Main Story
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《其ノ弐拾壱》綺麗な顔には毒がある
❀
「…………はあ、また」
もうこれで何度目。
メイクボックスにも鍵を付けなきゃいけねーほど治安悪いんですかここは。ここはっていうか、朝宮ねねに限りますけど。
彼女の本性を知った衝撃の出会いの日から丁度一週間、私は毎日身の回りの私物が失くなることに酷く悩まされていた。化粧品、ヘアアクセサリー、ハンドクリームやスキンケア用品などの日用品。
一升瓶を丸ごとぶっかけられたあの日から毎日続く嫌がらせの犯人はあいつしか居ないと確信している。あの日、スーパーの帰りも物凄く大変だった。
そりゃあずぶ濡れの状態で帰って来たらどいつもこいつも驚くよなあ。酒の匂いをぷんぷんさせながら異様な空気を放つ私に、隊士さん達が寄って集って事情を質問攻めしてくる。どーせ言っても信じてもらえないことは分かっていたので、適当な嘘で切り抜けた。
『名前ちゃん、なんでそんなびしょ濡れ!?』
『どうした!?なんか酒クサッ!』
『やー…なんか、昼間から一升瓶抱えたナンパ野郎に絡まれて…断ったらこうなっちゃいました』
立派な犯罪行為だから捕まえるよ!と言ってくれたけど、その犯人が朝宮ねねだっつったら捕まえねぇだろ。と心の中で呟きながら、大丈夫ですと丁重にお断りを入れておいた。その後の飲み会でも大変。私は土方さんと目も合わせちゃいけないんですか、というほど朝宮ねねは彼にべったり。お酌も、お料理運びも、会話も何もかも全てにおいて距離が近くて。…土方さんも満更でもなさそうに受け応えをしていて、本格的に私の居場所がなくなった気がして心が痛んだ。あれだけボロクソに貶していた総悟にもやっぱりあの子黒だったよ、なんて言う気が起きず、特に誰にも何も報告はしていない。
今日はお気に入りのアイシャドウパレットを取られたことで心も荒んでしまった。…夜仕事終わり新しいもの買いに行って、いい加減南京錠もかけよう。あの日からまともに眠れていないし食事も取れない。これ、私がココやめたほうがいいやつですよね…はい、そうですね。そんな自問自答を繰り返している一週間です。
「ちょっと……あたしはびっくりなんだけど、名前ちゃん本当なの?」
「…………」
「最近疲れてるみたいだけど……自分より下の子に当たるのは良くないと思うよ。しっかり休息を取って、メンタルを落ち着けるのも仕事のうち。」
「……はい、すみませんでした……」
「二人とも仲良くね。それじゃ、仕事に戻って」
もう、何に何だといろいろ反論する気も起きない程に疲れている。今度は女中の先輩に「名前さんに無理難題な仕事量を押し付けられた」と嘘言って泣きついたらしく。先輩の後ろに隠れて白々しく涙を流す彼女に一瞬だけ目配せをする。…そうか、ここまでするのか。疲れてる理由はこの子のせい、メンタルが落ちてるのもこの子のせい、全ての原因はこの子です、そう叫んでしまえたら楽なのに。あまりにも外面が良くそんなイメージが沸くとは思えないほどの人あたりの良さ。信じてもらえるわけない。…だってこの子より長いこといる私ですら、「そんなことする子じゃない」ってはっきり言ってもらえないんだもん。
ぼーーっとした頭で窓の拭き掃除を黙々と進めていく。なるほどね、最近隊士さんの態度がよそよそしいのも、きっと変な噂を流されてるんだ。「名前さんにいびられてるんです…私のこと邪魔なんでしょうか…」ってか。笑わせてくれるホントに。たかが恋敵だけどされど恋敵、徹底的に私を貶めて土方さんを自分のものにする気なんだろうな。…せめて私の味方が誰かひとりでも、私の気持ちに寄り添ってくれる人が居てくれたら。…こんな惨めな想いするなんて思ってなかったよ。寧ろすんなり受け入れられてた今までが幸せ過ぎただけなのかも___
