短編置き場
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ガタンゴトン... ガタンゴトン...
『次は~○○駅~。○○駅~。』
(今日も疲れたなあ・・・。)
行き交う人々と同じような服装で、同じように電車から降りる。
こうして職場や学校。どこかから帰ったり、今から向かう人だったり色々な人が交差する。
私は大学が終わって今から帰るところ。こんな何でもない日常を、私はいつも退屈に思っている。
「____あっ・・・!勇次郎さん・・・!来てたんですねっ!!」
「・・・・よオ。」
ふと駅のホームから少し歩くと、街頭に佇む漢が一人。彼は私の日々を塗り替えてくれる神出鬼没の"大切な人"。
お友達でもない。恋人でもない。けれど大切で、とてもかけがえのない人。
こんな人、世界のどこを探したって変わりはいないもの。
「今日はどこに連れてってくれるんですか?」
「ちいとバカンスだ。」
「また海外ですか?」
「今回は国内だ。安心しろ。」
「良かったあ・・・・。あんまり遠いと大学の単位がまた危うくなっちゃいますからね・・・。」
「ついてこい。」
「はーい♪」
私と彼の関係は不思議だ。彼の気まぐれに私が付き合い、私はそれを楽しむ。
この楽しみが私にとって大事な訳で。彼のいない日々はとても虚しくて、何をしたって楽しくもない。
友達はいるけれど上辺だけの付き合いで。趣味と呼べるものもこれといってない。
____そんな日々を塗り替えてくれたのは貴方。
初めて会ったのは、東京ドームの辺りだった。
「・・・・・・・・。」
いつ見上げても大きいなあ。東京ドームって。今日はどんな人達が何を観に来たのかな・・・。
私はよくここを通る。ここは私の通学路でもあり散歩コースでもあるから。
通る度にその景色を変える場所。ある時は野球のユニフォームを着た人達が集まり、またある時はアーティストのロゴが書かれたシャツを着た人達がいたり。
そして何もない日は、静まり返った大きな佇まいのドームが何かを待つように沈黙しているの。
私には趣味がないから、きっと他の人みたいに熱狂出来る何かを探してるんだと思う。
けれど何度通っても特に惹かれるものはないけれど・・・。ライブしていたバンドの曲を聞いてみても、やっぱり何も感じないし。
今日もライブなのかな。と思って表のポスターを見る。
「 」 「 !」 「 」
・・・?なんだか出入り口付近に人だかりが出来ている。なんだろう・・・。
野次馬に近寄るなんてあんまりしないんだけど、事故とかじゃなさそうだし・・・。
「ムエタイ5冠王だぞ!?何者だよアイツ!?」
「・・・・!!」
そこにいたのはチャモアンと呼ばれる黒人。どうやら神様とか呼ばれてるからかなり凄い人らしい。
でもそこに向かい合ってる人・・・・ッなにあれ・・・。挑発してるの・・・?これは喧嘩・・・?
赤髪の漢の人が何か話しかけている。
「ほんの少し相手してくれるだけでいい・・・。」
こっちの赤髪の人は日本語だ。日本人・・・なのかな。そしたら手をピンッとデコピンするようにチャモアンに向けて誘う。
やっぱり喧嘩みたい。野蛮だなぁ、と思っていたけど次の瞬間。
「シュッ」
小さく声を出した漢はデコピンで相手の蹴りを子供扱いし始めた。
「・・・・っ・・・・!」
その時初めて。何かに見入った。
なんの物事に関心もなく、興味が沸くものもなかった私の中に。"熱中"というものが出来た。
まさに熱を上げるようにその蹴りやパンチに。それを凌駕する手に、終始見惚れていた。
攻撃が効かないと分かったチャモアンが困惑していると、漢は顎先に向けて素早いデコピンの一撃をお見舞いした。
すると昏倒して相手は倒され、漢はニヤッと怪しい笑みを浮かべたまま東京ドームの中に消えていった。
・・・・何が・・・・起こったの・・・?あの人は誰なの・・・・?
