Main Story
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《其ノ弐拾肆》カップルなりたてホヤホヤのあの雰囲気が一番見てられない
❀
「…………ん、」
閉じている目の隙間から入り込む劈くような日差しと、一体何匹鳴いてるんだか分かんねェ雀の声に嫌でも朝だということを思い知らされ、俺は布団を捲り上げてむくりと起き上がった。朝イチの長〜い伸びをしようと意気込み組んだ手を天井に向けた瞬間、得体の知れない生暖かい感触が腰周り辺りをすーっと撫でた気がして、まだ開ききっていない目を恐る恐る向ける。
「…ッ!?!?!?」
___そこには薄く口を開けながら軽く寝息を立て、幸せそうにすやすやと眠る名前の姿があった。ぎょっとしながら辺りを何度見回してもそこは間違いなく俺じゃなくそいつの部屋で、とりあえずお互い服を着ていたことに、身に覚えのない出来事は起きていないと安堵しながら早まる心拍を抑えるように胸を撫で下ろした。
…同時に脳裏に鮮明に過るのは昨晩、恋人同士になるに至った経緯。ターニングポイントはあの朝宮という新入りの女中だった気もするが、俺はもうたぶん、ずっと前からコイツのことを。
いつだかの寝付けなかった夜、名前にまつわる正体不明の「ムカつき」の正体を解明すると決めた俺。想いが通じた今となってはそれが「嫉妬」によるものだったことは安易に推測できるのだが、名前に対する揺るぎない気持ちを自覚したのはそこではなく、「誤解されたくない」「守りたい」「泣かせたくない」という確固たる想いに理由があった。
たった一度転けた体を反射的に受け止めただけで「抱き締めてくれた」などとほざく朝宮の支離滅裂な発言に、泣きながら屯所を飛び出しやがった名前。早く追いかけなければという一心で只管に走り続けた。漸く引き留めれば見たこともないような、何かに押し潰されそうな苦痛に歪んだ顔。なんで泣いているのか、どうしてそんなに苦しそうなのか、もう理由なんてとっくに分かっていたから、俺が先に言うつもりだったのに。このバカと来たら。
何はともあれ、互いの考えが一致したことに変わりなく、ずっと胸の奥に引っかかっていたモヤモヤが取れたということは、やはり俺はこの女に心底惚れていた事実を改めて実感する。今まであれだけ散々憎まれ口を叩いていたのに、好きだと零しちまえば人が変わったようにデレデレ甘えてきやがるので、本当に調子の狂う女だ。そんな奴の押しに負けてまんまと同じ布団で寝る羽目になった俺も相当弱ったと思う。
そんな考え事に耽ているとは夢にも思っていないであろう、呑気な寝顔を見ていたら俺も自然と口角が上がっていることに気付いて妙に照れ臭くなる。今までは特に考えたこともなかったが、客観的に見ても可愛らしく整った名前の容姿にハッとさせられ。その後はもう無意識に寝癖が付いたふわふわのロングヘアに手が伸びていた。毛流れに沿って無心で髪を撫で続けていると、突然ぐーっと顔全体に力を入れて目を覚ましたので慌ててその手を引っ込める。
「………んー……土方さ……?」
「………お前、目すげェ事になってんぞ」
「……すごいことってどんな……」
「……パンパン」
「………はれてる……?」
「……腫れてる」
「ええ〜……」
「ったく………冷やすモン持って来る。つうかお前非番だからって寝過ぎじゃねーの」
「……ちがいますよー……きのうの、うれし涙のせい……」
寝ぼけ目でふにゃふにゃ笑う締まりのねェ顔が、…どうも朝から心臓に悪い。これ以上こんな時間を過ごしていたら俺の理性に関わる問題になることは明確だったので、さっさと布団を引き剥がして目を覚まさせることにした。寒いと喚く璃音を横目に部屋を出、洗面所で濡れタオルを用意して戻ると、寒さを凌ぐような縮こまった身体を無理矢理起こして目元に冷たい布を当ててやる。気持ち良さそうに薄い口元が緩むのを見て思わずそこに噛みつきたくなったのは…ウン、調子に乗るから勿論言わねェし一生言わねェでおいたほうが懸命だここは。