「おい、名前!何やっ…………」
「………あ。やば……」
偶然通り掛かった土方さんに呼び止められたけど、時すでに遅し。気付けば私のおでこは血塗れ。無意識に柱に頭突きをしてしまうほど、脳に栄養が行ってなかったらしい。くらっ……と目眩がしてその後の記憶は見事にすっぱ抜けた。ただ…倒れた私の腕を掴んで私を抱きかかえる温もりが、土方さんのものだったらいいのに…そんな想像をして涙を流していた、そこだけは見事に鮮明に。
・ ・ ・
目が覚めると、そこには見慣れた自室の景色が広がっていた。起き上がろうとして、ずきりと痛んだ額に触れるとひんやりとした冷たいタオルが乗っかっていて、さっきの自分の行動を思い返して深く溜め息を吐いた。…ふと煙草の香りを感じた窓際に目線を配ると、そこには相変わらず無表情の土方さんが片足を上げて座っていた。
「……目覚めたか。悪いが勝手に入らせてもらった」
「………あ、土方さん……
すみません、ちょっと疲れてたみたいで」
「……お前ここ最近、仕事に身が入ってねェ様子だが。今まで聞いたこともねーような悪い噂も耳にする。一体何がどうなってやがんだ」
眉間に皺を寄せて、私を軽く睨みつけるような視線を浴びせる土方さん。まさかあなたの耳にまで、彼女が流したであろう噂が入っているなんて思わなくて、目の奥がぐぅっ…と熱く視界がぼやけてくるのが分かる。何も言えない私に頭を抱えて立ち上がった彼は、私が座る布団の横に胡座をかいて、顔を覗き込むように近付いてくる。
「……理由があんだろ?何のわけもなくお前の勤務態度が悪化するなんざ到底思えねェ。何があったのか話せ」
「………っ、ごめん、なさい……」
「……ただ謝られても分かんねーだろうが。それとも何か、話したくない理由があるのか」
「……………」
こく、と静かにひとつ頷く。今の私にはこれが限界だ。土方さんに正直に話したところで信じてもらえる保証もない。そして話したことがバレたことで、私はもっと酷い嫌がらせを受けることになる。…そんなの、これ以上耐えられる自信はとてもない。ぼろぼろと溢れ落ちる涙を手のひらで拭いながら私は彼の次の返事を待っていた。…暫くの沈黙が明け、すっと土方さんの手が私のおでこの傷を気にするように抑えていたタオルを避ける。…その場所を優しく、労わるように撫でた土方さんの横顔に、痛いほど胸が締め付けられた。
「……土方さ、」
「…ったくお前はな、力加減ってのを考えろ。擦り傷で済んだから良かったが。一歩間違えたら痕残っちまうとこだった」
「……すみませ……ご迷惑、かけて、……っ」
「…………お前が言いたくねーっつうならもう聞かねェよ。
だが…俺にだけは正直に話してくれるモンだと、勝手に思ってただけだ」
寂しそうな声で呟く土方さんの温もりが、おでこからそっと離れていくのを感じる。顔を上げた先にはもうその広い背中しか見えなくて。あなたの名前を呼ぼうとしても、どこかあなたを信じられないでいる自分に嫌気がさす。………私だって、出来ることならあなたに全て打ち明けたかったのに。襖のしまる音と同時に襲って来たのは、言葉では言い表しようのない空虚。私は身体を震わせながら枕に顔を埋めて、声を押し殺して泣き腫らした。
続。
(土方さんお疲れ様ですっ♡そこ、名前さんの部屋…ですよね?)
(ああ…朝宮か。たまたま怪我するとこに出くわしちまってな。)
(ふーーーん……わざわざお部屋まで行って……)
(あ?なんか言ったか?)
