短編置き場
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『むか~しむかし・・・。ジャックというずる賢い悪人がいました。
悪行ばかり働き、酒ばかり煽る男に地獄から来た悪魔が魂を取ろうとやって来ました。
ですがジャックはそんな悪魔さえ騙し、"永遠に魂を取らない"という誓いまでさせてしまいます。
その後寿命で死んだジャックは、悪行ばかり働いた為天国にも行けず、魂を取らない約束をしたから地獄にも行けませんでした。
そこでジャックはカブをくり抜いてランタンを作り、この世とあの世の境を永遠に彷徨うのでした・・・・・__________』
「・・・・・・・。」
「よっし、出来た!」
ここは名無の部屋の一室。散らかりまくった部屋に異様な継ぎ接ぎだらけで怪物姿の漢が一人。
周りには何があったのかと思うようなペンキや物騒な刃物のようなものがたくさん散乱している。
魔女の姿をした彼女は一息つくと不気味に笑い出した。
「ふふふ・・・・・これで人々は私たちに注目する・・・・。
そして、今宵の甘き果実を全て手中に収めるのよ!!あははははーーっっ!!」
「・・・・楽しそうだな、名無・・・。」
「そりゃあ楽しいわよ!!今夜のパーティーに全力投球してるんだから!!」
「・・・ゼンリョクトウキュウ・・・?」
・・・これは全部都内で行われる大々的なハロウィンパーティーに向けての準備だった。
血塗られたノコギリも、怪しく光るランタンも、よく見れば小さくジャック・オー・ランタンが刻まれている。
パーティーでは皆仮装して、怖い格好をしている人ほどお菓子が貰えるシステムらしい。
正直お菓子目当てでジャックを誘ったに等しかった。
「ふふふ、今夜はパーティーだから堂々と表で薬飲んでも大丈夫だよっ!むしろ迫力あるしオーケー、オーケー!」
「・・・いいのか?一応お前は"カンゴシ"じゃあないのか?」
「普段ナースの苗字名無は、今宵だけ甘い誘惑に魅了された黒魔術の魔女よ・・・!
病院なら止めるけど生憎仕事とプライベートは別だから。どうせ皆ラムネにしか見えないってー、大丈夫大丈夫!」
この名無の言葉にはかなりの矛盾がある。まず看護師の身でありながら患者のジャックと付き合っている事。
そしてこのハロウィンパーティーに誘った場所も元はと言えば病院の一室だ。
公私混同しまくった果てに今があるのを名無は棚に上げていた。
「・・・・名無が言うならそうしよう。好きにさせてもらう。」
「いつものジャックでいいから、周りが騒がしくても気にしないでね?
途中カボチャ齧ってもらうくらいは頼むかも知れないけど・・・。」
「今夜はフランケンシュタインの怪物なんだろう?
・・・・クロマジュツにかかった魔女のしもべだ。」
「・・・!!ジャック・・・・・。
_____________そうっ、その意気よ!!しもべじゃなくて恋人だけど・・・。大好きよ、私のモンスター!!」
ジャックもノリに乗ってくれたようで名無が抱きつくとにこりと笑ってくれた。
ジャックは日頃病院で名無に世話になっている恩がある。口には出さないが、その借りを返すつもりもあったりした。
『で、デッケェ・・・!?』
『あの人達凄くない!?ちょっとお菓子あげにいこーよ!』
「トリック・オア・トリート!そこの皆々様、私の黒魔術と怪物にイタズラされたくなければ聖なる果実を!」
『すっごいですね!はいどうぞ~!』
「ふふ、有難う♪貴方にも甘いご褒美があるといいわね♪」
早速街中に出ると、ジャックの2m超えの身長と名無の渾身のメイクで目立つのかお菓子袋が徐々に溜まっていく。
名無も恐いと思った人にお菓子をあげるが、その人からまた貰うという物々交換状態でどんどんプラスになっていった。
お菓子袋も凝ったもので血糊付き。ジャックがぶら下げているとホラー映画のような絵になる迫力だった。
貰った飴を舐めながら、魔女と怪物は楽しく街を練り歩いていた。
「んん~メロン味!はあ・・・幸せな休日・・・・。たまのお休みなんだから楽しんだって罪じゃないわよね。」
「アタリイチメンモンスターダラケダナ。」
「そうだねー。私たちも目立つけど他の人も迫力あるなぁ。
