短編置き場
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【貴方の近くへ】
これは、ずっと誰にも言えない話。
私はとある有名な病院で看護師をしている。
でも特に何か取り柄がある訳じゃないし、何故ここで働いてるのか私が一番疑問に思ってる。
ここで一番名のある先生がいる。名前は鎬紅葉先生。
・・・・私は密かに、先生の事を好きになってしまった。
その人は平凡な私と違って天才と呼ばれてて、私なんか足元にも及ばない存在。
一応看護師として傍にはいるけれど・・・近いようで遠いってのはこういう事なんだろうな・・・。
患者さんにも同じ看護師にも人気の先生で、多分皆先生の事が好きなんじゃないかって思う。
「____鎬先生。次の患者さん、お願いします。」
「ああ。分かった。」
「先生!この前の件ですが・・・。」
「分かっている。それなら午後から取り掛っても間に合うだろう。」
「さっすが鎬先生~!!凄いです!!」
・・・・・けれど私は知っている。もしくは私だけが知っているかも知れない。
この先生の元で働いて暫くだから分かるのかも知れないが、実は鎬紅葉先生は無免許医らしい。
あくまでも噂だから確かではないけど、私だって免許とか見たことがないから。ただそれだけだが・・・・。
『鎬先生・・・・一体いつまでうちの子は車椅子なのでしょうか・・・・。
』
『もうすぐですよ。そろそろ薬の効果が現れるはずです。』
そしてこれは最近知った事。この先生は、おそらく患者を実験台にしている。
自分の技術と知恵を試したいが為に人を利用しているんだと思う。
腕は確かだけれど性格とかそういう面でけっこう問題のある人だ。
それでも私はこの人が好き。
おかしいって言われそうだし、院内の評判に関わるから誰にも相談なんて出来やしないけど。
_____好きになるのに理由なんていらない。まさにその通りだ。
顔が良いから?医者としての腕が確かだから?
・・・分からない・・・・。それだけの理由で片付けられるような問題じゃないって気がして・・・・。
そんな重大な事に気が付いて、暫く経ったある日のこと。
いつも通り午前中の病棟回りが終わった時だった。
「苗字さーん。鎬先生がお呼びだそうですー。」
「はーい。」
なんだろう。鎬先生の手術とか診察関連はもうなかったはずだが。
でも急患でもなさそうだし、おかしい気はしたけどとりあえず呼ばれた医務室へと向かった。
コンコン
「開いているよ。」
「失礼します。鎬先生・・・何かご用でしょうか?」
「ああ。大事な話がある。とりあえずそこの鍵は閉めてくれ。」
・・・・鍵を閉める?確かここは他の医師も使う共同の場。
けれど今はお昼なので鍵なんか閉めなくても誰も来ないと思うが・・・・・。
それでも言われた通りに鍵を閉めた。
_____なんだかその時、空気が変わった気がしたの。
「・・・・・苗字君。いや・・・・・苗字名無。
単刀直入に聞くが、君は・・・・気付いているな・・・?」
「何にでしょうか・・・・。」
「私が患者達に何をしているか。私のしている事を"理解しているか"という意味だ。」
睨まれている訳ではない。決して怒ってるような風でもない。
けれど冷静なその口調の中に怖さを感じた。開けてはいけない箱をこじ開けてしまったような。
「・・・・・治療、ですか?」
「そうではない。君の顔色や動作で私には分かる。
答えがそれでないのは、君が一番よく分かっているはずだ。」
「・・・・そうですね・・・・っ・・・・。分かっていました・・・・。
・・・・・実験、ですよねっ・・・・。」
そう言うと鎬先生は静かに口角を上げる。笑っているのだろうけどクスリとも笑い声は聞こえない。
けれど確信に満ちた笑みだと分かった。
「そうだ。それで良い。やはり君は優秀だ・・・・ただ私を持ち上げ、天才だなどと賛美する輩とは違う。
いつから気付いていたんだ?」
「・・・・気付いたのはここ最近です。少し前から感じていましたが、患者さん達が噂するので確信に変わりました・・・。」
「_____素晴らしい・・・・。」
鎬先生は嬉しそうに呟いた。恍惚に目を細める仕草は狂気的かも知れない。
けれどその表情さえ私をときめかせるには十分だった。
「苗字君はこの事をどこかに密告しようと考えていたのかい?」
「そんな気はありませんっ!私はそれでも・・・・鎬先生の技術が役に立っているのを知っています!
