短編置き場
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私の中でそれは唐突に訪れた。
幼馴染みの昂昇から大事な話がある、って連絡があったのは3日前の出来事。
彼から珍しく電話があって留守電に入ってた。『どうしても直接会って話したい事がある』って。
仕事終わりに電話してみると、えらく低い声して静かに言ってきたの。
「・・・俺の道場に来てくれないか。そこで話がしたい。」
「へえ?道場?・・・それって・・・・普通に会って話すんじゃ駄目なの?」
「ああ。そうでないと俺の気持ちが落ち着かないんだ・・・・。」
「_____なんか全然分かんないけど・・・昂昇がそこまで言うんならいいよ。久しぶりにそっち行く。」
「助かる。・・・・有難う、名無。」
一体何の用だろう?って考えつつ今は彼の道場へ向かっているところ。
バスに揺られて外の景色をぼんやり見つめて思いに耽る。
(道場に行くのなんて何年ぶりかなー・・・・。小さい時はたまにお邪魔したけど、大人になって道場なんて行く暇なかったし。
昂昇・・・たまに会ってもプライベートで何してるとかいつからか言わなくなったっけ・・・。)
言わない理由は私に言っても分からない事ばっかだからかな。って、この時勝手に思い込んでたんだ。
私の知らないところで、昂昇があんな目に遭ってるなんて知らずに・・・・_____
ぼんやりしてたらいつの間にか道場に到着。
あいかわらず変わり映えしないし人気のない道場だなぁ。本人には絶対言えないけどね。
ピンポーン
「もしもーし!誰かいますかー!」
たのもー!とか言いたい気持ちもあったけど万が一道場破りと思われたら洒落にならないもんね。
いや・・・・昂昇なら思わないだろうけど・・・。
『・・・・大声を出さなくても聞こえているぞ名無。鍵は開けてある。入ってくれ。』
「あ、インターホン通じてたんだ・・・。はーい、おじゃましまーす。」
ビックリした。インターホン先に出たような音がしなかったけど、部屋の音が鳴らないタイプ?それとも昂昇足音消してたのかな?
まあ大して気にするような事でもないんで中へと入る。
奥って無駄に長い廊下なんだよね。一体どこにいるの?昂昇?
「昂昇~・・・。」
「こっちだ。」
「わあっ!?いきなり出て来ないでよ!!ビックリしたじゃ・・・・な・・・_____」
探してた本人は私の通りすぎた一回り小さな和室から登場。
驚いたんで怒ろうと思ったけど、昂昇の手とか胸元に包帯が巻かれてる。嘘・・・・怪我してる・・・!?
「ってどうしたの・・・それ・・・!?事故にでも遭ったの!?」
「・・・・ああ、この怪我か・・・。・・・・これにも関わる事だ。とにかく入ってくれ。」
「・・・・・・。」
あの強かった昂昇が何で包帯なんかしてるの。私と会わないでいた間に何かあったのかな・・・。
急に心配になってきて、言いたい事も聞きたい事も山積みだけど案内された部屋に入った。
こんな状態で話す真剣な話って何なのよ・・・?
「______わざわざ来てもらってすまないな。」
「へっ?べ、別に私はいいよ。そんな気使わないで、友達じゃん。」
「ああ。元気そうで何よりだ・・・。」
開口一番謝るなんていつもの昂昇とやっぱどこか違う・・・。
雰囲気もちょっと違うし顔つきも変わったような・・・?
一面畳だけど座布団が二つ。私は楽な姿勢。昂昇は正座で腰を下ろした。
「・・・・名無。さっそく本題なんだが・・・・・東京ドームは知っているか?」
「え?東京ドーム・・・・そりゃあ知ってるけど・・・。」
「・・・・・その地下に、格闘士の聖地があるのは知っているか。」
「____・・・・・聖地・・・?私、地下2階ってどんな施設か知らないんだけどそうなの・・・?」
「2階じゃない。表舞台に存在しない、地下6階だ。」
何を言っているのかさっぱりだった。格闘士の聖地?地下闘技場?
