短編置き場
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
とある高校のいつもの早朝。
始業時間はまだ先で、部活で朝練している生徒がちらほらと見えるくらい早い。
そんな生徒に混じって廊下を歩いてきた女性教師が一人。
「苗字先生ー!おはよー!」
「センセー!おはよございやーす!」
「名無せんせぇおはようございま~す。」
「おはよう!おはようー皆!
あ、そこの男子ー!廊下は走らなーい!」
元気よく声を張るのは苗字名無先生。教師としてはまだ新米の方だが、この高校にも慣れ始めて早数年。
女子にはよく相談を持ちかけられるし、男子もたまにちゃん付けで呼んだりするほど生徒から人気だ。
あまり生徒に厳しくない質だがそこが生徒に好印象のよう。
今日の朝も名無の周りは生徒がいた。
「_____おっはよ、名無センセ。」
「あ、愚地君。おはよう!」
「あー・・・・今日の英語のテストだっりィ・・・・。」
後ろからの低い声に体が素早く反応した。愚地克巳。名無のクラスの生徒の一人だ。
彼は特に部活がある訳ではないが名無と同じ時間に来る。それが当たり前。
名無は笑顔で返すも克巳はどこか浮かない顔。
というよりいつもなら明るく挨拶する彼がテンションが低いのはちょっと珍しい。
「・・・・どうしたの、なんか元気ない?
ていうか愚地君ならそんなに心配いらないでしょ?英語なら得意分野じゃない?」
「いや、得意とかそーいうんじゃなくて・・・・。この前から来てる英語のセンセ、俺苦手なんだよ・・・。
名無先生が教えてくれねェとやる気出ねー・・・・。」
「ワガママ言わないの。あの先生確かに声大きいけど、話してたら面白いわよ。」
克巳が言う英語教師は数ヶ月前から来ている教師なのだがどうにも感情の起伏が激しいらしい。
授業になると生徒に教えたいばかりで熱が入ってつい『リピートッ!!アフターミーッ!?』とハイテンションになるとか。
海外経験もある克巳にとってはその暑苦しさが嫌らしい。克巳だけでなく一部の生徒からも同じような意見が飛ぶ。
____だが克巳の元気のなさはそれとは少し違うような。言い知れぬ暗さを感じていた。
「・・・はあ・・・・・。俺の事分かってねーわ、センセ・・・。」
「あ、愚地く・・・・。・・・・・行っちゃった・・・。」
深いため息をついて一足先に教室へと行ってしまった。
この時期の高校生というのはどうも精神的に不安定。接し方が難しいもの。
と考えるのが普通だが、名無の脳裏には違う事がよぎる。
(・・・・克巳君・・・・何かあったの・・・・?)
実は名無と克巳は、教師と生徒ではあるが密かに付き合っている。
なので言わば彼氏の機嫌が悪いのを気にしていた。後ろ姿もそこはかとなく寂しく見えたりして。
だがここで無理に聞く訳にもいかないので名無は仕方なく職員室へと向かう。
教室で会った時の彼の機嫌を考えたりしながら。
「おはようございますー。・・・・あれ?英語の先生まだ来てないんですか?」
「おはようございます苗字先生。それが身内の方が倒れたらしくて母国に帰るとか・・・。今日から暫くお休みされるそうです。」
「へえっ!?そ、そうなんですか!?大変ですね・・・・。」
いつも名無の隣にいるはずのハイテンションな教師の姿がない。
あの挨拶がないだけでなんだか物足りない朝だな、と内心思ったり。
そこでよぎるのは今日のテスト。先程克巳と話題にしただけあって代わりで誰かがテストの担当をしなければならない。
名無は担任なのでもしかして彼の言う通りになるのでは、と僅かな期待に胸を膨らませた。
キーン... コーン...
カーン... コーン...