(いえっ……なーんにも♡)
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「…………はあ、また」
もうこれで何度目。
メイクボックスにも鍵を付けなきゃいけねーほど治安悪いんですかここは。ここはっていうか、朝宮ねねに限りますけど。
彼女の本性を知った衝撃の出会いの日から丁度一週間、私は毎日身の回りの私物が失くなることに酷く悩まされていた。化粧品、ヘアアクセサリー、ハンドクリームやスキンケア用品などの日用品。
一升瓶を丸ごとぶっかけられたあの日から毎日続く嫌がらせの犯人はあいつしか居ないと確信している。あの日、スーパーの帰りも物凄く大変だった。
そりゃあずぶ濡れの状態で帰って来たらどいつもこいつも驚くよなあ。酒の匂いをぷんぷんさせながら異様な空気を放つ私に、隊士さん達が寄って集って事情を質問攻めしてくる。どーせ言っても信じてもらえないことは分かっていたので、適当な嘘で切り抜けた。
『名前ちゃん、なんでそんなびしょ濡れ!?』
『どうした!?なんか酒クサッ!』
『やー…なんか、昼間から一升瓶抱えたナンパ野郎に絡まれて…断ったらこうなっちゃいました』
立派な犯罪行為だから捕まえるよ!と言ってくれたけど、その犯人が朝宮ねねだっつったら捕まえねぇだろ。と心の中で呟きながら、大丈夫ですと丁重にお断りを入れておいた。その後の飲み会でも大変。私は土方さんと目も合わせちゃいけないんですか、というほど朝宮ねねは彼にべったり。お酌も、お料理運びも、会話も何もかも全てにおいて距離が近くて。…土方さんも満更でもなさそうに受け応えをしていて、本格的に私の居場所がなくなった気がして心が痛んだ。あれだけボロクソに貶していた総悟にもやっぱりあの子黒だったよ、なんて言う気が起きず、特に誰にも何も報告はしていない。
今日はお気に入りのアイシャドウパレットを取られたことで心も荒んでしまった。…夜仕事終わり新しいもの買いに行って、いい加減南京錠もかけよう。あの日からまともに眠れていないし食事も取れない。これ、私がココやめたほうがいいやつですよね…はい、そうですね。そんな自問自答を繰り返している一週間です。
「ちょっと……あたしはびっくりなんだけど、名前ちゃん本当なの?」
「…………」
「最近疲れてるみたいだけど……自分より下の子に当たるのは良くないと思うよ。しっかり休息を取って、メンタルを落ち着けるのも仕事のうち。」
「……はい、すみませんでした……」
「二人とも仲良くね。それじゃ、仕事に戻って」
もう、何に何だといろいろ反論する気も起きない程に疲れている。今度は女中の先輩に「名前さんに無理難題な仕事量を押し付けられた」と嘘言って泣きついたらしく。先輩の後ろに隠れて白々しく涙を流す彼女に一瞬だけ目配せをする。…そうか、ここまでするのか。疲れてる理由はこの子のせい、メンタルが落ちてるのもこの子のせい、全ての原因はこの子です、そう叫んでしまえたら楽なのに。あまりにも外面が良くそんなイメージが沸くとは思えないほどの人あたりの良さ。信じてもらえるわけない。…だってこの子より長いこといる私ですら、「そんなことする子じゃない」ってはっきり言ってもらえないんだもん。
ぼーーっとした頭で窓の拭き掃除を黙々と進めていく。なるほどね、最近隊士さんの態度がよそよそしいのも、きっと変な噂を流されてるんだ。「名前さんにいびられてるんです…私のこと邪魔なんでしょうか…」ってか。笑わせてくれるホントに。たかが恋敵だけどされど恋敵、徹底的に私を貶めて土方さんを自分のものにする気なんだろうな。…せめて私の味方が誰かひとりでも、私の気持ちに寄り添ってくれる人が居てくれたら。…こんな惨めな想いするなんて思ってなかったよ。寧ろすんなり受け入れられてた今までが幸せ過ぎただけなのかも___
