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《其ノ参拾》改めて聞かれるととっさに浮かばないこともある
❀
情熱的な初夜(結構わりと夕方でしたけど)から数週間…土方さんの愛情表現が結構増えてきて、毎日心臓が持ちそうにないです。
次の日なんて先輩に「今日は一段と肌ツヤが良いのね」なんてニヤニヤしながら言われちゃったもんだから、誤魔化しようもなくて照れてしまったけど。あれから土方さんと私は毎日、お互いの部屋を交互に行き来するようになった。任務で遅くなると言われた時も、夜中気配に気付いて目を開ければ、すぐ側に寝息を感じるほど近くで眠る彼の寝顔を見て、幸せな気持ちになる。どんなに忙しくてもこうして私の隣に帰って来たいと思ってくれているのかな、なんて想像するだけで心は満たされるの。たまらなくなって、そのほっぺにちゅーしたりなんかして、ぱちりと目を覚ました土方さんにそのまま抱き寄せられて襲われちゃうとかそんな日もあった。きゃあ。
その変化は普段の土方さんにも影響を及ぼしているようで、隊士の皆さんに物凄く感謝されることもしばしば。最近怖い顔すること減ったんだよ、とか、名前ちゃんと話した後はめっちゃ機嫌良くて助かるんだ、とか、鬼の副長として今までどれだけ怖がられて恐れられていたのかが伺える。私は今まで怖いなんて思ったことはないけど、それだけ私の前と仕事とでオンオフがはっきりしていたということだと分かって、やっぱり土方さんのことを尊敬するというか。惚れ直すというか。
今日はなるべく早めに仕事を切り上げてくる、と起き抜けの普段より柔らかい声で告げられて、優しく頬を包み込まれてキスをされて。そのままいつも通り仕事に向かって行った彼の背中を見ながら思わず顔が赤くなった。…本当に変わったなあ、土方さん。総悟と買い出し中に出くわして一緒に帰ってきた時とか、銀ちゃんにメール返してる時とか、明らかにむすーっとして態度に出すし。そんな分かりやすい土方さんの様子を思い出してはひとりニヤニヤしながら脱衣所の掃除機がけをしていた。夜に大好きな恋人とのイチャイチャが待ってるからか、いつもより仕事も捗りますなあ。
「………お前気持ち悪ィな、縮れ毛掃除しながらうへうへしやがって」
「開口一番酷くない?いや別に陰毛綺麗になってく様子が楽しいとかそういうんじゃないから、変な誤解はやめて」
私の浮かれに浮かれまくった掃除の様子を見て、ドン引きしながら扇風機近くの椅子に腰掛けた総悟。また憎まれ口だけ叩かれに来て、邪魔でもする気ですかこのサド王子様は。本当はちょっと誰のか分からない縮れ毛見るの嫌なんだから。本当はお前らでやってくれとか思ってるけど言えないだけなんだから。しかし、まだ何か言いたげに私の掃除の様子を見詰める総悟に、いたたまれなくなり声を掛ける。
「……あの〜総悟さん?私に何か用でもございやしたか」
「飯」
「いや誰がテメーの母ちゃんだ、単語で会話すんな馬鹿息子!」
「パスタ」
「いい加減にし……」
会話する気すら危うい総悟が掲げてきたスマホの画面には、なんとも美しく煌びやかなパスタの画像が。これって店の外観的に、ターミナル付近に新しく出来たイタリアンじゃね、と美味しいもの大好きな私の目が輝く。こんなもの見せてきたからか必然的にぐぅーとお腹がみっともない音を立てて、何とも恥ずかしくなり慌ててその場所を押さえた。総悟はそんな私の様子を見てすっと立ち上がり、私の手にあった掃除機を放り、手を引いて脱衣所を後にする。
