短編置き場
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年末年始のムードを少しだけ残した1月始め。少し遠くからハンドベルの音と賑やかな声が聞こえてくる。
今日はお休みで買い物帰りに商店街の福引きをしに来ていた。
なんだか新春の福引きだからいつもより豪華な景品が当たるらしい。
特に欲しいものがある訳ではないけれど・・・強いて言うなら2等の特上ステーキセットは気になるかな。
晩御飯のあてになるし花山さんと食べたいからそれが良いかなぁとぼんやり思っていた。
「あら名無ちゃ~ん!いらっしゃい!今日はお花屋さんお休み?」
「こんにちは!そうです、買い物帰りに寄りました!」
「じゃあ景気良く当てて帰ってね~!!まだ目玉商品出てないから!!」
スーパーのおばさんはよく来てもらってる常連さん。
仲良しなので軽くお話して、ご機嫌にガラガラを回してみる。
ガラガラ...
「ポケットティッシュだね。あと2枚!」
ガラガラ...
「はいこれ飴ちゃん。名無ちゃんはお目当ての商品あるのかい?」
「んー・・・。2等のステーキとか良いなぁって思ってます!」
「じゃあ残り1枚!!ステーキ引き寄せてみようか!!」
正直なところ私はあまり期待していなかった。
商店街の福引きはもう何回も参加しているけれど、結局帰ってお菓子を食べている気がする。
なので今回も同じ事になるだろうと思っていた_______
コトン...
「・・・?あれ、金色って・・・。」
ガラン!!ガラン!!ガラン!!
「お、おめでとうございま~~~~す!!!」
「へ・・・?えぇえ~~~ッッ!!??」
景品一覧の表を見上げると、金色は1等・温泉旅行チケットだった・・・!!い、1等っ!!?
温泉旅行・・・って本当に存在するんだ。というか、当たるものなんだ!?
全然当たった実感が沸かないでいた。
「凄いね名無ちゃん!!温泉旅行ペアチケットご招待~~!!」
「うわあ・・・!!有難うございます!!良いんですか、本当に・・・!?」
「当たらなきゃ用意した意味がないからね!!
なんかこれ、最近はQRコード?っていうのを読み取ってそっちに詳しい事が書いてあるんだって。
おばちゃんよく理解らないけど、行ったら感想聞かせてね!!」
「はいっ!!嬉しいです、楽しんできますッ!!」
今の時期に温泉に行ったらさぞ良いだろうなあ・・・!!というか暫く旅行なんてしてなかったかも・・・?
封筒に入れられたチケット・ポケットティッシュ・飴という豪華3点セットをルンルン気分で持ち帰った。
(ペアチケット・・・。ということは、誰か誘って行くんだよね・・・。
・・・・花山さん、温泉好きかな?花山さんと二人で旅行したいなあ・・・!!)
家に帰ってチケットを眺める。ペアと聞いて真っ先に思い浮かんだのは花山さんの顔だった。
色々想像しながら花山さんと行く計画を立てる。
私もすぐ休みが取れる訳ではないので行くのは来月頃として・・・。新幹線の予約も取らなきゃだし・・・。
温泉卵食べたいな・・・。あ、温泉まんじゅうとかお土産の定番かも!!
・・・・あれ?というかそもそも花山さんの予定聞かないと!!
遠征の予定とか入ってたら行けなくなっちゃう!!
私としたことが相手の予定を考慮するのを忘れそうになっていた。
つい行く事ばかり楽しみになっていたけど花山さん側の都合もある。
チケットの期限はまだまだあるようだし早速花山さんに電話してみる事にした。
prrr... prrr...