「ふぃーーー気持ちいーーー…ありがと、土方さん」
「気持ちいーじゃねーよばァか。…人を扱き使いやがって。落ち着いたらさっさと着替えて準備しろよ」
「んふふ、はぁい。」
「……何だその何か言いたげな返事、ツラは」
「いやあ…?大好きな恋人に世話焼いてもらえるってこんな幸せなんだなあって思って」
「………………もうしねーよ」
「ああっなんで!意地悪言わないでください!」
「るせーな!!いつまでも怠けてねェで早く布団畳めってんだ、俺の目が届く限りで早く支度しろ!」
「………え。だから、私今日非番ですよ?土方さんこそお仕事、」
「………………あ゛ーーーー、だから俺も非番だっつってんだよ分かったか!?!?早くしろモタモタしてたらマジで置いてってやるからな!!」
「………っ〜〜〜〜はいっ!!!名前、マッハでデートの準備します!!!」
成る可く素直になるつもりがまだまだ前途多難。俺はコイツにはどうも感情を表にするのが苦手らしい。…だけどまあ、こんなふうに大袈裟なほど嬉しそうな顔見れたら、ちょっとは努力してみる気にもなるモンだ。さっきまでの自堕落な態度はどこへやら、テキパキと準備を進める様子にふっと自然な笑みが零れて。準備終わったら俺の部屋来いよ、と一言告げて名前の部屋を出る。廊下に出ると気持ちの悪ィ、含みを持ったニヤケ面の近藤さんが腕組みをして立っていたが、俺は存在ごと無視して自室に戻る。………ったく総悟の野郎、広めるにしても気が早過ぎんだよ。まあ、あいつにもたまには団子くらい差し入れしてやるか。
(何着てこ…あーもうっ、こんなことならおにゅーの可愛い着物見繕っておけばよかった…!!)
(ちょっ、トシィ〜!?!?無視って、フル無視ってねェそれだけは辞めてェェ!!俺はさマジで嬉しいんだから、どれくらい嬉しいかっていうとマジで嬉しいワケ!!!名前とトシがいつかこうなるってずっと信じてたんだよォォォォォ!!!)
(あーーーうるせェ誰かこのゴリラ檻に入れてくれ、餌はバナナで)
・ ・ ・
着流し姿の好きな人の隣に並んで歩くのは格別級。
隊服姿も勿論かっこよくて大好きだけど、この完全オフモードのゆるさも堪らない。いつもよりセットされたツーブロックが無造作なのも良い。……改めて見るとやっぱり、ずっと憧れの対象だったこの人が私と同じ気持ちになってくれたなんて信じられない。…そりゃまだぎこちないし、土方さんがこういう恋愛事に疎いのは知っているから、焦る必要は無いのは分かってるけど。気持ちが通じただけで満足せず、その先を求めてしまうのがやっぱり人の性。何度か偶然を装って触れさせてみた指が絡まることはなく、土方さんは着流しの中に腕を入れて組んでしまった。…ちょっと残念。
「…腹減っただろ」
「確かに昨日も何も食べてないですしね…」
「飯、…俺の行きつけの食堂行くか」
「はい!…行きたいです!」
「おう」
土方さんが言ってるのは多分、原作で銀ちゃんとよく鉢合わせしてたご夫婦で営まれてた食堂のことだと思う。
買い出しの時に何度か通ったことはあったけど、実際入ったことはないから気になってたんだよね。黙って土方さんについて行くとものの三分ほどで入口扉に到着した。お食事、の暖簾をくぐるとさすがの常連様、顔を見ただけでにこやかに対応してもらえている。私も軽く会釈をして案内された席に座ると、お冷やを運んできてくれた女将さんとカウンター越しで仕込みをしていた息子さんがじっ…と私を見詰めて何か言いたそうな、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「土方さんがこんな綺麗な女性を連れてくるなんてねぇ…隊服じゃないってことは今日はオフかしら」
「…ああ、まあな」
「ついに土方さんも覚悟決めたのかぁ!こんな別嬪さんどこで捕まえて来たんだよ?」