鎬先生はこの医学界になくてはならない存在ですから・・・。」
「そこまで君に褒め称えられると嬉しいよ。君のような洞察力のある子から言われると・・・。」
ゆっくりと立ち上がって私の方へ歩み寄る。すると鎬先生の整った綺麗な手が私の顎へ添えられて。
強制的に目を合わされ凄く緊張する。
いや、緊張というか・・・・心臓がうるさくて鳴り止まないっ・・・・。
「_____綺麗で、良い瞳だ。」
「先生っ・・・・何を・・・・?」
「私が見初めた女性だけある・・・・。そろそろ言わねばと思っていたんだ。
・・・・どうか、私のパートナーになってはくれないか?」
「パートナー・・・・っ?」
「私の右腕として君を傍に置いておきたい。
それと・・・・人生のパートナーとしても・・・・。」
そう言って顔が近付くと、耳元で囁かれる。先生の息遣いをあまりに傍で感じる。
思いもよらぬその内容に頭から爪先まで体が熱くなるのが分かった。
「先生・・・・何故っ・・・・?私なんかどうして・・・・・・?」
「君の事はここに来てからずっと見てきた。ひたむきな努力から生まれた観察力・技術・そして相手を理解しようという心。
他の者にはない、君にしか持ち得ないものだ。そんな気高い精神を持つ君を愛させてはくれないか・・・・?
名無。改めて、私の助手兼パートナーになってくれ。」
とても嬉しかった。今までの人生で一番と言って良い程嬉しさが止まらなかった。
今日まで私は、周りからは地味な存在で。努力するのが当たり前であり、得た能力もまた当たり前として評価されてきた。
私の事を誰も見てくれない。私の努力は報われず、このまま朽ちていくのだと思い込んでいた。
そんな時に、鎬先生に初めて会った。
『今日から配属になった苗字君か。宜しく。』
『先生、本日より宜しくお願いします。』
『そんなに堅苦しくしなくて良い。君の活躍は聞いているよ、正直私も期待している。』
『活躍・・・・?私は何も_____』
『人一倍努力家だと知っているよ。ここは首都圏以外からも依頼の多い病院だ。普通の場所とは違う。
ここまで来て、尚且つ私の元で働けるのも何かの縁だ。
エリート同士、仲良くやっていこうじゃないか。』
『・・・・エリートだなんて、そんな・・・・。・・・・有難う御座います、精一杯頑張ります!』
『うん、その意気だ。』
そんな言葉をかけてくれたのは、鎬先生だけだった。
私はこの時気付いたんだ。今まで自分のしてきた事を認めてくれる人が欲しかった。
そこに気付いて、褒めてくれる存在を探していた。
先生は私を洞察力ある人だと言うけれど、それがあるのは先生の方。真の私に気が付いてくれた。
「・・・・私で良ければ・・・・傍にいさせて下さいっ・・・・!!」
「____・・・・ああ。名無・・・・愛しているよ・・・・。」
ゆっくりと抱きしめられて温もりに全て体を委ねた。
嬉しくて泣いていたんだけれど、その涙すら受け止めてくれて。私も抱きしめ返した。
これからは先生じゃなくて、紅葉って呼んでもいいのかな・・・?
