Present for……Holy Night

 デートの帰り道、夜のフォルトゥナの街を並んで歩くネロとキリエ。
 暖かなイルミネーションの光に照らされ、二人の影が寄り添うように揺れていた。
 その途中、クリーム色の外壁の店の前で、キリエがふと立ち止まる。
「あ……ネロ、ちょっと寄っていい?」
「いいけど、ここって……ランジェリーショップか?」
「うん。そろそろ、新しい下着が欲しくて……」
 小さな声で、少し恥ずかしそうに呟くキリエの横顔を見つめたあと、ネロは静かに微笑んだ。
「わかった。俺、店の外で待ってるから、買ってきなよ。俺が一緒だと、気まずいだろうし……」
 遠慮するように言うネロに、キリエは小さく首を振った。
「ネロも一緒に、お店に入りましょう?外で待つのも、寒いから……」
「え、でも……」
 キリエの言葉にネロは目を丸くすると、どこか恥ずかしげに視線をそらした。
(女性物の下着の店に、俺が入るのはまずいよな……キリエだって、恥ずかしいだろうし……)
 デリケートな女性の下着を扱う店に、男の自分が入るのはかなり気が引けるネロ。
 それに、恋人とはいえ、自分がそばにいるとキリエが買い物しにくいだろうと思い、ネロは困ったように頬を指でかいた。
 そんな彼の戸惑いを感じ取ったキリエは、そっと腕に触れて優しく微笑む。
「あと一時間くらいで閉店だし、他にお客さんもいないから、大丈夫よ?それに……」
「?」
「ネロと一緒に、選びたいなって……」
 そう言ってキリエは、恥ずかしそうに視線を落とす。
 そして、ほんの少しだけ顔を上げると、上目遣いでネロを見つめた。
「お願い……一緒に、選んでくれる?」
 上目遣いのまま頬をほんのり赤く染め、控えめながらもどこか甘えるように、ネロの服をぎゅっと掴むキリエ。
 その表情と仕草に、ネロの胸がじんわりと熱くなった。
「……わかった。じゃあ、一緒に……」
 照れくさそうに、ランジェリーショップの店内へチラッと視線を向けたあと、ネロはそっとキリエの手を握った。
「ネロ……緊張してる?」
 繋いだ手から伝わる熱と汗ばんだ感触に、キリエは優しく声をかけた。
「……少しな」
 ネロは頬を赤く染めると、繋いだ手に視線を落とす。
「ふふっ。……中に、入りましょう?」
 照れた様子のネロを愛おしく思い、キリエも胸に熱が広がるのを感じながら、彼の手を引いて店に入っていった。

 店に入ると、やわらかな光に照らされたランジェリーが静かに並んでいた。
 キリエはネロの手を握り直すと、パステルカラーのランジェリーが並ぶコーナーへ歩み寄っていく。
「どれにしようかな……」
 少し名残惜しくネロの手を離すと、キリエはラックに並んでるブラジャーを手に取りながら選び始めた。
「うーん……どれも可愛くて迷うなぁ。ねぇ、ネロはどんなのがいいと思う?」
「そうだな……」
 目の前に並ぶ色とりどりのランジェリーと、頬が触れそうな距離で小声で尋ねてくるキリエに、ネロは気恥ずかしくなりながらも視線を動かした。
(キリエと一緒に下着を選ぶなんて……初めてですごくドキドキする……)
 二人だけの静かな店内。すぐ隣にいるキリエの体温が伝わり、ネロの鼓動がほんの少し速くなった。
(落ち着け……!キリエがせっかく『一緒に選びたい』って言ってくれたんだから、恥ずかしがってないでちゃんと選ばないと……!)
 そう自分に言い聞かせ、ネロは屈んでいた体をゆっくり起こして小さく息を吐いた。
 そのとき、視線の先——店内の壁に〈Winter Special!〉と書かれたポップが掲げられているのが、ネロの目に入った。
「なあ、キリエ……」
「ん?」
「あそこ、冬限定のデザインが置いてあるコーナーみたいだけど、見てみないか?」
 そう言ってネロは、壁に飾られたポップを指さす。
 キリエはそっと体を起こし、彼が指さす場所を見つめた。
「冬限定デザイン……いいわね!せっかくだし、見にいきましょう!」
 キリエがネロの腕に手を添えたあと、二人はポップが飾られている壁側へ向かっていった。