「えっ…ちょ、総悟っ、 」
「どーやらかぶき町きっての人気店らしいんでねェ。並ぶの面倒臭ェからさっさと行くぞ」
そういえば。言われてみれば総悟は今日隊服を着てない。非番だから私のことご飯に誘いたかっただけなら、素直にそう言えば良かったのに。総悟の歩くスピードについて行きながら、その背中を見て思わずくすっと笑みが零れた。いつも自信満々で余裕な総悟が稀に見せるこういう一面には、私も随分弱くなったもんです。私も午後休を取っていたので今日は夕方まで付き合わされるんだろうな、と総悟との久々のお出掛けにちょっとだけ期待を膨らませた。
「っうわ〜…美味しそう…!」
「明太クリームは外れねェからな。洒落た店の王道はどんなもんかまずはお手並み拝見でさァ」
「総悟のもいいねっ…私のトマトスープパスタとひとくち交換しよ!」
「仕方ねェな」
「やったあ〜!」
総悟と電車に揺られて到着した目的地のパスタ屋さんはまだ若干お昼前ということもあり、すんなりと席に案内してもらえた。素敵な店員さんの笑顔に誘導されるがまま、ガラス張りの店内から街の様子を眺められる窓際に案内されて心が踊った。用意されたメニューを開くと色とりどりのパスタの写真が私たちを誘惑してきて、どれも美味しそうで目移りしちゃったけど。意外とすぐに食べたいものは決まって、待つこと数十分、出来たての湯気と良い香りが私の鼻を包む。綺麗に盛り付けがされた目の前のパスタを写真におさめ、さっそくフォークに麺を巻き付けて一口にありつけた。
「……っんま〜〜!♡ 総悟っ、やばいよめっちゃ美味しい!」
「おう、こっちも美味ェよ。ほら」
「……え、あ、ありがとう…」
当たり前のように口元に自分のパスタを持ってきた総悟。これはあーんしてくれるのか、と少し照れ臭かったけど素直に口を開けてぱくりと頬張る。…あんまり気にしないのかな、関節キスとか。でもそんな不純な考えはパスタの美味しさで一瞬で掻き消されて、頬が落ちそうな感覚に思わず手のひらで口元を覆う。私の反応に得意気に笑った総悟も「ん」と身を乗り出し、私のを指さしてきたので、お皿ごと総悟の方に寄せたら軽く不機嫌そうに舌打ちをされた。何で。
「食わせろっつってんでィ、察しが悪ィな」
「…っあ、えっと…ちょっと恥ずかしいんだけど」
「自分だけやってもらって俺にはテメーで食えってか、この報復はデカいですぜ後で覚えてろよこの雌豚」
「怖…そんな脅されるほどの事でもないんだけど…!ああもう、わかったから…」
結局押しに負け、くるくると巻いたフォークを総悟の口元まで持っていくと、満足そうに口に含んで咀嚼を始める総悟。もぐもぐと食べている様子を眺めていたら少しだけ頬が綻んだ気がして、「おい俺のと交換しろ、そっちの方が俺の好みでさァ」と最高の我儘を発動してきたので頑なに首を横に振った。
綺麗にスープまで食べ終えてカトラリーを置くと、先程席まで案内してくれた店員さんが「お済みのお皿をお下げいたします、お水のおかわりもお注ぎしますね」とにこやかに対応してくれる。私もその笑顔につられるように会釈をすると、店員さんが表情を変えないままラミネートされたチラシを私たちの目の前に置いて来た。なんだろうこれ、『カップルキャンペーン』…?