昂昇が言うには東京ドームには知られてない地下6階があって、そこでとんでもない格闘家が集まってるんだって。
そこでは武器以外のどんな技でも認めてる闘技場。全くお伽話みたいだけど秘密の場所だから人づてにしか言えないんだとか。
嘘か本当か分からないけど昂昇は嘘つくような性格じゃない。
半信半疑だけど、きっとあるんだろうな。東京ドーム地下闘技場って所が。
「情けない話だが・・・。その最年少王者・範馬刃牙にやられ、今こんなざまと言う訳だ・・・。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?その子ってまだ学生なんでしょ!?
そんな・・・・そんな子一人に昂昇がボロボロになったっていうの・・・!?」
「全て真実だ。地下闘技場の秘密は基本内部に漏らしてはいけない。
だから写真などはないが、どうか俺の言う事を信じてほしい。」
「・・・・・信じるよ。昂昇は意地悪出来る性格じゃないし・・・・信じるけど・・・・。
_____そんな・・・・紅葉さんじゃあるまいし・・・・。」
・・・・言った瞬間にあ。って気が付いた。なんか私今地雷踏んじゃった?
昂昇が僅かだけど反応したのが横目で分かっちゃった。
ボソッと呟いたけどこんな鳥の声と私達の声以外聞こえないようなところで聞き逃さない訳ないよね・・・。
昂昇のお兄さん・紅葉さんとも勿論私は幼馴染。昔3人でよく公園で遊んだっけ。
でも昂昇が強くなりたい!って特訓し始めた前後くらいから、紅葉さんを密かにライバル視するようになったの。
私の目からしても紅葉さんは昔も今も変わらず強い。昂昇以上にね。
だから今の言葉はちょっと・・・比べる感じに聞こえちゃったかな・・・・。
「ごっ・・・・ごめん。・・・・驚いちゃってつい・・・。」
「_____兄さんも・・・・。刃牙に倒されたんだ。」
「____・・・・・え・・・・っ・・・。・・・・嘘・・・?また、その子一人に・・・!?」
「・・・・・話せばこれも長くなるが、色々あってな・・・・。それ程にあの少年は強い。
最も、父親がオーガでは無理もないが・・・。」
紅葉さんとその刃牙って子の戦いを事細かに説明してくれたけど、大半はよく分からなかった。
要するに昂昇も紅葉さんもそこそこの深手を負った・・・って事なのかな?
二人共回復力が物凄いからもう平気っぽいけど・・・・。本当どうなってるのこの兄弟の体・・・・。
それに、こんな二人をやっつける範馬刃牙って一体_____
「・・・・名無?大丈夫か?」
「・・・・・?・・・ああ、大丈夫・・・。ちょっと情報が多くてぼーっとしちゃって・・・・。」
「・・・・混乱してるとは思うが、大事な話はこれからなんだ。今のは前置きだ。」
「ま、前置き・・・・?・・・・そうだよね・・・・よく考えたら、そんな近況報告する為に呼び出すとも思えないし。
その話って何?・・・・・今の地下闘技場とか、刃牙って子と関係する事なの・・・・?」
「・・・・・・・・ああ・・・・。」
お茶を一口飲んでちょっと落ち着く。まだ話についていけない部分もあってよく分かんないからね。
_____そしたら、昂昇は気を落ち着かせるように正座し直した。
「・・・・・はあ・・・。・・・・・・実は地下闘技場で近々最大トーナメントを開催するんだ。
有名なプロレスラー・相撲・空手家・柔術家なども参加する。己の名誉のみを賭けてな・・・・。
勿論俺も出るんだが、名無に是非応援に来てほしい。」
「・・・・・ああ・・・・そういう事ね!なるほど、それだったら良いよ。
東京ドームまであんま遠くないし。多少グロテスクでも昂昇で慣れてるからねー。」
「_____その一回戦で俺は・・・・・。運命のいたずらか、主催者の思惑か・・・・。
兄貴と戦うことになった。・・・この戦いの意味が、名無になら分かるだろう・・・?」
・・・・・・え?・・・今・・・・誰と戦うって・・・・?
一瞬頭が真っ白になった。言った事が信じられなかった。
嘘でしょ?紅葉さんと昂昇が戦うの?ルール無用で、お互い本気出して・・・・・?
