短編置き場
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\わー!/ \頑張れー!/ \負けるなー!/
とある武道会館に響く歓声。今日は神心会にとって重要な大会の日。
武舞台の袖には名無と、それを応援する後輩達の姿。
今ここで。空手女子部の決勝戦が行われようとしていた。
「苗字先輩頑張ってください!!」
「き・・・緊張してないですか!?お水まだ間に合いますよ!?」
「_______________何そっちの方が緊張してんのさ。大丈夫だよ・・・・あたしは冷静だから。」
落ち着かない様子の後輩をよそに名無はやる気十分。
それなのに妙に冷静で周りに笑顔を見せていた。
『西側から、苗字名無選手ッ!』
「ん・・・・・行ってくるね。」
審判の掛け声で振り返り、いざ決戦の地へ。
武舞台に上がると自分より大きな選手が相手だった。
(漢よりは小さい・・・・。ま、そりゃあ末堂ほどの女の子なんている訳ないもんね。
_______________色んな意味で。)
けれど名無にとってはこんな場面過去に何度もあった。
不敵な笑みを浮かべると相手は挑発だと思ったのか睨み返してきた。
緊張感漂う空気が周りにも伝染する。
『正面に礼ッ!お互いに礼ッ!
構えてッ・・・・・・・
審判の合図で試合開始。火蓋は切って落とされた。
____だが、以下の試合内容はあってないようなものだった。
隙をつく・先に仕掛ける・スピードが
そんな当たり前の事を繰り返しているうちになんだかポイントを先取していたようで、結果は見えていた。
『勝者ッ!!苗字名無選手ッッッ!!』
「キャー!!先輩勝ったーー!!」
「一本勝ちだ・・・・凄い・・・!!」
「カッコイイです苗字先輩ー!!」
あっという間に勝利を物にしたように見えた。
後輩達の黄色い声が聞こえてくる中、名無は爽やかに笑って一言。
「_______________有難うッ!これも応援してくれた皆のおかげだよ!」
そんな笑顔がまた。後輩達を虜にしていくのだった。
するりと優勝してしまった名無。
勝利インタビューではこれまた爽やかに言ってのけた。
「____________これも、先輩や後輩。応援してくれた皆との絆あってこそです。私一人の力じゃありません・・・。
だからこれからも、この結果に甘んじることなく精進していきますッ。有難う御座いましたッッ!!」
大喝采の中余裕とも言えるコメントを残して締める。
大会で名無が優勝するなんてわりと何度もあった事。皆の目には"規模がどうだろうとこの人には関係ない"。
そう思わせる程、この時の名無はカッコ良く映った。
_______________控え室に戻る廊下。
名無の部屋の前には館長・愚地独歩を始めとするメンバーが待っていた。
愚地克巳・末堂厚・加藤清澄。いずれも神心会が誇る手練ばかり。
そのメンバー相手に、名無は笑顔で歩み寄る。
そしてその歩みはどんどん早まっていく。
「_____________・・・・・・・きーーーよーーーすーーーみーーーーッッッ!!」
一番に名前を呼んで即飛びついたのは加藤だった。先程のカッコ良いオーラは全くと言っていい程ない。
加藤は全力で抱きつきに来た名無を全身で受け止めナイスキャッチ。
余裕でそのままくるくると回転した。
「_______________やったぁっっ!!やったよ、優勝したよあたしぃっ!!!」
「おめでとさん名無ッ!!随分余裕そうだったじゃねーか!?」
「へへっ・・・あんたや末堂に比べたらマシよ♪途中ちょっと危なかったけど・・・。
これでまたあんたに一歩近付いたんだし、今度組手してよね?」
「えー・・・どうすっかな~?」
こっちが完全に素の名無。この姿を知るのはこの面々と一部の仲の良い者だけである。
楽しそうに笑う二人にはどうやら周りは一切見えていないらしい。
そんな様子を横目に克巳がボソッと呟く。
「・・・・・なァ末堂。」
「なんスか?」
「・・・・・なんであの二人まだ付き合ってねーんだ?」
「さあ・・・・。同期の俺が聞きてえっスよ。」
二人はイチャついているようにしか見えないが別には付き合っていない。あくまでも同期としての触れ合いらしい。
昔からこんな調子だと知っている同期の末堂。最早当たり前の光景なのでこれぐらい見慣れていた。
「普通こういうのって俺か親父に抱きつきにくるよな~・・・?そう思わねェ?」
「いやァッ・・・・・それは分かんねえですが・・・・。」
「んははッ!まあ良いじゃねーの克巳ィ!!