「美男美女カップルのおふたりにご案内させていただきます。当店只今、キャンペーンをやっておりまして…30秒以内にお互いの好きなところを5個ずつ言っていただき、成功いたしましたらお会計から10%オフ。加えてラブラブドリンクをサービスさせていただきますが、参加されますでしょうか?」
「……えっ!?いや、私たちカップルじゃな」
「はい。お願いしやす」
「!?!?」
「ありがとうございます。それではタイムを測るストップウォッチをお持ちいたしますので、少々お待ちください」
「ちょ、え、」
私の言葉を遮るようににひとつ返事で了承した総悟の顔を見詰めたまま動けなくなる。な…何でOKしてんの!?てか『カップル』って言われてんだよ、私たち!なんでそこ否定しないの!?表情のひとつも変えないまま、空いた皿を厨房まで運び、ストップウォッチを準備する店員さんの動向を眺める総悟に開いた口が塞がらない。お、おかしい、絶対におかしい。総悟がこんな話に乗るなんて、頭を打ったとしか思えない。
「ちょっと……総悟、どういうこと、なんで」
「歳の近い男女が二人で飯食ってたらカップルに見えるのなんざ当然だろィ。変な勘違いしてんじゃねェや。受けられる施しは受けた方が懸命だと思っただけでさァ」
「まあ確かに……ってそうじゃなくて、お互いの好きなところ5個ずつだよ、言えるの、言えるわけないでしょ!?普段から意地悪しかしないくせにっ」
「そんなの捏造でどうにかなりやすよ。今ようやく捻り出してんだから話しかけんなブス」
「………っこんのクソガキ〜〜〜!あーむっかつく……ほんと、いつか絶対痛い目見せてやるからなァ…」
「へいへい、出来るもんならいつでもどーぞ」
ほんとに良いところあると思っててくれたんだ、とちょっとでも期待した私が馬鹿だった…!相も変わらず人の神経を逆撫でするようなことしか口から出てこないこの男に心底辟易しながら頬をつねってやろうと睨みつけていると、ストップウォッチを握った店員さんが戻ってきたので慌てて作り笑いを浮かべて姿勢を正した。それではルールを説明します、とチラシを裏返して指差された項目には、目を疑うような内容が4つほど書かれていて…
「ルールその1。お互いの手を所謂恋人繋ぎで握りながら、目を合わせた状態で言うこと。一瞬たりとも逸らした場合は失格とさせていただきます。
ルールその2。可愛い、優しい、かっこいい、モテそう…などの単語で褒めるのはNGです。ある程度具体的なことを述べてください。
ルールその3。お互いの持ち時間は単純に15秒ずつで計算させていただきます。ですが早く言い終わった方の残り秒数を相手にプラスすることも可能です。逆に言えば15秒以上時間がかかった場合相手の秒数も減りますので、時間配分を考えてチャレンジしてください。
ルールその4。好きなところを言い終えたら、最後に必ず相手の名前を呼び、『好きだよ』と伝えてください。
以上ですが、準備の程はよろしいでしょうか?
よろしければ、彼氏様からスタートボタンを押させていただきます。」
………よろしいわけねーだろ。よろしくなさすぎます、いやマジで。店員さんの説明を聞いて冷や汗ダラダラでチラリと総悟の顔に目をやると、すました顔で大丈夫でーすと頷いている。大丈夫じゃねーよほんとに、手握り合って目線は逸らすな…?好きって言え…?ちょっと勘弁して!!!そうこう焦っているうちに店員さんが始めます、と呟いたので、もう覚悟を決めるしかない、やるしかないと腹を括った。総悟の指が当たり前のように私の指の間をすり抜けて、ぎゅっと強く握り、いつになく真剣な赤い瞳がこちらを捕らえていた。思わずどきりと心臓が跳ねるのも束の間、店員さんのスタートコールと共に総悟がゆっくりと口を開く。
「俺にだけ従順で聞き分けが良いところ。朝の寝惚け半分のおはようの声。からかったときの怒った真っ赤な顔。見た目の割に抱き心地が良いところ、唇が病みつきになるほど薄くて柔らけェところ。
___好きですぜ、名前」
「っ……!!」
いや、ま、待って…………
これは………
破壊力…やば過ぎやしないか……!?
「はい、ストップです。彼氏様、とても素敵ですね。聞いていたこちらもキュンキュンしてしまいました!
