短編置き場
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『一生・・・俺の傍にいてください。』
『いいの・・・?こんな私だけど・・・いいのね・・・?』
『君でなきゃだめなん_____』
プツン...
「あれ?名無、もう寝るの~?」
「うん・・・明日もバイトだし・・・。おやすみなさい。」
台所で洗い物してる母を横目に、テレビを消して早々に自分の部屋へと帰った。
あんなドラマ、何が面白いんだろう。何が一生俺の傍にいて、よ。
現実の恋ってあんなに上手くいかない事の方が多いのに。全然
パタン...
「はあ・・・・・。」
部屋の電気も消さずにベッドへ倒れ込む。天井にぶら下がる照明の紐が少しだけゆらゆらと揺れている。
確かに明日バイトなのも事実だけど、寝るにはまだ早い気がする。
最近こんな感じで何もせずただぼーっと天井眺めてる事が増えたなあ。何も考えてない訳じゃなくて、私なりの理由がちゃんとあるんだけども。
_______苗字名無19歳。誰にも話しておりませんが、今恋をしています。
恋と言っていいのか、大げさな感じもするけど頭から好きな人が離れません~って状態を恋だとするなら私は恋してるんだと思う。
けれどこの気持ちは誰にも言ってない。友達にも話してないし、私は恋とは無縁ですって顔をして世間と接している。
流行りのSNSにもそんな投稿は一切してない。理由は悟られたくない、隠したい。恥ずかしいとかではないの。ただそれだけ。
「・・・・。」
今は誰に見られる訳でもないのにネットの検索履歴をポチポチと消している。『恋愛 待受け』『好きな人 声をかける』などの項目は全部ゴミ箱行きだ。
警戒心が強いと我ながらに思う。本当に悟られたくないし、茶化されたくもない。何人たりとも私の気持ちに触れさせたくないから。
こうまでする理由は自分が一番良く
そうして何度目かの思い返しをする。こうして頭を何度も思い出で満たす。
ただこうしていたいだけだから______
『いらっしゃいませー。』
高校を卒業して暫く。私は学生の頃から続けていたアルバイトを続けたくて、フリーターになった。
学生の時に勉学に勤しんでいた時間がまるまる空いたのでいくつかのバイトを掛け持ちしながら生活をしている。
今は親元にいるが、貯金をしていずれ家を出るつもりでいる。そういうと両親も納得してくれた。
当時の学校の先生には『そんな事で将来はどうするんだ!就職しないのか!』とよく脅されたがアンタの人生じゃない。私の人生だし。と言ってやりたかった。
アルバイトはコンビニに始まり、ファミレス、ファーストフード店、本屋やネットカフェなどそれなりにこなしてきた。
そんな中で不思議と長く続いているのが花屋のアルバイト。そこが唯一自然に触れられるからか、なんか性に合っていた。
花は癒やされる。勿論それだけじゃ勤まらない事の方が多いけれど、この仕事にはやり甲斐があった。
『はあ・・・・花言葉、ですか。』
店長から程なくして言われたのが『花言葉を覚えておくといいよ』。占いの類みたいであまりピンと来てなかったけど、皆一様に花言葉の意味を信じるものだ。
あってないような言葉遊び。けれどそこに送る側への隠れたメッセージ性がある。そんな世界を知ったから、私は花屋を選んだのかも知れない。
なんともロマンチックで、何気なく家に飾ってあった黄色いガーベラの花言葉が『親しみやすい』だと知った時は思わず笑ってしまったっけ。
けれどこの花言葉を知る事で、一つだけ仇となった事がある。
それは、私の好きになった人は"片想いだと思い知らされた"からだ。
私の好きな人。それは花屋に時々来る常連客の一人で。
『いらっしゃい、ませ・・・・。』
その人と花屋で会った時。私は自分の息がつまりそうになったのを今でも鮮明に覚えている。
『・・・・・・。』
無口で、大柄な身体に、顔に大きな疵。白いスーツが"異世界の人間だ"と思わせる程この花屋に場違いな光景だった。
『あっ、いらっしゃいませ!花山さん!!』
『おう・・・・。』
『いつものですねっ、少々お待ちを!』