・・・・今日は名無の祝いだ。早速今晩イイトコ飲み行くか~!!」
「良いんですか館長っ!?有難う御座います!!」
優勝した際飲みに行くかどうかは大会の規模によるが、今回はそれに足る十分価値のあるものだった。
独歩曰く今回の"イイトコ"はなかなか予約の取れないところらしい。
どうやら元々優勝すると見越して予約していたとみた。
「名無ちゃん!女子部の子達にはもう声掛けたわよ!」
「女将さ~ん!!有難う御座います~!!」
姿を現したのは独歩の妻・夏恵。実は『名無なら優勝するだろう』と最初に言い出したのは夏恵だ。
名無が抱き着くと照れる様子もなく背中を優しく叩く。女子部の皆や名無にとっても母親のような存在だ。
名無にとっても頼りになるというか、素を出せる存在なので存分に甘えられる。
「あらあら?大会終わったばっかりなのにまだまだ元気な娘さんね?」
「だって本当に、今回の優勝は女将さん達の支えあってですよ?だから私はまだまだ元気ですっ!!」
「じゃあ次の大会も余裕ってとこかしら?」
「も、もうっ!女将さんってば気が早いんだから~!!」
「ふふ、頑張ってね!」
笑い声に包まれる廊下。こうして和やかな空気になるのもいつもの事。
武闘派集団・神心会空手の表には見せない姿がここにはあった。
______その日の夜。
「そんじゃ・・・・神心会空手女子の部優勝を祝してッッ!!」
『かんぱ~いッッ!!』
独歩の音頭でそれぞれの机から一斉にグラスが持ち上がる。
今回のメインである名無は女子部の真ん中ではなくいつもの席にちゃっかり座っていた。
「清澄ー、サラダ取って。」
「自分で取りゃ良くねーか?」
「だって清澄の方が近いじゃん。」
「めんどくせーな・・・・・。ほらよ。」
「わーい♪それじゃあお礼に枝豆あげる♪」
「お、サンキュー!」
名無の隣はいつも加藤。同期の頃から変わらぬ光景で当たり前になっている。
こうしている方がお互い安心するというのには二人共気付いてないらしい。
女子部の面々も仲の良い友人同士で組んでいる為、名無の事は特に気にしていないようだ。
「おう、お前等デキてっかァ~?」
「うわっ館長!?ていうか、もう出来上がってますよね・・・。」
「んははは!!俺が酒に酔う訳ねっだろお~名無~♪」
「館長始まる前に出来上がってたなこりゃ・・・。」
そこに独歩が酔って近くの奴に絡みまくる。それもまたいつもの光景。
たまたま近くにいた二人は見事ターゲットにされたらしい。
「んまあ~、今回は名無の優勝記念みてえなもんだしなァ~。」
「他の子達も頑張ったじゃないですか。あたしだけの成果じゃないですよ。」
「だが一番強ぇ女はお前ェよ。流石神心会女子部のエースだわな~ッ!」
「あらあら独歩ちゃん。女の子に強いってのはあんまり誉め言葉になってないわよ?」
「女将さんッ!」
「夏恵ぇ・・・・。」
名無達に絡む独歩の後ろにいつの間にか立っていた夏恵。
ふらふらと歩き回る独歩を頃合いだと思って迎えに来たんだとか。
「いえ・・・・あたしは強いって言われる方が嬉しいですよ。」
「無理しなくても良いのよ。女の子はいくつになっても女の子なんだから・・・。
腕っぷし強くても、身長が高くても、何時だって乙女でいいのよ。」
「・・・・・・・・。」
女子部をまとめる夏恵には、うっすらとではあるが名無の気持ちが伝わっていた。
名無は己の強さに絶対的な誇りと自信を持ってはいるが、素の部分を見ると一人の女子であるのもまた事実。
『強い女』と言われて嬉しい反面どこかで"女子としての名無"も存在している訳で。
「さ、席に戻りましょう独歩ちゃん。」
「夏恵が注いでくれんなら戻るぜ~。」
「はいはい。」
元の席に戻る二人の後ろ姿を見つめて複雑な心境になっていた。
そんな事を言われると少し困惑してしまう。
「話終わったかー?」
「うん・・・いつも通り館長のべた褒めだよ。」
「だな。途中俺話聞いてなかったわ。」
「・・・・あ、そう・・・。」
他愛のない話なので名無自身も気にしてはいないが、たまには気に止めてほしいと思ったりする。
______何を隠そう。名無は加藤に想いを寄せているからだ。
けれどこの"同期"は自分をそんな
きっとこの漢の頭は『強いか弱いか』の判断基準しかない奴だと思っている。
「なあななし。唐揚げ取ってくんね。」