『・・・俺だ。』
「花山さんこんにちは!今お時間大丈夫ですか?」
『ああ。どうした?』
「実はですね・・・」
花山さんに今日あった福引きの件を伝えてみる。
浮かれる私の話を素直に聞いてくれて「そうか、おめでとう」と言ってくれた。
「という訳なので、空いてる日に温泉行きませんか!!」
「ああ。・・・・・行きてえところなんだが・・・・。」
「・・・どうしました?何か遠征でもあるんですか?」
「名無は良いが、俺は宿に入れねえかも知れねえ・・・・。今回はダチと行ってきてくれ。」
「えっ・・・。なんでですか・・・?入れないって、どういう・・・。」
「・・・仮に宿は入れても、風呂は行けねえんだ・・・。」
「______あっ。」
入れない、と聞いて考えを巡らすと一つの答えに辿り着いた。
そっか。花山さんの背中・・・・刺青があるから入れないんだ・・・!!
温泉といえばタトゥーも駄目だし、その筋の人間は駄目なのが決まりになってる。
仮に温泉に入らないとしても全国で花山組の名前を知らない宿の人がいるとは思えない・・・。
「・・・・そう、ですよね・・・。温泉・・・ですもんね・・・。」
「・・・・済まねえ。」
「良いんです!!友達誘って行ってきますから!!
・・・・羽のばしてきますね・・・。」
「・・・・悪ィな。」
「謝らないでください・・・大丈夫です。ではまた今度・・・。」
プツ...
「・・・・・~~~~ッッ、行きたかったなァ・・・!!花山さんと温泉旅行・・・!!!」
物凄くショックで半泣きでその場に項垂れる。せっかくの旅行なのに行けないなんて・・・。
花山さんにこんな話をするべきではなかった。もっと相手の立場になって考えるべきだった・・・と後悔がよぎる。
花山さんの言う通り、他の友達を誘おうかと思ったけど一緒に行けない事のショックでそんな元気は残っていない。
なのでこの日は落ち込んだまま眠りについた・・・。
_______次のお休みの日。
あれから温泉の事が浮かんでは消え。花山さんと行けないとなるとやっぱり落ち込んで、の繰り返しだった。
とりあえず気分を変えようとチケットからQRコードを読み取る。するとどうやら一つの旅館だけでなく色んな温泉から選べるタイプらしい。
湯の効能・宿の距離など絞り込みも出来る。最近のは便利だなぁって関心していた。
(色んな都道府県から選べるし場所も思ったよりある。てっきりどこかの温泉だけかと思ったけど、幅が広くて凄い・・・。
・・・・・・あれ?もしかしたら・・・・いやでも・・・・。)
その時私の中に一つの考えが浮かんだ。僅かな可能性だけれど、少し試したい事があった。
それから別の検索サーチを開いて温泉の名前を調べる。そして評判を調べる。
まあまあ数ある温泉の中からとある事を探して虱潰しに当たってみる。
「・・・・!!」
それなりに時間はかかったけれど、やってみて損はない。
色々検索が終わり、次の休みで花山さんと会う約束を取り付ける。
私の腕の見せ所。ここで引き下がるような私ではなかった。
あっという間に休みの日。
ピンポーン♪
ガチャッ
「花山さん!!お待ちしてました!!すぐ上がってください!!」
「・・・?ああ・・・。」
いつもの玄関チャイムからすぐに私が顔を出したので花山さんは少し驚いた様子だった。
そりゃあ私も待ちきれなくてそわそわしっ放しだったから向こうからすれば不思議だと思う。
だって私は、この報告を楽しみに今日まで仕事を頑張ってきたのだから!!