「はいはーい皆席ついてー!おはようございますッ!」
『おはようございまーす』
「えーっと出席の前に皆にお知らせがあります。
急だけど英語の先生は親御さんが倒れちゃったので、暫くお休みされるそうです。
なので今日のテストは・・・・。」
「中止ですかー!?」
「違いますっ!空いてる先生方が交代で見回りに来るので皆さん気を抜かないように~!」
生徒達があちこちでざわついている。テストが中止にならないのと英語教師の突然の休みに憶測や落胆が飛び交う。
こうなる事は想定内なので頃合いを見計らって静かにするよう促す。
「_______________はいはい、静かに。ちなみに今回のテストの点数が悪い人には補習があるからねー。」
『えぇ~~ッッ・・・。』
「えーじゃない。補習は私がみっちり教えてあげるから、復習しとくのよー。」
『はーい。』
「・・・・・。」
それからは普通に出席をとり、何事もなく授業に移行した。
ふと克巳の方を見ると腕を組んで何か考え込んでいた。テストが気になるのか、それとも違う何かなのか。
逆にこっちが気にしてしまうが特に気に留めないようにして自分の授業に専念した。
(_____克巳君・・・なんか悩みとかあるのかな・・・。聞いてあげたいけど、今は忙しくて連絡も出来ないし・・・。)
数週間後。職員室で書類の整理が一段落すると彼氏の顔が浮かんだ。疲れた時こそ会いたくなるがそれは少々難しい。
教師というのは多忙なもので、生徒が休みの時でも家に仕事を持ち込んだりなかなかプライベートな時間が取れないのが現実。
朝の時間や教室でも会うが機嫌はあいかわらず。教師と生徒の立場では露骨に近付く事もままならない。
名無は一つ、深めのため息をついた。
「・・・・苗字先生。この間の英語の採点出来ましたよ。」
「あっ。有難う御座いますー。」
「えっと・・・補習の生徒が何人かいるんですが・・・・。確か愚地君って英語得意でしたよね?」
「____・・・え・・・・?」
不意に別のクラスの教師に声をかけられたかと思えば、まさかの克巳の名前が。
補習の生徒一覧を渡されて中身を確認する。
この科目が苦手な生徒の名前が並ぶ中、50音順の最初に愚地克巳と記載してある。
「愚地君が補習・・・?何かの間違いでは・・・・。」
「いやあ~、私もそう思ったんですが今回空欄が多くてですね・・・。
最近彼元気ないみたいですし、授業に集中出来てないのでは?」
「・・・そうですね・・・・。補習の時、ちょっと注意しておきます・・・・。」
彼の調子が良くないのは他の教師も何人か気付いているらしい。
授業態度も浮かないと思えばテストの結果も同じときた。本格的に指導を考えないと担任として面目が立たない。
あくまで″教師として″真剣に克巳を想った。彼氏としての想いはとりあえず後回しにして。
夕方。授業も済んでそれぞれ部活動に勤しむ時間。
補習の生徒が教室にいるので小テストを小脇に抱えて向かっているところだ。
(補習か・・・。皆嫌だろうけど終わらなきゃ帰れないのは私も皆も一緒・・・・。分かりやすく解説しなきゃね・・・・。)
ガラッ
「・・・・・つー訳でこいつの応用はwomenとmenくらいの違いだ!
・・・って、あ。名無センセ。遅かったですね!」
「_______________へ・・・・?」
教室に入るなり目に飛び込んできたのは教壇で英語の説明をしているらしい克巳の姿。
他の生徒は真面目に聞いているようでノートを取るのに忙しい。
思いもよらない光景に微笑まれても何が何だか分からなかった。
「こ・・・これは一体どういう状況・・・?愚地君が皆に英語教えてたの・・・・?」
「そういう事です!先生が来ない間ちと暇だったんで・・・。」
「暇って、貴方も補習でしょ!?」
「そーですけど、俺あの時眠かっただけなんですよ。睡眠不足で・・・。
なので本来英語が得意な俺が、名無先生の来ない間に皆に英語教えてましたッ!