消え去った方向にいつの間にか私は走っていて。でもそこには東京ドームの受付とライブのグッズ販売などの案内場しかなかった。
漢の行方を聞いてみても「そんな人は来ておりません。」とスタッフの人にあっさり言われてしまった。
白昼夢・・・?だったら今出入り口で救急車で運ばれていった相手は、夢だとでも・・・?
手がかりをなくした私は、家に帰ってまずチャモアンの事を調べた。確かにその筋では有名な人だと判明して、試合の動画なんかも見た。
_____いや、でも違う・・・。確かに心揺さぶるものは感じるけど、あの漢の人に比べたらインパクトが足りなすぎる・・・。
あの時の東京ドームで起こった事を調べたが当時やっていたライブの感想しか出てこない。
一体何・・・?あの漢はドームの関係者・・・?
数日経っても、数週間経っても、忘れられない。あの漢の事が。
名前も知らないけれどあの風貌だけは鮮明に覚えていた。だから私はあのあとも調べを続けていた。
(・・・・犯人は現場に戻る。ってよく言うけど・・・・。ここに来るのも何度目かな・・・?
もう何十回か来てるけど・・・・正直ここ以外当てがないんだよねー・・・。)
暫くして。私は大学終わりにまた東京ドーム周辺に足を運んでいた。
帰り道だから元から通っていたけれど、最近はあの光景が目に焼き付いて離れないからドームの周りをぐるぐると歩いていた。
そして広いドームを一周して帰る。いい散歩にはなるけど結局収穫はない。なんの手がかりにもなりゃしない。
だからこの日も諦めようと思って、また帰り道を歩こうとした時_____
「~~~・・・・ ! ~~ !?」
この声。誰かが話しかけている?けれどよく聞こえない。
普通の話し声にしては何か怖い感じがする。少し怒鳴り声が混じっているような。
声のあった方におそるおそる近づく。ただの喧嘩ならすぐに帰るつもりだ。
「・・・・・ッ!!」
そこにいたのは野球のTシャツを着た酔っぱらい。どうやら東京ドームのデーゲームが終わって、そこで酔ったのだろうか。
そして絡まれている漢は間違いなく・・・・赤髪の。私が探していたあの漢の後ろ姿だ・・・!!
「おっさんあの試合ど~おもう~!?俺絶対あそこは入ってねェと思うんだけどよォ~!?」
「・・・・・・・・・・。」
「ったく、これじゃあ帰ったってしけてんだよ~ッ!!俺の楽しみどうしてくれッってッらよ~!?」
どうやら酔いが回ってろれつが回っていない。だからこの漢の人の体つきが見えないのかも。
この体格・・・。あの時は気付かなかったけれど凄い筋肉をしている・・・。服の上からでも分かるその肉体に、あの風貌。
普通だったら声なんてかけない。むしろ"一番声をかけてはいけない"と素人目にも分かるはずなのに。酔いという感覚はおそろしいものだ。
「・・・ほお?それで・・・?」
「おっさんよォ~!だ~から俺の楽しみ返してって話なわけよ~っ!ひっく!なあ~?」
「・・・・ならばくれてやろうか?"楽しみ"ってやつを・・・・」
そういうと漢は片手を少しずつ後ろに下げていく。
・・・ッ明らかに、なにかしようとしている!!
「_____すんませんッッ!!それウチの連れですッッ!!」
って・・・・・あれ・・・?急に別の野球Tシャツの中年が、酔っぱらいの傍に駆け寄ってきた。
「すんませんッすんませんッッ!!おらっ、タクシー呼んだから行くぞッ!!」
「え~だってこの人がよォ~」
「その人はいいんだっての!!すんません、すんません!!すんません!!」
同じTシャツの中年は、そのまま漢へ平謝りしながら酔っぱらいを引こずってすぐさま去ってしまった。
どうやら同僚か友達なんだろうか。・・・・私はその場で少し"落胆"していた。
「・・・・オイ。」
「_____ッ!?」
ほんの少し。ほんの一瞬だけ目を伏せて考え事をしていた。
何故落胆したのか?何故私は残念がっている?なにに対して・・・?