慌てた様子で店長が奥から出てきて、私と二人で薔薇の花束を作るよう指示された。
そうして出来た薔薇の花束を抱える彼。白いスーツに真っ赤な薔薇の花というのは色彩的にも本当に映える。映画のワンシーンのようだった。
『アリガトよ。』
『有難うございました!!またお越しくださいませーッ!!』
1万円出してお釣りは受け取らない。店長があんな直角90度の綺麗なお辞儀をするのはおそらく彼の前だけなんだと思う。
彼の名は花山薫。見ての通り裏社会の人間だ。この新宿の街を牛耳るヤクザで、伝説的な逸話は数知れない。
そりゃああんな見た目で普通の一般人だったら逆に驚きそうなもんだけど。そんな彼はこの花屋に月1で薔薇を買いに来るのだという。
『____だからね~、苗字ちゃん。あの人が来たらすぐ呼んでね。怖いだろうし、ハハッ・・・。』
『・・・・私、あの人怖くないですよ。』
『・・・・えっ?うっそだぁ~ッ!!苗字ちゃん強がっちゃってェ~ッ!!』
少し冷や汗を流したまま雑用をこなす店長。まだ緊張が抜けきれないのか少々早口で私に話しかける。
私はそれを、彼のいなくなった方をジョウロ片手に見つめて。店長の方を向かずに淡々と答えた。
『だって花山さん・・・・私の同級生ですもん。』
『・・・・・え?』
振り向くと目を丸くした店長。驚いているのはこっちの方だ。まさかこんなところで彼に会うなんて。
私が少し前までいたのは倉鷲高校という規律の厳しい学園だった。私はそこに花山薫というヤクザが通っていた事を知っている。
____というか生徒で知らない人間はいないレベルの有名人だったし。
1年の時と3年の時。私は彼と同じクラスだった。
その時は本当になんとも思ってなくて。一般人として素直に関わりたくないとさえ思っていた。
だって花山君は色んな先生から目付けられるわ、不良の騒動に私達まで巻き添えになりかけるわで毎月花山君関連の事件が起きていた。
なんで一緒のクラスになったのやら。なんでこんな学校に入っちゃったのやら。気が気でない日々は刺激的すぎた。
けれど花山君を恨んだりする事は一度もなくて。むしろ悪いのは先生や不良生徒側だと思っていた。
花山君絡みの問題は色々あったけど、彼自身普通に大人しくしてて、問題をふっかけるのはいつも周りだったから。
友達は花山君を煙たがったりもしていたが私はあまりその意見には賛同出来ず。
『花山君の方が可哀想だよ。』と言ったら『アンタ花山に惚れてんの~?』と軽く茶化されたのでこの頃から恋バナとやらが嫌いになった。
(毎月花屋に・・・。あの薔薇、誰かにあげてるのかな・・・。)
_____彼は公私問わずに礼儀正しいというか。律儀な人なんだなぁって。
学校では不良を叩きのめす訳でもなく、おおごとにならないよう相手を気遣ったやり方してたらしいし。
いつか学校帰りにお婆さんを横断歩道なしのところ一緒に歩いてるのも見ちゃったしな・・・。あんな姿みたら本当はヤクザじゃないでしょって思った。
それにプライベートでは薔薇の花を毎月、か。男子生徒が全員花山君に頭上がらなかった理由がなんか分かる気がするなぁ・・・。
・・・・それから数カ月後。
店長が急用の配達で留守にしていたある日の昼下がり。店員は私一人。
なにかあったら連絡取れる人はいるけど、今は別店舗にいる。要するに店番でたまたま取り残されたって時だった。
「・・・・・・あ。」
店の前に大きな黒い車が止まる。車の種類は分かんないけど、この細長いやつ確か高いんだっけ。
そんな事を考えていたら中から白スーツの彼が降りてきた。
店長いないな、どうしようかな。ラッピングしなきゃだよね、と一つ一つ問題を頭の中で思い浮かべては処理しようとする。
「いらっしゃいませ。ただいま店長が留守にしておりますので、私でよければ承ります。」
「そうか・・・・。なら頼む。」
薔薇の花にも種類がある。色や香り、大きさも様々。中でも彼が欲している薔薇は一際紅く、香水にも使われる品種。
確か扱ってる店もあんまりないとかで店長が自慢してたっけ。だから丁寧に扱わないといけないので少し緊張していた。
(これをこうして・・・・・こっち側に折って、次は・・・いッ!)