悪いのは俺ですッ、どうぞ叱って下さい!!」
「先生ー!愚地君は悪くないですー!」
「分かりやすく教えてくれて助かってたんですう~!」
「叱るならこっち叱ってよ名無先生ー!」
騒がしくて頭が混乱しそうになった。けれど黒板には補習範囲の英文の説明が分かりやすい例え付きで書いてある。
そして他の生徒が口々に克巳を庇ったり、ノートを見せてくれる辺りどうやら本当に補習していたようだ。
有難いといえばそうなるが果たして教師の立場としてはどうしたものやら。
少し考えてから軽くため息を一つ。
「なんだかよく分からないけど・・・・。愚地君、今はどの範囲まで皆に教えたの?」
「教科書の58ページから60ページまでです。」
「______了解ッ。範囲は63までだから私の補習は残り3ページをやって小テストの結果次第で早く終わらせます。
・・・・・でもあとで愚地君だけ先生とお話があるので残るように。」
ここは克巳の実力を素直に認める事にした。けれど教師としてこれは指導しない訳にもいかず。
元から彼にはちょっと注意するつもりでいたのであまり変わりない。
説教するみたいに見えて周りからブーイングの声があがった。
『えー!愚地君可哀想ー!』
『名無先生違うんですってばー!!』
「・・・・大丈夫よ、別にいじめる訳じゃないから。・・・・良いわね、愚地君?」
「_____・・・・名無先生の仰せのままに。」
ニッと笑った彼の笑みはどこか意味深に見えた。何を考えてるか分からないがちょっとカッコ良いかも、とか思ってしまう。
「・・・さてここからは私の補習よ。愚地先生の説明文消すからノート取ってない子は急いでー!」
名無は克巳の事を先生扱いしてさりげないフォローも忘れない。それが生徒に人気の秘密だ。
あまりこういう事は他の教師にバレるとうるさいのだが、いずれそうなるのも覚悟の上だった。
さっきのため息は上から注意されるかも、という暗示。そんなため息だと知る者はいない。
可愛い生徒の健気に姿勢に答えたいだけ。その為なら辛くはなかった。
「・・・・凄いじゃないッ、皆合格よッ!!この補習の成果早く他の先生にも見せてあげたいわね!!
どっかの誰かさんの授業のおかげかしら?」
『よっ!愚地先生!』
『克巳くん天才ー!!』
「いやあ、俺教師の才能もあんのかな?
・・・・困ったなァ~、お父さんの空手継げなくなっちまうぜ~。」
皆の小テストの結果は思った以上に良く、一発で全員合格した。
長引くと思っていた補習の授業は短時間で終わってすっかり和やかムードになった。
「さて、と・・・・。皆真面目に勉強したから、言った通り愚地君以外の生徒は帰っていいわよー。」
「名無先生ぇ・・・・。本当に克巳君は悪くないんです・・・。
分かりやすく教えてくれて、私達楽しく授業出来て・・・・。だから、その・・・。」
「______大丈夫よ。そこまでお説教しないから。さっきの授業の件は気にしてないわ。
ちょっと他の先生から彼の授業態度について話があっただけよ・・・。それを伝えたら、すぐ愚地君も帰らせるから。」
教師が素直にならなければ生徒も向き合ってはくれない。だから包み隠さず注意の事まで話した。
それを聞いた生徒達は表情が明るくなった。名無先生なら厳しい事は言わないだろうと、皆信頼しているから。
「・・・・じゃあ皆お疲れ様ッ!解散ッ!」
『本当?あたし名無ちゃん優しいから信じてるね~!!ばいばーい!!』
『先生さよーならー!』
『克巳ー!せいぜい死ぬなよー!』
「死なねーっての!じゃあなー!!」
....ピシャッ
次々に生徒が出ていって扉が閉まる。教室には克巳と名無の二人きり。
先程の賑やかさはなく、外の部活の声だけでとても静か。
けれどロマンチック云々ではなく、今から彼に注意しなければいけない訳で。あくまで先生として彼と向き合った。
「_____・・・・愚地君。
さっきも少し言ったけれど、他の先生から最近授業に集中出来てないんじゃないかって指摘があったの。
元気ないんじゃないですかって・・・。何か悩み事とかあるの?あるなら先生に言って?」
「・・・・・その台詞・・・・。どっちかっつーと、俺の方なんだけど・・・・。」
「・・・え・・・・?」
「名無センセ。こっち来てください。お話したい事があります・・・。」
真剣な顔。というか深刻そうな顔で言うものだから少し戸惑ってしまう。
なんの相談だろうか気になるし、教壇から克巳のいる机へ移動。椅子を向かい合わせる。
____その時。ちらっと廊下の方に克巳が目をやった。
と思った次の一瞬。
克巳が素早く椅子から立ち上がり、軽く唇が触れるだけのキスを落とした。
ちゅ...