「………うちの女中だよ。あんまり揶揄うのはよしてくれ」
「は、初めまして!苗字名前です、いつも土方さんがお世話になっております」
私のご挨拶ににこやかに「素敵な子だね〜」と土方さんにちゃちゃ入れていたおふたり。バツが悪そうに頬を染めながらお水を飲むペースが早くなっていたのが可愛かった。土方さんはいつも通りスペシャル、私は看板メニューの生姜焼き定食を注文し、ほかほかツヤツヤのご飯とタレが良く絡んで照り照りのお肉を口いっぱいに頬張った。めっちゃ美味しい。周りを見ても常連さんばかりで、間違いなく繁盛店だということが分かる。親父さんの葬式マジで散々だったけどな。
定食屋を出て、満腹なお腹をさすりながら土方さんの後を追いかける。…相変わらず先にスタスタ歩いて行っちゃうけど、たまにちらっと振り返って待っててくれるところが愛おしい。ていうか…ノープランで来ちゃったけど、ご飯食べた後って何するんだろう。無難に買い物とか…?土方さんってマヨと煙草以外興味あるフシないし、物欲とかあるのも見た事ないし…これって私から行く場所提案した方がいいのかな。付き合っていない時はグイグイ言いたいこと言えていたのに、関係が変わった途端にどうしていいか分からなくなる乙女心。そりゃ土方さんとこうして並んでるだけでも幸せだけど。 ……するとピタッと突然立ち止まる土方さん。対応し切れずに背中に軽くぶつかってよろけてしまう。
「わぷっ………ちょっと、土方さん急に立ち止まらないでくださいよ〜」
「………いや…悪ィ、道間違えた」
「え?どこに行こうとしてたんですか?」
「…いいから引き返しだ、そっちじゃねェ」
「何でですか!?そういえば私ここの道通ったことないから、どんなお店あるか見たいんですよね!折角だから行きましょうよ!」
「バッ……お前ちょっと待て!!!」
訳も分からず土方さんが私の腕を掴んで引き止めようとするも、それを無視してずんずん歩き出す。もしかして会いたくない人でも見掛けたのかとも思ったけど、当たりを見渡しても腕を組んだりベタベタとくっついたカップルばかり、もしかして恋人同士ご用達の通りなのかな?丁度いいじゃん!土方さんってば初だなぁ、この雰囲気に耐えられないから戻ろうとしたんだろうけど、私からすればどさくさに紛れて土方さんも素直になってくれたらいいのに………って。
休憩2H ¥4000 …
宿泊 ¥15000 …
露天風呂付き…岩盤浴付き…
HOTEL ひみつクラブ…
HOTEL ラブメイド…
そう、上を見上げれば。
アハァン♡とHなお姉さんの声みたいな効果音が付きそうな、ピンクピンクしいお店の数々。
……どうりで距離のバグったカップルが多い筈。
恐る恐る私を追いかけてきた土方さんを振り返って、その表情を伺う。……少し怒りを含んだ、呆れたような耳まで真っ赤っ赤になりながら額を抑えている。
「………ひ、土方さんのバカ、エッチ、スケベ!!!!」
「だっ誰がスケベだお前が人の忠告も聞かずに突っ込んでったんだろが!!!」
「そんな露骨に童貞みたいな誘い方しなくても、…別に素直に言ってくれれば私だって、!」
「っもういいお前は喋るな、いいからそれ以上喋んなよ!?!?ったく碌な事にならねェから引き返すつったんだ、……クソ、ッふざけやがって」
焦りまくってキレる土方さんが面白くて揶揄うのを辞められない。…そんな高度なコト、いつ出来るかなんて分からないけど。恋人同士なら必ず起こりうる触れ合い。いつか土方さんと身体までひとつになっちゃったら……想像しただけでこっちまで照れが伝染る。ラブホ街に来ちゃっただけでこんなに動揺するなんて前途多難だけど、いつか私のことをもらってくれる日が来るまで、ちゃんと女を磨いておこうと決意した初デートの日でした。
完。
なんとかラブホ街を抜け出して、散策を続けるふたり。
(でも嫌そうではなかったよなあ、なんか…ただ照れてるだけというか…これはそう遠くない未来の話かも…!?)