「おい、名前!何やっ…………」
「………あ。やば……」
偶然通り掛かった土方さんに呼び止められたけど、時すでに遅し。気付けば私のおでこは血塗れ。無意識に柱に頭突きをしてしまうほど、脳に栄養が行ってなかったらしい。くらっ……と目眩がしてその後の記憶は見事にすっぱ抜けた。ただ…倒れた私の腕を掴んで私を抱きかかえる温もりが、土方さんのものだったらいいのに…そんな想像をして涙を流していた、そこだけは見事に鮮明に。
・ ・ ・
目が覚めると、そこには見慣れた自室の景色が広がっていた。起き上がろうとして、ずきりと痛んだ額に触れるとひんやりとした冷たいタオルが乗っかっていて、さっきの自分の行動を思い返して深く溜め息を吐いた。…ふと煙草の香りを感じた窓際に目線を配ると、そこには相変わらず無表情の土方さんが片足を上げて座っていた。
「……目覚めたか。悪いが勝手に入らせてもらった」
「………あ、土方さん……
すみません、ちょっと疲れてたみたいで」
「……お前ここ最近、仕事に身が入ってねェ様子だが。今まで聞いたこともねーような悪い噂も耳にする。一体何がどうなってやがんだ」
眉間に皺を寄せて、私を軽く睨みつけるような視線を浴びせる土方さん。まさかあなたの耳にまで、彼女が流したであろう噂が入っているなんて思わなくて、目の奥がぐぅっ…と熱く視界がぼやけてくるのが分かる。何も言えない私に頭を抱えて立ち上がった彼は、私が座る布団の横に胡座をかいて、顔を覗き込むように近付いてくる。
「……理由があんだろ?何のわけもなくお前の勤務態度が悪化するなんざ到底思えねェ。何があったのか話せ」
「………っ、ごめん、なさい……」
「……ただ謝られても分かんねーだろうが。それとも何か、話したくない理由があるのか」
「……………」
こく、と静かにひとつ頷く。今の私にはこれが限界だ。土方さんに正直に話したところで信じてもらえる保証もない。そして話したことがバレたことで、私はもっと酷い嫌がらせを受けることになる。…そんなの、これ以上耐えられる自信はとてもない。ぼろぼろと溢れ落ちる涙を手のひらで拭いながら私は彼の次の返事を待っていた。…暫くの沈黙が明け、すっと土方さんの手が私のおでこの傷を気にするように抑えていたタオルを避ける。…その場所を優しく、労わるように撫でた土方さんの横顔に、痛いほど胸が締め付けられた。
「……土方さ、」
「…ったくお前はな、力加減ってのを考えろ。擦り傷で済んだから良かったが。一歩間違えたら痕残っちまうとこだった」
「……すみませ……ご迷惑、かけて、……っ」
「…………お前が言いたくねーっつうならもう聞かねェよ。
だが…俺にだけは正直に話してくれるモンだと、勝手に思ってただけだ」
寂しそうな声で呟く土方さんの温もりが、おでこからそっと離れていくのを感じる。顔を上げた先にはもうその広い背中しか見えなくて。あなたの名前を呼ぼうとしても、どこかあなたを信じられないでいる自分に嫌気がさす。………私だって、出来ることならあなたに全て打ち明けたかったのに。襖のしまる音と同時に襲って来たのは、言葉では言い表しようのない空虚。私は身体を震わせながら枕に顔を埋めて、声を押し殺して泣き腫らした。
続。
(土方さんお疲れ様ですっ♡そこ、名前さんの部屋…ですよね?)
(ああ…朝宮か。たまたま怪我するとこに出くわしちまってな。)
(ふーーーん……わざわざお部屋まで行って……)
(あ?なんか言ったか?)
(いえっ……なーんにも♡)