「・・・っ!!?」
驚いて思考が止まってしまった。僅かなリップ音で何が起きたか理解する。
そこまで長くない数秒のキスだったので、克巳はすぐに元の席へ。
視界が開けた事によって現実に戻されて一気に真っ赤な顔になったのが自分で分かった。
「・・・・こっ、コラッ!!学校ではしないって言ったじゃないのっ!?」
「名無先生。・・・・・つーか名無っ・・・俺が元気ねーのアンタのせいなんだよ・・・・。」
「ど・・・どういう事・・・・?」
怒鳴った勢いで立ち上がってしまう。椅子と机がガタンッと大きな音を立てたが相手は特に気にしてない。
克巳の久々の呼び捨てに名無の心臓は高鳴って仕方がなかった。
「俺、プライベートであまりにも名無に会えねーから・・・名無が足りてねえの。栄養不足。
最近忙しいのは分かっけど・・・名無だって日に日に痩せてきてんの、俺知ってんだぜ?何食ってんの?」
「何って・・・。え・・・・?
・・・・それが、元気なかった理由なの・・・・?」
「そうッ。俺名無が無理してここで笑う度・・・・辛かった・・・。まーた嫌味でも言われてんなら俺に言ってほしかった。
だがデートしようにも、先公ってのは忙しいからそっちの都合に合わせるしかねーし・・・・。でも連絡ねえし・・・。
名無がすげえ・・・恋しかった。教師じゃねえアンタに・・・・逢いたかったから。」
急に男の顔になった彼にうっかり今の現状を忘れてしまいそうになる。
ここは学校。今は先生と生徒。頭では分かっているけれど、彼氏に真剣な眼差しでこんな事を言われると熱に浮かされる。
頭がぼーっとしそうになるが、ここはとりあえず一度席に座って落ち着こうと試みる。
「_____今日名無が補習するって聞いてチャンスだと思ったんだ。怒られるフリして、名無と二人で話してえって。」
「・・・・有難う。克巳君がそんなに心配してくれて・・・私嬉しい・・・。
でも授業態度に響く程心配しなくても、私なら平気・・・・・。」
「ダメだなッ!名無が素直になってくれるまで俺はここ一歩も動かねェからッ!!」
「えっ・・・・えぇーっ!?困るわよそんなっ!?私だってまだ仕事残ってるのに!?」
「だーかーらー、名無が俺に素直に甘えてくれりゃあ良いっての!デート出来ねえ代わりくらいさせてくれよ!!
・・・・そうじゃねえと俺・・・・また授業に集中出来なくなるし、名無も先生として困るだろ・・・?」
「・・・・・・。」
すっかり主導権を握られてしまった気がするが、克巳の言う通りお互いに足りていないのもまた事実。
無理をしていた事は筒抜けだったようで役に立たず。補習の時間が思ったより短くなったのも今思えば彼の狙い通りか。
だけれど甘えると言われても、名無の脳裏にはあまり良い案は思い浮かばない。
ここで愚痴を言うのもありか。けれどそれだと下手に長引く気がしたりしそうで。
「・・・・克巳君。ここで貴方に愚痴を言ういつもの甘え方もありだけど、ここは学校。
人の悪口を言うのはちょっとね・・・。先生としてのプライドがあるわ。」
「よく言うぜ、センセ。」
「・・・だから・・・・。えっと、その・・・・・。
_____ちょっとの間だけなら、カーテン閉めてもいいわよ?」
「____!!」
自分でも何を言っているのだろうと内心思った。ここは学校だと言っておきながらだいぶ矛盾している気がする。
けれど熱に浮かされた名無の見解はこうだ。
「・・・・思ったより大胆だなあ!俺かなり嬉しいかも・・・。」
「変な事までは駄目よ!?駄目だけど・・・・ここ3階だし、廊下側さえ閉めれば外からは多分見えないし・・・。
今の時間は他の先生も来ないはずよ。・・・・それに・・・・私だって青春したいし・・・20代だけど・・・。」