そんな危ない戦い観に来てくれって。・・・・待ってよ・・・私にどんな気持ちで見ろって言うのよ・・・・!?
「いっ・・・・言っても昂昇だから止めないんだろうけど・・・・。本当に、紅葉さんと戦うの・・・・?
昂昇はそれで良いの!?納得してるの!?」
「ああ。既に決まったことだ。心の準備なら出来ている。」
「・・・・っ・・・・!・・・・昂昇が準備出来てても・・・・紅葉さんが出来てても・・・
私は出来ないよ・・・・。二人が戦うなんて・・・そんな・・・。」
「兄貴は確かに強いが俺にも策はある。何も無茶な挑戦ではない気さえしているんだ。」
「そうじゃなくてさ。私は戦術だとかの事言ってるんじゃなくって・・・・。
兄弟で争ってまで掴みたいものがあるのか、とか・・・・。私はどっちを応援すればいいの、とかさ・・・・。」
心がざわつくってのは恐らくこういう事なんだろうなってひしひしと感じた。
二人の幼馴染である私は兄弟同士で傷ついてほしくなんかない。
他人と戦うならいざ知らず、兄弟なのにどうして?そこまでしての強さなの・・・・?
ごちゃごちゃと思いを巡らせる中、昂昇がポツリと呟いた。
私を、ただ真っ直ぐ見つめて。
「______名無・・・・。・・・・まさか・・・・覚えていないのか・・・!?」
「・・・・・え・・・?・・・・・何・・・・?」
「昔俺と約束した言葉・・・・忘れてしまったのか!?」
「・・・・・・・約・・・束・・・・?」
あまりに必死な顔で訴えてきた。その必死な顔、どこかで昔見た事ある気がした。
約束ってのが妙に引っかかる。私は・・・・昔昂昇と何か約束をした・・・・?
「_____・・・・・ごめん・・・覚えてない・・・。一体いつの話・・・?」
「・・・・・兄さんがいない公園で、二人で交わした約束だ。夕方、帰る間際に言ったのを俺は覚えている・・・。」
「どうしよう・・・私本当に記憶にないかも・・・・。多分重要な約束だった・・・・んだろうけど・・・。」
「・・・・・・。」
戸惑う彼に私も必死で思い出そうとする。
公園で遊んでた頃。夕方。紅葉さんのいない時。昂昇の、あの表情・・・・。
何かヒントがほしかった。もう一つ、二つくらい。
「・・・・もう一度、名無に言うしかないか・・・・。
あの時名無は、『大人になったら忘れちゃってるかも。』とか言っていたからな・・・。」
フッ、と笑った顔を見せるとゆっくり立ち上がってこっちに近付いてきた。
い、いきなり何?何する気なの・・・!?
「ちょ、ちょっ・・・・昂昇・・・・!?」
「心配するな。あの時の再現をするだけだ。」
そうすると私の前で片膝をついて小指を差し出す。
これって・・・・指きりげんまんのポーズ・・・・?
「_____名無。もし・・・・俺が兄ちゃんより強くなったら・・・・。
お、俺と・・・・結婚してくれ!!」
「____・・・・・っ・・・!!」
_____あの時の夕焼けみたいに紅い顔した昂昇。
・・・・・思い出した。私、あの公園で。二人きりで指きりしたんだ。
約束・・・してたんだ・・・・。
『ねえ名無・・・。もし俺が兄ちゃんより強くなったら・・・。
おぉ、俺と!!・・・・結婚してくれないか!!』
『・・・・・。うーん・・・・・・まあ、いいよ。』
『本当ッ!?や、やったァアーッ!!
じゃあ指きりげんまん!嘘ついたら針千本____』
『____あ。・・・・・でもあたし、大人になったら忘れちゃってるかも。
だから昂昇。その時もっかい言って!・・・・お約束ね?』
『・・・・うん、分かった!約束だよ、名無!』
『約束ね!ゆーびきった!』
全部甦ってきたと同時にそんな約束自体に顔が赤くなった。
ここでまた指きりするって事は、昂昇が紅葉さんに勝ったら本当に結婚しちゃうって事じゃないの・・・・?