あ、やってしまった。実はラッピングはあまり得意ではなく任された経験もそんなにないので棘が指の先に刺さったみたい。
地味に痛い。今はラッピング中なので花山君から少し離れたところで作業している。とりあえず条件反射で利き手を下げる。棚を開けて絆創膏がないか調べる。
うーん絆創膏ないな。皆怪我した時どうしてんだろう。事務所にあったようなそうでないような・・・・。
______と思ったら作業台が暗くなる。顔を上げてみると花山君が向かいに立っていた。
「・・・な、なんでしょうか・・・?」
「・・・・・ん。」
すっと作業台に置かれたのは鮮やかな色のハンカチ。ポケットから取り出したのに綺麗な四角形に折りたたまれている。
「い、いいえそんな。大丈夫です、少し刺さっただけですので・・・。」
「いつかの借りだ。・・・返さなきゃなんねェと思ってた。」
・・・ん?花山君は一体何を言って・・・・。
・・・・と思ったら、このハンカチを見るとどこかで見覚えがあった。
「・・・・・あ・・・・。」
これってもしかして・・・昔私が花山君にあげたハンカチだ・・・。
高校1年の頃。不良生徒からの陰湿なイジメを受けた花山君は、教室の扉に仕掛けられてたカミソリで手を怪我していた。
血が流れてるってのに誰も怖がって近寄らないんだもん。だから私が保健室に連れてったんだけど、あいにく先生居なかったんだよね。
『先生いないと絆創膏の位置分かんないな・・・・。』
『・・・・苗字、大丈夫だ。』
『その怪我で大丈夫じゃないでしょ。・・・・しょうがないから、手貸して。』
そう言って私は、持ってたハンカチを花山君の怪我してる指にゆっくりと巻きつけた。
彼は驚いてたみたいだったけど、私はなんとも思ってなかったのでその視線に気付かぬふりをした。
『とりあえず応急処置だけね。あとでまたちゃんと見てもらいなよ。』
『・・・有難う。』
『いいよ。そのハンカチもう古いやつだったし、返さなくていいから。』
誰かと噂話になるのが嫌だったのもあって、そそくさとその場をあとにしてしまった。
_____まさか今になってそれが戻って来るなんて。
しかも古いはずだったハンカチはかなり綺麗になっている。いや、綺麗どころか新品じゃないだろうか?
「・・・このハンカチ・・・もしかして同じのわざわざ買ってきてくれたの・・・・・?」
というか私が同級生な事いつから気付いてたんだろう。まあ何年か同じクラスだったしたまたま覚えてたのかな。
「・・・・・。」
「・・・ふふっ。有難う、花山君。」
「・・・・やっと、
「えっ?」
見上げると、彼もまた穏やかな笑顔で私を見下ろしていた。
・・・・・なによその顔。ずるいっ・・・。
そっちこそ、学校じゃあんまり笑わなかったくせに。そんな顔も出来たんだ・・・。
「・・・っはい。花束出来ましたよ"お客様"。」
「・・・・ん。」
「いつもの通り、一万円お預かりです。・・・有難うございました。」
「・・・また来るぜ。」
そのままいつもみたいに、満開の薔薇の花束を手に彼は車に戻っていった。
店長に見せてるカッコいい澄まし顔じゃなくて。友達のように優しい表情で。
・・・・いつかの時みたいに、車が消えてもそのまま車が走り去った方を一人見つめていた。
「・・・・花山君・・・・。誰に、あの花束あげるのかな・・・・。」
ポツリ、と呟いた瞬間。胸がキュッと締められるような痛みを感じた。
戻ってきた新品のハンカチ。そのまま絆創膏を探して、すぐ洗ってからカバンの中に大事にしまっておいた。
______そこから今に意識が戻ってきて。自分の部屋に飾られているガーベラを見つめてふと思う。
黄色いガーベラの花言葉。それは『究極の愛』でもある。究極ってなんだろう。一生を捧げるような、何があっても傍にいますって感じの愛なのかな。
だとしたらそれは恐らく叶わない・・・。だって彼の持ってるあの薔薇の花言葉は。
(『熱烈な恋』『情熱』『貴方を愛しています』・・・・。薔薇のように真っ赤な愛情・・・とでも言いたいのかな・・・・。
絶対好きな人いるんだろうな・・・・。こんなんなら、花言葉の意味なんて知りたくなかった・・・・。)
花山君が惚れるような人ってどんな人なんだろう。きっと私みたいにぶっきらぼうじゃないし、もっと器用な人なんだろうな・・・。
紅い薔薇の花言葉には『美貌』というのも含まれる。だから美人さんなのかな。
考えだしたら止まらない。・・・そもそも彼が花言葉なんて知ってるとも思えないけどね。
でも思い返さずにはいられない。どうして学生の頃、もっと素直にならなかったんだろう。どうしてもっと、優しくしてあげなかったんだろうね・・・。
(きっとあの"花山薫に惚れてる"なんて誰かに知られたら・・・否定されるのも目に見えてる・・・。
昔でもきっとそうだけど、社会人間近な今なら・・・まともな人を探せって言われるのがオチだ。・・・諦めろって言われる。
_____だから言わない。絶対誰にも言わない。私は私で、勝手に思って、勝手に失恋したいだけ。
その日が来るまで・・・なーんて都合の良い事だけど・・・・そんな時が恋って一番楽しいものなんでしょう・・・?)