そして彼女様、19秒残っております。チャレンジ成功に向けて頑張ってください。」
一生懸命絞り出した答えがこれなの、と思わず真っ赤な顔を隠すように俯いた。っこんなこと、目を逸らさずに言われたら誰だってこうなる。ていうか後半何…!?いや確かに総悟とはハグもキスも経験してますけど、そんなこと思ってたなんて知らなかった…!他人の前で生々しい事を平然と口走る総悟の肝の座り方。本当は恋人じゃない、のに。どうしてそんなに愛おしそうに見詰めて言うの。そんなことを考える暇もないまま私の番がやってくる。ど、どうしよう、今の衝撃で全部飛んだ気がする……
「私の味方でいてくれるところ…、さり気なく車道側を歩いてくれたりする優しさ、…時々見せる悪戯っ子みたいな笑顔…私と一緒に居る時の、普段とは違ったトーンの上がった声…いつでも素直に、真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれるところ……
っ………好きだよ、総悟」
「………」
終了です!の声とともにストップウォッチのボタンがピッと鳴る。どうやらチャレンジは成功したようで、店内中に響き渡る鈴の音と共に周りのお客さんの感嘆の声も聞こえてくる。でもそんなことは、本当にどうでも良かった。余韻が抜けずに固まったまま、私と総悟はまともに動けずにいた。顔なんて見れるわけない、恥ずかしすぎて。俯いた顔を総悟と目を合わせないように、痺れを切らして握ったままの手を解こうとすると、それを拒否されるかの如くぎゅっと握り直されて、また心臓がうるさく鼓動をはやめた。
「っあの……総悟……」
「……何だよ、そんなにすんなり言えんのかィ」
「…っだって全部ホントのこと言っただけ、」
「タチ悪ィったらありゃしねーや。んな真っ赤な顔されちゃあ、俺に襲われても文句言えやせんぜ」
「な、何言ってんの馬鹿……!」
運ばれてきたラブラブドリンクのレモンソーダはハートのストロー付きで、こんなん人前で飲めるわけあるかー!と心の中でツッコミを入れるけど。いや、人前でこんなずっと手を握られて見つめあっているほうがヤバいか、と冷静に判断を下す。でもレモンソーダを飲んでいる間、どういう訳か総悟から目を離すことは出来なくて、ずっとその瞳の奥に吸い込まれそうに、鎖で繋がれたみたいに動けなかった。
完。
(っていうか…これ恥ずかしすぎるから全部そーごが飲んでいいよっ……!)
((……屯所戻るまでは俺の彼女で居てくれやせんか、なんて口が裂けても言わねーけど))
❀
情熱的な初夜(結構わりと夕方でしたけど)から数週間…土方さんの愛情表現が結構増えてきて、毎日心臓が持ちそうにないです。
次の日なんて先輩に「今日は一段と肌ツヤが良いのね」なんてニヤニヤしながら言われちゃったもんだから、誤魔化しようもなくて照れてしまったけど。あれから土方さんと私は毎日、お互いの部屋を交互に行き来するようになった。任務で遅くなると言われた時も、夜中気配に気付いて目を開ければ、すぐ側に寝息を感じるほど近くで眠る彼の寝顔を見て、幸せな気持ちになる。どんなに忙しくてもこうして私の隣に帰って来たいと思ってくれているのかな、なんて想像するだけで心は満たされるの。たまらなくなって、そのほっぺにちゅーしたりなんかして、ぱちりと目を覚ました土方さんにそのまま抱き寄せられて襲われちゃうとかそんな日もあった。きゃあ。
その変化は普段の土方さんにも影響を及ぼしているようで、隊士の皆さんに物凄く感謝されることもしばしば。最近怖い顔すること減ったんだよ、とか、名前ちゃんと話した後はめっちゃ機嫌良くて助かるんだ、とか、鬼の副長として今までどれだけ怖がられて恐れられていたのかが伺える。私は今まで怖いなんて思ったことはないけど、それだけ私の前と仕事とでオンオフがはっきりしていたということだと分かって、やっぱり土方さんのことを尊敬するというか。惚れ直すというか。
今日はなるべく早めに仕事を切り上げてくる、と起き抜けの普段より柔らかい声で告げられて、優しく頬を包み込まれてキスをされて。そのままいつも通り仕事に向かって行った彼の背中を見ながら思わず顔が赤くなった。…本当に変わったなあ、土方さん。総悟と買い出し中に出くわして一緒に帰ってきた時とか、銀ちゃんにメール返してる時とか、明らかにむすーっとして態度に出すし。そんな分かりやすい土方さんの様子を思い出してはひとりニヤニヤしながら脱衣所の掃除機がけをしていた。夜に大好きな恋人とのイチャイチャが待ってるからか、いつもより仕事も捗りますなあ。