「え?・・・・えー、自分で取れば?」
「ななしの方が近ェだろ。それにさっきサラダ取ってやったろ。」
「はいはい分かったよー・・・。・・・・・ほら、レモンは勝手にどうぞ。」
「サンキュ♪頼りにしてるぜななし♪」
頼りにしてる、が若干嫌味に聞こえてしまうのはきっと加藤の方が強いからか。
でも些細なことでも頼りにされて嬉しいような気持ちもあった。
やはりここでも名無の心情はちょっと複雑である。
「どーいたしまして・・・。・・・・じゃあなんか一個ちょうだい?」
「やらねえよー。それとこれとは別だッ。」
「・・・・清澄のケチッ!!唐揚げ一つ取るからいいッ!!」
なんだか無性に腹が立ったので唐揚げを箸に刺して奪い取った。
既にレモンがかかってあったが別にそんな事はどうでもいい。
「あ、こんの!俺んだぞ!?」
「元々はあたしが取ったんですぅー!」
「んだとななし!調子乗りやがってェーッ!!」
ワーワーと騒いでいるのも周りからすれば最早恒例行事みたいなもの。
誰も気に留めないし、誰も止めに入ろうともしない。
今回名無の機嫌が悪いのはいつもと違い、ちょっとひねくれた乙女心だからだなんてのは一体誰が
きっと、誰にも分かりはしないだろう。
「・・・・・・・。」
それから数時間経った頃。
言い争いもそこそこに、名無の箸は止まっていた。
お腹がいっぱいなのも原因の一つだが『酒は好きでも強くはない』タイプだからだ。
なので睡魔が襲ってきて時々頭が上下している。
「清澄くーん・・・・。眠いー・・・。」
「・・・ま~た眠くなるまで飲んだのか・・・・。程々にしろって言ったろ?」
「聞いてませーんだ・・・・。」
「ったく・・・・・。
ほらよ、大人しくしとけ。」
そうやって文句を言いながらも加藤は片膝をポンポン、と叩く。
すぐさま名無は膝にごろんと寝転がる。
膝枕というのは大抵女性が男性にするものだが、この二人にとっては逆が当たり前だった。
加藤の呆れ顔を見上げると、上機嫌に頬が緩む。そのまま暫く瞳を閉じた。
「______・・・・ななし。おい、起きろ。帰るぞッ。」
何かの声がして薄目を開ける。名無の視界にはあいかわらず加藤の姿。
どうやら飲みの時間が終わってしまったようでもうお開きの時間らしい。
「・・・・・・帰り送ってよ~・・・。」
「自分で歩け。」
「んう~・・・・無理・・・・。」
「毎ッッ回そんなだといつかお前だけ置いてくぞ・・・。」
そんな事を言っても名無の耳には聞こえているやら聞こえてないやら。
多分耳には入っているのだろうけど睡魔に勝てず返事が出来ないとみる。
なので加藤は一言ため息をついて呟く。
「・・・・・しゃーねーなァ・・・・。」
リュックでも背負うように、背を向けた状態で名無の手を取って自分の首元に回してやる。
手は膝を支える形でゆっくり立ち上がった。
「しっかり掴まれよ・・・。」
「・・・・・ふふ、あいあいさー・・・・。」
「こんな時だけ起きやがって、こいつ・・・・。」
要するに名無をおんぶした状態で店を出た。
背中に乗せられている温かさにまたニコニコと微笑んだ。
そして名無は安心しきった顔で、また眠りについてしまったのだった。
『清澄・・・・・。』
『なんだ?』
『・・・・・・・・好きだよ・・・。』
『・・・・何言ってんだ。俺もだよ・・・・。』
『・・・・・ふふ、嬉しい・・・。』
ふわふわと気持ちの良い夜空。笑う星々。見守るお月様。
名無は幸せな夢を見ていた。
とても乙女チックで、誰にも分からない。名無にしか分からない、女の子の見る夢そのもの。
こんな夢を見ているなんて、きっと誰に言っても分かってもらえない。
「______・・・・こいつ、なんか笑ってるぜ。一体どんな夢見てんだかな?」
ただ一人。その微笑みに気付いている人物を除いては。
「・・・・加藤。お前いい加減ななしに告れよ・・・・。」
「バッ!?バカ野郎ッッ!!ななしに聞こえたらどーすんだよッ!?」
「寝てるじゃねーか思いっきし。」
実は加藤も名無に想いを寄せていた。
それは同期の末堂くらいにしか言っていないが、とっくに周りにバレてる気がしないでもない。
帰り道は同期の3人組だけ。途中末堂は別れるが、いつも加藤だけは名無を家まで送り届けていた。
「だってよォ・・・・。いつかお前がいない時に俺がおぶったらななしなんつったと思う?
