短編置き場
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「う~ん・・・・どうしよう・・・・。」
世の中はもうすぐクリスマス。街中が綺麗な飾りで彩られていく中、名無は一人頭を抱えていた。
(ヤバイ・・・清澄へのプレゼントさっぱり思い浮かばない・・・・。あいつって何が好きなの?
トレーニング好きって事しか知らないけど・・・下手にそういうので寄せると持ってる物と被るとかいうしー・・・・。)
悩みの原因はもうすぐ迫ったクリスマスプレゼント。恋人の加藤と一緒にクリスマスを過ごすのは今回が初めて。
何かあげようと思ったが、良い物が思い浮かばずに四苦八苦していた。
『・・・・・さあ!あと少ししたらクリスマス!人気のプレゼント特集でーすッ!』
「!」
たまたまつけていたテレビからタイムリーな話が飛び込んでくる。
チャンス!と思い、食い入るように映像を見つめる。忘れてはいけないので一応メモの用意もする。
(よっしゃー!これでなんとかなるかも!?)
『やっぱり手作りケーキ~!今年も彼氏に作ります!』
(・・・・って無理だ・・・・あたしお菓子すらまともに作れない・・・。)
『ま、マフラーです・・・・旦那が欲しいっていうから手編みしてる所で・・・・。』
(お裁縫が精一杯で手編みとか二度とやりたくないっ・・・・次っ!)
『ペ・ア・リ・ン・グ!・・・・ついに買っちゃいましたぁっ~!!』
「ふ、ふざっ、ふざけないでッッ!!き、清澄とあたしはまだそんな関係じゃな・・・・・。
ってさっきから全然前に進んでないっ・・・・どうしよう・・・・!」
メモしようとしたものの、書いては×。書いては×の繰り返しでちっとも参考になっていない。
女子の意見で賛同出来るものもない始末で自分の女子力とやらを疑う。
諦めかけたその時。テレビコーナーの趣旨が変わった。
『何かの手作りが多いようですね~!では男性の方はどうでしょうか?』
(そ、そうだよ・・・・。女子が何をあげるか以前に相手の気持ちが大事だよ!!・・・しっかり聞こう・・・・。)
再び聞く態勢を整えてその場に正座した。今度こそ冷静に聞きたくて一度肩の力を抜く。
『彼女からのプレゼントぉ?やっぱ手料理がありゃそれで良いかなぁ~!!』
(だからあたしケーキとか出来ないって言ってんじゃん・・・・てか今回は外食する予定なんだけど・・・・。)
『あれしてもらいたいな。サンタの格好して・・・・「プレゼントはあ・た・し」・・・・なんつってぇ!!』
(外だっつんてんでしょこの変態ッ!!何こいつにやけてんのよ!!)
『そんな急に何って言われてもねえ。・・・愛があれば、何でもいいかなって・・・』
「だーーかーーらーーー!!!何でもいい何でもいいって!!それじゃあ困るから聞いてんのに馬鹿じゃないの!?
気に入らないとどうせ文句言う癖に!!バーカ!!こんなだから視聴率取れないのよんもうっ!!」
あまりにも的外れな意見にメモ帳を床に叩きつけてテレビに怒鳴る。電源を切ってその場でジタバタと暴れだした。
結局時間を無駄にしただけで良い案は浮かばず。あれやこれやと悩んで時間だけが過ぎていった。
女子力とは何か。誰がそんな厄介な言葉を考えたのか。
そもそもクリスマスなんてどうして日本にあるのかまで深く考えてしまう。
けれどこれが世の中の常識となってしまった今。そうやって駄々をこねても待ってくれない月日。
『あ?プレゼントねえのかよ!?ちぇっ・・・・お前なんかに期待した俺が馬鹿だったぜ・・・・。』
『もっと器用な女と付き合うんだった~。』
(ああ・・・・想像しただけで頭の中の清澄腹立つ・・・・。・・・・でもこのままだと本当に言われかねないし・・・・
_____・・・・・・・本当にどうしたら良いの・・・・。これでもし、清澄に嫌われちゃったらどうしよう・・・・。)
よからぬ考えまで頭をよぎる。たかがプレゼント一つでないとは思うが嫌な予感は拭えない。
悲しくなるので一旦考えるのを止めてみる。休めば少しは良い案が浮かびそうな気がしたから。
そんなこんなで過ごして数日後。約束のクリスマスが来てしまった。
「うう・・・・寒いぃ・・・・。清澄お待たせぇ。」
「おう。名無、寒いっつったってまだ雪降ってねえぞ?お前寒がりか?」
「うるさいー。こんな冬なのに上着羽織ってないあんたがどうかしてるんじゃないの?」