「花山さん。・・・これはこの前話した温泉ペアチケットです。」
「これか。・・・ダチと行くんじゃなかったのか?」
「それはこちらのページを見てから言ってください!!」
あらかじめ用意してあった宿のページを開く。そしてその口コミ欄も一緒に表示する。
その宿はなんと、評判によると刺青・タトゥーの類もOKらしい。
「この口コミ、つい最近です!!それに宿の人にも問い合わせたら本当にOKなんですって!!」
「・・・名無。オメェ、まだ諦めなかったのか・・・。」
私が思い浮かんだのは刺青があっても入れる温泉宿があるかも知れないという発想。
昨今気軽にタトゥーをする人が多いと聞いて、それでも今時温泉でNGなんてそんな事あるだろうか・・・?と思っていた。
大半の宿は駄目だったけれど調べてみたらなんとか行けそうな旅館があった。
今日この日の為に花山さんにプレゼンする気持ちで待ちわびていた。
「はいっ!!友達と行くのも良いですが、私は花山さんと二人で温泉旅行に行きたいんですッ!!
それに・・・花山さんとお出かけする事はあっても旅行した事ないですから・・・。」
花山さんはあまり納得がいってないのか少し怪訝そうな顔をしている。
でも私があまりに理解りやすくしょんぼりするので困った顔に変わってしまった。
花山さんは思うところがあるのかも知れないけれど、私だってここで引き下がる訳にはいかない。
それだけ私の温泉旅行への熱は強かった。
花山さんがページをじっくり見ていると、ふと景色の写真で止まる。
「・・・・この宿・・・・。・・・・・聞いた事あんな・・・。」
「はい・・・。温泉宿でも有名なところらしくて、疲労回復に効くんですって・・・。」
「そうじゃねえ・・・。・・・・俺が昔連れられたところかも知れねえ。」
「・・・えっ。それって・・・・ご家族でって事ですか?」
「・・・・・うっすらだが見覚えがある。・・・・だから今でも
「てことは、花山さん・・・!!」
小さく頷いて、ようやくしっくり来たような顔で関心しているようだった。
花山さんが昔来た事のある場所なら話が早い。期待の眼差しで彼を見上げる。
「・・・・木崎も覚えてるかも知れねェな・・・。
・・・・行くか。旅行。」
「や・・・やったーーー!!!花山さんと温泉旅行決定ですねーーー!!
いつにしますか?泊まりで行きますよね?あ、私の休み調整しなきゃ・・・。
ここの温泉、中で色々遊ぶところもあるみたいですよ!!」
「落ち着け、名無。」
「あっ、ごめんなさい・・・。つい嬉しくてはしゃいでしまいました・・・。」
「・・・楽しみだな。」
「はいっ!!すっごく楽しみですっ!!」
つい両手を上げて子供のようにはしゃいでしまった・・・。でも本当に嬉しいっ!!プレゼンした甲斐があった!!
早速日程の調整や新幹線の予約などをその場で大まかに決める。
どうやら温泉宿の店主が変わっていなければ組自体と知り合いかも知れない。
花山さんの方からもなにかしら連絡を入れてくれるそうなので予約の方もスムーズに進むみたい。
たまたま当てた温泉旅行だけれど、なんだかすっごくワクワクしていた。
温泉旅行当日。
私がこの日をどれだけ待ちわびていた事か。この日の為に仕事も頑張れたし準備もしてきた。
キャリーケースをごろごろ音を鳴らしながら今日は新幹線口で花山さんと待ち合わせ。
いつもなら家から迎えに来てくれるけれど、私が『旅行気分を味わいたい』と要望していたので花山さんも納得してくれた。
新幹線口に近づいただけで大柄な花山さんの姿が遠くからでも理解った。
「花山さ~ん!!おはようございます!!」
「ああ。おはよう。」
「待ちましたか?」
「いや・・・。さっき来た。」
「じゃあ早速向かいましょうか~♪」
新幹線口から中に入って切符を通す。旅行の始まりだッ!!
