優しさの味……甘くて、ほろ苦い

 時刻は十七時を過ぎた頃。窓から差し込む夕日の眩しさに、ネロとキリエはゆっくりとまぶたを開けた。
「……もうこんな時間か」
 部屋の時計に目を向けたあと、ネロは体をゆっくりと起こした。それに続くように、キリエも身を起こす。
「……そろそろ、夕食作らないとね」
「そうだな」
 まだどこか眠たげな顔を浮かべながら、二人はそっと体を寄せ合った。
「ねぇ、ネロ……」
「ん?」
「……寄りかかっていい?」
「ああ、いいぜ」
 キリエは小さくあくびをしたあと、ネロの肩に頭をそっと預けた。
「キリエ、まだ眠い?」
「眠いというより、疲れが抜けきらない感じかなぁ……」
「そっか。頑張り過ぎたんだよ、キリエ。本当にしばらくの間は、ゆっくり休まないと……」
「うん、わかってるわ。わかってるけど……」
 キリエは顔を俯かせると、そっとまぶたを閉じる。
「……やっぱり、子どもたちのことが気になって、仕方ないの」
 まぶたの裏に、孤児院の子どもたちの姿を思い浮かべるキリエ。親を亡くして泣き叫んでいる光景がよみがえり、彼女の目の奥はじんと熱くなった。
 ネロは、今にも涙を流しそうなキリエの様子を察し、体の向きを変えると彼女の体を包み込むように抱きしめた。
「キリエ、大丈夫だよ。さっきも言ったけど、子どもたちは必ず、笑顔を取り戻せるようになるから」
「っ……」
「そのためには、まずはキリエが元気にならないと。今までつらくて大変な思いをした分、俺に吐き出していいから……な?」
「ネロ……ありがとう」
 キリエはネロの肩に顔を埋め、堪えていた涙を静かにこぼした。彼の温もりを感じるように、広い背中に両腕をまわして、ぎゅっと抱きつく。
 キリエのすすり泣く声が、ネロの耳に届く。彼女を慰めるように、ネロは柔らかな髪をそっと撫でた。
「今日は久しぶりに、二人で一緒に夕食作ろうか。……たくさん食べて、少しずつ元気になろうな、キリエ」
 ネロは少し痩せてしまったキリエの体を肌で感じながら、彼女の耳元でそう囁いた。
 キリエはそっと頷き、顔を上げる。
「ねぇ、ネロ……」
「ん?」
「……プリン、まだ残ってる?」
 上目遣いでネロに尋ねるキリエ。その表情はどこか甘えているようで、ネロの心はじんわりと温かくなった。
「ああ。冷蔵庫に、たくさんあるぜ」
「……また、食べたいな。ネロのプリン、大好き」
 頬を染めながらそう呟くキリエに、ネロは笑みをこぼした。
「ははっ。そう言ってもらえて、作った甲斐があったよ。夕食のデザートに、二人で食べよう?」
「うん……楽しみ」
 見つめ合う二人は、そっと口付けを交わす。
 唇にかすかに残る甘さとほろ苦さを感じ、互いに微笑んだあと、二人はベッドから抜け出して台所へと向かった。

***

 冷蔵庫の扉を開けたキリエは、目を丸くした。
「ネロ、これ……卵、何個使ったの?」
「ごめん……夢中になって作っていたら、いつのまにか一パック……いや、二パック分まるまると……」
 冷蔵庫の中は、二十個以上のプリンがずらりと並んでいた。それを見つめながら、ネロとキリエは苦笑いする。
「明日、二人で孤児院に届けに行きましょう……?」
「ははっ……そうだな」 
 ––明日はたくさんのプリンを抱えて、二人で一緒に孤児院へ行こう。
 そう思ったネロとキリエの口元は自然と緩み、台所には笑い声が響いた。

 きっと子供たちも、笑顔を取り戻してくれるだろう。
 甘くてほろ苦い、優しさの味で……






 

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