「俺だってさみぃから中着てるぜー?」
(白い息してよく言うわ・・・・)
雪がいつ降ってもおかしくない真冬の夜。ホワイトクリスマスにはならなかったがそれでも寒い。
なのに加藤は一見いつもと変わらない格好でいるのに驚く。
これでは珍しく着飾ってきた自分は何だったのだろう、と密かに思った。
「腹へったからとりあえず飯からなー。」
「はいはい。そーだね、行こ。」
「・・・・?」
呆れて名無が先頭を歩く。
その姿を不思議そうに見つめている彼にはなんの事やらさっぱりだろう。
\いらっしゃいませぇー/
(流石に人多いなぁ・・・・・カップルとか家族連れとかばっかだ。別にあたし等も似たようなもんだけど。)
手頃なお店で外食するのを選んだ二人だが案の定周りが考えてる事とだいたい同じ。あちこちでガヤガヤと色んな声がする。
少ししたら席が空いたようなので向かい合って座る。お互い適当にクリスマスっぽいメニューを頼めば雰囲気が出る気がした。
ふと隣の席を見ればそこもカップルだった。けれど名無達とはだいぶ雰囲気が違うようで。
『はい、あ~んして!』
『あ~ん!んまぁ~ッッ、やっぱりハニーの選んだ料理で正解だったねぇ!』
『んもうやーだー!!おいしく食べてくれそうなもん、選んだんだよぉ?』
『優しい~!やっぱだ・い・す・き!』
『あ・た・し・も!』
(・・・・・・うわあおバカップルだ・・・。あんな事して何が楽しいのやら・・・)
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいのイチャイチャぶり。目をそらしてもキャッキャと楽しげな声が聞こえてくる。
公衆の面前であそこまでイチャつける根性はどこから湧いてくるのやら。思わずポツリと呟く。
「・・・・・やっぱカップルって似てくるのかなー・・・・・夫婦は似るっていうしね・・・・。」
「ん?・・・・・ああ、もしかして隣りか?」
(あ、ケータイ見てるかと思ったら聞こえてたんだ。)
「普通はそうじゃねえのー。でも俺達あんま似てねえけどな。」
加藤も横目でちらりと見ていたらしく反応されて少しビックリする。
「確かに似てないね。あたし大食いの筋トレ好きじゃないもん。」
「・・・・。俺はお前と違って素直だからなァ。ツンツンしてねーし。」
「・・・・・え、清澄が素直?嘘ォ?」
「・・・・・・。」
互いの見つめる眼差しはお前が言うな、と言いたげに見える。
目は口ほどにものをいうやつで、隣のイチャつきとは違いずっと睨みあっていた。
『お待たせしましたぁ~。』
そうこうしている内に頼んでいた料理が到着。クリスマスなのでチキンの盛り合わせが来た。
当然これを主に食べるのは加藤だ。
「・・・・・・。よく食べるわねー・・・・そんなにお腹すいてた?」
「んあ?これぐらい普通じゃね?」
「周りの野菜も食べてあげないと可哀想だぞ清澄くん?」
「うっせェ!こんな時に肉食わねえでいつ食うんだっつーのッッ!」
さっき料理が来たばかりだというのに瞬く間にチキンが骨だけになっていく。
加藤がいうには自分の倍以上食べる奴なんか神心会にいくらでもいるらしい。
それにしても一般人からすれば凄い食べっぷりに見えるのもまた事実。
「じゃあ野菜ちょーだいッ。そこのプチトマト。」
「あー、これぐらいならいくらでもやるよ。ほらよーっ。」
プチトマトのヘタ部分を持ってテーブル越しに差し出してくる。
なので身を乗り出してプチトマトを器用にヘタ残しで食べた。
「ありがとっ!」
笑顔でほっぺに頬張りニコリと微笑んだ。
名無の不意に見せた可愛さにドキッとしてしまう。動揺して少し顔が紅くなる。
「・・・・おう・・・・いる時言えよっ・・・。」
「・・・・?」
この意味はきっと名無には分からないだろう。
『お待たせしましたー。』
「う~ん!やっぱり美味しい!」
「・・・・・お前もお前でよくそんな甘いもんばっか食えるな・・・。さっき食ったろ?」
「甘いものは別腹ってやつだし、今日ぐらいは良いじゃ~ん?」
「やたらご機嫌だな・・・。」
ひとしきりメインも食べた後だがデザートはデザートでよく食べる。スイーツを食べずしてクリスマスは終われないらしい。
こういう時はいつもより機嫌が良いのでついつい調子に乗ってしまう。
「清澄も食べる?さくらんぼ片方あげよっか?」