(……ったく、人の気も知らねーでよ……)
❀
「…………ん、」
閉じている目の隙間から入り込む劈くような日差しと、一体何匹鳴いてるんだか分かんねェ雀の声に嫌でも朝だということを思い知らされ、俺は布団を捲り上げてむくりと起き上がった。朝イチの長〜い伸びをしようと意気込み組んだ手を天井に向けた瞬間、得体の知れない生暖かい感触が腰周り辺りをすーっと撫でた気がして、まだ開ききっていない目を恐る恐る向ける。
「…ッ!?!?!?」
___そこには薄く口を開けながら軽く寝息を立て、幸せそうにすやすやと眠る名前の姿があった。ぎょっとしながら辺りを何度見回してもそこは間違いなく俺じゃなくそいつの部屋で、とりあえずお互い服を着ていたことに、身に覚えのない出来事は起きていないと安堵しながら早まる心拍を抑えるように胸を撫で下ろした。
…同時に脳裏に鮮明に過るのは昨晩、恋人同士になるに至った経緯。ターニングポイントはあの朝宮という新入りの女中だった気もするが、俺はもうたぶん、ずっと前からコイツのことを。
いつだかの寝付けなかった夜、名前にまつわる正体不明の「ムカつき」の正体を解明すると決めた俺。想いが通じた今となってはそれが「嫉妬」によるものだったことは安易に推測できるのだが、名前に対する揺るぎない気持ちを自覚したのはそこではなく、「誤解されたくない」「守りたい」「泣かせたくない」という確固たる想いに理由があった。
たった一度転けた体を反射的に受け止めただけで「抱き締めてくれた」などとほざく朝宮の支離滅裂な発言に、泣きながら屯所を飛び出しやがった名前。早く追いかけなければという一心で只管に走り続けた。漸く引き留めれば見たこともないような、何かに押し潰されそうな苦痛に歪んだ顔。なんで泣いているのか、どうしてそんなに苦しそうなのか、もう理由なんてとっくに分かっていたから、俺が先に言うつもりだったのに。このバカと来たら。
何はともあれ、互いの考えが一致したことに変わりなく、ずっと胸の奥に引っかかっていたモヤモヤが取れたということは、やはり俺はこの女に心底惚れていた事実を改めて実感する。今まであれだけ散々憎まれ口を叩いていたのに、好きだと零しちまえば人が変わったようにデレデレ甘えてきやがるので、本当に調子の狂う女だ。そんな奴の押しに負けてまんまと同じ布団で寝る羽目になった俺も相当弱ったと思う。
そんな考え事に耽ているとは夢にも思っていないであろう、呑気な寝顔を見ていたら俺も自然と口角が上がっていることに気付いて妙に照れ臭くなる。今までは特に考えたこともなかったが、客観的に見ても可愛らしく整った名前の容姿にハッとさせられ。その後はもう無意識に寝癖が付いたふわふわのロングヘアに手が伸びていた。毛流れに沿って無心で髪を撫で続けていると、突然ぐーっと顔全体に力を入れて目を覚ましたので慌ててその手を引っ込める。
「………んー……土方さ……?」
「………お前、目すげェ事になってんぞ」
「……すごいことってどんな……」
「……パンパン」
「………はれてる……?」
「……腫れてる」
「ええ〜……」
「ったく………冷やすモン持って来る。つうかお前非番だからって寝過ぎじゃねーの」
「……ちがいますよー……きのうの、うれし涙のせい……」
寝ぼけ目でふにゃふにゃ笑う締まりのねェ顔が、…どうも朝から心臓に悪い。これ以上こんな時間を過ごしていたら俺の理性に関わる問題になることは明確だったので、さっさと布団を引き剥がして目を覚まさせることにした。寒いと喚く璃音を横目に部屋を出、洗面所で濡れタオルを用意して戻ると、寒さを凌ぐような縮こまった身体を無理矢理起こして目元に冷たい布を当ててやる。気持ち良さそうに薄い口元が緩むのを見て思わずそこに噛みつきたくなったのは…ウン、調子に乗るから勿論言わねェし一生言わねェでおいたほうが懸命だここは。
「ふぃーーー気持ちいーーー…ありがと、土方さん」
