!!」
プツと切れたクロームの頬から、血の一滴が零れ落ち、獄寺は声を張り上げた。
「きったねえぞ……!リングを渡した所で、ドクロを解放するつもりもねえんじゃねえのか!?」
「信じる信じないは自由だけどさ…、グズグズしてっと、ひんむく前に毒で死ぬぜ」
「っ、くっそ……っ」
口元に弧を描いて答えるベルに、獄寺は歯噛みする。
その時だった。
――コツ、と獄寺たちの後方から靴音がして、真向かいにいたベルはいち早くその存在を認め、にんまりと笑みを深めた。
「しししっ、来ると思ってたぜ、エース君。ご丁寧に音羽まで連れて来て、ご苦労さん」
「「!!雲雀!!」」
振り返った獄寺と山本は、ぐったりした音羽を抱き上げてそこに立つ雲雀を見て、声を上げる。
明るい所で見ると雲雀の顔色はやはり悪く、止血をしている布すら血で染まって赤くなっていた。
だが雲雀の瞳は、肉食獣のそれのように爛々と光を帯びている。
「おい、雲雀…」
今にもベルに殴り掛かりに行きそうな雲雀の殺気に、山本は思わず制止するように声を掛けた。
だが雲雀は、山本たちには目もくれず、ベルの方に歩いて行く。
そしてその手前で足を止めると、笑うベルを真っ直ぐ睨みつけた。
「天のリング、さっさと渡しなよ」
「しししっ……エース君、状況分かってる?今音羽を救えんのはオレだけなんだぜ?お前が音羽をこっちに寄越しな」
「断る」
「!」
斬り捨てるように即答で言い切った雲雀に、ベルは忌々しそうに口をへの字に曲げる。
すると、横にいたマーモンがふわりと宙に浮いた。
「ふん、そいつはボスへの手土産だ。こっちだって死なれたら困るからね。その女を先に渡すかリングを渡すか……出来ないと言うのなら、こっちの女には死んでもらうよ!」
マーモンはそう言うと、小さな手を向かい合わせ、ギュッと中心に寄せて行く。
するとクロームを縛っている縄がギリギリと軋み、クロームはうっ…と苦し気な呻き声を上げた。
「ドクロ!」
獄寺は声を上げ、雲雀の出方を窺う為にその横顔を見る。
雲雀はちら、とクロームに視線をやったが、表情一つ変えずベルに目線を戻した。
「その女をどうしようが、僕には関係ない。君達の好きにすればいい」
「おい、お前――!」
「――でも」
冷たい雲雀の声に、獄寺が咎めようとしたとき、それを遮って雲雀が再び口を開く。
そして、それまで表情の乏しかった雲雀の目に、確かな殺意が宿った。
「リングを渡さないというなら、君達は咬み殺すしかないね」
眉間に深い皺を刻んだ雲雀から、ザッ――と殺気が溢れ出る。
雲雀は音羽を後ろの床にそっと下すと、振り返ってトンファーを構えた。
それを見て、ベルは増々笑みを深める。
「ししっ、じゃあこいつは殺すしかないな」
「っう……!」
クロームの頬をベルのナイフが滑り、更に血が溢れ出た。
それを見て獄寺は、慌てて雲雀の方に身を乗り出す。
「おい、待てよ雲雀!!勝手に暴走するんじゃねえ!!」
「邪魔しないでくれる、獄寺隼人。君から先に咬み殺すよ」
雲雀は獄寺を睨み付け、牽制するようにトンファーを見せつけた。
雲雀は平生と変わらない涼しい顔をしているものの、僅かな焦燥の色が見て取れる。
「………」
山本は雲雀のその顔を見て、己の手の中にある雨と雲のリングを見た。
雲雀の目は本気だ。
音羽を救う為なら、どれ程の犠牲が出ても、雲雀ならやりかねない。
だが、クロームを死なす訳にもいかないのだ。
山本は床に倒れ伏している音羽を見た。
もう時間がない。
山本は決意を込めて顔を上げると、ベルに向かって言った。
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