どんな人だろうと私は構わない。どこまでもこの人となら地獄に落ちてもいい。
そう思えるような幸せが始まりました_______
【君が要る。】
"彼女を私の物にしたい"
そう思ったのは何年前からだろうか。
どこにでもある一目惚れという現象だ。まさか私がしてしまうとは思いもよらなかったが・・・・。
初めて名無を見かけたのは医学大学での研修の場。講義がてら立ち寄って、少し遠くから見ていたので彼女は気付いていない。
丁寧な姿勢・細かな気遣い・さりげない笑顔。
どこにでもありふれた光景で、名無の動作も他と飛び抜けて違っている訳ではない。
平凡だ。普通に他の大学生に混じっても分からない程普通な女性。
ただ違うのは私が名無を気に入ったという事実。それだけだ。
「・・・・研修名簿を見せてくれ。」
なんとしても物にしたい。だから名前やプロフィールを記憶して、彼女を私の病棟に配属させる事にした。
「・・・・苗字名無君か。彼女は努力家のようだし、伸びしろはあるだろう。私の所に欲しい。」
「はあ、先生がそう仰るんであれば・・・。」
努力家というのは誰しも当てはまる無難な言葉だ。看護師になるからにはそれ相応の努力をしていて当然。
そもそもあの大学にいる時点で看護師なり医者なりの夢を追い求めているのは火を見るより明らか。
彼女がどこまでの努力をしたかは分からないがだいたいの想像はつく。プロフィールにまで努力の文字を並べているなら尚更だ。
『今日から配属になった苗字君か。宜しく。』
『先生、本日より宜しくお願いします。』
実際近くで見る彼女もまたあの時と変わらない。可愛らしいというより、純粋無垢という言葉が似合いそうだ。
少し顔が強張って緊張しているように見えるな・・・。肩の力を抜かせた方が良いだろう。
『そんなに堅苦しくしなくて良い。君の活躍は聞いているよ、正直私も期待している。』
『活躍・・・・?私は何も_____』
『人一倍努力家だと知っているよ。ここは首都圏以外からも依頼の多い病院だ。普通の場所とは違う。
ここまで来て、尚且つ私の元で働けるのも何かの縁だ。
エリート同士、仲良くやっていこうじゃないか。』
徐々に名無の顔が明るくなっていく。上手く行ったようだ。
この嬉しそうな表情から察するに、彼女は自分の力を認めてもらうのに喜びを見出すタイプのよう。
まだ感覚でしかないが、何かしらの手応えがあった。
『・・・・エリートだなんて、そんな・・・・。・・・・有難う御座います、精一杯頑張ります!』
『うん、その意気だ。』
名無の笑顔が頭から離れない。現場に戻る際も愛おしい名無をもっと目に焼き付けたいと願わずにはいられなかった。
その為にも、次なる段階へ進む必要がある。
私の隣りというポジションだが、これは正直誰でもなれる。
ただ私の指示通りに行動してくれれば良いのだからその辺の学生にでも出来るだろう。
だからこそ名無なら尚嬉しい。見初めた女性が常に傍にいる幸せはこれ以上ない。
なのでわざわざ名無にしか分からぬよう、日頃からヒントを散りばめておいた。
名無の前ではわざと実験体患者の予定を入れる。私に対して何かしらの興味や疑問を抱かせる為だ。
_____いっそ、私に抱く感情は愛情でなくてもいい。恐怖でも憎悪でも何でも構わない。
頭の中を常に私で満たせるようであればそれで十分だ。いわゆるこれも独占欲の一つなのだろうな。
秘密を一つ知る度、僅かだが彼女の中の"鎬紅葉"という存在は大きくなる。やがて放ってはおけない程にね。
「・・・・・そこの君。すまないが、苗字君を呼んできてはくれないか?私が呼んでいるといえば分かるだろう。」
「分かりましたー。」
そうして頃合いを見て、彼女が何か行動を起こしそうな手前で呼び出す。
といっても見るからに内気そうな名無が誰かに告げ口するとは思えないが。仮にしたとしても、それも想定内だ。
「失礼します。鎬先生・・・何かご用でしょうか?」
「ああ。大事な話がある。とりあえずそこの鍵は閉めてくれ。」