『・・・・寝れないから誰かと思ったら末堂じゃん。ゴツゴツしてるから違うと思った!!』
っつって降りてすげー拗ねられたんだぞ・・・・。」
「・・・・へッ。まあ俺がいつもこうして送ってるしな・・・・。
お前にゃこの役目は渡せねーよッ。」
「ならななしに告れって・・・・。絶対両思いだぞお前ら。」
「う、うっせェーな!!俺には俺のタイミングっつーもんがあんだよッ!!」
二人が言い争っても名無は全く起きる気配なし。というかまだ微笑んでいるのだから気付いてないのだろう。
加藤は名無が目を覚まさないかとヒヤヒヤしていた。多分はぐらかせば大丈夫とは思うがそれでも本音なので気が気ではない。
「んじゃあーな。末堂。」
「おうッ、じゃあなお似合いカップル!」
「っるせーなこの酔っぱらいッ!!」
そのまま結論が出ないまま末堂と別れる。そこから名無の家までゆっくりマイペースで歩いていった。
先程の騒がしさが嘘のように静かで、傍で名無の寝息が聞こえるだけだった。
「______っと・・・。落ちるなよ・・・・。」
少ししてから名無の家に辿り着く。加藤は器用にポケットから預かっていた鍵を取り出す。
名無を落とさないようになるべくそのままの姿勢で、手を鍵に近付けてそのまま開ける。
どうにか中へ入ると自分の靴を脱いで名無を一回寝かす。
名無の靴も脱がせてから、態勢を抱っこに変えて奥の部屋へ。
一見難しい作業のようだが、一連の動作もなかなか手慣れたものである。
飲み会の度にこうなのだから嫌でも慣れると言ったところか。
「・・・・・・。」
「・・・・・ホント、毎度の事ながら気持ち良さそうに寝やがって。俺の気も知らずに・・・・。」
やっとこさベッドの上まで運んで一息。これでこのまま朝までぐっすりなのは余程加藤に気を許している証。
静かに布団をかけてやると、ふと名無の顔をじっと見つめる。
(これ・・・・・・もしかすっと・・・・。
・・・・・・このままキスしても・・・・・バレねえ、よな・・・・・?)
さっき末堂に言われた『絶対両思いだぞ』という言葉を思い出す。
なのでイチかバチか。息を潜ませて顔だけ近付けてみる。
そっと目を閉じて。徐々に名無の吐息が間近に迫るのが分かった。
「・・・・うぅん・・・・・。」
「____ッッッ!!」
急に声がしたもので起きたかと思って瞬時に離れる。
けれども寝返りを打って加藤の方を向いただけ。やはり起きていないようだ。
「・・・・・・・・・寝言・・・・かッ・・・・!?
・・・・・ま・・・・・・キスすんのは告ってからでも遅くねえよな・・・・。」
ここではタイミングが違う、となんとなく感じた加藤。
自分に言い聞かせると笑ってまた近寄る。
「・・・・おやすみ、名無・・・。」
おでこにちょっと触れるだけのキスを落とす。
今はこのぐらいの距離。いつか近付けるなら、そんな日が来るまでの楽しみに取っておく事にした。
扉を閉めるとやはりまだ笑っている名無。
いつか、互いの夢が現実になるだなんてまだ考えられないけれど。
______こんないつもの日々が、とても大好きで。ずっと一緒にいたいと二人して思っているのであった。
fin