その答えを見出す間もなく、低い声と影でハッと顔を上げると。そこには先程まで目線の少し先にいた赤髪の漢が目の前に立っている。
・・・話しかけられた?私が?
______真正面で漢の姿を見た時、頭が真っ白になった。
「・・・・・なん・・・でしょうか・・・?」
「なんだ、と聞きたいのはこっちの方だ。小娘、俺に何か用か・・・?」
私に尋ねてニッと笑う。何か用って・・・私が一部始終見ていたのに気付いていたの・・・?
少し冷静になろうと呼吸を意識する。深呼吸まではしなくていい。
とりあえず酸素を確保出来ているか、息は乱れていないか。それぐらいでいい。
「え・・・っと・・・。・・・・貴方は、ずっと前・・・・この東京ドーム周辺で、チャモアンと戦っていた人・・・で・・・合っていますか・・・・?」
「・・・・ああ、そうだ。ちょっとした遊びだったがな。」
この口ぶり。やっぱり間違いない。
やっと会えた・・・・!この漢に会う為、私は数ヶ月もこの辺りを彷徨っていたのだから・・・!
「・・・・貴方を探していましたッ!お名前は、なんというのですか!?」
「・・・小娘。人になにか聞きてェならまず自分から名乗るもんだぜ?」
「っ・・・失礼しました!私は苗字名無と言います。この前偶然、貴方の戦いを見てつい惹き込まれてしまいました・・・。
あの戦いを見て以来、どうしても貴方に会いたくて_____」
「知っていた。あの時、俺の斜め右方向・3列目から俺の指に釘付けになっていた女だろう?」
・・・・・・え・・・・?
ニヤリと愉しそうに笑うと、見事私がいた当時の位置を正確に当ててきた。
何故、そんなに覚えてるの・・・!?
「な・・・なんでっ、」
「あの群衆の中。間違いなく俺の戦いに一番興味を持ち、誰よりも俺の戦いを"愉しんでいた"奴だ。・・・匂いで理解る。」
「嘘・・・・。」
「それで俺の事が頭から離れず、今日の今まで俺を探し回っていたという訳だな。・・・ご苦労な事だ。」
・・・・ここまで全て見抜かれているとは思わなかった。
というか、私は愉しんでいた・・・?あの戦いを・・・・?そうなのだろうか・・・・・正直分からなかった。
「・・・全くその通りです。驚きました・・・・そこまで分かっていたんですね・・・。」
「今のを傍観していてお前は"少なからず落胆"したはずだ。俺の戦いがまた見れると期待して、何も起きなかったのだからな。」
「・・・・・・。」
この漢の人は心理士かなにかなのだろうか。ほとんど初対面の私の心を手に取るように見透かしている。
それは嬉しいという気持ちもあったけれど、何者かいまいち掴めない不安感も募らせる。
私の仕草で見抜いている?それとも本当に漢の言う匂いが存在しているのだろうか______
「・・・改めてお伺いします。貴方は、いったい何者なのですか・・・?」
「くくく・・・そうだな。知りたくば己の目で確かめろ・・・。」
「ちょっ・・・え!?どこへ行くんですか!?」
まるで私を試すように、漢は愉しそうに目を細める。そしてどこかへ立ち去ろうとした。
まだ何者かも掴めていない。ここで逃したら、次はいつ会えるか分かったものじゃない。
本当は危ない橋を渡ってるのかも知れない。もしこの人が悪い人間だった場合、私に勝ち目はない。
・・・・確かにそうだけれど。私の中の好奇心と本能が『前へ行け』と唆す。だから私は、息を飲んで漢の後へと着いて行った。
「ここって・・・・・。」
着いた先は巨大な高級ホテル。外観の派手さに圧倒されている中、さも当たり前のようにズカズカとホテル内へ入っていくのを見て急いで追いかける。