新幹線の手前で待っていると、周りにも旅行らしい人がいて尚更ワクワクしてきた。
『この度は新幹線のご利用、誠に有難うございます。当新幹線は、順に・・・』
私は窓側に座って、花山さんは通路側に座っている。
座席を選ぶ際『俺がいると景色見えねえだろ』と言われてしまいこうなった。
実際は景色云々よりも隣りに居ると守られているような安心感がある。
結果的に私からも花山さんからも景色が見えやすいのでこれで良かった気がした。
「花山さん。着くまでに時間があるのでこれ食べませんか!」
「・・・・アイスか?」
「その名も『シンカンセンスゴイカタイアイス』!!食べてみたかったんですよね~!!」
私が取り出したのは新幹線名物の凄く固いアイス。
残念ながら正式名称は知らないが最近は自販機や売店にあるので気軽に買えた。
固さを確かめてからそれなりに放置して食べるつもりだ。
「うわあ・・・本当にカチコチですね。暫く待ってから食べましょう♪」
「今食わねえのか?」
「食べたいですけどビックリする程スプーンが通りません・・・。」
「貸してみろ。」
そう言うと花山さんは小さく見えるプラスチックのスプーンを手に取る。
手の甲に浮き出る血管にスプーンの心配をした。
「お、おお・・・!!」
でもそこは握力を上手くスプーンの先端に伝導させて、固いアイスが道を開くように掬われていく。
さっき開けたばかりなのに、シンカンセンスゴイカタイアイスの名が花山さんによって打ち砕かれる瞬間を目の当たりにしてしまった。
「・・・・ん。」
「す、凄い・・・!!」
あっけなくスプーンの上に乗せられたアイスは、そのままあーんされて私の口の中へ。
「・・・・ん~!!固いけど美味しいです~!!花山さんも食べてください!!」
「俺はたまに食ってる。名無が食うといい。」
「え?そうだったんですか?・・・じゃあ遠慮なく頂きますね♪」
妙に慣れていると思ったら遠征途中でたまに食べているらしい。
組員の前で平然と食べたら驚かれた思い出話を聞きつつ、アイスはある程度柔らかくなるまであーんしてもらった。
新幹線から景色を楽しんだり、通り過ぎる県の思い出話などをしていたらあっという間に目的地に到着。
そのまま電車に乗り換えてまた暫く揺られていると、だんだん雰囲気が温泉街のような街並みに変わっていった。
駅に着くとそこで降りる観光客らしき人も多かったのでここで間違いないと確信した。
「うわあ・・・!!いかにもって感じですね・・・!!」
「・・・・・・・・・。」
映画やテレビに出てきたような和風の建物と浴衣で歩く人々。
まず東京ではお目にかかれない木製の橋や土産物市場でどこもかしこも賑わっている。
レトロな商店街のような街並みに、私の心は踊っている。
「遂に来ましたね!!花山さんッ!!」
「ああ。」
「わあ・・・。とりあえず荷物預けて・・・もう温泉入ります?それとも町中散策に行きましょうか!?」
「名無は・・・どっちに行きてェんだ。」
「温泉入りたいですッ!!浴衣でこういうところ歩いて見たかったんで!!
あ・・・でも花山さんはまだそういう気分じゃないですか?」
「いや・・・。行くか。」
花山さんの口元は笑っているけれど、どこかいつもと雰囲気が違う気がする。
一応楽しんではいるようだけど・・・何か思うところがあるのだろうか?