「あー・・・・それぐれえはいる。」
「じゃあ、はい!」
「ん・・・。
____・・・・っておい・・・・何してんだ・・・・。」
あげると言い出したが口元に持ってきて食いつこうとした瞬間に避ける。
食べさせる気があるのかないのかさっぱりだ。
「何ってー・・・・清澄釣り?」
「俺は魚じゃねーっての!ったく・・・・。」
三度目ぐらいでようやくさくらんぼを食べれた。
雰囲気こそ違えどやってる事は結局カップルのそれだと二人が気付くのはかなり後になってからである。
勢いよくさくらんぼを食い千切った姿を見て、名無の脳裏に浮かんだのはあの動物だった。
(・・・・なんか肉食動物に餌あげてるみたい・・・・・。)
「・・・・・そういや清澄さ、『空手界の核弾頭』はさておきとして。
『神心会のデンジャラスライオン』って本当に良いと思ってんの?」
「マジで良いだろ?ライオンってだけで最強なのにデンジャラスだぜ?危険だぜ!?」
「・・・・・本気でそう思ってんだ・・・。」
その姿はライオンに思えて、必死に獲物に食らいつく所とか似ている気がした。
あだ名も一緒に思い出したがセンスは微妙と言わざるおえない。そのドヤ顔はどうして出来るのか。
「ライオンって元々危険でしょうに。なんで更に危険ついてんの・・・?」
「他のライオンより舐めてかかると特に危険って意味だッ!そう思わねえ!?」
「やんちゃだからね、あんた・・・・。確かに危険かもねえ。」
「やんちゃとデンジャラスは違うだろッ!!デンジャラスの方が強ェしッ!!」
「ふふふ・・・・はいはい。分かった分かった・・・っふふ。」
「何笑ってんだよ名無~!!」
あまりに偉そうに話すので余計面白くなってくる。真面目にそう思ってるからこそ笑えて仕方がない。
くだらない会話ばかりしていると時間が過ぎるのが早い。
まだ話足りないって少し思いながらも店をあとにした。
「あ・・・・雪降ってる・・・・。」
「お、そうだな。」
いつの間にか外では静かに雪が降っていた。まさにホワイトクリスマス。
このままプレゼントをあげて帰ってしまうのもなんだか味気ない。
そう思っていると名無はある事を思い出した。
「_____清澄っ・・・・その・・・・・。
この先におっきいクリスマスツリーがあるんだけど・・・帰り寄ってかない?」
「ツリーかァ・・・・。・・・・・別に暇してるし良いぜ。行くか。」
「・・・・・!やったあーじゃあ行こ行こ!!」
めんどくさいとか言われるかと思ったが乗ってくれた。お腹いっぱいで機嫌が良いか、それとも良い雰囲気からか。
まだ夜も遅くないし、のんびりとツリーへ向かうことにした。
「・・・・・・。」
そしてその道中。風はないがやっぱり寒い。
素肌の手をこすり合わせているとふと加藤の上着ポケットに目がいく。ポケットに手を入れて温かそうに見える。
「・・・・・・。」
「_____っ!?」
「あ、避けた!」
雰囲気が良いから手を繋げると思ってポケットに手をいれようとすると気付かれて即逃げられた。
「なんで避けるのよー!!」
「い、いきなり何だよッ!?ここ俺の聖域だっての!!勝手に入ってくんな!!」
「聖域って・・・・。んも~う意地悪ゥ・・・彼女が寒がってるってのにィ~・・・。」
「・・・・・・・・・。」
何故か頑なに手を繋ぐのを嫌がった。そんなに寒いのか、それとも照れくさいのか。
(ふんっ・・・・清澄のバカ・・・・。意地っ張り・・・・ケチ・・・・。)
せっかくそこそこ良い雰囲気だったのに名無は拗ねてしまい、そこからツリーまで暫くだんまりを貫いた。
「うっわぁ~・・・・・!!思ってたよりずっと綺麗・・・!!」
と思ったら、巨大なツリーに駆け寄って開口一番名無が嬉しそうに話す。
「けっこうでけぇんだな・・・。」
「クリスマスの時だけなんて勿体ないくらいだね~。」
「だな・・・・。」
半ば独り言で話しかけたが返事がきた。二人ともクリスマスツリーの豪華さに圧倒されて先程の気分はどこへやら。
都会のツリーともなるとそこら辺のでもかなり派手。ビル何階まであるのやら、と思う程桁外れなサイズ。
飾り付けも多種多様で細部まで楽しめる仕掛けまで付いている。
(・・・・・・_____わ・・・・周りよく見たらカップルばっかりじゃん・・・・。
て、てかこういう場所でなんでキスとかしてんのっ!?見てる方が恥ずかしいっ・・・!!)