「それなら俺やってみてェ事が一つあったんだ・・・。ちょうどいいから名無で試すかな~♪」
嬉々と克巳はカーテンを閉めに行く。そこで廊下に誰もいないのを再確認する。
一方言い出しっぺの名無はたまたま持っていたストップウォッチを片手に5分にセットしだす。
もし克巳とイチャついても一応現実に戻る準備はしておく。名残惜しいだろうがここは学校だから。
「・・・あれ?ストップウォッチなんか持って・・・誰も来ねェんじゃねえの?」
「一応よ。もし誰か通ってカーテン閉まってるのバレたら怖いじゃない・・・。少しの間なら言い訳も思いつくけど。」
「例えば?」
「『生徒の人生相談に乗ってて、泣き顔を見られたくないと本人が言いましたので。』・・・・とか?」
「・・・・。俺、小学校の時以来泣いた試しねェけど?」
「例えばよ、例えば。克巳君プライド高そうだし、周りもそこそこ納得してくれるかも!」
「・・・・・はあ。まあどうでもいいか。・・・・・それより、名無。こっち。」
克巳は納得いかなそうな顔だがすぐにケロっとして名無を窓側のカーテンへ呼ぶ。
夕日が差し込んでとても綺麗だった。彼の顔も夕日に照らされて、いつもより男前に見えた。
何をするかドキドキしながら彼の方へ歩く。途中でストップウォッチの音がピ、と小さく響いた。
「_____克巳君、何を・・・?」
「名無、聞いた事ねェ?こういうイチャつき方。」
「・・・・・!!」
抱きしめられた気がしたらカーテンと一緒に体を包み込まれた。
要するにカーテンにくるまって、その中で二人が抱きしめ合っていた。一気に二人だけの距離が縮まり心臓が更に高鳴る。
「・・・・しょ、少女漫画とかで見たことあるかも・・・。外からだとパッと見何してるか分からないやつよね・・・。」
「そ。やってみたかったんだ~・・・思ったより距離近ェなこれ・・・・。」
「克巳君・・・また逞しくなった?腹筋もういっこ割れてるんじゃない?」
「はは、分かる?本当はここじゃなくアンタの部屋で見せたかったな。」
「もう克巳君ってば・・・。なんか意味深だよ・・・・。」
くすくすと二人で笑い合う。こんな他愛のない話も久しぶりでとても嬉しかった。
久々に触れる克巳の体や声で幸せな気持ちが溢れて癒やされる。
日頃の疲れと時間も忘れて彼の凄くこの一時が愛おしかった。
「____・・・・名無。」
「・・・んっ・・・!」
ふと一段と低い声で名前を呼ばれると、腕を掴まれ噛み付くようなキス。
甘い感覚に酔いしれて気が付くと手は恋人繋ぎで握られていた。
_____生徒と教師で、しかも学校でいけない事をしている。
お互いに承知の上で、それがまた燃料になって止まるのを忘れていた。
「・・・・っぁ、ちょ・・・・!」
カタン、と床にストップウォッチが落ちた。しかも衝撃で5分にセットしたタイマーが止まってしまっている。
克巳が無我夢中で抱き寄せたからか、それとも偶然か。
「っこれで補習は延長だな・・・センセ・・・・?」
「克巳くん、ダメだって・・・!!」
カーテンごと名無を壁へと追いやる。
克巳の言葉からしてどうやら意図的に仕組まれたものだったらしい。
「もうっ、先生怒るわよ!?」
「どうぞご自由に・・・。俺にとっちゃもう先生じゃねェから。
______さあ、こっからは愚地先生の補習だぜ?名無。」
見下ろす彼の視線がギラギラしている。
少しの間だけ自分がリードしたかと思えば結局彼のテリトリーに誘い込まれただけだった。
5分だけだったはずの時間は止まった。二人の栄養不足はそれだけの時間で補えるものではなかった。
「・・・・っ・・・全く、もう・・・。」
けれどこれでまた日常に戻っても、暫くやっていけそうかな。と浮ついた頭で考える名無であった。
fin