街の風景に浮かれそうになるも少し予想を立ててみる。
・・・・多分、ここに来た事があると言っていたのでその関係じゃないかと思った。
花山さんは言葉にしないけれど、どこか懐かしんだり何かしらの思い出が蘇ってきてるんじゃないだろうか。
現に花山さんの今の表情は喜怒哀楽で言うところの楽に分類されるはず。
時々お店の看板を見上げて視線を止めるのは、何か思うところがある気がする。
「・・・懐かしいですか?ここ。」
「・・・・!」
そう問いかけると彼は驚いた顔で私の方を見た。
「・・・なんで理解った。」
「前に来た事あるって言ってたので、何か思い出してるのかなーって。」
「・・・ガキの頃とはいえ、覚えてるもんだな・・・ってよ。」
「良ければあとでその話聞いてもいいですか?」
「ああ。」
穏やかな花山さんの表情に、私の知らない彼を知れる喜びを噛み締めて石畳を歩いた。
「_____いらっしゃいませ。ご予約されていた苗字様で宜しかったでしょうか?」
「はい!二名です!」
「お部屋へご案内致します。こちらへどうぞ。」
二人して見上げる程の立派な佇まいの旅館に到着。
古風な構えの玄関をくぐると内装も一面和風。江戸時代にタイムスリップしたかのような雰囲気に私のテンションは上がる。
丁寧な案内から広い部屋に通してもらい、外を見ると他の温泉街の景色も見える良い場所だ。
案内図まで和風で書いてあるので旅館の随所までこだわりを感じながらとりあえず一段落。
「ふう・・・。では温泉に行ってきますね!また入ったらここに集合しましょう!」
「そうだな。」
「温泉と言っても種類が凄いですね・・・どれから入ろうかな・・・。」
露天風呂だけではなく岩盤浴や足湯。内湯の効能も多岐に渡るので巡るだけでも時間がかかりそう。
全部入りたいけどそれだとお店巡りが出来ないので、とりあえず景色が見えてお肌に良いとされる温泉から入る事にした。
(・・・ん~!!気持ち良い・・・東京と全然違うなぁ・・・。)
観光に来ているので当たり前といえばそれまでだけど。昼間から温泉に入って、視界に見える木々の自然に心癒やされる。
普段花屋に勤めている私だけれどこんなに青々とした緑に囲まれて鳥のさえずりを聞く事は出来ない。
美肌効果もあるらしいしお湯の柔らかさ・・・つまり湯ざわりが違う。家のお風呂の入浴剤は近いのだけれど、やはり本物とは違うのだと改めて思い知った。
ぽかぽかで温泉から上がると浴衣に着替えてさっぱり。通り過ぎた場所にマッサージチェアや卓球台といった娯楽が設置してあるのが見えた。
あとで花山さんと来たいな~と思いながら部屋へ戻る。
「あ、花山さん!ちゃんと温泉入れましたか?」
「ああ。良い湯だった。」
「それは良かったです!!」
花山さんは私より先に浴衣姿で部屋に待機していた。
花山さんの浴衣姿・・・。着物とはまた違って妙に色っぽくて少しドキドキしてしまう。
私と同じく肌がほっこり出来上がっていたので無事に入れたらしい。一安心した。
最低限の軽い荷物だけまとめると、いつもの靴ではなく下駄に履き替えて町中へふらりと出た。
天気が良いので湯冷めの心配もないはず。
「ソフトクリームに海鮮丼・・・。お饅頭にお団子に・・・どれから行きましょうか?」
「あんまり食うと夕飯入らねえな。」
「やっぱりそうですよね・・・。旅館のお料理って凄く豪勢でたくさん出てくるイメージありますし・・・。」
「気合い入れてるみてェだったしな・・・。」
どこか引っかかるような言い方をする彼。
どうやら温泉に入る前に旅館の人と何かお話したらしい。
「知り合いの方がいたんですか?」
「ああ。事前に連絡してたのもあったが・・・えらく歓迎されてよ。
あの旅館の親父さんがウチと仲良いもんで話がはずんだ。」
花山さんが言うには、組全体でお世話になっている人らしくて木崎さんも勿論覚えていたとか。