「………お前気持ち悪ィな、縮れ毛掃除しながらうへうへしやがって」
「開口一番酷くない?いや別に陰毛綺麗になってく様子が楽しいとかそういうんじゃないから、変な誤解はやめて」
私の浮かれに浮かれまくった掃除の様子を見て、ドン引きしながら扇風機近くの椅子に腰掛けた総悟。また憎まれ口だけ叩かれに来て、邪魔でもする気ですかこのサド王子様は。本当はちょっと誰のか分からない縮れ毛見るの嫌なんだから。本当はお前らでやってくれとか思ってるけど言えないだけなんだから。しかし、まだ何か言いたげに私の掃除の様子を見詰める総悟に、いたたまれなくなり声を掛ける。
「……あの〜総悟さん?私に何か用でもございやしたか」
「飯」
「いや誰がテメーの母ちゃんだ、単語で会話すんな馬鹿息子!」
「パスタ」
「いい加減にし……」
会話する気すら危うい総悟が掲げてきたスマホの画面には、なんとも美しく煌びやかなパスタの画像が。これって店の外観的に、ターミナル付近に新しく出来たイタリアンじゃね、と美味しいもの大好きな私の目が輝く。こんなもの見せてきたからか必然的にぐぅーとお腹がみっともない音を立てて、何とも恥ずかしくなり慌ててその場所を押さえた。総悟はそんな私の様子を見てすっと立ち上がり、私の手にあった掃除機を放り、手を引いて脱衣所を後にする。
「えっ…ちょ、総悟っ、 」
「どーやらかぶき町きっての人気店らしいんでねェ。並ぶの面倒臭ェからさっさと行くぞ」
そういえば。言われてみれば総悟は今日隊服を着てない。非番だから私のことご飯に誘いたかっただけなら、素直にそう言えば良かったのに。総悟の歩くスピードについて行きながら、その背中を見て思わずくすっと笑みが零れた。いつも自信満々で余裕な総悟が稀に見せるこういう一面には、私も随分弱くなったもんです。私も午後休を取っていたので今日は夕方まで付き合わされるんだろうな、と総悟との久々のお出掛けにちょっとだけ期待を膨らませた。
「っうわ〜…美味しそう…!」
「明太クリームは外れねェからな。洒落た店の王道はどんなもんかまずはお手並み拝見でさァ」
「総悟のもいいねっ…私のトマトスープパスタとひとくち交換しよ!」
「仕方ねェな」
「やったあ〜!」
総悟と電車に揺られて到着した目的地のパスタ屋さんはまだ若干お昼前ということもあり、すんなりと席に案内してもらえた。素敵な店員さんの笑顔に誘導されるがまま、ガラス張りの店内から街の様子を眺められる窓際に案内されて心が踊った。用意されたメニューを開くと色とりどりのパスタの写真が私たちを誘惑してきて、どれも美味しそうで目移りしちゃったけど。意外とすぐに食べたいものは決まって、待つこと数十分、出来たての湯気と良い香りが私の鼻を包む。綺麗に盛り付けがされた目の前のパスタを写真におさめ、さっそくフォークに麺を巻き付けて一口にありつけた。
「……っんま〜〜!♡ 総悟っ、やばいよめっちゃ美味しい!」
「おう、こっちも美味ェよ。ほら」
「……え、あ、ありがとう…」
当たり前のように口元に自分のパスタを持ってきた総悟。これはあーんしてくれるのか、と少し照れ臭かったけど素直に口を開けてぱくりと頬張る。…あんまり気にしないのかな、関節キスとか。でもそんな不純な考えはパスタの美味しさで一瞬で掻き消されて、頬が落ちそうな感覚に思わず手のひらで口元を覆う。私の反応に得意気に笑った総悟も「ん」と身を乗り出し、私のを指さしてきたので、お皿ごと総悟の方に寄せたら軽く不機嫌そうに舌打ちをされた。何で。
「食わせろっつってんでィ、察しが悪ィな」
「…っあ、えっと…ちょっと恥ずかしいんだけど」
「自分だけやってもらって俺にはテメーで食えってか、この報復はデカいですぜ後で覚えてろよこの雌豚」
「怖…そんな脅されるほどの事でもないんだけど…!ああもう、わかったから…」
結局押しに負け、くるくると巻いたフォークを総悟の口元まで持っていくと、満足そうに口に含んで咀嚼を始める総悟。もぐもぐと食べている様子を眺めていたら少しだけ頬が綻んだ気がして、「おい俺のと交換しろ、そっちの方が俺の好みでさァ」と最高の我儘を発動してきたので頑なに首を横に振った。
綺麗にスープまで食べ終えてカトラリーを置くと、先程席まで案内してくれた店員さんが「お済みのお皿をお下げいたします、お水のおかわりもお注ぎしますね」とにこやかに対応してくれる。私もその笑顔につられるように会釈をすると、店員さんが表情を変えないままラミネートされたチラシを私たちの目の前に置いて来た。なんだろうこれ、『カップルキャンペーン』…?