多分こんな約束すぐに忘れちゃうんだろうなーってどっかで考えてて。それで今まで忘れてたんだ。
昂昇はずっとずっと、こんな日が来るのを待ってたっていうのに_____
「・・・・お・・・・思い・・・出した・・・・・。」
「・・・・俺の言う事は正しかっただろう?」
「昂昇・・・・。・・・・やっぱ私と違って真面目だね。あんな頃の言葉、ずっと覚えてたなんて・・・・。」
「・・・・兄さんがいないのを見計らってどうしても言いたかった。俺にとって賭けだったんだ。
名無は・・・俺より強くてカッコ良い、兄さんの事が好きなんじゃないかと思ってたから・・・。
だが違った。俺にもチャンスがあるって希望が持てた。その為に、今日まで頑張ってこれたんだと思う。」
真っ直ぐでどこか優しい顔。昔から変わらない笑顔。
私は正直、小さい頃から泣き虫だけど一生懸命な昂昇の方が好きだった。
紅葉さんは勉強出来るしケンカも強かった。でも尊敬の対象以上にはならなかったの。
私は今彼氏もいない。ただぼんやりと毎日を過ごしてる。
_____ただ。昔から描いてた夢があるくらいで。
「・・・・・・あの、さ・・・・・・。私、努力が出来る人間でもないし・・・多分昂昇と正反対な性格してると思う・・・。
昔から、テストで平均以下でも"なんとかなるさ~"でぼんやり成長しちゃったような奴なの!!
今もそれ・・・多分変わってない・・・。・・・・でも・・・・ちょっと前から、夢が出来てさ・・・・。それが・・・・・。」
震える手で掴み取る。こんな私でも、何か出来る事。
なんとか実現出来そうな答えがそこにあったから。
「____・・・・すっ・・・"素敵なお嫁さんになる"事・・・。子供っぽいって思うかもしんないけど・・・。
こんな私で良ければ・・・・。・・・・・約束、守っていいですか・・・?」
「・・・・・・ああ。俺も兄さんを・・・・兄貴を超えてみせる。
名無・・・・応援してくれ・・・。」
あの頃みたいに交わした指きり。暫く真っ赤になったままで彼の顔をまともに見れなかった。
やっぱイケメンだよね・・・・兄弟揃って心身ともに・・・。私からすれば、昂昇は特にだけど。
家に帰って、改めてとんでもない約束をしちゃったんだって思い出す度胸が高鳴った。
こんな形で始まる恋ってのもアリなのかな・・・。
試合の日。緊張とか不安とかで入り交じる色んな気持ちを抱えて東京ドーム地下闘技場へ。
そしたら昂昇の言う事が嘘じゃないって心底分かったんだ。
出てくる人がけっこうな有名人ばかりだし、昂昇と紅葉さんを倒した刃牙って子もいた。
周りに比べると細身の体にも関わらず大柄な選手をあっという間に倒してしまう。
格闘家の聖地か・・・。分かる気がする。格闘技をよく知らない私でも、どこか心揺さぶられるものを感じたから。
残酷だって言う人もいるだろうけど昂昇の傍にいたせいかな。正直わくわくしちゃったよ。
「_____・・・・頑張って、昂昇・・・。・・・・紅葉さんもあんまり虐めないであげて・・・。」
兄弟対決の前。誰にも聞こえない程度の声で呟く。
紅葉さんは強い。医者になって尚そうだろうなって気はしてる。
あの人はずっと昂昇を守ってきたのと同時に負かしてきた人でもある。そういう面でもこの対決には不安が纏わりつく。
本人達の気持ちと裏腹に祈りを捧げて、試合は開始された。
「・・・・・兄貴!!」
「いつから兄貴などという呼び方ができるようになった。昂昇・・・・?」
二人の試合は普通の人なら目を覆いたくなるような恐ろしい内容だった。
昂昇の紐切り技で紅葉さんの視力がなくなるし、それをまさか自分で手術とかいう荒業をするしで・・・・。
私ではとても試合の全容は説明しきれないけれど神経がどうとか人体がどうとか・・・・怖くて涙目になりながら見るしかなかった・・・。
「兄ちゃん!許して・・・!」