「気持ちいーじゃねーよばァか。…人を扱き使いやがって。落ち着いたらさっさと着替えて準備しろよ」
「んふふ、はぁい。」
「……何だその何か言いたげな返事、ツラは」
「いやあ…?大好きな恋人に世話焼いてもらえるってこんな幸せなんだなあって思って」
「………………もうしねーよ」
「ああっなんで!意地悪言わないでください!」
「るせーな!!いつまでも怠けてねェで早く布団畳めってんだ、俺の目が届く限りで早く支度しろ!」
「………え。だから、私今日非番ですよ?土方さんこそお仕事、」
「………………あ゛ーーーー、だから俺も非番だっつってんだよ分かったか!?!?早くしろモタモタしてたらマジで置いてってやるからな!!」
「………っ〜〜〜〜はいっ!!!名前、マッハでデートの準備します!!!」
成る可く素直になるつもりがまだまだ前途多難。俺はコイツにはどうも感情を表にするのが苦手らしい。…だけどまあ、こんなふうに大袈裟なほど嬉しそうな顔見れたら、ちょっとは努力してみる気にもなるモンだ。さっきまでの自堕落な態度はどこへやら、テキパキと準備を進める様子にふっと自然な笑みが零れて。準備終わったら俺の部屋来いよ、と一言告げて名前の部屋を出る。廊下に出ると気持ちの悪ィ、含みを持ったニヤケ面の近藤さんが腕組みをして立っていたが、俺は存在ごと無視して自室に戻る。………ったく総悟の野郎、広めるにしても気が早過ぎんだよ。まあ、あいつにもたまには団子くらい差し入れしてやるか。
(何着てこ…あーもうっ、こんなことならおにゅーの可愛い着物見繕っておけばよかった…!!)
(ちょっ、トシィ〜!?!?無視って、フル無視ってねェそれだけは辞めてェェ!!俺はさマジで嬉しいんだから、どれくらい嬉しいかっていうとマジで嬉しいワケ!!!名前とトシがいつかこうなるってずっと信じてたんだよォォォォォ!!!)
(あーーーうるせェ誰かこのゴリラ檻に入れてくれ、餌はバナナで)
・ ・ ・
着流し姿の好きな人の隣に並んで歩くのは格別級。
隊服姿も勿論かっこよくて大好きだけど、この完全オフモードのゆるさも堪らない。いつもよりセットされたツーブロックが無造作なのも良い。……改めて見るとやっぱり、ずっと憧れの対象だったこの人が私と同じ気持ちになってくれたなんて信じられない。…そりゃまだぎこちないし、土方さんがこういう恋愛事に疎いのは知っているから、焦る必要は無いのは分かってるけど。気持ちが通じただけで満足せず、その先を求めてしまうのがやっぱり人の性。何度か偶然を装って触れさせてみた指が絡まることはなく、土方さんは着流しの中に腕を入れて組んでしまった。…ちょっと残念。
「…腹減っただろ」
「確かに昨日も何も食べてないですしね…」
「飯、…俺の行きつけの食堂行くか」
「はい!…行きたいです!」
「おう」
土方さんが言ってるのは多分、原作で銀ちゃんとよく鉢合わせしてたご夫婦で営まれてた食堂のことだと思う。
買い出しの時に何度か通ったことはあったけど、実際入ったことはないから気になってたんだよね。黙って土方さんについて行くとものの三分ほどで入口扉に到着した。お食事、の暖簾をくぐるとさすがの常連様、顔を見ただけでにこやかに対応してもらえている。私も軽く会釈をして案内された席に座ると、お冷やを運んできてくれた女将さんとカウンター越しで仕込みをしていた息子さんがじっ…と私を見詰めて何か言いたそうな、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「土方さんがこんな綺麗な女性を連れてくるなんてねぇ…隊服じゃないってことは今日はオフかしら」
「…ああ、まあな」
「ついに土方さんも覚悟決めたのかぁ!こんな別嬪さんどこで捕まえて来たんだよ?」
「………うちの女中だよ。あんまり揶揄うのはよしてくれ」