「可愛い……!赤と緑のクリスマスカラーもあるのね……!あっ、こっちはトナカイのイラストが描かれてるわ!」
 壁際には冬の時期やクリスマスならではのデザインが多く並んでおり、普段見かけないランジェリーの数々にキリエは目を輝かせた。
「せっかくだから、冬限定のデザインから選びたいなぁ……どれにしようかしら……」
 そう呟きながらキリエは端からひとつずつ、ラックに並ぶブラジャーを手に取って選び始める。
 少し照れながらも、ネロも彼女が見ている反対側からひとつずつ、気に入ったデザインを探そうと視線を動かし始めた。
 ラックの一列目を見終わり、二列目へと差しかかった途中、ネロの目がふと留まる。
「あのさ、キリエ……」
「?」
「……これ、どうかな?」
 小さく呟くネロの声に振り返り、彼に近づいていくキリエ。そして、ネロが指さすほうへと目を向けた。
 ネロの目に留まったデザインは、パステルピンクの布に雪の結晶が描かれているものだった。
 ブラジャーのカップ全体には、フェイクファー素材の布が使われており、見ただけでふわふわとしたやわらかさが伝わってくる。
 中央にはゴールドのハートのチャームが輝いており、甘さとあたたかさを同時に感じさせる、そんな冬らしいデザインだった。
「ネロは……このデザインが好き?」
 キリエはラックにかかってるブラジャーの表面を指先でそっと撫でながら、ネロに尋ねた。
「ああ。冬っぽいデザインでふわふわしてて温かそうだし、色も可愛いからどうかなって。それに……」
「……」
「キリエに……似合いそうだなって」
 ネロは、自分が指さしたそれに視線を落としたあと、彼女の横顔を見つめてそう囁いた。
 頬に伝わるネロの吐息、照れながらも自分のために下着を選んでくれた優しさに、キリエの胸がじんわりと温かくなる。
「そしたら……これにしようかな……」
 キリエは少し照れたように目を伏せながら、そう呟いた。
「えっと……本当にいいのか?他にも色々デザインあるけど……」
「うん。だって、ネロはこのデザインが一番いいな……って、思ったんでしょ?」
「そうだな、俺はそれが一番好きだけど……」
「それなら尚更、これがいいな……」
 小声で呟くキリエの声が聞き取れず、ネロは首を傾げる。
「……これに決めたわ!一応、試着してくるから、少し待っててもらっていい?」
「大丈夫だよ。ゆっくり過ごしておいで」
「ありがとう、ネロ。えっと……私のサイズは……それから、お揃いのショーツも……」
「……」
 ほんの好奇心からか、キリエが自分のブラジャーのサイズを探す声に耳を澄ませたあと、ネロは先に店の外へ出ていった。

***

 数分後、ベルの音とともに扉が開かれ、ショップの手提げ袋を持ったキリエが店から出てきた。
「ネロ、お待たせ!寒いのに待たせてしまってごめんなさい……!」
「大丈夫だよ。気に入った下着が買えてよかったな」
「ふふっ♪ネロのおかげもあって、素敵なクリスマスプレゼントが買えたわ!……自分宛に、だけどね♪」
 緑のリボンが結ばれているボルドーの手提げ袋を見つめながら、キリエは満面の笑みを浮かべた。
「さてと……帰りましょう?」
「そうだな。あまり遅くならないうちに」
 そう会話をし、店を後にしようとした瞬間、冷たい風が吹き抜ける。
 二人の距離は自然と縮まり、腕を絡ませるとぎゅっと手を繋ぐ。
 そして、そのまま寄り添うように、二人は帰路を歩き始めた。

「それにしても、どうして俺と一緒に下着を選びたいなんて……思ったんだ?」
 帰り道の途中、ネロはずっと抱いていた疑問をキリエに話した。
「……そうね。下着を新調したかったのは本当なんだけど……ネロの好みとか知りたかったから……」
「あぁ……なるほどなぁ。俺も、キリエに服とかアクセサリーとか選んでほしいときあるし、気持ちはわかるかも」
「……それとね」
「?」
「一度、ネロに選んでもらった下着……つけてみたかったの」
「え……どうして?」
「だってほら……下着って、一番肌に密着するものでしょう?ネロが選んでくれた下着を身につけてたら……なんだか、ネロがそばにいるみたいで……」
 自分の言葉に、恥ずかしくもどこか可笑しく思えたのか、キリエはクスクスと笑う。
 そんな彼女の言葉に、ネロは愛おしさから目と胸の奥が熱くなった。

 それからしばらく、ネロは黙って歩いていたが、思わずこぼれ落ちるようにぽつりと呟く。
「今度、俺の前で着てほしいな……」
 不意に聞こえた言葉に、キリエは小さく目を瞬かせる。
「え?今、なんて……?」
 キリエに聞き返された瞬間、ネロははっとしたように視線をそらし、耳まで赤く染めた。
「ぁっ……今のは……!その……なんでもない……」
 そう言って慌てた様子で足を速めようとした瞬間、キリエが立ち止まった。
「キリエ……?」
 引き止めるように、繋いだ手をぎゅっと握ってくる彼女の様子が気になり、ネロは顔を覗き込むように首を傾けた。
 キリエは頬を赤く染めながらネロに微笑むと、ほんの少しだけ背伸びをする。
 そして、ネロの耳元へ顔を寄せ、温かな吐息とともに囁いた。
 彼女の言葉に驚く間もなく、ネロの頬にやわらかな唇が触れる。
 チュッ……と、リップ音が静かな夜道に小さく響いたあと、キリエは踵(かかと)を下ろし、ネロの肩にそっと頭を預けた。
「続きは、聖なる夜に……ね?」
「あぁ……楽しみにしてるよ」
 そう言葉を交わし、二人は再び歩き出す。
 マフラーの下、互いに口元に浮かぶ笑みを隠しながら……




—— クリスマスの夜……部屋に来て?

—— 今日買った下着、つけて待ってるから。

—— そのときに……見せてあげるね。



 聖なる夜へと交わされた甘い約束。
 それは二人にとって、何よりも素敵な——クリスマスプレゼント。



 
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