今の昂昇が子供みたいに泣きじゃくるのが昔とリンクする。昔もそうだった。
いけない事をしたら紅葉さんに言いつけるよ!っていうと兄ちゃんにだけは言わないで!とか泣きつかれたっけ。
____この出来事で、私の記憶が"もう一つの約束"を思い出させた。
この事・・・・昂昇は覚えてないかも知れないな・・・・。
「あとの事は全部兄ちゃんに任せて_____」
『駄目だァッッ!!!』
でもその時の幼い昂昇はやっぱりいなかった。一瞬の隙をついて紅葉さんに反撃した。
「他ではあんたに勝てなくともいい・・・。
だけどここまで譲っちまったら 俺は一生アンタに頭ァ下げ続けなきゃならねぇんだッ!!」
血まみれになりながらも向かっていく姿に流石の紅葉さんも圧倒されているように見えた。
というか、実際そうだったんだろうな。弟の覚悟に、一瞬でも紅葉さんの知らない昂昇を見たんだと思う。
「兄貴の敵は俺が討つ・・・・!!」
「_____偉大な弟よ・・・・あとは頼んだ・・・・。」
『勝負アリッッ!!!』
まさか本当に勝つと思わなかったけど良い結末で私は一安心していた。
兄弟愛で抱き合う姿はとても美しいと思えたんだ。
お互い納得出来る対決で良かった・・・・。でもあのあとも昂昇は戦う気なのかな・・・?
医務室に行くとちょうど治療を終えたらしい昂昇に会った。
「・・・・昂昇・・・・!凄く良い試合だった・・・・怪我は大丈夫?」
「ああ・・・・。医師の治療もさらっと受けたところだ。問題ない。」
「良かった・・・・心配してたけど勝って私も嬉しい・・・。」
体には特に包帯とか見当たらない。顔に止血する為の薬が塗ってあるらしいけどすぐ収まるんだとか。
あんな血だらけになってもやっぱまだ戦うんだな。二回戦も、きっとその先も。
「_____名無っ・・・・。その・・・・約束の件だが・・・・・。」
「・・・・ああ・・・・うんっ・・・・。」
「・・・宣言通り俺は勝った。・・・・・・だから・・・・俺と・・・・!」
「ちょ、ちょっと待って!!
あの・・・・・私、試合の途中で思い出しちゃったんだけど・・・・・。昔、もう一個約束してた事・・・覚えてない・・・?」
「・・・・も、もう一個・・・・!?」
その驚いた顔からして覚えてなさそう。
当然か・・・・私もついさっき思い出したし、おまけみたいなもんだしね・・・・あれ・・・。
「・・・・・あのね・・・。私が親に連れられて帰る時に言っちゃったから、ちゃんと理解してもらえなかったかも知れない・・・。
あの時確か紅葉さんもいたっけ・・・?覚えてない?」
「・・・・・・・・。」
「帰る時にね・・・・。
『ねえ昂昇!この前の約束、昂昇が泣き虫じゃなかったらいいよー!!』って・・・言ったの・・・・。」
「______!!」
幼い頃、昂昇と結婚の約束して一週間くらい経った日。私は特訓してても紅葉さんに怒られる昂昇を見ていた。
怒られる内容は勉強とか宿題で、特に紐切りがどうとかじゃなかったと思う。
そんな姿を見て、このまま昂昇が泣き虫のままだったら結婚するのやだなーって考えてたの。
だからそれから数日後。帰る間際に叫んだ言葉がそれ。
昂昇がうんとも言ってないから、厳密には約束って言わないんだろうけど・・・・。
「・・・・・ッ・・・・・思い出した・・・・。俺はあの時、理解はしたんだが・・・・宿題の事で手一杯で忘れかけていたんだった・・・。」
「紐切り空手の修行ばっかで、勉強手についてなかったもんね・・・。」
「多分2・3日くらいは覚えていた・・・。・・・・だが、忙しさにかまけて忘れていたとは・・・ッッ!!
くそッ!!俺とした事がっ・・・・こんな重大な約束を・・・・!!」
本当に頭を抱えて悔しがる昂昇。見ててちょっと辛かった。
ようやく超えるべき相手を超えたのに、私と・・・結婚出来ないから・・・・?