「は、初めまして!苗字名前です、いつも土方さんがお世話になっております」
私のご挨拶ににこやかに「素敵な子だね〜」と土方さんにちゃちゃ入れていたおふたり。バツが悪そうに頬を染めながらお水を飲むペースが早くなっていたのが可愛かった。土方さんはいつも通りスペシャル、私は看板メニューの生姜焼き定食を注文し、ほかほかツヤツヤのご飯とタレが良く絡んで照り照りのお肉を口いっぱいに頬張った。めっちゃ美味しい。周りを見ても常連さんばかりで、間違いなく繁盛店だということが分かる。親父さんの葬式マジで散々だったけどな。
定食屋を出て、満腹なお腹をさすりながら土方さんの後を追いかける。…相変わらず先にスタスタ歩いて行っちゃうけど、たまにちらっと振り返って待っててくれるところが愛おしい。ていうか…ノープランで来ちゃったけど、ご飯食べた後って何するんだろう。無難に買い物とか…?土方さんってマヨと煙草以外興味あるフシないし、物欲とかあるのも見た事ないし…これって私から行く場所提案した方がいいのかな。付き合っていない時はグイグイ言いたいこと言えていたのに、関係が変わった途端にどうしていいか分からなくなる乙女心。そりゃ土方さんとこうして並んでるだけでも幸せだけど。 ……するとピタッと突然立ち止まる土方さん。対応し切れずに背中に軽くぶつかってよろけてしまう。
「わぷっ………ちょっと、土方さん急に立ち止まらないでくださいよ〜」
「………いや…悪ィ、道間違えた」
「え?どこに行こうとしてたんですか?」
「…いいから引き返しだ、そっちじゃねェ」
「何でですか!?そういえば私ここの道通ったことないから、どんなお店あるか見たいんですよね!折角だから行きましょうよ!」
「バッ……お前ちょっと待て!!!」
訳も分からず土方さんが私の腕を掴んで引き止めようとするも、それを無視してずんずん歩き出す。もしかして会いたくない人でも見掛けたのかとも思ったけど、当たりを見渡しても腕を組んだりベタベタとくっついたカップルばかり、もしかして恋人同士ご用達の通りなのかな?丁度いいじゃん!土方さんってば初だなぁ、この雰囲気に耐えられないから戻ろうとしたんだろうけど、私からすればどさくさに紛れて土方さんも素直になってくれたらいいのに………って。
休憩2H ¥4000 …
宿泊 ¥15000 …
露天風呂付き…岩盤浴付き…
HOTEL ひみつクラブ…
HOTEL ラブメイド…
そう、上を見上げれば。
アハァン♡とHなお姉さんの声みたいな効果音が付きそうな、ピンクピンクしいお店の数々。
……どうりで距離のバグったカップルが多い筈。
恐る恐る私を追いかけてきた土方さんを振り返って、その表情を伺う。……少し怒りを含んだ、呆れたような耳まで真っ赤っ赤になりながら額を抑えている。
「………ひ、土方さんのバカ、エッチ、スケベ!!!!」
「だっ誰がスケベだお前が人の忠告も聞かずに突っ込んでったんだろが!!!」
「そんな露骨に童貞みたいな誘い方しなくても、…別に素直に言ってくれれば私だって、!」
「っもういいお前は喋るな、いいからそれ以上喋んなよ!?!?ったく碌な事にならねェから引き返すつったんだ、……クソ、ッふざけやがって」
焦りまくってキレる土方さんが面白くて揶揄うのを辞められない。…そんな高度なコト、いつ出来るかなんて分からないけど。恋人同士なら必ず起こりうる触れ合い。いつか土方さんと身体までひとつになっちゃったら……想像しただけでこっちまで照れが伝染る。ラブホ街に来ちゃっただけでこんなに動揺するなんて前途多難だけど、いつか私のことをもらってくれる日が来るまで、ちゃんと女を磨いておこうと決意した初デートの日でした。
完。
なんとかラブホ街を抜け出して、散策を続けるふたり。
(でも嫌そうではなかったよなあ、なんか…ただ照れてるだけというか…これはそう遠くない未来の話かも…!?)
(……ったく、人の気も知らねーでよ……)