中も広いし、スーツを着た人達が漢を見るなり顔色を変えているのが分かった。
どこかの権力者・・・?それとも大富豪・・・?疑問は尽きない。
「お帰りなさいませ。・・・・そ、そちらの女性の方は・・・?」
「見りゃあ分かるだろ。"俺の連れ"だ。」
「大変ッ失礼致しました・・・。ようこそ、いらっしゃいませ・・・。」
深々と私に頭を下げたホテルの従業員の顔は青かった。表面上は笑顔だけれど冷や汗が滲み出ている。
そこからエレベーターで何十階も昇った先に、ようやく部屋へと辿り着いた。
「う・・・わァ・・・・・。」
入るなり早々、景色の広さと絢爛さにただただ圧倒される。こんなホテルなんて、人生に一度泊まれるかどうかのレベルだ。
勿論私が泊まる訳ではないが、気が付くと街全体を一望出来る窓から外を眺めている。
さっきまでいた東京ドームも小さく見える。うっかり本来の目的を忘れそうだ。
「・・・!?ちょっ、なんで脱いでるんですか!?」
ふと後ろを振り返ると、いつの間にか漢は服を脱ぎ捨てて下着だけの姿になっていた。
そういえばここはホテル。だから"そういう可能性"もない訳ではない。
慌てて漢から距離を取って、窓にへばりついているが向こうは全く気にする素振りもない。
「・・・・。」
そのまま足を高々と上げて、ゆっくりと下ろす。集中した一連の動作にさえ目を奪われる。
____凄い。服の上からでも分かっていたけれど、どこをどうしたらこの肉体が出来上がるのか?特に背中の筋肉なんかまるで人の顔のようにさえ見える。
何かのプロ選手・・・?でもいくら調べても出てこなかったし・・・裏社会の人間、とかなんだろうか・・・・。
「・・・・名無。お前は今・・・"退屈"してるな?」
「た、退屈・・・・ですか・・・?」
「・・・お前はあの時、退屈していた。そして俺が"退屈"を満たした。
だから脇目も振らず俺を探し求め、こうして辿り着いた・・・。」
「・・・・・・・。」
私はそう。退屈していた。だから刺激を求めて彷徨い、この漢に出会った。
この漢の事が知りたくて、こんな普段なら立ち入れないような場所まで来た。
本能の赴くまま。・・・頭がいっぱいになって、それ以外が虚無だと思える程日常を色濃くした人物だ。
「・・・どうだ。ひとつ取り引きをしねエか?」
「取り引き・・・な、なんのですか?」
「"俺がお前の退屈を満たしてやる"。代わりに名無は俺に同行するだけでいい。
・・・・良い話だとは思わねえか?」
とんでもない上から目線で、この漢は提案をしてきた。漢は私の事を何故か色々見透かしている。
だから私にこんな話を持ちかけているのだろう。
でも、なんの素性も知らない相手の提案を受け入れる程、私は警戒心がない訳ではない。ここまで来ておいてなんだけれども・・・。
「・・・た、確かに良い話ですが・・・。私はここに貴方が何者か知りたくて来ました。
まだ名前も聞いてない相手にそれを飲み込めというのは・・・ちょっと無理があります。」
「・・・・・・。」
「それに、私が同行する事で貴方にどんなメリットがあるのでしょうか・・・・?なにもかもピンとこないのですが・・・・?」
「・・・・フッ、そうだな。ならば親切丁寧に教えてやるとしよう。
俺の名は『範馬勇次郎』。周りは地上最強の生物だの、オーガだのと呼んでいる。」
「オーガ・・・・?鬼・・・・?」
「理由はそのうち理解るだろうぜ・・・。俺が誰よりも強エって事はお前が目の当たりにした通りだ。
あの時、東京ドームの地下で最大トーナメントとかいう"遊び"が行われていた。俺はそいつを暇潰しに観に行っていた。」