「美男美女カップルのおふたりにご案内させていただきます。当店只今、キャンペーンをやっておりまして…30秒以内にお互いの好きなところを5個ずつ言っていただき、成功いたしましたらお会計から10%オフ。加えてラブラブドリンクをサービスさせていただきますが、参加されますでしょうか?」
「……えっ!?いや、私たちカップルじゃな」
「はい。お願いしやす」
「!?!?」
「ありがとうございます。それではタイムを測るストップウォッチをお持ちいたしますので、少々お待ちください」
「ちょ、え、」
私の言葉を遮るようににひとつ返事で了承した総悟の顔を見詰めたまま動けなくなる。な…何でOKしてんの!?てか『カップル』って言われてんだよ、私たち!なんでそこ否定しないの!?表情のひとつも変えないまま、空いた皿を厨房まで運び、ストップウォッチを準備する店員さんの動向を眺める総悟に開いた口が塞がらない。お、おかしい、絶対におかしい。総悟がこんな話に乗るなんて、頭を打ったとしか思えない。
「ちょっと……総悟、どういうこと、なんで」
「歳の近い男女が二人で飯食ってたらカップルに見えるのなんざ当然だろィ。変な勘違いしてんじゃねェや。受けられる施しは受けた方が懸命だと思っただけでさァ」
「まあ確かに……ってそうじゃなくて、お互いの好きなところ5個ずつだよ、言えるの、言えるわけないでしょ!?普段から意地悪しかしないくせにっ」
「そんなの捏造でどうにかなりやすよ。今ようやく捻り出してんだから話しかけんなブス」
「………っこんのクソガキ〜〜〜!あーむっかつく……ほんと、いつか絶対痛い目見せてやるからなァ…」
「へいへい、出来るもんならいつでもどーぞ」
ほんとに良いところあると思っててくれたんだ、とちょっとでも期待した私が馬鹿だった…!相も変わらず人の神経を逆撫でするようなことしか口から出てこないこの男に心底辟易しながら頬をつねってやろうと睨みつけていると、ストップウォッチを握った店員さんが戻ってきたので慌てて作り笑いを浮かべて姿勢を正した。それではルールを説明します、とチラシを裏返して指差された項目には、目を疑うような内容が4つほど書かれていて…
「ルールその1。お互いの手を所謂恋人繋ぎで握りながら、目を合わせた状態で言うこと。一瞬たりとも逸らした場合は失格とさせていただきます。
ルールその2。可愛い、優しい、かっこいい、モテそう…などの単語で褒めるのはNGです。ある程度具体的なことを述べてください。
ルールその3。お互いの持ち時間は単純に15秒ずつで計算させていただきます。ですが早く言い終わった方の残り秒数を相手にプラスすることも可能です。逆に言えば15秒以上時間がかかった場合相手の秒数も減りますので、時間配分を考えてチャレンジしてください。
ルールその4。好きなところを言い終えたら、最後に必ず相手の名前を呼び、『好きだよ』と伝えてください。
以上ですが、準備の程はよろしいでしょうか?