誰かに言われた訳でもない自問自答を繰り返す。自嘲ぎみに笑って、そのまま目を閉じる。
いつもこうして、色々考えてる間に寝なきゃいけない時間になってるの。だからちょうどいい。
私の恋は、これぐらいで十分なはずだから。
☆クローバーの花言葉にはこんな意味があるよ!☆
酒と煙草が置いてある机の横に、場違いなほど可愛らしい手書きの紙が置いてある。
これは前、ハンカチを買った時についてきた紙だ。なんで俺がこんなもんを持ってるのかっつーと、なんとなく捨てられねェ気がしたからだ。
ハンカチをやった相手は花屋の女。つってもそいつは俺のかつての同級生だ。
昔俺が怪我した時に、その女・・・"苗字名無"が俺にくれたもんだ。
このハンカチは古くなったんでいい。と当時言われた。だが貰ってばっかで返さねェなんて訳には行かねえ。
だがどこに行ってもそのハンカチは売ってなかった。他の奴にも探させようかと思ったが、"俺がとあるハンカチを探してる"なんて笑い話にしかならねェ。
似たような店を回ってみたり、あちこち調べたりしたんだがどうも同じようなのが見当たらなかった。
そうこうしてる内に忙しさのあまり学校は卒業しちまって。仮に見つけても渡す機会がもうねェんじゃねえかと思ってた。
・・・だが改めて調べ直してみると、店舗は少なくなったがとある雑貨屋で売ってる事が判明した。
ただ場所が県外だった。仕方がねェが適当な理由を付けて出かけて、そいつをどうにか手に入れた。
「・・・・・。」
自室に戻ってハンカチを見る。すると一緒に付いてた小さい紙に、手書きで花言葉とやらの説明が書いてあった。
花には花言葉っつー言葉の想いが込められてるらしい。
どうやらそのハンカチに書いてある模様がクローバー。それには色々意味があるらしい。
☆クローバーの花言葉にはこんな意味があるよ!☆
☆葉には「希望」「信仰」「愛情」「幸福」。クローバーは「幸運」「私のものになって」だよ!☆
_____よく
俺を気遣ってくれた女が
それに・・・俺は苗字に言えねェ事を想ってる。
学校でのあいつは、俺に対しても誰にでも平等に接してた。そこが俺は気に入ってたんだが、あいつは学校であんまり笑わねェ奴だった。
普通学生ってもんは、もうちょい
だがあいつは
気のせいだと良いんだが・・・俺も周りからそういった顔をされねェ日はねェ。だから
そんなある日だった。
俺が学校に来た時、早朝で他の奴もまばら。日直だった苗字が教室の花の水換えをしてた。
「・・・・・・。」
_____あん時初めて見たな。笑った顔。
あいつは多分、花が好きなんだ。俺と同じで。
大事なもんが壊れねえよう見守るような瞳。口元が隠しきれずにふと溢れるように口角を上げる。
苗字が笑ってんのは花に触れてる時だけみてェで、他の奴に声をかけられるといつもの
普段もあんな顔してくれたらちったあ可愛げがあるんだがな。そんな事言う程野暮でもねェけどよ。
たまに回ってくるあいつの日直時に、何度か笑ってた事がある。『今日は良い日になるかもな』と内心思ってたのは内緒だぜ。
学校卒業して。たまたま苗字が花屋で勤めてるのを知って正直安心した。あいつは、好きなもんに就けたみてェだな。
だからハンカチを返す時、この紙だけ引っ剥がして渡した。
あいつからハンカチを貸してもらった時に俺がもらった運を、返したかったからだ。
あの笑顔がいつまでもあそこに居てくれんなら、それで良い。都合の良い事だが、俺からすればそれで十分だ。
ちょうど花言葉の意味もだいたい一緒だしな。
「・・・・・・・・。」
紙を見つめてたまに思い返すのが、幸運や希望だけじゃねェ花言葉。
・・・・・『愛情』やら『私のものになって』か。言えたら苦労しねェよ。
あいつは自然にある花みてェに、そのままにしとくのが良い。俺みたいなんが引き千切っちまう権利はねェ。
薔薇の花はおふくろに。苗字にはハンカチのクローバー。
「・・・・・・。」
一人部屋でふっ、と顔が笑う。
あの時のお前と同じように、今の俺も笑えてるだろうか。
fin