一瞬躊躇ったようだが鍵を閉めた。これでようやく名無と二人っきりか。ここまで来るのに長かったものだ・・・・。
「・・・・・苗字君。いや・・・・・苗字名無。
単刀直入に聞くが、君は・・・・気付いているな・・・?」
「何にでしょうか・・・・。」
「私が患者達に何をしているか。私のしている事を"理解しているか"という意味だ。」
「・・・・・治療、ですか?」
とぼけても無駄だ。心当たりが本当にないのなら今の言葉に反応などしないはず。
名無の指先がピクリと動くのを見逃さなかった。
「そうではない。君の顔色や動作で私には分かる。
答えがそれでないのは、君が一番よく分かっているはずだ。」
「・・・・そうですね・・・・っ・・・・。分かっていました・・・・。
・・・・・実験、ですよねっ・・・・。」
「そうだ。それで良い。やはり君は優秀だ・・・・ただ私を持ち上げ、天才だなどと賛美する輩とは違う。
いつから気付いていたんだ?」
「・・・・気付いたのはここ最近です。少し前から感じていましたが、患者さん達が噂するので確信に変わりました・・・。」
「_____素晴らしい・・・・。」
これは私自身の計画が上手く行った事に対する自画自賛も込めて。今までの撒いたヒントがようやく答えに辿り着いた。
名無もここまで気付いているのだから嬉しくてたまらない。記憶の何割を私で満たしているのか知りたくて仕方がない。
「苗字君はこの事をどこかに密告しようと考えていたのかい?」
「そんな気はありませんっ!私はそれでも・・・・鎬先生の技術が役に立っているのを知っています!
鎬先生はこの医学界になくてはならない存在ですから・・・。」
必死に弁解する姿からして嘘ではないだろう。心の奥底ではどこか罪悪感に苛まれている口振りだが関係ない。
「そこまで君に褒め称えられると嬉しいよ。君のような洞察力のある子から言われると・・・。」
ここからは一気に畳み掛けるとしよう。残念だが忙しい身なのであまり名無に時間を割いてやれない。
本当はもっとじわりと距離をつめてから、じっくり観察して彼女の心情を楽しみたかったのだが・・・・・。
立ち上がって名無の元へ歩み寄る。間近で名無を見れる幸せを私は今噛み締めている。
顎を少し持ち上げれば不安げな瞳に私が映った。
「_____綺麗で、良い瞳だ。」
「先生っ・・・・何を・・・・?」
「私が見初めた女性だけある・・・・。そろそろ言わねばと思っていたんだ。
・・・・どうか、私のパートナーになってはくれないか?」
「パートナー・・・・っ?」
「私の右腕として君を傍に置いておきたい。
それと・・・・人生のパートナーとしても・・・・。」
本当はそのまま口付けても良かったのだがまたの機会に取っておくとしよう。
まずは私の想いを告げて、名無の本音を聞いてからだ。どんな本音だろうといずれする事は一切変わらないがね。
脳内に響きやすいよう告白は耳元で囁く。典型的だがこれが一番記憶に残りやすいやり方だ。
「先生・・・・何故っ・・・・?私なんかどうして・・・・・・?」
「君の事はここに来てからずっと見てきた。ひたむきな努力から生まれた観察力・技術・そして相手を理解しようという心。
他の者にはない、君にしか持ち得ないものだ。そんな気高い精神を持つ君を愛させてはくれないか・・・・?
名無。改めて、私の助手兼パートナーになってくれ。」
「・・・・・・・私で良ければ・・・・傍にいさせて下さいっ・・・・!!」
返ってきたのは最適な答え。声からして涙を流している。どうやら私に向けた感情は恋愛感情だったようだ。
ここまで名無と私の気持ちが同じなのは最早運命ではなく必然。
____やっと物に出来た。これからは何があっても絶対逃がしはしない。
苦労して手に入れた存在。大切にして、ゆっくりと生涯通して愛でてやろう。
「・・・・ああ。名無・・・・愛しているよ・・・・。」
私だけが名無の全てであるように。抱きしめてこのまま離したくはないな。
_____例えこれが、歪んだ愛だとしても。
fin