幼い頃家族で行ったきりだったから花山さんの記憶は曖昧だったけど・・・。でもここに来て少しずつ思い出してきたと語った。
「そこの風車の店・・・あんだろ。」
「はい。お面とか売ってて可愛いですね!」
「通り過ぎた時に来た気がしてな・・・。昔と変わらねえってのは、風情があって良いもんだ・・・。」
「花山さんにとって良い思い出なんですね。」
「ああ。名無に連れて来られなきゃあすっかり忘れてただろうな・・・。」
昔ながらの玩具を置いてるお店を向かい側の道から見守る。
真っ赤な風車にビー玉。今時珍しいおはじきや風船も置いてある。
きっと花山さんの知ってる時からこのお店はこういう場所なのだろう。
今も子供達が珍しそうに手に取っている姿に、私の知らない幼い花山さんを思い浮かべてみる。
「・・・小さい時の花山さん・・・可愛かったんでしょうねえ・・・。」
「ガキの時は誰でもンなもんだ。」
「ふふっ。他はどんなお店行ったんですか?」
「そうだな・・・。」
私の息抜きの為の温泉旅行だったけれど、なんだか花山さんの思い出を巡る旅になっている気がした。
花山さんはあまり自分の事を話そうとはしないし。ましてや幼い頃なんて木崎さんから聞かない限りあまり教えてくれない。
だからこうして花山さんの口から自然と語られる話が新鮮で、目を細めてどこかを見つめる景色が同じ事が嬉しかった。
「ん~美味しい~!!思い出のお団子屋さん・・・今もあって良かったです~!!」
「あン時何食ったんだっけか・・・。種類が増えて理解らねェ・・・。」
「いっそ新フレーバーも良いんじゃないですか?期間限定も美味しそうですよ!!」
「んじゃあそれにすっか・・・。」
記憶を探りながら、新しい思い出を作っていく。・・・なんてちょっとロマンチックな事を考えてみたりして。
食べ歩きなんて普段しないので、あえて二人共違うものを食べたりして分け合えるのも良かった。
川の流れや人の行き来を見ながらのんびりと過ごす時間が愛おしい。
ふと山の奥が紅く夕焼け色に染まっていくのを見て自然に夕暮れを告げられる。
お夕飯の事が頭によぎって、ライトアップされた川の橋を渡って旅館へとゆっくり戻った。
「では苗字様、花山様。お食事をご堪能ください。失礼致します。」
「わぁ・・・。す、凄い・・・!!」
旅館のお料理は豪華絢爛とは聞いていたものの、実際目の前に大小様々な器が食卓を埋め尽くすように並べられると圧巻の一言に尽きる。
お刺身に天ぷら。お肉にお吸い物。どれもこれも美味しそうでどれから手を付けていいか悩んでしまう。
とりあえず頂きます。と合掌すると花山さんが軽く袖をまくるのが視界に入った。
「食べ切れるか悩みますね・・・。」
「心配すんな。残ったら俺が食う。」
「・・・・花山さんなんだか気合い入ってますね?」
「ん?・・・そうか?」
花山さんは特に何も言わなかったけれど、黙々と小皿・大皿を平らげていくさまはご機嫌そのものだった。
私も美味しいお料理に舌鼓を打ってはいたが花山さんのスピードがいつもより早い。
それでもなくならない量ではあるが、声に出さずとも態度で示すので美味しいんだろうな・・・と横目に見て思った。
それにしても海鮮もどれも美味しい・・・!!時々「これ美味しいですね!」と声をかけたら「ああ」と短く返事がくる。
静寂の中に二人の箸とお椀の音だけが聞こえる。花山さんと食べる時はいつも何か話すけれど、今日だけは食べるのに集中して会話はほとんどなかった。
「ふぅ・・・。お、お腹いっぱいです・・・。ごちそうさまでした!」
「・・・ごちそうさま。」
どうにか食べきる事が出来たのでお腹いっぱいでその場に横になる。はしたないとは思うが今だけなので許してほしい。
途中で食べ切れそうになかった分は宣言通り花山さんが全部食べてくれた。満足そうな顔に私の頬も緩む。