「ち、地下・・・!?最大、トーナメント・・・・!?」
にわかには信じ難い話が次々と飛び出してくる。どうやら東京ドーム地下6階。公にされていない場所で異種格闘技トーナメントがあったらしい。
そこで息子達とその他の面白そうな奴が参戦しているから、行ったんだとか。
飛躍した話に頭がふらふらしそうになる。けれど同時に"どんなものだったのだろう"という興味が湧いている自分もいて。
私は格闘技、というかあの時目にしたような"戦い"が好きなのかも知れない。そんな風に思った。
「・・・・少し信じられない話ばかりですが・・・不思議と理解出来ます。
"貴方が存在するなら"有り得るんだろうな、って・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・あれ?ならなんで私のような一般人が・・・・貴方について行ってもいいんですか・・・?」
「・・・俺も、刺激のない日々に退屈しているからだ。」
「・・・・えっ・・・・。」
そういうと彼は服を着て、冷蔵庫へ向かう。いかにも高そうなワインの先端だけを器用に切り落とした。
それを持ったまま深々と大きなソファーへ腰掛けた。
「地上最強ってのは退屈だ。この世にある武も、地位も、手の届くと理解ってしまえばなんの価値もなくなる。
この世の全てが取るに足らん。唯一満たせるのは"戦闘本能"だけだ。それをどうにかこうにかと、満足させる為に日々の"暇潰し"を俺は考えている。」
「暇潰し・・・・。」
「・・・・もう理解っただろう?あの群衆の中、お前は人一倍"戦い"を欲し、そして誰よりも毎日に"退屈"していた。」
「・・・・貴方と同じっ・・・・てことですか・・・!?」
「力という点においては比べるまでもなく0.1ミクロンとて似ない俺達だが、こと本能に関しては利害が一致している。
・・・ここまで優しく説明してやったんだ。改めて解答を聞こうじゃねエか・・・?」
ククク、と喉の奥で愉しそうに笑った彼。私は自分がここへ来たかった理由が"愉しみを求めていた"からだと分かる。
今までどんなに退屈な日々だったか。この人生、趣味がない故に周りの感情になんとなくついていこうと背伸びしてきた。
けれど・・・私は心の底からワクワクしたり、ドキドキしたり。そういった事をしたいはずだったのに。自分の感情に気付かなかった。
そんな感情を、気付かせてくれた。彼という、超弩級の刺激によって。私の本能と、心があの時から追い求めた。
「・・・・良いですよっ。さっきの提案受けましょう。」
「・・・・・。」
「でも私にも条件があります。」
「・・・・なんだ?言ってみろ。」
「・・・・・私は今大学生です。だから私にも生活というものがあります。
ですから、貴方の暇潰しに付き合うのは私の私生活に支障がない程度です。」
私が提案すると、彼の髪がどんどん浮き上がる。・・・ひいっ、怖い・・・・!!
さっきまで大人しかった彼の周りからオーラのようなものが見える。椅子の持ち手が何か歪んでいるような気がする・・・!?
「・・・・ほう・・・・。小娘の生活を害するなと・・・・この俺に命令する気か・・・・?」
「め、命令というか・・・。私は貴方を尊敬しています。凄く!!
ですが私も親のお金で大学に進学させてもらってますし・・・親孝行ぐらいはしたいんですよ。ねっ?」
「俺がその気になれば・・・・お前を無理やり掻っ攫う事も出来る。それを承知でほざいているのか・・・・?」
「うう・・・確かにそうですよね・・・。で、でも私達・・・似た者同士じゃないですか・・・?