影に隠れて見えないとでも思っているのか。こっそり抱き締めあったりキスをするカップルがいたりする。
一度気付いてしまうとあちらこちらにいるもんだから目のやり場に困ってしまう。
そんな時だった。
「_____なあ、名無。」
「ふえっ!?なななな、何っ!?」
「・・・・・これッ・・・・やる。」
「これ、って・・・?」
いきなり話しかけられ顔を紅くして振り向くと、同じく顔の紅い加藤が何か手渡してきた。
「もしかして・・・プレゼント・・・・!?」
「い、いらねえんなら煮るなり焼くなり好きにしろッ・・・。」
「・・・ねえ・・・・・開けていい?」
「・・・・・・・・・。」
照れているのでこちらに目を合わせず頷いた。
ドキドキしながら開けてみると、中には小さな手袋が入っていた。
「わあ・・・かわいい・・・・!ライオンみたいな絵だねっ!」
「え、ライオンじゃねえのかそれ。」
「たてがみっぽいのあるしライオン・・・だよね?すっごい可愛い・・・・有難うっ清澄!!」
手の甲にデフォルメされた可愛いライオンの刺繍がしてある。
ラッピングの可愛さからして、おそらくこういう物が売ってある女子向けのお店で買った物だと思った。
あとで分かった事だが、やはり専門店で売ってる人気の手袋だったんだとか。
どんな顔して買ったのかと思うと自然と笑えてくる。
「_____・・・・・実は・・・・あ、あたしもプレゼントあるんだけどっ・・・・。」
「お、何くれんだ?」
「えーっとぉ・・・・その・・・・清澄のあとで出しづらいっていうか、なんていうか・・・・。」
「・・・・?」
ここで思い出すのは自分のプレゼント。散々悩んで決めた結果だから後悔はしていない。
けれど加藤の後で出しづらいのにはちょっとした理由がある訳で。
「・・・・まあ・・・いっか!!あのっ、これ!!クリスマスプレゼントッ!!」
「おう。サンキュー。
_____・・・・・・・!」
こちらは手作り感ある袋。シールも袋も一応オリジナルで用意した物だ。
中身は既成品だが、そこに入っていたのはシンプルで大きめの手袋。
名無が少し出すのを躊躇ったのはまさかの手袋被りだったから。
サイズもデザインも違うけれど似たような発想だとは思わなかった。
「あ、あの・・・・それ、サイズとか調整出来るやつで・・・・。
あんたには、手袋とかいらないかなーって思ったけど・・・。
ポケット手入れてばっかで寒いのかなーって思って・・・。
だから・・・・たまにはこれ使ったらどうかな・・・・?・・・・・なんて・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・どう・・・・?」
驚きつつもとりあえず無言で手袋をつけてみる。グーとパーを繰り返して装着具合をチェックしているよう。
「_____すっげえ良いッ!!俺、そろそろ寒ぃし手袋いるか迷ってたとこでよ・・・・・。
ゴワゴワしねえしサイズもピッタリだ・・・・有難うよ、名無ッ!!」
「・・・・よ、良かったぁ・・・・!!」
余程しっくり来たようで今日一番の笑顔で素直に笑ってくれた。ほっとして名無も笑顔になる。
決して言葉にはしないが、自分と似たり寄ったりのセンスの彼氏で良かったかも?と内心思ったりした。
加藤も彼女が自分の事をよく見ているのだと思った。寒そうにした仕草なんてしてなかったはずだが、よく分かったなァなんて。
お互い口に出さなくても好きな人の事なら分かる。夫婦が似る理由はこれか、と二人して思う。
そして顔が更に紅くなった。
(____この手袋・・・・つけるの勿体ないなぁ・・・・。
でも、清澄もあたしの付けてくれたし・・・・やっぱ付けてみよっ。)
雪がしんしんと降る帰り道。幸せな気持ちでバッグの中の手袋を見た。
加藤もあれから手袋をつけたままなのが目に入り、やはり自分もライオンを装着する事にした。
(・・・・・凄い・・・サイズ合ってる・・・。
・・・・っていうか、やっぱこの絵柄かわいくてライオンって感じしないかも・・・・?)