よろしければ、彼氏様からスタートボタンを押させていただきます。」
………よろしいわけねーだろ。よろしくなさすぎます、いやマジで。店員さんの説明を聞いて冷や汗ダラダラでチラリと総悟の顔に目をやると、すました顔で大丈夫でーすと頷いている。大丈夫じゃねーよほんとに、手握り合って目線は逸らすな…?好きって言え…?ちょっと勘弁して!!!そうこう焦っているうちに店員さんが始めます、と呟いたので、もう覚悟を決めるしかない、やるしかないと腹を括った。総悟の指が当たり前のように私の指の間をすり抜けて、ぎゅっと強く握り、いつになく真剣な赤い瞳がこちらを捕らえていた。思わずどきりと心臓が跳ねるのも束の間、店員さんのスタートコールと共に総悟がゆっくりと口を開く。
「俺にだけ従順で聞き分けが良いところ。朝の寝惚け半分のおはようの声。からかったときの怒った真っ赤な顔。見た目の割に抱き心地が良いところ、唇が病みつきになるほど薄くて柔らけェところ。
___好きですぜ、名前」
「っ……!!」
いや、ま、待って…………
これは………
破壊力…やば過ぎやしないか……!?
「はい、ストップです。彼氏様、とても素敵ですね。聞いていたこちらもキュンキュンしてしまいました!
そして彼女様、19秒残っております。チャレンジ成功に向けて頑張ってください。」
一生懸命絞り出した答えがこれなの、と思わず真っ赤な顔を隠すように俯いた。っこんなこと、目を逸らさずに言われたら誰だってこうなる。ていうか後半何…!?いや確かに総悟とはハグもキスも経験してますけど、そんなこと思ってたなんて知らなかった…!他人の前で生々しい事を平然と口走る総悟の肝の座り方。本当は恋人じゃない、のに。どうしてそんなに愛おしそうに見詰めて言うの。そんなことを考える暇もないまま私の番がやってくる。ど、どうしよう、今の衝撃で全部飛んだ気がする……
「私の味方でいてくれるところ…、さり気なく車道側を歩いてくれたりする優しさ、…時々見せる悪戯っ子みたいな笑顔…私と一緒に居る時の、普段とは違ったトーンの上がった声…いつでも素直に、真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれるところ……
っ………好きだよ、総悟」
「………」
終了です!の声とともにストップウォッチのボタンがピッと鳴る。どうやらチャレンジは成功したようで、店内中に響き渡る鈴の音と共に周りのお客さんの感嘆の声も聞こえてくる。でもそんなことは、本当にどうでも良かった。余韻が抜けずに固まったまま、私と総悟はまともに動けずにいた。顔なんて見れるわけない、恥ずかしすぎて。俯いた顔を総悟と目を合わせないように、痺れを切らして握ったままの手を解こうとすると、それを拒否されるかの如くぎゅっと握り直されて、また心臓がうるさく鼓動をはやめた。
「っあの……総悟……」
「……何だよ、そんなにすんなり言えんのかィ」
「…っだって全部ホントのこと言っただけ、」
「タチ悪ィったらありゃしねーや。んな真っ赤な顔されちゃあ、俺に襲われても文句言えやせんぜ」
「な、何言ってんの馬鹿……!」
運ばれてきたラブラブドリンクのレモンソーダはハートのストロー付きで、こんなん人前で飲めるわけあるかー!と心の中でツッコミを入れるけど。いや、人前でこんなずっと手を握られて見つめあっているほうがヤバいか、と冷静に判断を下す。でもレモンソーダを飲んでいる間、どういう訳か総悟から目を離すことは出来なくて、ずっとその瞳の奥に吸い込まれそうに、鎖で繋がれたみたいに動けなかった。
完。
(っていうか…これ恥ずかしすぎるから全部そーごが飲んでいいよっ……!)
((……屯所戻るまでは俺の彼女で居てくれやせんか、なんて口が裂けても言わねーけど))