この日の為に半年前から準備してたって人いるし、お菓子目当てってだけじゃないねこのパーティー。」
(名無はお菓子目当てで間違いなさそうだがな・・・。)
ジャックの言葉が片言なのはあえてそうしてくれ、と名無に頼まれたからである。
本当はそこそこ日本語も喋れるが怪物感を出す為にはこっちの方が都合が良いらしい。
・・・・なので心の中で流暢に名無の発言に突っ込みたいジャックであった。
『トリック・オア・トリート!お菓子くれなきゃイタズ・・・・ラ・・・。
______あれ?・・・・名無じゃない?』
「へ?・・・・う、嘘・・・・。二人ともどうしてここに!?」
『ひさしぶり~!』
『こんなところで会うなんてねー!』
突如人混みの中から現れた女子二人組。どうやら名無の知り合いだったらしくお互いに驚いていた。
ジャックの身長が高いおかげかたまたま見つけられたらしい。
「シリアイカ?」
「う、うん・・・。学生時代の同級生・・・。仮装してたから誰かと思ったけど・・・・。」
『ねえねえ、そのすんっっごい迫力の人誰!?』
「ああ・・・ジャックっていうの。私の彼氏。」
少し戸惑いながら質問に答えると『えぇーーっっ!!?』と大声で凄く驚かれた。
無理もない反応だが、名無とジャックを交互に見比べて目を丸くしている。
そういえば誰かにジャックを紹介するのは初めてな気がした。
『か、彼氏って・・・・そういう設定・・・?それともガチ・・・?』
「どっちも
(やりたいというより理想像だとは言ったな・・・・。)
『マジでぇーっ!?名無の彼氏怪物なの!?超ウケるんですけどー!!』
『ねー!あっははは!!』
何故か爆笑する二人に名無は少しムッとする。ハロウィンとはいえジャックを怪物呼ばわりされてるみたいで気に入らない。
自分の事はいいとしても彼氏を馬鹿にされたとあっては名無も大人しくない。
「・・・・・ちょっと失礼じゃない、二人とも?これは仮装よ仮装。」
『そうだけどさー。その身長といいガタイといいマジそれっぽいかなって!ふふふ・・・。』
『名無もっと大人しそうな彼いると思ってたもん!自分の尻に引けそうな男とかさ!』
「アンタら・・・・・言わせておけば~~~ッッ!そんなんじゃお菓子あげないからっ!!」
すっかり拗ねてそっぽ向く名無に相手は残念そう。元々お菓子を貰うパーティーなのにこれでは本末転倒だろう。
そんな問答をよそにジャックは時計を見る。そろそろ薬を投与する時間だったので気にせず薬をバリボリ食べ始めた。
その薬の瓶にはハロウィン仕様のドクロシールが貼られている。これも名無のお手製だ。
「ジャックはねー、見かけは大きくて怖いかも知れないけど、素直だし優しい所だってあるの!!
本当に強いし、その辺の男共よりずっとカッコイイ生き方してるもん!!
そっちみたいに男とっかえひっかえしてる人には分からないかもだけどー?」
『何よその言い方ー!』
『・・・もういいや。お菓子くれないなら用ないしー。せいぜい怪物彼氏と遊んでれば~?』
『それもそだねー。じゃあね~お二人さ~ん☆』
「・・・あの二人、自分から来たくせにお菓子くれなかった。ケチ。」
仮装よりも名無以上にお菓子目当てだったようで最後は興味無さそうに手をひらひら振ってまた人混みへと消えていった。
パーティーなのだからそれ目的でも不思議ではないが、煽るだけ煽って帰ったのには流石に頭に来てしまった。
「_______________・・・・・ジャック。さっき言われた事気にしないでね?
私は怪物なんて思ってないよ・・・。こんな格好させたの私だけど、似合うと思ったからで・・・・・。
・・・・さっき言ったのは本当だから!!周りが貴方を怖がっても、私だけは絶対ジャックの味方だから!!」
名無は急に心配になってしまう。
・・・もし彼が傷ついていたなら。こんな格好にさせた自分を嫌いになったら。それがただ怖かった。
不安な顔で背の高いジャックを見上げる。その瞳は不安定に揺れているようだった。
ジャックはそんな彼女を見下ろすと、空の薬瓶をポケットへしまう。
「・・・・・・・。」
「ジャック・・・・?」
すると懐から小さめのオレンジカボチャを取り出す。
パフォーマンス用に、とジャックに持たせていた物だがまだ使っていない。
ガリッ!!