手袋の温もりを感じつつ、可愛いライオンと目があった気がする。くすくすと笑いがこみ上げてきてしまう。
ふと。隣りのデンジャラスライオンの視線を感じて見上げる。何故か彼も笑っている。
「・・・・・・・何?」
「・・・・・なあ名無。片っぽだけ手袋外してくんね?良い考えがあんだ。」
「良い考え・・・・?」
不思議に思いながらも片方の手袋を外す。さっき付けたばかりで、すぐに外したのでまだ手は冷たいまま。
____よく見ると加藤も片方の手袋がない。それに気が付いた瞬間の出来事だった。
「・・・・わっ!?」
「・・・・・・・な?温かくねェか?」
いきなり手袋してない方の手を握って加藤のポケットの中に突っ込まれた。
加藤のポケット内では手袋のない肌同士が恋人繋ぎされている。
「・・・・・・・っ・・・・。・・・・・うんっ・・・・あったかい・・・・。」
「・・・・・お前手冷て・・・・。」
ビックリしながらも直接の手の温もりは温かかった。手袋も良いけれど、やはり手を繋いでいると一段と相手を感じれる。
恥ずかしいながらもゆっくり手を握り返せば相手も同じぐらいの力で握り返してた。
冷たいと口で言いながらも、温めてくれるようだ。
「・・・・・そういや、ここ聖域とかなんとか言ってなかったっけ・・・・?」
「あ?・・・・・・あーっ・・・・・・あれは・・・・。
今・・・・俺の聖域空いてっから、特別に入れてやってんだッ!あ、有り難く思えよッ!」
(・・・・・・・・。
・・・・・そっか・・・あの時はポケットにプレゼント入れてたから、入れさせてくれなかったんだ・・・・!
プレゼント持ってる気配なかったけど・・・・必死に隠してたんだね・・・・・。)
よく考えれば加藤のプレゼントは唐突に出てきたものだった。今冷静に思えばすぐに出せる場所はポケットしかない。
冷たい態度だと思ったが、相手からしたら相当ドキドキしてたんじゃないだろうか。
謎が解けて思わず一言呟いてしまった。
「・・・・・・清澄、可愛いね・・・・。」
「あァ!?誰が可愛いだとォ!?」
「・・・・・ふふふっ・・・あはははっ!!本当、あんた可愛い所あるよねッ!?
このライオンみたいっ、あはははっっ!!」
「何笑ってんだよ~ッ・・・・うっせえ!!笑うなってーのッ!!」
普段はツンツンしてるけれど、実は本質を見抜かれたくないだけ。照れ隠しだと分かると途端に可愛く思える。
可愛い顔して笑う手袋のライオン。なんだか本当の顔はこっちだ、と言ってる気がしてしまう。
「ねえっ。やっぱりさ、このライオンって可愛いと思わない?ライオンってか猫っぽい?」
「けっ!お前がそう思うんならそーなんだろッ!そもそもお前にはカッケェライオンなんて似合わねえからなァ~!」
「何よそれー、どういう意味?」
「可愛い格好した奴には可愛いライオンで十分だって事だよ!」
「・・・・っ・・・・・!?」
不意打ちだった。多分今の発言に加藤が気付くのは数十秒後。
着飾ってきた格好に意味はないのかと思っていたが、内心そう思っていてくれてたなんて。
直接褒められた訳ではないが彼の口から"可愛い"なんて聞けたのが何より驚いた。そして何も言えなくなってしまった。
「・・・・・・・。」
「・・・・何だよ。何黙って・・・・・______」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・ッッ!!」
暫く経ってから自分の言った事にようやく気付いたらしい。そっぽを向いて顔を合わせてくれなくなった。
けれどその横顔はすっかり紅くなっていた。一体これで今日何度目だろうか。
時間が経つにつれ手の冷たさがなくなっていく。すっかり加藤の手と、手袋の温もりで温まったのだろう。
良いクリスマスだったなって振り返って。そこである事に気が付いた名無。
「・・・・・清澄・・・・。」
「・・・・・なんだ?」
「・・・・言い忘れてたけど・・・・・。・・・・・・・メリークリスマス。」
「・・・・・・・・・おうッ・・・・・メリークリスマスッ・・・・。」
言葉の意味はクリスマスおめでとうとか。私はあなたに楽しいクリスマスを祈りますという意味。
文字通り楽しいクリスマスになった今日。この日一日、クリスマスの温もりはずっと消えないままだった______
fin