ある程度動けるようになるまで地方のローカル番組を見たりしてのんびりと過ごす。いつもなら考えられない程ゆったりしているが今日だけはこんな一日でも良い。
地方独特の方言や見た事ないゆるキャラに癒やされながら時が過ぎていく。
知らないドラマが始まった辺りでようやく動けるようになったので、メインの温泉へと行けるようになった。
「花山さんっ!温泉の途中に卓球出来る場所があるんですが見ましたか?」
「ああ。名無はした事あんのか?」
「軽く打ち合うくらいは出来ます!あとで遊びませんか!」
「そうだな・・・やるか。」
「ではまたこの場で集合しましょう♪」
彼と卓球する約束をして、いざ天然の露天風呂へ。
温かいお湯に浸かって。ふと空を見上げると夜の星空が綺麗でまさに露天を肌で感じる。
(花山さんも見てるかな・・・。)
昨今混浴の場所が少なくなっているらしいのでこればかりはしょうがない。
彼も露天風呂を楽しみにしているようだったのできっとこの星空を見ているはず。
少し離れた場所にある男湯に思いを馳せながら、改めて一緒に来られて良かったなぁと喜びを噛み締めた。
友達も見るのもそれはそれで良かったかも知れない。でも私は花山さんと共通の思い出を一つでも作れる事がやっぱり嬉しかった。
「・・・あ。いたいた。花山さん、星空見ましたか?」
「ああ・・・。空気が澄んで良く見えた。」
「綺麗でしたね~♪」
露天風呂を堪能すると、やはり花山さんも星空を見ていたようで安心した。
天気も良かったし温泉日和だったのかも知れない。
卓球台はいくつかあって、カップルや友達同士で遊ぶ人達が見える。
私達もその中に加わって卓球する事にした。
「卓球って確か・・・11点でしたっけ?」
「・・・?」
「まあ気軽に遊びましょうか!」
残念ながら私達はそちらの筋に詳しくないのでちょっとうろ覚えで開始する。
とりあえず真剣な勝負でもなんでもないので軽く楽しめれば良いかなーぐらいに考えている。
カンッ コンッ カンッ
「よしッ!」
「ッ!」
シュバッッ
今なんか凄い勢いでピンポン玉が私の腕をすり抜けていった。
は、早い・・・!というか今のは本当にピンポン玉・・・?って疑う速度だった。
「は、はっやァ・・・!?凄いサーブですね!?」
「・・・・・。」
「これは私も負けてられませんね・・・。本気出しますッ!!」
久しぶりの卓球に感覚が戻ってきた私は遊びでなく本気を出さないと失礼だと感じた。
打っている内に感覚を思い出してきたのでこちらから仕掛ける事にする。
カンッ コンッ
「そこッ!」
「!」
花山さんの意識してる反対側ッ!!にスマッシュを決め込んだら流石に反応出来なかったみたいで点が入る。
でもスマッシュを決めた先は花山さんの反対の腕で、腕に当たってピンポン玉がこっちのゾーンまで跳ね返ってきた。
「・・・やるな。」
「えっと・・・これは一点で良いんですよね?」
「ラケットじゃねえからな。」
「うーん・・・そうですね!では私が一点で!」
凄い肉体だ・・・。と感心しながらもそのまま楽しく卓球を続けた。
結果は花山さんの目にも止まらぬ握力サーブ?で花山さんの勝ち。
腕や顔の傍をすり抜けていくあの早さは忘れられそうもない・・・。
花山さんは体育の成績5だったらしいから、学生時代対戦したかったなぁなんてぼんやり考えていた。
「もし一緒の学校だったら・・・どんな学園生活だったんでしょうかねえ。」
「なら・・・名無は先輩だな。」
「先輩?・・・ああ、そっか。じゃあ花山さんは後輩になるんですね・・・。なんか不思議な感じです。」
「俺もだ。」
私は上京してきた身なので花山さんとは出会う訳もなかったけれど。
それはそれで楽しい学校生活になっていたのかも知れない。
でも恋人同士になるかどうかなんて分からないから、やっぱり今のままが良いのかも・・・って空想をしながら部屋に戻った。
Next...