「ちょ・・・・え!?何!?」
何を思ったのかその場でカボチャを齧り始めた。果物でも食べるように簡単にやってのける姿に周りに人が集まってくる。
それでも無言でむしゃむしゃと齧る。ただ黙々と、夢中になって。
そうしてある程度齧り終わると名無を見てニコッと笑った。
「_______________コレハナモナイモンスターノ、ミチヲテラシテクレタオレイダ。」
「_______________・・・・・!!」
そういうと膝をついてカボチャを手渡す。
くるりと向きを変えるとそこにはハート型にくり抜かれたカボチャが。
「・・・・コドクナモンスターヲキニカケ、キョウマデイッショニイヨウトヨリソッテクレタ。
ソンナマジョヘノプレゼントダ。・・・・コレカラモ、ソバニイテホシイ。」
「ジャ・・・ック・・・・。・・・・・あっ、有難う・・・・!やっぱりジャックは優しいよっ・・・・。
これからも一緒にいようね!・・・私の愛しのモンスター・・・!」
突然の事でビックリして嬉し涙が溢れた。こんな告白をされるなんて夢にも思わなかったので素敵なサプライズになった。
カボチャを受け取ると名無も笑い返した。ジャックの思いつきでなんだか一つのショーみたいになってしまい、周りには人だかりが。
『ヒュー!お似合いカップルー!!』
『いよっ!美女と野獣、良いもん見せてもらいましたー!!』
「・・・・す、すごく嬉しいけど・・・・これ、すっっごい恥ずかしいぃ・・・・!!」
「・・・メダチタカッタンジャナイノカ?」
「そういう問題じゃない・・・・~~~ッッッ!!」
歓声に気付いてカボチャで紅い顔を隠す。当のジャックは不思議そうに首を傾げた。
おかげでお菓子袋がさっきの倍以上膨らんだのでとりあえず結果オーライ。
______ジャックの気持ちが素直に嬉しくて、その後もカボチャを眺めてはうっとりしていた。
「はぁ~・・・・パーティー楽しかったね~・・・。
このカボチャ暫く飾っとこうかな?それとも齧ってあるから料理に使おうかな?」
「どっちでもいい。名無の物だ、好きにしてくれ。」
「・・・そうだね。ふふっ、とりあえず今日は飾っとこうっと♪」
名無の家に戻った二人はお菓子や仮装道具の片付けをしていた。
二人してメイクや道具の解体は時間がかかったが思い出話をしながらでそれも順調に済む。
最終的に大量のお菓子と、ジャックから貰ったハートのカボチャだけが残った。
「・・・・そうだっ。ねえ、ちょっと電気消してみて?」
「・・・・?ああ・・・。」
カチッ
一段落終わったところでハート型に齧られた中に小さいランタンの明かりを入れてみた。
オレンジ色の光が温かくて見栄えも良い。ハロウィンとはまた少し違った雰囲気のあるインテリアに様変わりした。
「・・・・・・ジャック。この前話した"ジャック・オー・ランタン"の話覚えてる・・・?」
「あのおとぎ話か・・・?」
「うん。ずる賢いジャックは、結局カブのランタンを作ってあの世とこの世を彷徨ってるやつ。
・・・・言い忘れたんだけど、その後旅人が迷わないよう道案内する話もあるんだって。もしかしたら改心したのかもね。」
「・・・・ドウダロウナ・・・。」
こっちのジャックは、聞きなれない言葉や困ったりするとカタコトになる。要するに都合の悪い時だけだ。
そんな彼にくすっと笑いながら隣に寄り添う。オレンジの光が二人を照らし、後ろに二人の影を作った。
「・・・・パーティーの時。『名もないモンスターの道を照らしてくれた』・・・ってジャック言ってたよね・・・。
それでさっきの話の続きを思い出したの。・・・・今、私の隣にいるジャックは、ずる賢くないし悪人でもない。
前も言ったけどお酒じゃなくて薬ばっか飲んでる。・・・・でもね。
・・・・私は貴方を絶対迷わせないよ。同じような名前だからって、悪魔が来ても私が追い払ってみせる。・・・約束するよ。」
これは告白の返事みたいなもの。自然と名無の口から出てきた本当の気持ち。
不気味に輝くランタンではなく、こんな光を作り出せる彼が好きだから。素直で、不器用だけれど、強くて、優しい。
周りの皆には理解されなくてもいい。たとえそれが世界中の皆でも。
「・・・名無・・・・。もし君が本当に魔女だったとしても、俺は喜んで魔法にかかるだろう。
_______________俺を虜にさせた責任を、一生かけて償ってもらうからだ。」
「・・・・ふふっ・・・・・。どこでそんな言葉覚えたんだか。
私で良ければ・・・・・喜んで。」
たとえジャック・オー・ランタンのように、彼が薬で身を滅ぼそうとも。
たとえ魔女狩りのように、彼を庇って罪を負うことになっても。
それでも二人は変わらず最後まで寄り添えると思えた。
今晩。モンスターは魔女を抱き寄せ、二人していつまでも語り合うのでしたとさ______________
fin