それに私は貴方と仲良くしたいんです・・・。それだけは信じてくださいっ!!」
なんとか必死にお願いすると、髪は静かに収まっていき、オーラもいつの間にか消えていた。
酒を一気に飲み干して机にどかっと足を乗せると鼻を少し鳴らした。
「・・・・フンッ、仲良くか・・・。じゃれ合う気はないが、今のうちは聞いておいてやる・・・。」
「ほ・・・本当ですかっ!?良かったァ~!!」
「ここまで俺の欲求と一致する人間はプロ格闘技界だろうとそうは居ねエからな。
・・・・互いに最高の暇潰しを求めて。宜しくな、名無?」
「はいっ!!宜しくお願いしますっ!!」
・・・という訳で。この日から私と勇次郎さんの不思議な関係が構築された。
ある時勇次郎さんが動物を倒すと言えば海外まで飛ぶ。ある時勇次郎さんが国に挨拶に行くと言えばそれにも一緒についていく。
おかげで色んな経験も出来たし、英語も少し出来るようになった。・・・そりゃあアメリカ大統領を目の前にすれば誰だって覚えようって気になるし・・・。
"お友達"らしいストライダムさんによれば私は勇次郎さんのターゲットにされてるとか、良いようにされてるっていうけど。多分その通りだ。
けっこう振り回されてるし、行く先々で怖い目というかスリリングな思いも山程している。その辺の不良よりも多分刺激的すぎる日常を送っているに違いない。
____時は進んで今。今日も大学終わりで疲れているけれど、勇次郎さんの顔を見るとすっかり忘れてしまう。
今日はどんな事をするのだろうか?また、どこへ行ってどんな人と戯れるんだろうか?
愉しみで仕方がない。私は"勇次郎さんの事が好きだ"。
「・・・・名無。いつも思うが歩くのが遅エぞ。」
「お、遅いって・・・勇次郎さんのスピードについていける訳ないじゃないですかァ~!」
「俺に付き合ってんだ。そろそろ体力の一つや二つついても良い頃合いだろう?」
「そうですかねェ~ッ・・・・。」
「しょうがねえ奴だ。」
大学終わりの私に無茶を言う。そりゃあ座りっぱなしだから運動ではないけれど、一応勉学してる学生に遅いって言うものじゃない。
自由人な勇次郎さんは、呆れると私の方へ近付いてきた。
「わわぁッ!?」
「少し飛ぶか。」
「飛ぶって・・・!?漫画やアニメじゃないんですからァッ!?」
ひょい、とハムスターかなにかのように私を持ち上げるとお姫様抱っこで抱える。
けれど"飛ぶ"とか聞き慣れない事を言うので何か嫌な予感がする。首に腕を回して必死にしがみつく。
き、筋肉質だけれどとても触り心地が良い・・・。見た目ほど固くないんだな・・・って思っている場合じゃない!?
「み"やぁあーーー!!!??」
「うるせえ。騒ぐな。」
「ちょっ!?飛んでる!?てかジャンプですか、これ!?」
勇次郎さんの跳躍力は凄い。もう計り知れないので凄いとしか言えない自分が情けないが、ジャンプしただけで何mかは飛んでいるので言い方は間違ってない。
人を抱えたまま飛ぶ人間っているんだな。・・・いや、人間じゃなくて生物だったっけ。なら仕方がないか。
私は貴方と出会って、どれほどの"仕方がない"を心で思った事でしょうか。
「走るとお前がついていけねェだろうからな。」
「そ、そうですよね・・・うわあっ!?だって風速か音速レベルですもんね、きゃああっ!?
私の人体が持ちませ、ひゃあああ!!怖いいぃい!!」
「飛ぶたびにやかましいッ。降ろされてエか?」
「ひいっ、ここで突き落とす気ですか!?嫌です!!こ、このままで良いです~ッ!!」
「フンッ。最初からそう言えばいいものを。
・・・お前は俺の御馳走だからな。下手に扱やしねエから、もう少し慣れろ。」
「____はえ・・・?ご、御馳走・・・?
いや"ああーーー!!なんで平気で湖飛び越えるんですかーーー!!?」
な、なにか衝撃的な事を聞いた気がするが。とりあえず騒いでいて聞かなかった事にしよう。
私の勇次郎さんへの"好き"は、今のところLOVEじゃなくてLIKEなんですが・・・。
・・・・勇次郎さんの御馳走ってなんだろう?LOVE・・・じゃなさそうだし。
・・・え、獲物とか・・・?私・・・・いつか食べられるのかな?それはどっちの意味で・・・?
けれど私は・・・やっぱり好きです。貴方の突飛な行動も、力も、気高い性格も。
それならいつか・・・食べられても文句言えないかなァなんて。
それも貴方と私の"暇潰し"になるのなら。
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