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秋の深まる季節。夜の川辺を歩くには少し冷える。
川の向こうに見える夜景は住む街の明かり。そんな景色を眺めながら、花山と名無は二人で夜の散歩をしていた。
『花山さん。ちょっと寄りたいところがあるんです。良いですか?』
『・・・?いいぜ。』
なんて会話を数十分前に交わしていた。なので名無が先頭を歩いてキョロキョロと周りを見渡す。
「えっと、確かこの辺って聞いたんですがー・・・。
・・・・あ!あれですね!」
指差した先に名無は嬉しそうに駆け寄って行く。その先には、今の季節には珍しい白い桜がひっそりと咲いていた。
小ぶりの花を付けて、僅かな夜風に揺られて時折花びらが舞い落ちる。
花山の目は静かに細められる。名無の隣りに立って、まじまじと桜を見上げた。
「本当に咲いてたんですね・・・。これ、冬桜っていうんですよ。」
「ほう・・・そうなのか・・・・。」
「文字通り、今の時期に咲く桜で今がちょうど見頃なんです。
ちょっと職場で小耳に挟んだのでどんなものか見てみたかったんです。」
ある時、噂好きの常連客から冬桜の写真を見せられた事があった。
街外れにあると聞いて一度は訪れてみたい。小さくても良いので見てみたいと思い、散歩がてら二人で確かめに来たのだ。
「綺麗ですねぇ・・・。ちなみにこの品種は、春にも咲く事から『四季桜』とも呼ばれているそうです。
花言葉は『冷静』。冬の澄み切った空に凛と咲いているのが由来なんですって!ふふっ、素敵ですよね!」
「ああ・・・。そうだな。」
桜の豆知識を楽しそうに話す名無。自慢したい訳ではなく、ただ知ってほしいというそれだけの想い。
そんな横顔を花山は温かな眼差しで見つめていた。時に頷いたりしながら、いつの間にか桜ではなく名無の方ばかり。
珍しい桜に興味がない訳ではないが、それよりも名無の動きが可愛らしくて。ついつい目を離せなくなってしまう。
「______あ・・・。」
名無がなにかに反応して小さく声を出す。花山の胸ポケットの辺りに小さな桜の花弁が付いている。
ひらひらと落ちてくっついたのがたまたま目に付いた。
「花山さん、ちょっと動かないでくださいね。」
「・・・?」
花山に一歩近付いて、花弁を取ろうと名無は必死に背伸びをする。
けれど彼の背は高いのでギリギリ花弁まで届かない。はたから見ると、抱きつこうとしている恋人にしか見えなかったりして。
「ん・・・しょっ・・・・!」
名無がバランスを崩してはいけないので、そっと花山の大きな掌が肩に添えられる。
もう少しで届きそう。あと少し。と思った瞬間。
「あ・・・!わっ!?」
花弁の少し下の服を摘んだせいで花弁がひらひらと落ちてしまう。
落下中にどうにか掴もうとするが蝶のようにふわふわと舞い降りて結局掴めない。
結局見失った、と思ったら名無の肩にひらりと落ちていた。
「・・・・これか?」
「・・・あ、それです。本当は取ってあげたかったんですけど・・・。」
花山が肩の花弁を取ってくれたので申し訳無さそうに苦笑いする。
あまりに小さな花弁を見つめて、花山は一言呟いた。
「別に付いてても構わねえが・・・。」
すると名無が少し困ったような顔に変わってしまう。
「駄目ですよっ。付いたまま組に帰ったら冬桜観に行ったのバレちゃうじゃないですか。
こんな場所にひっそりと咲いてるんですから、そっとしといてあげたいんです・・・。」
「・・・・・。」
横目に桜を見上げると、確かに表沙汰には咲いてないというか。あえて人の居る場所から離れて咲いているようにも感じられた。
喧騒から離れて。気付く人だけが気付くような場所。
騒がしくなるのは多分この桜も望んでないんじゃないか。なんて二人してそう思った。
「それに・・・。」
「・・・?」
「ここにあるのは・・・・ふ、二人だけの・・・・秘密にしたくて・・・・。」
名無の白く透き通った頬が少し紅色に染まる。モジモジと恥ずかしそうに目を逸らして、桜とは逆の方を向いてしまう。
「・・・・健気だな。」
ふっ、と花山は微笑んだ。
その言葉に反応して、紅い顔をしたまま花山を見上げる。
「・・・何がですか?」
「・・・桜の話だ。」
そう言って二人で小さな桜をまた見上げた。少しひんやりとする風が二人と桜を静かに揺らす。
温かい眼差しで桜を見つめて、二人はそっと寄り添っていた_____
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