でも私は、別の事を考えていた。
というかこれを言う為に今の約束思い出したようなもんだし・・・。
「あっ、あのさ昂昇・・・・。・・・・・こんな自分勝手な事言ってごめん・・・・せっかくの試合後なのに・・・・。」
「ッいや・・・・いいんだ・・・・。きっと先の試合で思い出したんだろう?・・・・・仕方のない事だ・・・・。」
「_____ねえ、昂昇・・・・。その・・・私考えたんだけど・・・・。も、元々・・・結婚ってのは唐突すぎて・・・。
約束したとはいえ、本当心の準備とか何も出来てない状態だったの・・・・。でも・・・・でもさ、あの・・・・。
結婚はさておきとして。・・・・・そういうのなしで・・・・。つっ、付き合うってんなら・・・私・・・良いよ・・・。」
「・・・・・・!」
「初めっから・・・・最初から昂昇の事知りたいから・・・・。
・・・・勿論結婚前提とかじゃなくて!!そういうのなしで!!」
た、多分今私目泳いじゃってるだろうな。視点が定まらないや。
結婚が人生の大きな決断だってのは大人になった今によく分かる事。当時の私達には分からない。
だからって昂昇が覚えてた約束を無駄にはしたくない。
_____私だって、今の昂昇の事・・・・嫌いじゃないから・・・・。
「______名無ッ!!」
「ひゃわァッ!?」
び、ビビビ、ビックリした!!?何、今私・・・・どうなって・・・・・?
昂昇に抱き締められてる・・・・・!?
「・・・・・有難う・・・・。俺は名無の事を、前からずっと好きだった・・・・。彼氏彼女の関係からでも構わない。
もっと名無と一緒にいたいだけなんだ。その返事だけで、十分だ・・・。」
「昂・・・・昇・・・・・。」
真剣な低い声と彼の体温が心地良い。とても、とっても嬉しいよ。
ドキドキしてるけど不思議と落ち着いてた。良かった。昂昇で、良かったよ・・・・・。
「次の試合も勝つ。しっかり見ててくれッ!!」
「・・・うんっ!応援してるから・・・・!」
「______そうだぞ、昂昇。」
『!!』
「・・・あ、兄貴!?」
どっからか声がすると思ったら昂昇の後ろから紅葉さんが出てきた。
えっ、何でここに・・・。っていうか・・・今の流れ見られてたんじゃ・・・・!?
急に恥ずかしくなってさりげなく昂昇の腕から離れる。
「くっ、紅葉さん!?いつからそこに・・・!?」
「『凄く良い試合だった。怪我は大丈夫?』と聞いた辺りからだ。」
「ほとんど全部じゃないですかぁ・・・・!!あぁもう恥ずかしいぃ・・・!!」
たまたま通りかかろうとして私の姿が見えたから立ち止まったらしい。そんな聞かなくていいのに・・・!!
やりとりも物陰から全部見えてたらしい。格闘家の人って気配消すの上手いよね・・・・・本当兄弟そっくり・・・・。
「・・・・昂昇。私を超えたからには、次の試合も頑張ってもらわねばな。そういう事だけ伝えたかったが・・・・。
・・・・・まあ。彼女が出来立てのお前には言わずとも分かった事か。」
「・・・・ああ、そういう事だ。名無は俺のパートナーになった。心の支えが更に強固となった俺に、最早死角はない。」
「油断は禁物だがな・・・・。・・・・では、邪魔者は退散するとしよう。またあとでな。」
今更邪魔者とか言われてもまた抱き合う訳にもいかないし。いちゃついてる暇だって昂昇にはないんだから・・・。
こんな事思ってても絶対言えない。見られてた恥ずかしさでもう抱き合うなんて勘弁して・・・!!
「_____名無。」
「はえっ!?な、何!?」
「・・・・・改めて彼氏として、これから先も宜しく頼む。」
「・・・・・はい・・・・。私も彼女として、これから宜しくね。」
何を言うかと思ったらけっこう今更な台詞。真面目だから、言わなきゃ分かんないって思ってる?
まあ良いけどね。何度も確かめ合って、何度でも私が応援してる事覚えさせてあげるから。
もう彼女なんだし。だからこうして恋人繋ぎして、控え室に戻りましたとさ。
ずっと。この手は離さないんだから。
fin